エヴァ昔話 『浦島太郎 その1』

 目の前いっぱいに海が広がっていました。

 砂浜に座り込んだ少年は、足下を濡らている寄せては返す波を、ただ眺めていました。

 波が引いていくと、自分まで流されて行くようにも感じます。

 少年は、ゆっくりと立ち上がり、海へと入っていきました。腰まで海水に浸かって、しばし立ち止まりました。

 そして、意を決して、顔を水に突っ込みました。

「ゲホッ!!ゴホゴホッ!!」

 気管に入り込んだ海水に、少年は激しくむせ上げました。

 喉が、焼けるように痛くなりました。口の中が、やたらとしょっぱいのです。

「ゴホッ・・ゼイゼイ…」

 ようやくと咳が落ち着きました。

 少年は、重い足取りで浜辺へと戻りました。

「もう、肺が直接酸素を取り込んではくれないのか…」

 悔しそうに、そう言いました。

 また口の中がしょっぱくなりました。今度は、海水のせいではありませんでした。いつの間にか、涙を流していたのです。

 いったん流れ出した涙は、とどめなくあふれ続けました。

 涙でかすむ目で、少年は海を見つめました。

 いいいえ、少年が見つめていたのは、海原ではなくその下のほうでした。

 遙か海の底にある、美しき城。

 海を治める者の住む、その名も竜宮城。

 そして、なにより心から離れないのが、美しき乙姫のことでした。

「アスカ…」

 乙姫の名前を呼ぶと、少しだけ気持ちが落ち着きました。

 それと同時に、自分の中のより深い悲しみに気が付きました。

 もう、海には潜れません。。

 もう、乙姫さまには会えないのです。

 もう、永久にアスカには会えません。

 もう、二度と。

 龍宮城での、楽しかった日々が思い出されました。

 そりゃ、アスカに馬鹿にされたり、殴られたりしたこともありました。

 でも、時々優しくて、とても可愛い乙姫様でした。

 二人は、お互いに魅かれあっていたのです。

「どうして、ぼくは帰ってきちゃったんだろう?」

 シンジは、自分に問いかけました。

 情け無くって、しょうがありませんでした。

「シンジ、あんまりメソメソしてるんじゃないわよ。ほんっと情けないわね」

 アスカの声が、聞こえたような気がしました。

 もちろん、空耳でしょう。

 シンジは、軽く頭を振りました。

 もう、涙は止まっていました。

 ただ、心の底から悲しいだけでした。

 シンジは、足下に落ちていた箱を拾い上げました。

 竜宮城を去る時に手渡されたものです。

 今となっては、思い出以外の、唯一のアスカとの絆でした。

「玉手箱…か…」

 シンジは、一言そうつぶやきました。

 

 すべては、ある晴れた昼下がり、この浜辺から始まりました。

 シンジが、たまたま通りかかったところに、時はさかのぼります。

「今回だけはお前の顔に免じて、勘弁してやらぁ」

「もし、またこの浜をうろついていやがったら、容赦なく亀鍋にしてやるからな」

 マコトとシゲルの二人組みが、シンジと亀に向かって言いました。

「ごめんなさい。この亀も反省していると思います。後はぼくが責任を持ちますから」

 シンジは、亀の代わりに謝りました。

「ほら、君も謝るんだよ。駄目じゃないか、網を破ったりしちゃ」

 我関せずといった様子の亀を、シンジは優しく叱り付けました。

 亀は、不承不承といった感じで、ようやく頭を下げました。

「わかりゃぁいいんだよ」

「なあ、俺達の出番って、もう終わりかな」

「えーと、どうかなぁ。どれどれ」

 二人は、次の行を覗き込みました。するとそこには…

−マコトとシゲルは、ようやく堪忍袋が落ち着いて、立去っていきました。

「うわっ、やっぱりもう終わりだ」

「せっかく出てきたのに、あんまりだよな、マコト」

「えっ、お前がマコトじゃなかったのか?てっきり俺の方がシゲルだと思ってたんだが」

「うわっ!キャラの書き分けさえしてもらってない…訴えてやる」

 ぶつぶつ言いながら、二人はようやく本当に立去りました。

「ふうっ、よかったどうにか分かってくれて。でも、どうして網を破ったりしたんだよ。イタズラにしてもひどすぎるぞ」

「そんなん、わしの勝手やないか」

「あのねぇ、彼らにとって網は大切な仕事道具なんだよ。漁ができないと、大変なんだよ」

「そんなん、それこそあいつらの勝手や。わしの知ったことかな。大体、釣竿で一匹ずつ真剣勝負するんやったら、まだ許してやらんでもない。それがな
んや、網ときたら一度で魚はんをごっそりと捕まえていきおる。しかも、子供であろうと容赦なしや」

「うーん、確かにそうかもしれない…ね…もしかして、今しゃべった?」

「なんや、ようやく気付いたんかいな。鈍いお人やなぁ」

 眼を白黒させているシンジに、亀はあきれたように言いました。

「まあ、助けてもらったのは事実やからな。センセイおおきに」

「あっ…あっ…」

 シンジは、亀を指差したまま、口をパクパクさせているのでやっとです。驚きの余り、言葉が出てこないのです。

 無理もないでしょう、いきなり亀がしゃべったのですから。

「やめてぇな、さっきから亀、亀って。わいにはトウジちゅう立派な名前があるんやから。ところで、センセイの名前は?」

「シ、シンジだけど」

 ようやくのことで、シンジは答えました。

「ほーう、シンジはんでっか。今回は、ほんまにありがとさんですわ。ぜひともお礼がしたいんで、わいと一緒に来てくれまっか」

「いいよ、お礼なんて。大したことをしたわけじゃないんだから」

「そういわんと、ちょっとだけですから。このままでは、わいの気がすまんのですわ」

「そんな気を使わなくてもいいよ。それより早く帰りなよ、また誰かに捕まるかも知れないよ」

 シンジは、優しく言いました。

 亀は、密かにため息をつきました。

「このセンセイは、ほんま朴念仁なお方やなぁ」

「えっ、ニンジンがどうしたって?」

「どんなボケや、それは!!ええかげんにせいっ!!」

 トウジには、由緒正しい関西亀の血が流れています。命の恩人であろうと、ツッコむ時は手加減なしです。

「まあ、ウダウダやっとっても、しゃーないわな。えーと…」

 トウジは、辺りをきょろきょろと見回しました。

「どうしたの、何かを探してるの?」

「どっかに木の棒でも落ちてへんかなぁ、と思いましてな」

「うーん、こんなのでいいかな?」

 シンジは、波打ち際から一本の流木を拾い上げました。

 人の腕ほどの太さで、水を吸っているためズシリと重そうです。

 トウジは、それを見てうれしそうに言いました。

「ああ、それは良さそうでんな。ちょっと貸してもらえまっか」

 シンジから流木を受け取ると、トウジは手に持った感触を確かめました。

「うん、ちょうどええ感じですわ。ほな、いきまっせ。せーの!!」

 トウジは、流木を振り上げると、シンジを殴りつけました。

 頭をしたたかに殴られたシンジは、あっさりと気を失いました。

 

「うーん…」

 身体全体が、ユラユラと揺れる感触に、シンジは眼を覚ましました。

 頭がズキズキと痛みます。

「お目覚めでっか、センセイ」

 自分で殴ったことなど、すっかり忘れた様子のトウジです。

 シンジを背中に乗せたまま、大海原を進んでいます。

 陸地はすっかり遠ざかり、四方には水平線が見えるだけです。

「そろそろ潜りまっから、しっかり掴まっといてや」

「ええっ、潜るってそんな。うわっ!!ブクブクブク」

 トウジはいきなり海に潜りました。

 シンジは、息を止めて、懸命に我慢しています。顔が真っ赤です。

「大丈夫、肺が海水で満たされたら、直接酸素を取り込んでくれるさかい、安心してや」

 ジタバタともがいているシンジに、トウジが声をかけました。

 シンジはしばらく堪えていましたが、ついに耐え切れず息を吐き出しました。

 ゴボゴボゴボ

 空気の泡が、海面へと上っていきました。

「ゴボゴボゴボ……ほんとうだ息ができるや…」

 苦しくないのがわかったので、シンジはようやくじっくりと辺りを見渡しました。

 トウジの泳ぎは、意外なほどに速く、すでにかなりの深さまで潜っています。

 不思議なことに、日の光が弱くなっているはずなのに、あまり暗くありません。

 それどころか、海底に近づけば近づくほど、明るくなってきます。

「ほら、そろそろ目的地が見えてきたで」

「うわぁ、すごい」

 シンジは、感嘆の声を上げました。

 サンゴの合間から現れたのは、光り輝く見事な建物でした。

 大きさもさることながら、その作りの美しいこと。貝殻やサンゴで、巧みに飾り付けられ、それでいて派手なところがありません。

 群れをなして泳ぎ回る魚たちの間を通り抜け、二人はその建物に近付きました。

「きれいなお城だねぇ」

「そうでっしゃろ。なんたって海の支配者のお住まいですからな。海底広しといえども、ここより立派なところはおまへんわ」

 トウジが胸を張って言いました。

「海の支配者のお城…じゃあ、ここが…」

「ええ、ここが龍宮城ですわ」

「おとぎ話には聞いていたけど…本当にあったんだ」

 シンジは、絵にも描けない美しい光景に、ただ見とれているだけでした。

 

「それじゃあ、ちょっと待っとってや」

 トウジが立去ったため、シンジは一人で大広間に残されました。

 シンジの家が何軒も、いえ何十軒も入るほどの広さです。

 どうゆう仕掛けになっているのか、壁や天井が光って照明になっています。

 手持ちぶさたなシンジは、広間の壁沿いに置かれた彫刻などを見て回りました。

 美術品に詳しくないシンジですら、見入ってしまうほど素敵なものばかりでした。

――こんなお城の主なんだもの、海の支配者さんはさぞかし立派な方なんだろうなぁ。

 シンジは、そんなことを考えていました。

「ちょっとあんたっ!!それ高いんだから、勝手に触らないでよねっ!!」

 少女の声が、大広間に響き渡りました。

 驚いたシンジが振り返ると、入り口の近くに一人の少女が立っていました。

 腰に両手をあて、こちらを挑戦的な青い瞳でにらみつけています。

 透き通るように白い肌、それでいて血色のいいつややかな頬。

 栗色の美しい髪が、ユラユラとかすかに揺れていました。

「あんたねっ、亀が連れてきたってのは?」

「う うん」

 少女に見惚れていたシンジは、ボケッとした返事が精一杯でした。

 無理もありません。

 シンジが今までにあったどの女性よりも、いえとても比べようがないほど美しいのです。

「ふーん、冴えない男ねぇ」

 少女は、つまらなそうに言いました。

 どうも、性格の方はずいぶんとキツいようです。

「うちの亀がいじめられているところに、あんたが居合わせたんですってね。ずいぶんと世話になったようじゃない。この礼はキッチリと返させてもらうわよ。いいこと、覚悟しなさいよ」

アハハハハハハハハハッ

 少女は高らかに笑いました。人を威圧するようなその雰囲気に、もともと気の弱いシンジはすっかりびびっています。

  なにせ、ここは深い海の底。自分を助けてくれる人は誰一人いないのです。

「うわ〜ん、きっとこのまま生き肝を抜かれてしまうんだぁぁぁ!!!!」

「それは、別の昔話のことやないですか。ちっとばかし落ち着いてや、センセイ」

  ジタバタと暴れているシンジを、トウジがなだめました。

「ふん、情けない男ねぇ。地上の男ってのはそんなのばっかりなの?」

「あのねぇ、姫さんもわいの命の恩人をあんま脅かさんといて下さいよ。わいはお礼をゆうてくださいってお願いしたんでっせ」

 扉の陰から現れたトウジに、ほんの少しだけシンジはほっとしました。

「だーからぁ、こうして頭を下げてありがとうって言ってるんじゃない。人のやることにケチをつけるんじゃないわよ」

 むっとして少女はトウジをにらみつけました。

 意志の強そうな凛とした眼をしています。

 気の弱い人なら、この視線には逆らいがたい物に感じられるでしょう。

 トウジも、首を半ば甲羅に引っ込めています。しかし、それでも言い返します。

「どっこも頭なんか下げとらんし、ありがとうなんて一言もゆうてへんでしょーが。さっきの言い方やと、どこぞの悪代官ですがな」

「あら、だから『あんたが世話になったから礼をする』って言ったじゃない。どこに問題があるってのよ」

「礼をするって…姫はんの態度やと、別の意味にしか思えまへん。覚悟しなさいとまでいっとるやないですか」

「このあたしが直々に歓迎の挨拶に来てるのよ。覚悟ぐらい当たり前じゃない」

「そんなことばかりゆうんやから…見てみなさい、センセは、すっかりびびっとるやないですか」

 トウジが、シンジを示しました。

 シンジは部屋の反対側にある扉に、コソコソと向かっていました。抜き足差し足忍び足です。

「なにやってるのよ、"あれ"は?」

「わいの恩人を、"あれ"呼ばわりせんといて下さい。まあ、たぶん逃げ出そうとしとるんでしょうなぁ。いきなり脅されては、無理ないでっしゃろ」

「だから脅してないってのに。ちょっとあんた、待ちなさいよっ!!」

 ビクッ

 少女に呼び止められて、シンジはバネでも仕掛けられているように飛び上がりました。

 すっかりお忘れでしょうが、ここは龍宮城。つまり海中です。

 そのためすぐには床に落ちてこず、シンジはしばし宙を漂いました。

 賢明にジタバタともがくその姿を見て、少女は一言つぶやきました。

「地上から来た男の子っていうから、ちょっと期待してたのに。ダサダサだわ…」

「ええっ!!本当ですかっ!!あなたがあの有名な"乙姫"さまなんですかっ!?」

 スポーツ新聞か女性週刊誌かくやという感嘆符付きで、シンジが驚きの声を上げました。

 乙姫を頭から足元まで、シゲシゲと見つめます。

 若い女の子をあんまり見つめすぎるのは失礼なのですが、乙姫は気にしていないようです。

 それどころか、人から見られるのはまんざらでもない様子です。

「そーよ、わたしが海の支配者、愛と美貌でその名も高き"乙姫"のアスカよ。わたしの美しさに目が離せないようね、無理もないわ」

 腰に手を当て、乙姫はちょっとそっくり返って言いました。

――ふつう、自分で言うかぁ

 そんな事を考えたシンジですが、もちろん口には出しません。

 出会ってまだ10数分ですが、すでにすっかり苦手意識が出来ているようです。

 "怖い上に性格の悪い女"として認識してしまっています。

 もっとも、乙姫のほうも"さえない上に気の弱そうなヘナチョコ"と思っているようですので、お互い様かも知れません。

「人間なんかがわたしに直に会えるなんて、めったにないことなんだから感謝しなさいよ。冥土のみやげに、よーく見ときなさい」

 乙姫は、つま先立ちでクルッとターンしました。

 着物の裾と栗色の髪がフワッと華麗に舞います。

 ただ回っただけなのに、まるで躍っているかのようです。思わず見とれてしまう光景でした。

 ところが、シンジは青い顔でなにやらブツブツ言っています。

「冥土のみやげ…冥土のみやげ…冥土のみやげ…やっぱり命がないんだ…きっと薬にするために生き肝を取られるんだ。龍宮城なんて来るんじゃなかった、ううううう」

「大丈夫やて、センセ。それは別の昔話のことやから安心しとってや。うちの姫さんは難しい言葉をよーけ知っとるんやけど、時々トンチンカンな使い方をするんですわ」

 トウジがアスカに聞こえないようにと、シンジの耳元でささやきました。

「ほんと?ほんとーに大丈夫?」

「大丈夫ですて。わしを信じてドーンと構えとって下さい。姫はんを怒らせん限りは問題ありまへん」

「…もし乙姫さまを怒らせたら?」

「そいつは恐ろしくて、考えたくもありまへんな」

 トウジは肩をすくめました。亀にしては器用なものです。

「ちょっと、なにコソコソ話してるのよっ!!」

「いっ、いえ大したことじゃないんですよ、乙姫さま」

「そう、ならいいんだけど」

 そう言いながらも、アスカは疑わしそうな顔つきです。

「それじゃあ、歓迎の席を用意するから、夕方まで待ってるのよ。カメに案内させるから、城の中を見学してるといいわ」

 アスカはそう言うと、広間を出て行きました。

「ふうっ…」

 シンジは静かにため息をつきました。

 ボコボコッと小さな泡が天井に上っていきました。

「宴会なんて大げさなことになっちゃったね。悪いことをしちゃったかなぁ」

「そんなとこありまへんて。わいらはにぎやかなんが好きなんですわ。センセの歓迎にかこつけて、大いに盛り上がろうちゅうとこですから、気にせんといて下さい」

「そうならいいんだけど」

 

 トウジがまず案内したのは本殿の横にある庭園でした。

 龍宮城の住人達が憩いの場所として利用しているらしく、静かで落ち着いた雰囲気です。

 色鮮やかなサンゴや海草が手入れよく植わっていて、訪れる人の目を楽しませてくれます。

 その中央にある東屋で二人は一息いれることにしました。

 小さな東屋では思い思いの時を過ごすようで、ちょっとした蔵書が納められた本棚や、笛や琴などのいくつかの楽器もおかれています。

 朝から驚くことばかりだったシンジは、ようやく落ち着くことができました。

「素敵なお庭だね。ここが海の底だなんて嘘みたいだ」

 庭園を見渡したシンジは、感心したように言いました。

「そうでっか?わしには陸の上なんかよりも海の中の方がきれいなんが当たり前やと思っとるんですが」

「うん、そうかもね。それに、ここはすごく安らぐよ。ずっと昔から知っている場所みたいだ」

「ほぉーっ」

 トウジはちょっと驚いた顔になりました。

「姫はんと同じことを言いますなぁ。4年前に姫はんが始めてここに来た時も、センセが今いる場所に座って、たしかそんなことを言ったんですわ」

「ふーん、このお庭ってけっこう歴史がありそうに見えるけど、意外に新しいんだ」

「へっ?!いや、大昔からありますけど」

「でも、4年前って…」

「ああ」

 なるほどとばかりにトウジはうなずきました。

「いまの姫はんが先代から乙姫を継いだのが4年前なんですわ。ずいぶん前のことのような気がしますけど、まだ4年しかたっとらんのですなぁ」

「そうか、お母さんから受け継いだんだね?」

「いや、乙姫ちゅーのはいわば役職名でして、代々その名を受けついどるんですわ。血筋とかは関係なくて、海の民の中からもっともふさわしい乙女がお告げで決まるんですが、姫はんもあの頃はまだ小さくて可愛らしかったんですけどなぁ」

「それじゃあ、乙姫さまって考えていたより若いなぁって思ってたけど」

「実際、若いんですわ。史上最年少で乙姫にならはったんで、まだ14歳ですわ」

「14歳…ぼくと同じだ…」

 シンジは本殿を振り返りました。

 大きくて立派なお城です。

 こんなに大きなお城を、自分と同じ年の少女が治めているのです。

 いえ、お城だけではなくて、この広い海の中全部を乙姫さまは背負っているのです。

 その責任がどれほど重いものなのかシンジには想像もつきませんでした。

 怒りっぽくて自信過剰にも思えた乙姫ですが、それは彼女が置かれた環境がそうさせているのかも知れません。

 感心するとともに、すこし乙姫がかわいそうになったシンジでした。

 

つづく


 

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