注:この作品はエヴァンゲリオンの二次ギャグ小説です。
タイトルの『メン・アット・ワーク』はわたしの大好きなバカ映画『メン・アット・ワーク』(1990年作、エミリオ・エステベス監督・主演)から取りました。
1997年末よりスタートしたシリーズですので大ヒットPCゲームの『メン・アット・ワーク』の発売より前であり、当然の事ながら全く関係ありませんしゲームをやったこともありません。
それとアーティストでMen AT Workという外人さんたちがいるそうですが、そちらとも関係ありません。
以上をご理解の上、それでももしよろしければ先にお進みください。

 

「メン・アット・ワーク その3」


伝説は語り継ぐ、栗色の髪と青い瞳の美少女のことを。

その微笑みは冬の凍てつく氷をも溶かし、そのまなざしは枯れた花さえも甦らせる。

その少女の名はアスカ。今世紀最高の美少女だ。

ぼくはそのアスカさんを彼女の通学路で待っていた。

右手にカナヅチ。左手に花束。唇に火の酒…

あーいやいや、これ以上の歌詞の引用はヤバイヤバイ。

そんなぼくの後ろから、謎の物音が響いた。

何事かと振り向いたぼくが眼にしたものはっっっ!!

ザッザァーン!!(BG)



〜CMタイム〜

マヤ「服に付いた油汚れや泥汚れってなかなか落ちないんですよね。せんぱーい、なにかいい方法ないですかぁ」

リツコ「マヤったら、相変わらず潔癖症ね。そんな時にはこれよ、ネルフ特製漂白剤「ウルトラホワイティS」
    普通の洗剤では落ちないしつこい汚れも根こそぎよ、ふふふふ」

マヤ「さっすが先輩!では、ちょうどここに「ウルトラホワイティS」で洗ったものがあります。
   うわぁ、シャツについていたケチャップの痕がすっかりきれいになっています。
   驚くほどの洗浄力が見事に現れてます……ねぇ先輩…」

リツコ「どうしたの、マヤ?」

マヤ「わたしのチェックのシャツやジーンズまで『真っ白』なんですけど…」

リツコ「あらよかったじゃない。白は純潔の色だから、マヤにはぴったりよ」

マヤ「えっ…!?そうですかぁ、先輩にそう言ってもらえるなんて、わたしうれしいですぅ」

リツコ「さあ、あなたもネルフ「ウルトラホワイティS」を四の五の言わずに買うのよ」

〜CMタイム〜 終わり



ぼくの後ろから謎の物音。果たしてその正体は?

ザッザァーン!!(BG)

「・・・なんだ、犬かぁ・・・」

意味ありげに盛り上げておいて申し訳ないけど(まるで盛り上がっていなかった気もするけど)、

そこにいたのは一匹の犬だった。

白に茶色のブチがあり、左眼のまわりのブチはまるでマンガの殴られたアザのようだ。

愛嬌があるというより、ちょいと間抜けな顔つきでちょこんと首をかしげながらぼくを見上げている。

くたびれた革の首輪をつけているところをみると、一応野良犬ではなさそうだ。

「ほら、あっちへ行った行った、シッシッ」

追い払おうとしたぼくの言葉を、まるっきり無視してフンフンと鼻を鳴らしている。

どうやらぼくが身を隠している電信柱が、こいつの縄張りなんだろう。

2015年になっても相変わらず電信柱はあるし、犬のテリトリーとなっている。

ブチ犬はどうにも動こうとしなかった。顔つきのわりに頑固なやつだ。

やれやれ、犬相手ににらみ合っていてもしょうがない。ぼくは根負けした。

「わかったよ、お前の好きにするがいいさ。なにも電信柱はここだけじゃないし」

ブチ犬に場所を譲ると、ぼくは次の電信柱に移動するとこにした。

ラッキーなことに、それだけアスカさんに近くなる。ということは、会えるのも早くなるってことだ。

ルルルルルーラララララー

軽いスキップで進むぼくは、またもや気配を感じ取った。

振りかえってみると、ぼくのすぐ後ろにブチ犬がいて、電信柱の根元で尻尾を振りながらこっちを見ている。

「なんだよ、ついてきたってエサなんかあげないぞ。邪魔だよお前は」

すごんでみてもブチ犬の反応はまるっきりの無視。なめられてるんだろうか?

やっぱ、マスク越しなので迫力に欠けるのかなぁ。

カナヅチで脅してやろうかとも思ったけど、そいつは止めた。

生き物をカナヅチで殴るなんてことはできやしない。ぼくは暴力が嫌いなのだ。

どんな小さな命にも、何物にも替えがたい輝きがある。

それにこのカナヅチは、碇シンジを殴るためにあるんだ。

ぼくとアスカさんの運命の出会いを邪魔する悪者を、かるーく"ガツン"とやってやるんだ。

うひゃひゃひゃひゃ

さーて、こんな犬には構っている暇はない。

ただ待つだけじゃなくて、こちらからアスカさんのところへ行こう。きっと彼女も大喜びしてくれる。

通学路をさかのぼりながら、ぼくは花束とカナヅチを握り締めた。

まずはシンジを一撃、そしてレイちゃんはスプレーで眠ってもらって、アスカさんには花束と愛の告白だ。

うーむ、我ながら完璧。3日3晩寝ないでシミュレーションしただけのことはある。

「ウーーーー」

やれやれまたか。結構歩いたのにまだついてきている。

しかも今度はうなり声ときた。

「おいおい、いったい何なんだよ。しつこいなぁ」

案の定、ブチ犬がさっきの電信柱の根元にいた。

ぼくの持っているカナヅチから目を離さずにいる。変なやつだ。

待てよ……犬はいいとして、"さっきの電信柱"ってのはどういうことだ?

大きなクエスチョンマークが頭上に浮かんだぼくが戸惑っていると、

ブチ犬はのっそりと立ち上がった。

「どわぁぁぁ、2本足で立ったぁぁぁ!バケ犬だぁぁ」

思わず逃げ出そうとしたぼくは、目の前に立ちふさがった電信柱に正面衝突した。

電信柱の脇から生えた腕がぼくの襟元を掴む。腕?しかも足まで生えている。

ぎょっとしてしている間に、犬と電信柱に取り囲まれてしまった。

「こちらワイルドターキー、ターゲットを捕獲しました。オーバー」

ブチ犬がブツブツとなにやら呟いた。2本足で立つだけではなくて、しゃべることまで出来るのか?

驚くのはそれで終わりではなかった。

ゴロゴロゴロと音をたてて、大きなゴミバケツが転がり込んできたのだ。

「なっ、なんだ?風もないのに?」

ぼくの問いかけに応えるように、ばこっとバケツのフタが空いた。中から現れたのは30後半の渋めの男だった。目つきがやたらと鋭い。

バケツから顔だけのぞかせているのにも関わらず、ハードボイルドな雰囲気を漂わせている。

一瞬ぼくと視線がぶつかり合う。男の眼に敵意と憎悪を感じ取り、その激しさにぼくはぞっとなった。

「よし、武装解除だ」

バケツ男の声と同時に、ぼくは右腕をつかまれた。

肘より先の感覚がなくなった。

カナヅチがスルッと手から滑り落ちた。




「いったい何なんだろ、あの人たちは?」

ゴトンという音にひょいと脇を見たシンジは、いぶかしげに首をひねった。

ネルフで変わった人たちは見慣れているはずだが、それでもなお珍しいらしい。

数歩前を歩いていたアスカが足を止めた。

「えっ、どれどれ?」

「ほら、あの道端にいる人たちなんだけど」

「ああ、あれね」

アスカはいかにも胡散臭そうなものを見たといった様子だ。

もっとも、

犬の着ぐるみの男と電信柱の格好をした男が仁王立ちになっており、

その二人の間に白のタキシードにサングラスとマスクで顔を覆った青年が座り込んでいて

さらには、大ぶりの青いゴミバケツから頭だけ出した男が、なにやら指示を出している

といった連中なのだから、アスカならずとも胡散臭く感じて当然である。

「きっとあれよ、ハロウィンの仮装じゃないの」

「ハロウィンは10月よ。まだ半年も先だし、ちょっと気が早いわ」

興味なさげな冷静な口調でレイが指摘した。

別に揚げ足を取るつもりではなく悪気もないのだろう。だが、アスカが面白かろうはずがない。

「うっさいわねぇ、それぐらい分かってるわよ。旧暦で祝ってるのかもしれないじゃない」

「万聖節は太陽暦よ。太陰暦を使ったりはしないわ」

「どっちにしろ、半年もずれたりしないと思うんだけど…」

シンジがつぶやいた。もちろん、アスカには聞こえないようにだ。

「それに仮装するのは子供達よ。あの人達はどうみても20〜30代だから、あなたの推測には無理があるわね」

「まっ、まぁ春先になると変わった人が出てくるからね。陽気のせいってやつだよね」

アスカの血圧が上昇中であるのを察知したシンジは、慌ててフォローを入れた。

けっこう苦労性である。

「なーにが陽気のせいよ。この国ときたら年中常夏じゃないの。あんたバッカじゃない」

「じゃぁ、暑さのせいかも…」

ここぞとばかりにアスカにかみつかれ、シンジは弱々しく反論した。

無論、アスカにはまるっきり無視されたが。

「そういえば、今は4月なのよねぇ?」

「うん、そうだけど」

うーむ、と何やらアスカは首をひねった。

「4月といえば進級よねぇ。わたしたち何年生になったのかしら?」

「えっ、2年生だけど」

「じゃあ、去年は?」

「2年生」

シンジが真剣な表情で答えた。

「計算が合わないじゃない。どうなってんのよ、責任者出てきなさいっ!!」

「あのねぇ、アスカ。それを言っちゃあオシマイだよ」

「時の流れは絶対ではないのよ。主観的な時間と客観的な時間の流れに差があるのは当然だし、
高速で移動する物体の時間はより緩やかに経過するわ。比較するのは無意味よ」




白ウサギの分かるような分からないような意見に、山猫がさっそく反論するのを耳にしながらも、

俺はターゲットから視線を一瞬たりとも外しはしなかった。

奴は心底驚いているようだった。口をあんぐりと開けたまま、「あ、ああ・・」と声も出ない様子だ。

暗殺者のくせに、護衛の存在を予期していなかったのだろうか?

それとも、この態度自体が芝居で、こいつはオトリにすぎず、真の刺客が他にいるとでもいうのだろうか。

俺は、ちらっと振り返った。

パンダたちが通り過ぎる横で、道端のポストが俺の視線に気づいて軽い敬礼で合図を返す。アンシェント・エイジだ。

その先にある洋菓子屋の店頭には、赤いオーバーオールを着た女の子の人形に偽装したマコーミックが、舌をペロリと出して待機している。

大丈夫だ。奴らはプロだ、任しておいて間違いはない。

俺は、暗殺者に向き直った。

「あの子達を狙うとはいい度胸だな。それとも、たんなる大馬鹿者なのか」

男は、俺の声にビクッと身体を震わせた。

サングラス越しに眼で俺を見上げながら、ずるずると後ずさりをした。

そして、ジムビームにぶつかり、ヒッと情けない声をあげた。

「なっ、何なんだあんたたちはっ!?ぼくをどうしようっていうんだっ!?」

「答える必要はないな」

俺は冷たく言い放った。

ワイルドターキーが、ボディチェックで見つけた武器を持ってくる。

先ほどのカナヅチだけで、拳銃やナイフは出てこなかった。

ただし、ラベルのないスプレー缶が一つ。おそらく毒ガスだろう。卑劣な武器だ。

「本部へ連れて行け。詳しい取調べはそれからだ」

連行するために近づいたワイルドターキーを、男は足元から頭までしげしげと眺めた。

我々の卓越した偽装技術に感心しているのだろう。

特に、このドッグスーツは新型プラグスーツ開発中の失敗作ということだが、

たいそう出来がよく、着用すれば犬にしか見えない。

俺の移動式指令所もゴミバケツにしか見えないが、衛星通信システム装備の

完全防弾なちょいとした要塞のようなものだ。エアコンがないのがちょいと残念だが。

さらに、ジムビームの電信柱ときたら…あれはただのハリボテだ。

予算の関係というやつだ。

「なっ、なんて恐ろしい…」

男の額から一筋の冷や汗が流れた。

「ふっ、我々の完璧な護衛ぶりに恐れ入ったようだな」

「いや、そういう意味じゃないんだけど…なんにせよ恐ろしい…」

男はまるで抵抗することなく、部下に連行されていった。

そのあっけなさに、逆に不安を覚えたおれだったが、子供達が無事学校についたとの報告を受け、

ひとまず胸をなで下ろした。

今朝も、どうやら世界は破滅せずにすんだようだ。




第2班に引継ぎを終え報告書を提出したあと、俺の足は勝手にレクリエーションエリアに向かっていた。

ネルフ本部には大浴場をはじめとして、様々な保養施設も用意されている。

病院、保育所、ショッピングセンター。その一角には飲み屋街もある。

職員の福利厚生のためだというが、なーに、新歌舞伎町あたりで飲んだくれ、酔ったあげくに機密をしゃべられては困るというのが本音だろう。

俺がドアを開いたのは、そんな中の一軒のバーだった。

まだ5時を少し回ったばかりとあって、店内に人影はまばらだった。

耳障りにならない微妙な音量で、ジャズが低く流れていた。

カウンターにワイルドターキーが座っていた。

俺はその横のスツールに腰を下ろした。

「ギムレットを頼む」

バーテンダーは俺の注文にかすかにうなずいた。

無口だが、腕のいいバーテンダーだ。

「ギムレットには、まだ早いかな?」

「まだ夕方ですからね。もっとも、バーボンのストレートよりかはましだと思いますが」

ワイルドターキーは、琥珀色の液体を一気に飲み干した。

そして、ふうっとため息をついた。

「例の男なんですけどね、尋問しても知らぬ存ぜぬの一点張り。山猫に花束を渡したかっただけだって言うんですよ。
暗殺の件を問い詰めたら、まさかって気絶しそうな顔をしてました」

「惣流・アスカ・ラングレーか…まあ、学校でも人気があるようだが。しかし、あの男は二十歳ぐらいだろう?」

「21歳の大学生です。第3新東京大学で薬学を専攻しており、犯罪歴なし。政治・思想団体との接点もありませんでした。
研究熱心な学生で、おしなべて評判は悪くないようです。」

車に押し込んだときにサングラスが外れ、その下に隠されていた男の眼を思い出した。

追い詰められた小動物のような眼だった。それを見て、すっかり拍子抜けしてしまったのだが。

バーテンダーが静かにグラスを置いた。

俺は一口目を味わった。きっちりと美味かった。

「奴の下宿には、壁中に惣流の写真が貼ってありましたよ。それこそ、数え切れないほどの」

「盗み撮りか」

「ええ。もっとも、本人はメガネをかけた中学生から買ったって主張してます。
大量の書き損じたラブレターも出てきましたんで、なんにせよ、裏づけにはなりますね」

ワイルドターキーはやれやれと肩をすくめた。

半ば予想していた内容ではあった。

「ひょっとすると、たんなるストーカーだったってことか?」

「その可能性はあります。ただし、例のスプレーには催眠ガスが充填してありました。
カナヅチの件もありますし、危害を加える意思があったことまでは否定できませんね」

「問題はそれで上が納得するかどうかだな。通常の取り調べで結論が出ないとなれば、諜報部のお出ましだ。
あいつらの尋問は、前世紀的だからな。人権という言葉も知らないようだし」

俺の顔はさぞ苦々しく見えたことだろう。

「いえ、拷問の心配はありません。実は取り調べ中に司令がお見えになりましてね、『この青年には見込みがある』といって
連れて行ってしまったんです。どう見込みがあるのかは、聞き損ねましたが」

「そうか…」

しばし、沈黙が流れた。

「司令に見込まれるのと拷問にあうのと、はたしてどちらがましかな」

「わたしなら、どちらも遠慮しときますね」

俺の呟きに、いつもは無口なバーテンダーが一言そういった。

まったく、俺も同意見だった。




あの事件からすでに1ヶ月が経とうとしていた。

世界は相変わらず危機にさらされており、われわれは命懸けであの子達を守っていた。

つまりは平凡な日常というわけだ。

ただ一つ、変わったことがある。

われわれと同じようにして、あの子達を見守る一人の男が現れたことだ。

正確にはあの子達ではなく、特定の一人のようである。

怪しげなサングラスと付け髭で顔を隠しているが、あのストーカーであることは間違いがない。

時折、無線で誰かに報告している声が耳に入る。

「シンジ君は、今日も元気そうです」

「体調には問題なさそうです。いつも通りに、どこかビクビクしています」

エトセトラ、エトセトラ。

誰に報告しているかは考えたくなかった。

いや、考える必要もない。あいつが邪魔をしない限り、こちらも干渉はしなくてよいのだ。

「ブラントンよりヘブンヒルへ、『パンダ』と『山猫』に『白ウサギ』が合流しました。オーバー」

「こちらヘブンヒル、了解。このままなら、あと47秒でスーツ姿の男とすれ違うはずだ。

身元の確認は取れているが、気をつけろよ。オーバー」

俺は目の前のディスプレイをチェックしながら指示を出した。

そう、俺たちは自分の仕事をやるだけだ。そしてそのために何をすればいいのかは承知している。

犬が自分の鼻がどこにあるのか知っているのと同じようにだ。

終わり           


 

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