注:この作品はエヴァンゲリオンの二次ギャグ小説です。
タイトルの『メン・アット・ワーク』はわたしの大好きなバカ映画『メン・アット・ワーク』(1990年作、エミリオ・エステベス監督・主演)から取りました。
1997年末よりスタートしたシリーズですので大ヒットPCゲームの『メン・アット・ワーク』の発売より前であり、当然の事ながら全く関係ありませんしゲームをやったこともありません。
それとアーティストでMen AT Workという外人さんたちがいるそうですが、そちらとも関係ありません。
以上をご理解の上、それでももしよろしければ先にお進みください。

 

「メン・アット・ワーク その2」



「なるほど、確かに怪しい。いかにもなつけヒゲにサングラスとは絵に描いたような変装だな。
この仕事も長いが、ここまで胡散臭い奴は始めてだ」

「いえー、あのー・・・」

俺の独り言に、ジムビームが何やらくちごもる。

「どうした、何か動きでもあったか?オーバー」

「そのー、実は・・・今モニターに映っているのはうちの司令なんですが・・・オーバー」

「司令って、もしかして碇司令か?オーバー」

「はぁ、そうです。でも今朝だけじゃなくて、しょっちゅう見かけるんですよね。寒いときに着るのはオーバー、なんちゃって」

「・・・やかましい・・・」

奴の言うとおりだった。よくよく見ると髭の正体は碇司令その人だ。

ネルフの中では見慣れているその姿だが、外ではひたすら怪しい。

「なんで司令がこんなところに。オーバー」

「さぁー?朝の散歩じゃないですか。オーバー」

「えーっと、わたしが見たときなんですが。オーバー」

ワイルドターキーが話に加わってきた。

「司令は『おおっ、今日も元気そうだな。父さんはうれしいぞ』とかブツブツ言ってたりもしました。オーバー」

「そっ、それは・・・どうコメントしてよいのやら・・・よし見なかったことにしよう。オーバー」

「賛成です。で、怪しい奴のことなんですが。オーバー」

「んっ?だから司令だったんだろ?オーバー」

「いえ、司令も怪しいですが、私が言っていたのは別の人物です。もう2本西側の電信柱の陰です。オーバー」

どれどれ

俺はコントローラーでカメラをパンさせた。

なるほど、こいつか。

人間、風邪を引けばマスクぐらいはするだろう。

サングラスが趣味といった人も少なくはない。

しかし、その両方となると、これはいかにも怪しい。

自分の顔を見られたくないか、重度の花粉症のどちらかだ。

しかし、今朝の天気予報によるとスギ花粉の飛翔量は少ないはず。

ということは、まあ変装のつもりなのだろう。確かに顔は良く分からない。

年齢は、二十歳前といったとこだろうか?若いことには間違いがない。学生だろうか。

赤いバラの大きな花束を抱えたまま、電信柱に身を隠している。

もっとも、隠れていると思っているのは本人だけで、成功しているとは言い難い。

はっきり言って、思いっきり目立っている。

道行く通行人は、男と目を合わせないようにしながら避けていく。

女子高生なんぞは、指差してケラケラと笑っている。まったく、情け容赦もない。

だが、

「だがしょせんは甘いな。司令と比べればアマチュアレベルの怪しさだ。
まだまだ修行が足らんと見える。山篭もりでもするべきだな」

まっ、そんなことはどうでもいい。

「どうしましょう。とりあえず武器は持っていなそうですが、取り押さえますか。オーバー」

「まあ待て。油断は禁物だ、あの花束に銃が仕込んであるかも知れんぞ。『パンダ』たちがそこを通過するまでにはまだ時間がある。
応援を回すから動きがない限り待機していろ。確実に取り囲んでから一気に押さえる。オーバー」

「こちらジムビーム。了解、待機します。オーバー」

俺も3054に行くことにした。その前に部下に指示を出す。

「ポイント3054付近にいる者は直ちに急行せよ。ターゲットに悟られぬようカモフラージュのままで慎重に行動すること。
なお、緊急事態発生時した場合、火器の使用はこれを許可する。繰り返す、火器の使用はこれを許可する。
現時点をもってフェイズ2に移行し、非常時以外の通信を禁止する。オーバー」

フェイズを示すランプが青から黄色に変わった。

目の前に3つあるディスプレイの1つに、本部からのデータを呼び出した。

テロリスト、各種運動活動家などに動きなし。

戦略自衛隊などの政府組織にもとりあえず目立った動きはない。

しかし安心は出来ない。動きがないこと自体が罠かもしれないのだ。

ネルフの敵は多い。そして、あの子たちを狙う者も多いのだから。




もうすぐこの道を天使が通る。

地上に舞い降りた美しく愛らしい天使が通る。

ああ、その姿を思い描いただけでぼくの胸が高鳴る。

2ヶ月前に偶然この場所で彼女を見かけた時は、ほんと心臓が止まるかと思った。

朝の日差しを浴びてきらきらと輝く栗色の髪。南の海の鮮やかさを思わせる碧い瞳。

口元からこぼれるその笑みは、一瞬でぼくの心をとらえてしまった。

あの日以来、ぼくは毎日彼女を見つめつづけていた。

彼女が歩き、彼女が走り、彼女が語り、彼女が歌い、彼女が笑い、彼女が怒り、彼女が殴り、彼女が蹴り、

その全てをぼくは見守ってきた。

遠くからただ見ているだけで幸せだった。

「うんうん、分かるぞ、その気持ち」

あっ、いつものヒゲのオジさん。

「わたしもシンちゃんが元気そうにしているのを見ているだけで幸せでな。
いつも仕事で忙しいばかりにあまり話も出来ず、こうして見守るのが精一杯だ」

忙しいって、そのわりには毎朝見かけるんだけどなぁ、このオジさん。

本当は暇なんじゃないの?

「おっと、もうそろそろ仕事に戻らんとな。冬月のお小言はうるさくて困る。
じゃあな、青年。がんばるんだぞ」

はあ、ありがとうございます。

そう応えるぼくの返事を最後まで聞かずに、オジさんは立ち去った。

誰だ、冬月って?

そもそも、何者なんだあの人は?仕事って言ってたけど、普通の社会人には見えないが。

だけど、応援してくれる人がいるってのはうれしい。なんか元気がでてきた。

ありがとう、名前も知らないオジさん。

でも、怪しいぞ。


ぼくは今日こそ彼女に話しかけようと思っている。

『こんにちわアスカさん』

そう言って、このバラの花束を差し出すんだ。

『いつもあなたのことを見てきました。あなたはぼくの太陽です』

考えただけで恥ずかしくて顔が赤くなってくる。

でも大丈夫、そのためにサングラスとマスクで顔を隠してある。

これで赤面を見られずにすむので一安心だ。

もう1週間も練習して、言うべきセリフは全部頭に入っている。

ああ、彼女の喜ぶ顔が目に浮かぶ。

だけどいくつか問題もある。

せっかくだからアスカさんと二人っきりになりたいんだけど、彼女にまとわりついているヤツがいるんだ。

ヤツの名前は碇シンジ。まったく頭にくるヤツだ。

いくら同級生とは言え、アスカさんの迷惑も考えずに登校も下校も付きまとっている。

昔に流行った、いわゆるストーカーってやつだろう。

青白くて頼りなさげなヘナチョコなんだけど、アスカさんはしょうがないから一緒にいてあげているみたいだ。

ああ、なんて心優しいんだろう。感激だなぁ。

それから、こちらはたまになんだけど綾波レイちゃん。

この二人から、なんとかアスカさんを引き離さないといけない。

そのためにちゃんと用意はしてある。

学校の実験室でこっそり作ったスプレー式の催眠ガス。これを使ってお邪魔虫は眠らせてしまえばいいんだ。

おっと、しまった。

そう言えば一人分しかないんだった。

しまったなぁ。とりあえず、このガスはレイちゃんに使おう。

シンジのヤツは・・・しょうがないから、“たまたま”持っていたこのカナヅチで頭を叩いて気絶させよう。

ほんとうっかりしていた。でも、誰にでも間違いはあるものだよね。

“たまたま”カナヅチを持っていて本当によかった。金属バットにしようかなとも思ったけど、こっちの方が確実だから。あーいや、ゴホンゴホン。

なーに、コツンと軽く叩くだけだから大丈夫。

怪我なんかする心配はない。ほーんと軽く叩くだけだから。

そう、こうやって優しく・・・



「こちらジムビーム。ターゲットが引きつった笑い声をあげカナヅチをものすごい勢いで振り回し始めました。
明らかな殺意が感じられます。更に接近したいと思いますが、指示をお願いします。オーバー」

緊急を示す赤ランプの点滅と共に、ジムビームの報告が入った。

冷静な声だ。それがかえって事態の危うさを表している。

マスク男はやはり暗殺者だったのだ。

あんな子供たちを狙うとは憎んでも憎みきれない。

俺はギリリッと歯を噛み締めた。

一刻を争うように道を急ぐ。

しかし、監視用ユニットごとの移動のため速度は思うように上がらない。到着まであと1分半はかかる。

左側のディスプレイでわれわれの配置を確認する。

「すでに現場にいるのはジムビームとワイルドターキーだな。では、二人で前後を押さえておけ。
フォアローゼスとブラントンはそのままガードを継続。異変があった場合は・・・」

「はい、わかってます。オーバー」

うむ。

俺は軽くうなずいた。

あの子達に危害が及ばないように危険人物を見つけ排除する。

排除しきれなくてあの子達が襲われた時には、身を挺して“盾”になる。

二番目の任務こそ俺達の本当の仕事だった。

「現時点をもってフェイズ3に移行する。オーバー」

ランプが赤になり、この街中に設置されている迎撃システムの安全装置が解除された。

ボタン一つで、この街は一瞬にして戦場になる。

俺は、ひたすら急いだ。



・・・97,98,99,100!

素振りを終えたぼくは、あがった息が落ち着くのを待った。

もう数分でアスカさんが通る時間だ。

最終チェックとして、念のために身繕いをする。

髪型は整っている。ボタンは全部はまっている。靴ヒモもほどけていない。

左手に花束、右手に催眠スプレー。そして、ポケットにはカナヅチだ。

全部よし。アルティメイトにノープロブレムだ。

あとはアスカさんが来るだけだ。

『ガサッ』

後ろで音がした。

何者かが近づく気配を感じ、ぼくは振り返った。

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