注:この作品はエヴァンゲリオンの二次ギャグ小説です。
タイトルの『メン・アット・ワーク』はわたしの大好きなバカ映画『メン・アット・ワーク』(1990年作、エミリオ・エステベス監督・主演)から取りました。
1997年末よりスタートしたシリーズですので大ヒットPCゲームの『メン・アット・ワーク』の発売より前であり、当然の事ながら全く関係ありませんしゲームをやったこともありません。
それとアーティストでMen AT Workという外人さんたちがいるそうですが、そちらとも関係ありません。
以上をご理解の上、それでももしよろしければ先にお進みください。
「二人とも今、家を出たわ。後はよろしく」
「了解」
俺は葛城一尉からの連絡にそれだけ答えた。
多くを語る必要はない。
自分のやるべき仕事は承知している。犬が自分の鼻がどこにあるのかを知っているのと同じようにだ。
「ヘブンヒルから各員へ、『パンダ』と『山猫』は檻を出た。繰り返す、『パンダ』と『山猫』は檻を出た。オーバー」
通信機のマイクに小声でささやく。
各所で待機している部下たちは、その指令と同時に警戒態勢に移行する。
毎日同じように繰り返されるこの任務。部下たちは黙々と、そして確実に遂行する。
プロと呼ばれるのにふさわしい連中だ。まったくもって頼もしい。
地味できつい仕事だが、その重要性を深く知っているからでもある。
一見平和に見えるこの街、しかし使徒という危険がいつ襲い掛かるか分からない街。
この街は、いやこの国そしてこの世界は危ういバランスの上に成り立っている。
それは、今日にもひっくり返ってしまうかもしれないのだ。
それを守るために我々の組織「NERV」がある。
セカンドインパクトから15年が過ぎたとは言えいまだ情勢は不安定だ。
そんな中、最新の技術や優秀な人材そして豊富な資金が集められ、現代科学の粋を凝らしている。
そして、その要となるのが決戦兵器『エヴァンゲリオン』であり、それを操縦するパイロットである。
パイロットたちを始めて見たとき、俺はとても驚いたものだった。まさか14歳の子供とは思っていなかったからだ。
世界の命運をこの子供たちに任せていいのかと思ったものだが、いまではそんなとこはこれっぽちも考えちゃいない。
彼らの幾度もの戦いを見てきたのだから当然だ。
あの子達は命懸けで戦ってきた。だから、俺達はそんなあの子達を命懸けで守る。
そう、俺達は『保安部警備課特別警備室』チルドレンたちを守るのが仕事である。
そしてそのために何をすればいいのかは承知している。犬が自分の鼻がどこにあるのか知っているのと同じようにだ。
「♪〜アスカのアは愛くるしいア、明るいのア、あったまいいのア
アスカのスは素晴らしいのス、素敵のス、すっごくいいのス
アスカのカはかわいいのカ、可憐のカ、かっこいいのカ・・・」
「アスカ・・・何なの、それ?」
先ほどからご機嫌そうに歌っているアスカに、シンジは訝しげに尋ねた。
いつもの学校への通学路、まだ朝だというのに日差しはすでに強い。今日も暑くなりそうだった。
「あんたってほんとーにバカね。あたしのテーマソングに決まってんじゃない」
「そっか、決まってるんだ。それは知らなかった」
最後のほうはつぶやくように言うシンジである。
まあ、そりゃ知らないだろう。
「へへーっ、作詞作曲はなんとこのあたし自身なのよ。我ながらこの多才ぶりには感心するわね。
どう?シンジも素敵な歌だなって思ったでしょ?」
へへーんとばかりに、アスカは同意を求めてきた。
――どう答えよう?
シンジは迷った。
とりあえず思い付く答えは、二つあった。
1.いいや、間抜けな歌だなぁって思った。
2.うん、とってもいい歌だなぁって思った。
さて、どちらにしよう?
1の場合だと・・・
「いいや、間抜けな歌だなぁって思ったんだけど」
「なによ、シンジの癖にわたしにケチつけようっての!!」
バッチーン!!と平手打ちを頬に食らわされる
うーむ、これは嫌だな
では、2にすると・・・
「うん、とってもいい歌だよね。アスカらしくて素敵だなぁ」
「なによ、あんたのセンスでこの歌の良さが分かるって言うの?生意気だわ」
ゲシゲシ!!とケリを入れられる
ううっ、これも悲惨だ
これだけの判断を、シンジはコンマ数秒のうちに行った。
そして、前向きに運命の決断をした。
――よし、こうしよう
3.とりあえず、なんとかして話をごまかす
思いっきり後ろ向きである。
「あっ、あれは綾波じゃないか。おーい綾波、おはよーう」
ちょうど曲がり角から現れたレイに向かって、シンジはニコニコ笑いながら手を振った。
渡りに船のタイミングの良さだった。
レイは無表情のまま、そんなシンジを眺めた。
「・・・碇君・・・」
「んっ?どうしたの、綾波?」
「・・・うしろ・・・」
「えっ?」
何事かとシンジは後ろを振り返った。
太陽の光が、さっと遮られた。
「人の話を聞いてんの、あんたは?!」
ゴツンと音をたてて、シンジのこめかみをアスカの通学カバンが直撃した。
不幸なことに、モロにカバンの角が当たっている。これはいかにも痛そうだ。
シンジは、うめき声をあげながらうずくまった。
「ううっ、結局こーなるのか(涙)」
声を立てずに、静かに泣いた。
痛かったからというより、自分の読みの甘さを思い知ったためだ。
そんなシンジの頭を、そっと白い手が優しく撫でた。
レイだった。彼女は感情を現さない赤い眼の冷たい視線をアスカに向けた。
「なっ、なによまた徹夜明けなの・・・」
たじろいだアスカはとりあえずボケをかましたが、レイからまるっきり無視される。
「どうしたってのよ、シンジを叩いたのが気に食わないとでも言うの。
でも、あんたには関係ないじゃない。それとも、文句でもあんの?」
気を取り直したアスカは、強気で反撃に出た。もとより、相手に後れをとって黙っていられる性格ではない。
付け加えるならば、レイが勝手に”あたしの”シンジの頭を撫でているのが気に入らないというのが、一番の理由のようだ。
アスカに詰め寄られたレイは、顔色も変えずにボソッと一言こう言った。
「変な歌・・・」
「きぃぃぃぃぃっっ!なんですってぇぇ!」
アスカがわめいた。
明るい日差しに包まれた、平和な朝の光景であった。
ほのぼのほのぼの。
ほんとーか?
「ブラントンよりヘブンヒルへ、『パンダ』と『山猫』に『白ウサギ』が合流しました。オーバー」
「こちらヘブンヒル、了解した。何か変わったところはないか。オーバー」
「先ほど『パンダ』が『山猫』に張り倒され、『山猫』と『白ウサギ』がにらみ合っています。オーバー」
「つまり、平凡な日常と言うわけだな。引き続き警護を続けろ、深く静かにな。オーバー」
俺はチラッと腕時計を見た。ほぼいつも通りの時間だ。
規則正しくて感心感心と言いたいところだが、警護している身としてはちょいとばかり頭が痛い。
毎日同じルートを同じ時間に通れば、狙われる危険性は当然高くなる。
こちらとしては、その日ごとにランダムな時間、ランダムな道順を利用してもらいたいところだが・・・
まあ、しょうがない。
俺達が警護していることは、あの子達には内緒だ。
本来、警護する場合その人物の全面的な協力がなければ非常に難しい。細かい日常の行動一つ一つが安全の上で重要であるからだ。
俺達がしっかり張り付いて、行動を共にするのが一番確実である。
しかし多感な14歳という年頃だ、始終監視されているとしればいい気持ちはしないだろう。
そういった理由から、俺達は常に姿を隠している。
あの子達から決して気づかれることなく、完璧に守り通す。
もしも守り切れなければ・・・その時は世界の破滅だ。
責任の重大さを改めて感じる。
俺は隠し窓を開けて道の様子をうかがった。
怪しい点は特になし。俺から見える範囲は平和そのものだ。
狭い場所に身を隠しているのでやたらと窮屈だが、これにももう慣れた。
静かに、目立たず、そしてどこにでも。それが俺達のやり方だ。
悲しいことに、俺達の仕事についてNERF内での扱いはあまり高くない。
何も起きないことが最良の結果であるから仕方のないとも言えるが、何も起きないために俺達は努力しつづけているのだ。
それも知らずに『ベビーシッター』などと呼び名を付けられている。
特に頭にくるのが諜報部の連中だ。
用もないのにうろちょろしているだけが取り柄の癖に、さも自分たちがあの子達を守っているかのような顔をしている。
まったく、葬式帰りみたいな格好しやがって。
そんな俺の愚痴をなだめるかのように、イヤホンが呼び出し音を鳴らした。
部下からの連絡だった。
「ジムビームからヘブンヒルへ。ポイント3054にて不審な人物を発見。繰り返します、ポイント3054にて不審な人物を発見。オーバー」
「こちらヘブンヒル、了解。ただちにそちらの映像を送り、警戒態勢を続けろ。オーバー」
俺は部下に指令を下し、モニターを3054に切り替えた。
そこには、電信柱に身を隠している一人の男の姿が映し出されていた。
確かに、見るからに怪しげだった。