ぼくはどうしてここにいるんだろう?

ぼくはどうしてここにいるんだろう?

ここで生まれたからかな?

ここで育ったからかな?

ぼくがここにいることを、みんなはどう思っているんだろう?

ぼくはここにいてもいいのかな?

ぼくはここにいてもいいのかなったら

 

ぼのエヴァ  第1話

   「友だちに会いに行こう」

 

ある晴れた昼下がり、海っぺりにある崖の上で、ラッコのぼのぼのがひなたぼっこをしています。

「うーん、今日はいい天気だなぁ」

ふわぁぁぁ

ぼのぼのは大きくあくびをしました。

取りたての貝をお魚でお昼ご飯をすませ、お腹は満腹。

ちょっとお昼寝をしてもいいのですが、

「でも、こんないい天気だからもったいな。

うーん、シマリスくんのところに遊びに行こうかな。

ぼくが遊びに行ったら、シマリスくんはよろこんでくれるかな」

ぼのぼのはうーむと考え込みました。

――シミュレーションしている

やれやれ。

いちいち、あれこれと悩むラッコです。

しばらくすると、瞳から頬にかけて間延びした涙が流れました。

――こわい考えになってしまった

「遊びに行ったらシマリスくんがいないかもしれない。

もしいたとしても、ぼくとは遊びたくないかもしれない。

だって、シマリスくんはぼくのことを嫌いになっているかもしれないからだ。

シマリスくんに嫌われたらどうしよぉ」

勝手に考えて、勝手に落ち込んでいます。

別にシマリスに嫌われるような事をした覚えもないはずなのに。

まあ、これがぼのぼのらしいとも言えますが。

おい、どうするの?シマリスのところに遊びに行くんじゃないのか?

「逃げちゃだめだ。逃げちゃだめだ。逃げちゃだめだ。逃げちゃだめだ。逃げちゃだめだ。

逃げちゃだめだ。逃げちゃだめだ。逃げちゃだめだ。逃げちゃだめだ。逃げちゃだめだ。

逃げちゃだめだ。・・・・・・うん、行くよ」

意を決して、ぼのぼのは立ち上がりました。

貝をしっかりと握り締めたまま、シマリスの家に向かいます。

ふー、疲れるやつ

 

歩いている間にも、ぼのぼのはあれこれと考えます。

「シマリスくんだけじゃなくて、森中のみんながぼくのことを嫌いかもしれない。

だって、ぼくはぼくが好きじゃない。だから、みんなもぼくのことなんか好きじゃなくて当たり前だ。

ぼくは速く走れないし、空を飛べないし、力も強くない。もちろん、頭だってよくない。

そう、ぼくは何にも出来ないんだ。誰の役にも立っていないんだ。

こんなぼくが、ここにいていいんだろうか?ぼくは、ここにいちゃいけないんじゃないかなぁ」

そんなことをやっているうちに、シマリスの住んでいる木の根本に着きました。

木の穴を見上げながら、ぼのぼのは迷っています。

「顔を出すなりシマリスくんが、『ぼのぼのちゃんなんか嫌い』っていったらどうしよう。

それどころか『ぼのぼのちゃんなんか大っ嫌い』だったらどうしよう」

しかし、いつもでそんなことを考えていても、しょうがありません。

おそるおそる、貝で木を軽く叩きました。

「シマリスくん。ぼくだよ、ぼのぼのだよ」

呼びかけからしばし、シマリスが穴から顔を出しました。

「あら、ぼのぼのちゃん。どしたの」

無表情のまま、抑揚のない声でシマリスが言いました。

別に機嫌が悪いわけではなく、いつもこうなのです。

もっとも、それがぼのぼのを不安にさせる要因ではあるのですが。

「うん、実はね、今日はいい天気だし昼ご飯はおいしかったし、お昼寝しても良かったんだけど、

こんなあったかい日にもったいないなぁって思って、それよりシマリスくんと遊びたいなぁと思って、

だからこうして遊びに来たんだよ」

焦ったぼのぼのは、ちょっと饒舌になっていました。

そんなぼのぼのを、シマリスは紅い瞳でじっとみつめます。

「わたしがあなたと遊ぶ。どして?」

「だっ、だって、一人で遊ぶより二人のほうが楽しいし、おしゃべりも出来るし、

もっともシマリスくんはあんまりしゃべらないけど、でも空は青いし雲は白いし・・・」

次第にしどろもどろになるぼのぼのです。

木から下りてきたシマリスは、ぼのぼのの前に立ちました。

「なにして遊ぶの?」

「えっ?!」

ぼのぼのが、間の抜けた驚きの声を上げました。

「シマリスくん、ぼくと遊んでくれるの?」

「だって、ぼのぼのちゃんはわたしと遊びに来たんでしょ。

それに、空は青くて雲は白いから」

シマリスの言葉に、ぼのぼのは安堵のため息をつきました。

「よかったぁ、ぼくはてっきりシマリスくんから嫌われたものだとばっかり。

ううん、それどころか森中のみんながぼくのことを嫌いだろうって」

「どうしてそんなこと言うの。わたしはあなたが好きよ」

「ありがとう。やっぱりシマリスくんは、ぼくの一番の友達だよ」

ぼのぼのは、にっこりと微笑みました。

しかし、シマリスがちょっと悲しそうな顔になったのには気づきませんでした。

「でも、ほかのみんなはぼくのことが嫌いかもしれないんだよね。

どうしよう、そんなのいやだよぉ。ぼくのことを嫌いにならないでよぉ」

うじうじうじうじ

ぼのぼのは、またもや落ち込み始めました。

と、その首に誰かの腕が回りました。

「あーもう辛気くさい。男のくせに、うじうじしてるんじゃないわよっっ!!」

その声とともに、ぼのぼのの首がぎりりっと締め上げられました。

目を白黒させながら、ぼのぼのがジタバタとあがきます。

しかし、しっかりときまったベアークローはちょっとやそっとでは外れません。

「あっ、アライグマちゃん」

ひとり冷静なシマリスです。

額に血管を浮かべたアライグマは、ぼのぼのを怒鳴りつけました。

「なーんかまたしょうもないことで悩んでるんでしょ。うっとうしいったらありゃしない」

「アライグマちゃん」

「せっかくの昼ご飯の消化が悪くなるわ。ほんとーにどうしようもないわね、このバカは」

「アライグマちゃん」

「なによぉ、シマリスさっきから。言いたいことがあるなら、さっさと言いなさいよ」

「いい加減にしとかないと・・・死ぬわよ、ぼのぼのちゃん」

「へっ?・・・あらら」

抵抗する力もなくなっていたぼのぼのは、ようやくとアライグマの技から解放されました。

「げほっ、げほっ」

咳き込むぼのぼのの背中を、アライグマは『しょうがないわねぇ』とさすってやります。

「ひどいよぉ、アライグマくん。いきなり首を絞めるなんて」

「ごめんごめん。あんたがまたうじうじしてるもんだから、ついつい頭にきちゃったのよ」

アライグマは、ケラケラと笑いました。

まだ何かを言いたそうなぼのぼのですが、その笑顔に毒気を抜かれた様子です。

「でも、なにを悩んでたのよ。面白そうだから、わたしにも教えなさいよ」

「うん、実はね・・・」

ひとしきり説明を聞いたアライグマは、スタスタとぼのぼのの後ろに回りました。

「?・・・アライグマくん?」

「い・い・か・げ・ん・に・しなさいっ!!」

ゲインッ!!

首をひねっていたぼのぼのは、アライグマの蹴りで勢いよく宙を飛びました。

クルクルと、アクロバットのように3回転ほどします。

着地は・・・残念、頭からです。これでは、良い点数は望めません。いいとこ4.6でしょう。

「あんた、バカぁ。そんなことで落ち込んでるなんて、意味ないじゃない。

だいたい、ほかのみんながあんたを嫌いだなんてわかんないでしょ」

「そりゃそうだけどさぁ。じゃあ、アライグマくんはぼくのことをどう思っているの?

好きなの?それとも嫌い?」

突然の問いかけに、アライグマは顔が真っ赤になりました。

「そっ、そりゃあ嫌いじゃないけど・・・でも、あんたのことを好きなわけないじゃない。

冴えないし、面白くないし、カッコ悪いし。だいたいドンクサイのよ、あんたは。

って、このぐらい言われたからって、いちいち落ち込んだ顔するんじゃないの。

あーもう、あんたも黙ってないで、なんか言ったらどうなのよっ!!」

すっかり慌てふためいたアライグマは、その場しのぎにシマリスを蹴りつけました。

はっきり言って、やつあたりです。

「・・・・・・」

無言のまま、シマリスは放物線を描きました。

「アライグマくんって、ほんと乱暴者だなぁ」

「うるさいわねっ」

「そんなに顔を赤くしてまで怒らなくてもいいじゃない」

「うー、誰のせいよっ!!」

アライグマの顔が赤いのは、なにも怒りのせいだけではないのですが、なにぶん素直ではありません。

おまけに、ぼのぼのの言う通りの乱暴者です。

「でもわかったよ、やっぱりアライグマくんもぼくのことが嫌いなんだ。

ぼくのことを好きっていってくれるのは、シマリスくんだけなんだ」

ぼのぼののつぶやきに、アライグマは顔色を変えました。

「えっ、シマリスったら、あんたのことを好きって言ったの?」

アライグマが、ぼのぼのに尋ねました。

本人はさりげなく聞いたつもりでしょうが、どうにも不自然で気にしていることがばればれです。

もっとも、そこはぼのぼの。まるで気が付く様子がありません。

「うん。シマリスくんはぼくのことを好きって言ってくれたよ。

ぼくの友だちは、やっぱりシマリスくんだけなんだ・・・」

またまた落ち込みはじめるぼのぼのです。

普段ならば、またもやアライグマの蹴りが炸裂するところですが、そうはせずにシマリスをにらみつけました。

青い瞳が燃えています。

――シマリスったら生意気ね。ぼのぼのをたぶらかそうったって、そうはイカのなんとやらよ

二人の視線がぶつかりました。

アライグマの敵意むき出しの視線を、シマリスはしっかと受け止めます。

なにを考えているか、その瞳からはうかがい知るとこはできません。

シマリスは、アライグマの前まで来て見上げました。

「そう、わたしはぼのぼのちゃんが好き。でも、アライグマちゃんは嫌い」

「あーそうですか。わたしも、あんたなんかだいっ嫌いよっっ!!」

アライグマは、大声でわめきました。

「ううっ、そんな大声で言わなくても。うじうじうじうじ」

自分のことをいわれたと思い、一人傷つくぼのぼのです。

「やっぱり、ぼくはここにいちゃいけないのかなぁ。ぼくはいらない子なのかなぁ

うーん、難しくてよく分からないよ。いったいぼくはこれからどうしたらいいんだろう。

・・・・・・そうだ、スナドリネコさんに聞きに行こう」

ぼのぼのが、ハッと顔を上げました。

「そうね、スナドリネコさんならわかるかもね」

シマリスが答えました。

「まったく、あんたときたら、なにかっていうとスナドリネコさんね。ま、いいけど」

アライグマが、やれやれとばかりに言いました。

でも、ぼのぼのがちょっと元気になったようなので、少しほっとしています。

「そうと決まれば、さっそくスナドリネコさんのところに行くわよ」

仕切りたがりのアライグマの号令で、彼らは出発しました。

スナドリネコの住むほら穴へ。

 

                                                  つづく

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