「わははははは・・・・・・」

シンジの対戦相手である3年生の笑い声だった。

2話続けて笑っているだけとは、芸のない男である。

しかし、よくよく聞いてみると前話と比べて力なく放心したような笑いだった。

足元には、彼の革刀が転がっている。

「一本!!」

審判の手が高らかにあがった。

その先には、刀を握り締めたシンジが立っていた。

シンジの目つきに、吸い込まれそうなものを感じた3年生は、すっと視線を落とした。

「わははははは・・・・・・」

自分の負けをいまもって認識できていない3年生は、ただ笑うことしかできなかった。

絶対の自信をもって狙った一撃が、なぜかわされたのか、まるで理解不能だった。

シンジの顔面に間違いなく当たるはずだったのに。

「やったわね、シンジ!!」

アスカがシンジに手を振ってみせた。

シンジはそれに、軽い笑顔で応えた。

真っ青な顔には、拭うのを忘れた冷や汗がまだ張りついており、窓からの日差しを受けていた。

音流布は今日も五月晴れである。



第拾四話

  ”姫さま ひとまず勝ちました”



とぼとぼと3年生は観客席に戻った。

そんな失意の彼を、友人達は暖かく迎えはしなかった。

「なんだよ、大口叩いてたわりに情けねぇなぁ。油断しすぎなんだよ」

「いくら青びょうたん相手でも、なにも考えずに打ちにいくから、あっさりやられちまうんだ」

「そんなだから、名前もつけてもらえないで『3年生』なんて呼ばれちまうんだぜ」

自分たちだって名前が無いくせに、口々に勝手なことをいう。なんとも友達がいのない連中だ。

しかし、それに憤慨することもなく、3年生は手に持った革刀を見ながら首をかしげた。

「確かに俺の面への一撃は決まったはずなんだ。そりゃ、少しは油断もあったかも知れないさ。

でも、試合上で刀を握ってるんだぜ。これでも剣術にはちょいと自信もあるんだ、体が勝手に動くさ。

あの一撃は決まったはずだ。だのに、なぜ俺の手が打たれたんだ?さっぱりわからん」

「おいおい、打たれたのは頭じゃなかったはずだぜ」

ドッ

友人達の笑い声が上がった。

しかし、そんな『3年生』の呟きを聞き逃さなかった者がいた。

『あいつの踏み込みはそれほど悪くなかった。一気に距離を詰めてその勢いのまま打ち込んだんだ。

最後の瞬間までシンジは動かなかったから、打ち込んだ本人は決まったとも思うだろう。

だが、すれすれでほんの半歩左に寄ってそれをかわした。まさに紙一重で避けたってやつだ。

で、体勢が崩れかかったところに小手を打ち、そのまま胴に一本ときた。

だけど…』

選手控え席の壁に寄りかかったまま、ケンスケはウーンとあごをさすった。

ちらっと武道場の反対側にある一年生の席に視線を移す。シンジがなにやらアスカにどなられているところだった。

その内容までは、さすがに耳のいいケンスケでも聞き取ることができなかった。

『シンジのやつ、あれだけの動きができるのに、なんであんな危なっかしい戦い方をしたんだ?

あいつから攻めていれば、それこそ反撃の間もなく倒せたはずじゃないか。

絶対にかわせる自信があったのか?俺に余裕を見せようってのか?

ま、なんにせよ」

ケンスケは壁に張られた表を見上げた。

勝ち抜きのトーナメント表だった。いくつもの線が上へ上へとと伸びており、最後にはたった一本になる。

そう、最後に残るのはたった一本だけだった。

「ま、なんにせよ…」




「とりあえず一勝ね。この調子で優勝すんのよ」

観客席に戻ったシンジを、アスカはそんな言葉で出迎えた。

まだ冷や汗が引ききっていないシンジは、苦笑いを浮かべた。

「ほな、そろそろ出番やから行ってくるでぇ」

入れ替わりにトウジが試合へと向かう。

「がんばってね、鈴原」

「おう、ぼちぼちやってくるわ。委員長」

ヒカリの声援に、トウジはガッツポーズで応えた。もっとも、あまり気合の入った様子ではなかったが。

「まぁ、勝ったは勝ったけど、あんな弱そうなやつだったから勝って当然よね」

「そんなこといっちゃって。さっきまで心配そうにしてたのは誰だったかなぁ」

ヒカリがクスクス笑った。

「冬月君がやられそうになった時なんてねぇ…」

「ちょっ、ちょっとヒカリ!なに言ってんのよ。別に心配とかじゃなくて、簡単に負けてもらっちゃ困るからよ。

シンジもヘラヘラしてんじゃないわよ。そりゃ、勝つには勝ったけど、さっきの試合の内容はヒドすぎるわ」

アスカはシンジを怒鳴りつけた。

「相手の攻撃にもボーッとしたままだったじゃない。運よく避けれたから良かったようなものだけど、

あとちょっとであんたの方が一本取られてたところよ。どうしてちゃっちゃとやっつけちゃわないのよ」

「そう簡単に言うけどさぁ、先輩が凄い目つきでこっちをにらんでるんだ。やっぱり、おっかなくて…」

「びびってたってわけ?」

「そうともいう」

「なっさけないわねぇ〜」

呆れたと言わんばかりのアスカである。

「戻ったでぇ」

「あら、ずいぶんと早かったじゃない。もう終わったの?」

「…残念だったね…鈴原」

一本負けをしてきたトウジに、ヒカリが優しく声をかける。

ありがとうとばかりにトウジは頷いた。

「残念は残念やけど、わいは剣術は苦手やよってな、そもそも武士にはかなわんわ。

中には、ケンスケみたいに小さい頃から厳しい修行を積んどるやつもおるし、

逆に、わいにはわいの人には負けん得意なもんもある。まあ、そういうこっちゃ

そやけど、せっかく応援してくれたのにすまへんかったな、委員長」

そんなことないよ、とヒカリはかぶりを振った。その頬はほんのりと桜色に染まっている。

もっとも、それに気づいているのはアスカだけだったが。

「これでわいの分までシンジとケンスケにがんばってもらわんといかんくなったな。

そういえば、そろそろケンスケの試合が始まるんとちゃうか?」




バシッッッ!!

乾いた大音量に、皆の視線が試合場に集中した。

痛みに顔を歪めた少年が、右肩を押さえたまま尻餅をついていた。

試合開始から、ものの三秒もたっていない。

静まりかえった場内は、先ほどまでの熱気が嘘のように冷め切っていた。

勝者は無表情なまま、興味なさげな冷たい眼をしている。

「いっ、一本っ!!」

迫力に気おされていた審判が、多少上ずった声をあげた。

体育教師であるこの審判は剣術の授業担当でもあるのだが、少年の打ち込みの激しさに、

彼の背中をなにやら冷たいものが走り抜けた。

『手を抜いていない相田を一度見てみたいと思ってたが、こりゃあレベルが違うぞ。

カエルの子はカエル。さすがは相田先生の血を引いているだけのことはある。

こりゃ、今回の優勝者は決まったようなもんだな」

ケンスケの技量に舌を巻きつつも、審判はなにやら落ち着かないものを感じていた。

それが何かを考えている暇は、あいにくと今の彼にはなかったが。

鼻を軽く、フンッと鳴らすと、ケンスケは再び対戦表を見てやった。

左右に幅広い表のほぼ左側に自分の名前、そして右側にはシンジの名前があった。

『もしもシンジが勝ち抜いてきたとすれば、決勝戦で戦うことになるな』

自分が負けるかも知れないということは、これっぽっちも考えてはいないようだった。

革刀を軽く握り締めると、身体の奥底から力が湧いてくるのが感じられる。

たとえ誰が対戦相手であろうとも、必ず勝つ自信が今のケンスケには満ち溢れていた。

「ま、なんにせよ、優勝するのはこの俺だけどね」

ケンスケは心の奥でニヤリと笑った。

もしケンスケの呟きが皆に聞こえていたとしても、それを否定することは出来なかっただろう。

ある少年を信じているただの一人を除いては。

つづく       

 

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「あれ、かんちょはどうしたのよ?」

「ん。なんか今回は書くことがないから、ぼくたちにまかせるって」

「いいかげんねぇ、まったく」

「ほんまそのとおりや。今回のわいの出番はいったいなんなんや。
気がついたら負けとるやないか。ちっとは活躍させいちゅーねん」

「まあまあ、鈴原にもそのうち見せ場があるわよ」

「ぼくは見せ場なんかいらないから、早く大会が終わってほしい・・・」

「甘いわね。決勝戦まで終わらないわよっ。さ、あきらめてがんばんなさい」

「(しっかし惣流のやつ、ほんまにシンジが優勝できると思っとるんやろか?)」

「(うーん、アスカってちょっと思い込みが激しいとこがあるから(冷汗))」

「めざせ剣術日本一よっ!!」

「だから、校内大会だってば・・・」

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