前回までのあらすじ

 

音流布藩のアスカ姫は、可愛くて成績優秀の上に運動神経抜群の美少女である。

優柔不断で軟弱なシンジの助をお供に、お忍びで城下の中学校に通っている。

現在14歳。天下無敵の女子中学生だ。

四年に一度の、世界一強い剣士を決める『全校剣術大会』が行われることになるが、

闇の女教師”葛城ミサト”の悪だくみにより、ギリギリになってから二人はそのことを知らされる。

困難にくじけないアスカ姫は、へなちょこなシンジを優勝させるべく、特訓にとりかかった。

そんな二人に、邪悪な狂剣士ケンスケと謎の裏商人トウジは姑息な妨害をしかけてくる。

しかし、ライバルの妨害をものともせず、激しく苦しい特訓とアスカの献身的な指導によって、

シンジはついに、いままでどの剣士も成し得なかった、超々必殺技を身につけたのであった。

そして、いよいよ剣術大会の開催日が間近に迫る・・・

 

「あらあら、それはそれは大変だったわねぇ」

血沸き肉踊る一編の活劇小説のようなアスカの説明を聞き終えたユイは、
いかにも感心した口調で感想を述べた。

「この大嘘つき・・・」

シンジがボソッとつぶやいた。
もちろん、アスカには聞こえないようにだ。まだまだ、命は惜しい。

音流布は今日も五月晴れである。 



第七話

  ”姫さま どうしましょうか?”



「さあ、冗談はここまでにしてと」

シンジのつぶやきを耳ざとく聞きつけたアスカを、さえぎるようにユイが言った。

――ありゃりゃ、ばれてたのね。お母様ってへんなとこで鋭いのよね

――ばれないって考えるのが、どうかしてるよ・・・

あはははは

笑ってごまかすアスカであった。
しかし、

「アスカ、笑ってごまかそうとしても無駄ですよ」

きっぱりとユイに釘をさされた。
母親にとっては、娘のやることなんざお見通しのようである。

「ははっ、すっかりばれてますね、姫さま」

ユイの前なので、いつものように”アスカ”とは呼ばないシンジである。

「シンジ君お疲れさま、すっかりボロボロになったわねぇ」

しげしげと、ユイはシンジの格好を見た。
そして、コロコロと笑った。
つられてシンジも笑いがこぼれる。

ムッ

アスカだけが、ちょっと面白くなさそうな顔つきである。

「特訓はいいですけど、あんまりきつくあたっちゃだめよ、アスカ。
ひどくやられたようだけど、シンジ君怪我はない?」

「はいっ、大丈夫ですユイ様。お心使いありがとうございます」

「そんな他人行儀にしなくてもいいのよ。あらっ、どうしたの?」

突然、しかめ面になったシンジにユイが尋ねた。

「なっ、なんでもありません」

そう答えるシンジの額には、汗がにじむ。
ユイから見えない後ろ側では、アスカが思いっきりシンジをつねり上げていた。

――デレデレしてるんじゃないわよっ!
 ほんっとシンジって、お母様には弱いんだから・・・

心の叫びを隠しながら、アスカは母に尋ねた。

「なんでもないそうよお母様。それより、わたしたちになにか用があったんじゃないの?」

「実はね、いいものを用意しておいたの。ちょっと待っててね」

ユイは、隣の部屋からその”いいもの”を持ってきて、二人の前によいしょっと置いた。

「どう?素敵でしょ」

ニコニコしながら、ユイは尋ねた。

アスカは無言だった。

「どうしたのよ、黙り込んじゃって?」

シンジも無言だった。

「そうね、こんな立派なものを目の前にして、言葉もないのよね」

勝手に納得しているユイであった。

「これさえあれば、剣術大会で相手から打ち込まれても大丈夫。
シンジ君の身体をしっかり守ってくれるわよ」

ユイは、”胴”をポンと叩いた。良い響きの音であった。
胴は少々小ぶりで、おそらく子供向けのものであろう。
シンジの身体にちょうど合いそうな大きさだった。
ぱっとみただけでも、材質と作りの良さが感じられる。
防具のことは詳しくないシンジであったが、この胴はおそらく一級品だろうなと思った。

――作りはね・・・

シンジは心の中でつぶやいた。

胴はド派手な真っ赤に塗られており、その正面には黄色で大きな鈴が描かれていた。
アスカとシンジの言葉を奪ったのも、そのデザインである。
むろん、感心したいたのではなく、呆れていたのである。

そうとはしらないユイは、

「これはねぇ、ある有名な少年剣士が使っていたものなのよ。
とっても貴重なものだけど、ほかならぬシンジ君だから貸してあげるわよ」

「はあ・・・ありがとうございます」

――その少年剣士は、いったいどんなセンスをしていたんだろう

そんなことを思いながら、シンジは弱々しく頭を下げた。

「でも、この胴をいったいどうしろと」

プッププッ

シンジの言葉に、いきなりユイが吹き出した。

「ウフフフフ。胴を”どう”するだなんて、シンジ君ってシャレがうまいのねぇ
胴をどうするですって。ウフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ」

「いえ、別にシャレじゃないんですが・・・」

際限なく笑いつづけるユイに、シンジが声をかけるが、それでも笑いは止まらなかった。

いくら若々しいとはいえ、ユイも年齢的には立派な”オバさん”である。
そして、”オバさん”というのは、しょーもないギャグに弱いのだ。
そのギャグがしょーもなければしょーもないほど笑う。そういうものなのである。
”胴をどうする” 一級品のしょーもなさであった。

「お母様、こんなものいりません」

いい加減付合いきれなくなったのか、アスカがユイの笑い声に割って入った。
押し隠してはいるが、イライラした表情である。

「あら、いらないってどうして?」

「こんな胴、どうしてもなにもないわよ」

「ウフフフフ、胴が”どう”してもなにも、ですって。
アスカもシャレがうまいわねぇ、ウフフフフフフフフフフフフフフフ」

「あーあ、また言っちゃいましたね。ようやくおさまったのに」

シンジがアスカを突っつく。

「うるさいわね、わざとじゃないわよ。それにそもそも、あんたが言い出したダジャレじゃない」

「ぼくだって、わざとじゃありませんよ」

「えーいもう。お母様、こんなバカみたいな胴をシンジに付けろっていうの?
それこそ、くだらないシャレ以上の、いい笑い者だわ」

アスカは、赤い胴をつけているシンジをちらっと想像し、

(こしゃくな小僧め、名を名乗れ!!)

(赤胴シンジの助だ〜!!)

頭が痛くなって、慌てて止めた。

――ほんとっ、バカみたい。というより、バカそのものだわ

シンジにそんな格好はさせられない、と誓うアスカであった。

「バカみたいとはひどい言い方ねぇ。それにほら、アスカの好きな赤い色なのよ。
こんなにキレイなのに、どこが気に入らないのかしらねぇ」

「赤ならなんでもいいんかい、あたしは!!
だいたい、なによその鈴の絵は。東京駅で待ち合わせじゃないのよ」

「姫さま、それなら銀色だと思いますが」

アスカの言っていることがさっぱり分からないのに、シンジの口が勝手に動いた。
いわゆる、自動書記ならぬ自動つっこみであった。

「うっさいわねぇ、男が細かいことを気にするんじゃないわよ。
それよりほら、あんたからもちゃんと断りなさいよ。
もし、あれを付けたいっていうんならば、あたしは止めないけどね。
そのかわり、そんな格好をしているときは、今後一切わたしの近くに寄らないでよ。
恥ずかしいからね」

フンッ、とアスカは横を向いた。

「あら、シンジ君は”絶対”に気にいってくれてるわよ。
ね、シンジ君。使ってくれるわよね」

「使わないわよね、シンジ。はっきり、いらないって答えなさい」

あわわわ

母娘それぞれの強烈な追求に、ただうろたえるばかりのシンジであった。

「いや、あのぼくは・・・」

「いるわよね」

「その、なんだ・・・」

「いらないわよね」

「えーと、えーと・・・」

ここまできて、ようやくシンジはあることを思い出した。

「実は、剣術大会では防具は使わないんですが・・・」

「ああ、そういえばそうだったわね」

アスカは、あっそうそうと手を打った。

「なんですって」

ユイが大声をあげた。

「防具もなしで剣術をやらせようというの。無茶です、大怪我をする生徒がでたらどうするの。
教育者の怠慢だわ。さっそく校長を呼び出さなくっちゃ」

「いや、違うんですユイ様〜」

慌てて立ち上がったユイを、シンジが止めた。

「防具を使わないというより、必要ないんです」

「あら、どうして?竹刀で殴られたら大変でしょうに」

「大丈夫よお母様、竹刀は使わないんだから。ねっ、シンジ」

「そうなんですユイ様。試合では、綿を固く中に詰めた革の棒を刀の代わりに使うんです。
殴られたら痛いけれど、怪我をするようなことはないんです」

「あらまあ、今はそんなふうになっているの。
たしかに、それならば安心ね。でも、ちょっと迫力に欠けてつまらないわね」

――おいおい・・・

無言で母にツッコミを入れるアスカだった。

「そうよお母様、安心なの。だから、この”胴”は必要ないのよ」

「残念ねぇ、せっかく蔵の中から探してきたのに」

勝ち誇った口調のアスカに対して、ユイはちょっと肩を落としている。

「まあまあ、ユイ様。こんな立派なものを、もし傷つけてしまったらもったいないですから。
大事にしまっておいたほうがいいですよ」

シンジが気をつかって声をかけた。

「ありがとう、シンジ君は優しい子ね。アスカもちょっとは見習ってくれればいいのに」

「シンジのはね、優しいんじゃなくて優柔不断の八方美人っていうのよ。
だいたい、防具がいらないってことを、シンジがもっと早く思い出していれば、
こんな騒ぎにならなかったんだから」

「しょうがないでしょう、忘れてたんですから」

「なんでそんな大事なことを忘れるのよ。ボケボケッとしてるんじゃないわよ」

「なんだよ、姫さまだって忘れてたんじゃないか」

「わたしが出場するわけじゃないんだから、そんな細かいことまで気にしてないわよ」

「あー、ごまかした。アスカはいつもそうなんだから」

「誰がごまかしたってのよ!人聞きの悪いこと言わないで。なにさ、バカシンジっ!」

「ふんだ、アスカってほんとっひどいや」

いつの間にか、シンジは”姫さま”ではなく”アスカ”と呼んでいたが、二人ともそれには
気がついていないようだった。

――やれやれ、ケンカするほど仲が良いとはいうけど・・・・・・

ふとそんなことを考えたユイである。

二人の口ゲンカは、しばらく終わりそうになかった。

ユイは、そんな自分の二人の子供たちを、優しく見守っていた。

 

つづく       

 

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ふうっ
ようやく出来上がった。
相変わらず、話しが進んでません。剣術大会は果たしていつになるのであろうか?

「いつになるのかじゃないですよ。館長たるもの、もっと責任を感じてもらいませんと」

「あっ、こんにちわユイさん」

「こんにちわじゃないですよ、あなたがしっかりしてくれないと、私たち登場人物が困るんですからね」

「はい、すみません。善処します」

「そんな小役人みたいなセリフは聞き飽きましたよ」

「まぁ、文化会館の館長なんてこんなもんじゃないですか。
でも、ユイさんって意外に言うことがキツいんですね」

「仮にも一国の領主たる者の妻ですから。
時には厳しくないと務まりませんわ」

「そうですか・・・こんな性格じゃないはずなんだけど・・・
もしかして、あの言葉を気にしているのかな。
やっぱ”オバさん”はまずかったか・・・」

ピクリ

「今、なにかおっしゃりましたか?」

「あっと、えーと、やっぱり気にしてるんですか?」

ニコニコ

「別に悪気があったわけじゃないんですよ。いわゆる、筆がすべったってやつで」

ニコニコニコ

「本当は、そんなことちっとも思ってないんですよ。オバさんだなんて」

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「うわーやっぱり怒ってる。ごめんなさいっ、許してくださいっ。
ユイさんは若いです!ぴっちぴちですぅ〜」

その後、数十分に渡って、ユイのニコニコ攻撃は続いたという。

教訓:言葉には気をつけよう。口は災いのもと

 

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