「今週の金曜日なんだけど、全校剣術大会が行われます。優勝者および総合得点一位のクラスにはご褒美があるみたいだから、がんばってね」

「ええっー!」

 教室内が騒然となった。

「ミサト先生、それってずいぶん急な話のような気がするんですけど」
「あぁ、それなんだけどねシンジ君。大会のことはとっくに決まってたんだけど、ちょっち2週間ばかり忘れてたのよー。めんね〜」
「2週間のどこが”ちょっち”なのよ、あとたったの4日じゃない。ほんっといい加減なんだから」
「まあまあ、アスカ。当日になってから言い出されるよりも良かったと思うよ」
「あったりまえじゃない。でも4日じゃ特訓にはきつい日程ね」
「特訓って・・・まさか僕のじゃないよね」

 シンジがおそるおそる尋ねた。

「あんたなんか100万年特訓したって無駄よ。わたしが特訓するの。だいたい、このクラスにわたしより強いやつがいるわけないじゃない。優勝はわたしのものよ!」
「なに勝手なことぬかしとんねん、ワシがオマエよりも弱いっちゅーんか」

 トウジがわめいた。シンジ以外の他の男子生徒も、同じ意見のようである。

「あら、そう聞こえたかしら?」
「思いっきりそう聞こえとるわ」
「二人とも落ち着いてよ。それにアスカ、さっきの言い方は良くないよ」
「なによシンジ、わたしが悪いっての」
「ええからシンジ、オマエは下がっとれ。これはワシの男としてのメンツの問題なんや」

(まったく、アスカもトウジもケンカっぱやいんだから)
 二人の間でオロオロするだけのシンジであった。

「盛り上がってるとこ、まことに悪いんだけど」

 ミサトが口をはさんだ。

「出場できるのは男子だけなのよね〜。そんなわけで、がんばってね男子諸君」

 ミサトのウィンクに、男子生徒全てが完黙した。
 ただ一人、アスカはぼうぜんと立ち尽くしていた。

「そっ、そんな〜」

 アスカの叫び声が青空に吸い込まれていった。
 音流布は今日も五月晴れである。


第弐話
  ”姫さま お手柔らかに”


「なんでわたしが出場できないのよ」

 お堀に沿った通学路を歩く二人。
 学校からの帰り道、アスカはまだご機嫌斜めである。

「仕方ないよ、剣術の授業は男だけなんだから」
「剣術が男だけの物なんて誰が決めたのよ。まったく、男女差別もはなはだしいわ」
「仕方ないよ。それにほかの女の子は、たぶん出たくないだろうだし」
「わたしは出たいの!バカでスケベなだけの男の子たちなんかに負けやしないんだから。それなのにそれなのに、うーっ頭にくる」
「仕方ないよ、決まりなんだから」
「あーっもう、仕方ない仕方ないって、あんたそればっかりね。自分でなんとかしようって気がないのっ!」

 アスカはシンジを怒鳴り散らした。
 そして、不意に黙り込み、一瞬考え込んだあとニヤリと微笑んだ。

――アスカがこの表情をするのは、とんでもないことを思いついた時なんだよな。
 シンジは嫌な予感がした。長年の経験の成果である。
もっとも、あまりうれしくはない成果ではあったが。

「あんたがわたしの代わりに優勝しなさい」

 アスカはきっぱりと言い放った。

「そんな〜!ぼくには無理だよ」

 シンジは、ぶんぶん首を振った。

「ぼくの剣術の成績は、アスカだって知ってるだろう」
「そうね〜、どうやったって1回戦負けよねぇ」
「だろう。だから・・・」
「だから、特訓するの。大丈夫よ、もう内容は考えてあるから」
「勝手に決めないでよ。とにかく、ぼくはやらないからね」

 アスカの考えた特訓の内容を、シンジはあまり想像したくなかった。

――多分、滝にうたれるぐらいはやらされるんだろうな。でも、火の上を歩かされるのはごめんだ。

 どうやら、山伏かなにかの修行とごっちゃにしているようである。

「そう、やりたくなければ別にいいのよ。でもね、本来あんたはわたしの護衛なのよ、それは憶えてる?」
「もっ、もちろんだよ」
「でも今の様子じゃ、曲者に襲われても、わたしは自分で身を守るしかなさそうね。でも、所詮は美しくか弱い少女ですもの、かなうはずがないわ。ああ、可哀想なわたし・・・」
「そんなことないよっ!アスカはぼくが守るから」

 少し寂しげなアスカに、シンジは声を強めた。

「だけど・・・今のままのシンジじゃ、曲者と戦ってもきっと怪我をするわ。ううん、もっとひどいことになるかも。もしシンジになにかあったら、わたし・・・」
「大丈夫!ぼくが強くなるから!強くなるから・・特訓だってなんだってするから!」
「あっそう、じゃあさっそく今日からはじめましょ。なんたって時間がないのよ」

 ころっ。と、アスカの表情が変わった。
 ニコニコと微笑んでいる。

 やっ、やられた

 シンジは自分の敗北を悟った。

「甘かった。今まで何度もやられた手じゃないか。だのに、まんまとだまされて、ぼくって・・ぼくって・・」
「そんなに落ち込まないの。腕を上げるいい機会じゃないの」

 アスカは、シンジの肩をポンポンとたたいた。

──それにさぁ、わたしの見るところでは、あんた本当は結構強いわよ。
 ただ気が弱くて自信がないだけ。それと根性がないのと頼りないのとガキなのとスケベなのと根暗なのとバカってのもあったわね。まあ、優勝しないまでも、大会で活躍できれば、少しは自信もつくでしょ。将来のことを考えると、今のままじゃ困るのよねぇ。

「お城に行きましょ。何度も言うけど、時間がないんだからねっ」

 アスカは、くるりと振り返ると、シンジを正面から見つめた。
 シンジは、なぜかドキッとした。

「わたしが一緒に手伝ってあげるんだから、手を抜いたら承知しないわよ」

 そう言いながら微笑むアスカが、シンジにはひどくまぶしく感じられる。

「まったく、アスカにはかなわないなぁ」

 シンジの口から出た言葉は、それだけであった。

つづく

 

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あとがき

 さあ、いよいよ間近になった剣術大会。シンジの特訓も始まるようで、ようやく時代劇らしくなってきました(?)。
優勝するのはいったい誰なのか、期待は高まるばかりであります。
さ〜て、そろそろ考えなきゃな。

「ちょっと、あんた。まだ話の先を考えてなかったわけ?信じらんないわね」

「おっと、誰かと思ったら、今回のあとがきゲスト碇アスカ姫じゃないですか。お忙しいところ、ご足労かけますねぇ」

「いいのよ、頭なんか下げなくても。土下座してくれるだけで充分だから」

「土下座ですかぁ、そこまでは勘弁して下さいよぉ(冷汗)」

「なにビビってんのよ、冗談に決まってるじゃない。まぁ、シンジの特訓で忙しいけど、少しぐらいならあんたのバカ話に付き合ってあげてもいいわよ。でも、わたしが出場できないなんて、これはきっと陰謀ね」

「まだ言ってるんですか。まあ、まるっきり出番がないってわけでもないでしょうから」

「当たり前よ!わたしが主役なんだから。3バカやミサトなんかほっといていいから、わたしを出しなさい、わたしを」

「善処いたします」

「なに役人みたいなこと言ってるのよ。それより、わたしに聞きたいことがあったんじゃないの?」

「そうそう。えーとですね、まずアスカ姫とシンジの助の関係は?」

「芸能レポーターみたいなことを聞くわね。まあいいわ・・単なる幼なじみの同級生。それ以上でもそれ以下でもないわ」

「幼なじみっていいますと?そういえば壱話によると、シンジ君はアスカ姫のお母上であるユイさんのお乳で育ったようですが」

「シンジのお母様は体が弱くって、シンジを生んだ後亡くなったのよ。たまたまお母様もわたしを生んだばかりだったから、面倒をみることになったみたい」

「そんなことがあったんですか・・・。でも姫の誕生日はたしか12月ですよね、シンジ君は同じ年の6月のはずだから、シンジ君の方が半年は先に生まれてるんじゃないですか?」

「うるっさいわねぇ、細かいこと気にするんじゃないの。わたしは、シンジより1カ月ばかり前の12月なの」

「そんなムチャクチャな。まあ、反論するだけ無駄でしょうから先に進みますね。で、二人はそれからずっと一緒なんですか?」

「家老のコウゾウ左エ門はお父様の片腕でしょう。実務面はほとんど任せてるみたいだから、なんだかんだでお城に居続けなのよ。小さい子を一人っきりに出来ないし、結局シンジは10歳ぐらいまでお城に居候してたわ。住み込みの使用人の子どもは何人かいたけど、同じ年頃なのはわたしぐらいだったから、一緒に遊ぶことも多かったわね」

「なるほど、その頃から恋心を育んできたわけですね」

ベキッ!

「あいたた、突然殴らないでくださいよ」

「殴られるようなことを言うからよ!シンジとは単なる幼なじみだって、さっき言ったばかりでしょうが」

「(ジト目でにらみつつ)まあ、いいですけどね。たしかにシンジ君の方では、異性としての特別な感情はないみたいだし」

「うっっ・・・なによばかばかしい!もう、やってらんないわ!」

「あーあ、怒って帰っちゃった。そんなわけで(どんなわけだ?)、次回のゲストは冬月シンジの助さんの予定です。では、これにて失礼(おじぎ)」


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