B002SSSUGI.jpg『エスター』(2009) ORPHAN 123分 アメリカ WARNER BROS. PICTURES、DARK CASTLE

監督:ハウメ・コジェ=セラ 製作:ジョエル・シルヴァー、スーザン・ダウニー、ジェニファー・デイヴィソン・キローラン、レオナルド・ディカプリオ 製作総指揮:スティーヴ・リチャーズ、ドン・カーモディ、マイケル・アイルランド 原案:アレックス・メイス 脚本:デヴィッド・レスリー・ジョンソン 撮影:ジェフ・カッター プロダクションデザイン:トム・マイヤー 衣装デザイン:アントワネット・メッサン 編集:ティム・アルヴァーソン 音楽:ジョン・オットマン 
 出演: ヴェラ・ファーミガ、ピーター・サースガード、イザベル・ファーマン、CCH・パウンダー、ジミー・ベネット、アリアーナ・エンジニア、マーゴ・マーティンデイル、カレル・ローデン、ローズマリー・ダンスモア

 めでたく3人目の赤ちゃんを身ごもったケイト・コールマン(ヴェラ・ファーミガ)だったが、運悪く流産という悲劇に見舞われてしまう。それは、アルコール中毒患者だった経験のあるケイトの精神に耐え難い苦痛をもたらし、コールマン家の安定を脅かしかねない事態となる。
 そこで夫婦は養子を迎えることを決意、地元の孤児院を訪れる。するとケイトは、聡明で大人びた一人の少女、エスター(イザベル・ファーマン)に惹きつけられる。彼女を養子として引き取ることにしたケイトだったが、やがてエスターの恐るべき本性に気づいてしまい......

 マコーレー・カルキン君&イライジャ・ウッドの『危険な遊び』などの悪魔の子供系のサスペンス・ホラー映画に思える。それが終盤のどんでん返しでそうでないことが分かるのだが。
 監督は『蝋人形の館』のハウメ・コジェ=セラ。その間に『GOAL2!』を撮っているのがよく分からない人だが、『蝋人形の館』と同じく恐怖を描いてくれている。恐怖という面ではこの作品の方が強いだろう。
 一見、純粋無垢な女の子が実は非情な殺人鬼で、これまでも放火で一家皆殺しにしてきたり、この作品中では彼女の素性に疑問を持った孤児院のシスターをハンマーで殴り殺す。最初は良い子のエスターが本性を現していく過程が怖ろしい。
 自分をいじめた子を滑り台の上から突き落とすぐらいはまだ可愛いのが怖ろしい。
 エスターはケイトの実の子である兄と妹を巻き込んで一家を身動き取れないようにする。
 特に妹マックス(アリアーナ・エンジニア)はエスターにシスター・アビゲイル(CCH・パウンダー)殺しの共犯者の汚名を着せられて、ただでさえ聾唖者で他人とのコミュニケーションが取れないのを利用されてひどい目にあわされる。
 兄のダニエル(ジミー・ベネット)はツリーハウスに火を着けられて出入り口に鍵をかけられ、決死の思いで飛び降りるが病院のICU行きになりそこでエスターに息の根を止められそうになる。
 夫のジョン(ピーター・サースガード)がエスターに誘惑されそうになる時に、どんでん返しのはしっこが見えるがあの時点でオチが分かる人はそうはいないだろう。単に大人びた子供としかとらえられないはずだ。オチが分かってしまえば、ダニエルを脅すのもジョンをたらし込むのも、ましてやマックスを支配下に置いてしまうのも納得出来る。
 大人は殺すが子供は殺さないのがハリウッド映画の限界か。でも、実際に殺されたら後味が悪いったらないからこれでいいのだ。
 伏線の張り方が徹底していて、ケイトのアルコール依存症やジョンの浮気、などなど全て上手く機能している。ケイトのアルコール依存症の過去は流産した子の想い出である白いバラをエスターがケイトに摘んできてカッとなったケイトがエスターの腕を掴むシーンに活かされている。その後、エスターは自ら捕まれた腕を万力で骨折させて、ケイトを追い込むのだ。この万力のシーンは見ていて痛い。
 憎らしいくらいにエスターの頭がよいと思ったシーンは、ツリーハウスの火事で瀕死の重傷を負ったダニエルの口を封じるためにエスターが彼を殺そうとするシーン。ICUでは患者の脈拍が常時、記録されているので、彼女はバレないようにと自分の脈拍をその代わりにする。
 カウンセラーにかかった後に、カウンセラーの前では良い子を演じたストレスからかトイレの中で暴れるシーンは怖かった。狂ったように壁を蹴ってトイレットベーパーもまき散らしながら暴れるのだ。
 ケイトがエスターの出身地ロシアの孤児院に連絡を取ったところ、精神病院に繋がってしまうところがこの映画の肝だ。そこでエスターが首と両腕首のリボンを決して撮らなかった理由が分かる。しかし、こんな孤児を悪人に描く映画を撮って実際に孤児を引き取る人が少なくなったらどうするんだろう。
 エスターの部屋には、彼女の描いた数多くの絵が貼ってある。それが水槽のブルーランプで照らされた時、彼女の歪んだ欲望が浮かび上がる。彼女は自分の欲求を解消するかのように殺人を繰り返してコールマン家にやって来た。怖ろしい。子供は殺さないが大人は殺すので自分の誘惑に乗ってこなかったジョンもナイフで刺し殺す。恥をかかされた女は怖ろしい。
 もしも彼女がコールマン家での活動も成功していたら次の家庭に行ったのだろうか。そしてそこも破綻に追い詰めたのだろうか。

B00008453O.jpg『ロスト・チルドレン』(1995) LA CITE DES ENFANTS PERDUS 113分 フランス

監督:ジャン=ピエール・ジュネ、マルク・キャロ 製作:クローディー・オサール 脚本:ジャン=ピエール・ジュネ、マルク・キャロ、ジル・アドリアン 撮影:ダリウス・コンジ 音楽:アンジェロ・バダラメンティ
出演:ロン・パールマン、ジュディット・ヴィッテ、ドミニク・ピノン、ダニエル・エミルフォルク
声の出演:ジャン=ルイ・トランティニャン

 独特の映像センスで撮られた作品。
 夢を見ることが出来ず子供の夢を盗もうとする男。6人のクローン、小人の女性、一つ目族、子供を使った盗賊の頭のシャム双生児のオバサン、怪力男、そして水槽に入った脳みそ。ジュネの頭の中はどうなっているんだろうと思う怪奇な登場人物が勢揃い。

 冷たい雨が降る暗黒都市。心優しい大道芸人の怪力男ワン(ロン・パールマン)は一つ目教団に弟をさらわれてしまう。孤独な少女ミエット(ジュディット・ヴィッテ)は途方に暮れるワンと出会い、一緒に弟探しをすることになる。しかし、孤児院を経営するシャム双生児は、ワンの怪力に目をつけ金庫泥棒に悪用しようとする。
 一方、海に浮かぶ要塞では、同じ顔をしたクローン人間6人(ドミニク・ピノン)たちがワンの弟の頭脳から夢を取り出そうとしていた。ミエットとワンは機雷に囲まれたクローン要塞へと向かう・・・・・・

 映像に気を使いすぎたのかストーリーが散漫で粗が目立ちほめられたものではないが、それでも最後まで観ることが出来るのは映像の力だろう。アナログさを感じさせる機械式のメカの数々も目を引きつけてくれる。ジュネはきっとレトロなメカが好きなんだろう。蓄音機や手回しオルガンなどが目立つ。監視カメラも電子式ではなく機械式。クネクネと曲がる監視カメラの関節が良い。
 クローン6人の合成も上手くて、合成ではなく本当に6人いるように見える。
 優秀な蚤が出てきて、血を吸うのではなく薬品を相手に注入する。注入された人間は殺人鬼になって手回しオルガンの音に合わせて人を殺す。一つ目教団の一人が蚤に刺されて自分の仲間を殺していくシーンでは、自分の機械式の目のケーブルと首を絞めている男のそれを差し替えて、自分が首を絞めて殺されるのを見せるシーンは怖ろしい。
 機雷の地図を刺青にしている男がいて、それをワンとミエットが探すのだが、その正体には笑ってしまった。カツラを剥がすとなんてギャグでしかない。
 総制作費は14億円というからフランス映画としては巨額な部類に入るだろう。その巨額を使ってこういう映画を撮るのがすごい。SF・ファンタジー調だが娯楽映画とはちょっと思えない。
 ジュディット・ヴィッテの大人びた美少女の魅力がこの作品を支えている。ワンとミエットの関係はちょっと危うく、ロリコンの域に達している。水槽に入った脳みそがワンの弟のことをミエットに「君の弟になるかも知れない」と言っているが、これはワンとミエットが結ばれることを意味しているのだろう。ワンとミエットの関係は『レオン』のレオンとマチルダの関係に近いのかも知れない。こう考えるとどちらもフランス映画か。ミエットがワンの弟を助けるのに力を貸すのはワンを気に入ったからだろう。他の理由は描写されていない。ガラス屋の担ぐガラスを鏡にして二人を写したショットは完璧に近い。
 ロン・パールマンもミエットを守りそして守られるという複雑な役柄をこなしている。力持ちだが、夢泥棒との戦いでそれが活かされることはない。純朴な大道芸人で「俺はヒーターだ」と言ってミエットを軽く抱きしめ暖めるシーンがあるが、ちょっとエロチックだ。
 暗黒都市の描写は『未来世紀ブラジル』や『ブレードランナー』に近い。実際、『未来世紀ブラジル』のテリー・ギリアムが絶賛したそうだ。
 シリアスな中に細かなブラックユーモアとギャグが含まれていて、真剣かつ笑って観ることが出来る。
 ラストは現実世界ではなく夢の中での対決で、子供の夢を盗んだ男の夢の中で成長し中年そして老婆になるミエット、相反して子供に帰る男。精神世界での戦いで勝ったのはミエットだった。

B001UFTOWY.jpg『エグザイル/絆』(2006) EXILED/放・逐 109分 香港 銀河映像(香港)有限公司

監督:ジョニー・トー 製作:ジョニー・トー 製作総指揮:ジョン・チョン 脚本:セット・カムイェン、イップ・ティンシン 撮影:チェン・シウキョン 音楽:ガイ・ゼラファ、デイヴ・クロッツ
出演:アンソニー・ウォン、フランシス・ン、ニック・チョン、ラム・シュー、ロイ・チョン、ジョシー・ホー、リッチー・レン、サイモン・ヤム、ラム・カートン、エレン・チャン、エディー・チョン、ホイ・シウホン、タム・ビンマン

 なんでも脚本なしで撮られたと言うが、さすがにそんなことはないだろう。と思っていたらそれも納得な行き当たりばったりのストーリーだった。
 作風はサム・ペキンパーとセルジオ・レオーネを思わせる。幼なじみだった5人の男が、その内ボスを撃った男ウー(ニック・チョン)の殺害命令を下され4人の男の内、2人が殺す側、2人が守る側に回る。組織に対する義理と幼なじみに対する人情の書きかけわたが見事。
 結局はみんな殺し合って死んでしまう映画なのだが、そのラストに『ワイルドバンチ』を感じさせる。銃撃戦が室内シーンがほとんどなので距離感が分からず、誰が誰を狙っているのかが把握がしづらいという欠点はある。
 ひたすらに格好良く男を描いた映画。そんな中で、退職を数時間後に控えて、事件に関わろうとしないだらしない刑事が良かった。
 男たちのロードムービーっぽいシーンもあって、彼らの友情が確かめられる。
 ウーがリボルバーに弾丸を入れる度に、ブレイズ(アンソニー・ウォン)はオートマチックのマガジンから弾を一発はじき出す。ウーが弾を込め終わった時にはお互いの残段数は同じ6発。そして『レザボア・ドッグス』のラストのような2対1の三角形の構図になる。イカすね。
 男たちを格好良く描くことが重視されていて、シナリオがいい加減なのがいかにも残念だ。ウーの奥さんの行動も謎である。4人がウーを殺したと思って敵討ちをしようとしたのだろうか。敵に殺されたのだとちゃんと説明しておけばいいのに。
 車の押しがけが2回登場したり、コインや空き缶の使い方が上手く、細かな点もちゃんと描けているのだが、全体的には大雑把なイメージがぬぐえない。それでも場面、場面が格好いいのだが。

B002DGTAJ6.jpg『サブウェイ123 激突』(2009) THE TAKING OF PELHAM 123 105分 アメリカ COLUMBIA PICTURES、METRO GOLDEN MAYER

監督:トニー・スコット 製作:トッド・ブラック、トニー・スコット、ジェイソン・ブルメンタル、スティーヴ・ティッシュ 製作総指揮:バリー・ウォルドマン、マイケル・コスティガン、ライアン・カヴァナ 原作:ジョン・ゴーディ 脚本:ブライアン・ヘルゲランド 撮影:トビアス・シュリッスラー プロダクションデザイン:クリス・シーガーズ 衣装デザイン:レネー・アーリック・カルファス 編集:クリス・レベンゾン 音楽:ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ
出演:デンゼル・ワシントン、ジョン・トラヴォルタ、ジョン・タートゥーロ、ルイス・ガスマン、マイケル・リスポリ、ジェームズ・ガンドルフィーニ、ベンガ・アキナベ、ジョン・ベンジャミン・ヒッキー、ヴィクター・ゴイチャイ

 死は神への"謝金"だと繰り返し言うジョン・トラヴォルタが残酷で知的な悪役を楽しそうに演じている。まるでジョン・ウーの『フェイス/オフ』のようだ。ヒゲを生やして額が広く、一見トラヴォルタに見えない。
 主役のデンゼル・ワシントンはずいぶん老けた印象だが、役作りで体重を増やしたらしい。ペラム123に連絡を取ってしまったばかりに、とんでもない状況の巻き込まれる不幸な一日を送る男を演じている。
 トニー・スコットの映像は相変わらずケレン味のあるスタイリッシュでカットがめまぐるしく短く早送りやスローを多用している。このカット割りは好まない人もいるだろうが、オレはいかにもトニー・スコットという感じがして好きである。プロモーションビデオ風に捉える人もいるかも知れないが、まったく違うと個人的には思う。トニー・スコットの映像はあくまでも映画の映像だ。
 唐突にジョン・トラヴォルタが過去の自分が金を持っていた頃の話をし始める意味が分からないが、それが市長がトラヴォルタが元証券マンで、1000万ドルの身代金はメインではなくて、地下鉄ハイジャックにより金の相場が上がることで儲けるのが目的だと気付く伏線になっている。この手の作品だと市長はだいたい頭の固い無能な人間として描かれるが、この作品では最初はとぼけた感じで描いておいて実は頭の切れる人物だ。
 オリジナル版のようにMr.ブルーなどと色の名前で呼んでくれず、トラヴォルタはライダーと名乗るなど、オリジナル版とはかなりストーリーや設定が違っている。もちろんオチも違う。トニー・スコットは犯人側の脇役を描くつもりはほとんど無かったようで、色の名前で呼ぶのをやめてしまったのもそれからだろう。
 その分、乗客側に視点が行っていて、トラヴォルタがノートパソコンをネットに繋ぐためにトンネル内に無線LANを設置したら、恋人とビデオチャットが出来るようになり、その恋人に車内の様子をネットで流してテレビで放送させる青年とか、開いたドアからオシッコをする少年とか、逆に緊張しておしっこができない男とか、元空挺部隊の隊員で他人のために犠牲になる黒人など多彩だ。オリジナル版では子供たちはただうるさいだけだったから、乗客側を描くという面ではリメイク版の方が力を入れている。しかし、パソコンで車内の状況を中継しているのだから、近くまで来ているSWATはその情報を元に突入して失敗するシーンがあるのかと思ったらそれはない。
 話術による駆け引きをデンゼル・ワシントンとジョン・トラヴォルタがひたすら繰り広げる。そして現金運搬をトラヴォルタから命ぜられたワシントンが台車に1000万ドルを乗せて運んでいく。そこからアクションが始まる。
 アクションと言っても大したことはなく、トラヴォルタの仲間2人が警官に乱れ撃ちで射殺されるのと、トラヴォルタがワシントンにあっけなく射殺されること。そして列車の暴走である。"死者のスイッチ"を解除するのにオリジナル版ではかなり大がかりな装置を使っていたが、リメイク版では手の平サイズの万力のような装置。技術の進歩か?
 警察の人質交渉人のジョン・タートゥーロが渋い役でなかなか良かった。最近、コメディ系が多い人だが、シリアスな役も似合うのだ。
 ワシントンもまったくの善人ではなく、日本で車両選びをした時に3万5000ドルのワイロをもらっているという設定。人間くさくていいじゃない。この収賄を白状するシーンでのワシントンの芝居の上手さと説得力には格別の物がある。涙目に聞いてはいけないことを聞いてしまったという後味の悪さを感じさせる。
 訓練されたSWATがズボンの裾から入り込んだ鼠にかじられて誤射してしまうのには笑った。これで運転手役の犯人が死んでしまい、運転手経験のあるワシントンが呼ばれることになるのだが、一歩間違えば人質が何人か殺されていただろうに。
 1000万ドルは白バイで守られたパトカーで運ばれるのだが、それを聞いた市長が「なんでヘリで運ばないんだ?」。パトカーや白バイがあっちこっちで事故るのでカーアクションを入れたかったんだろう。そのくせ、ワシントンを現金運搬に運ぶのにはヘリを使うのだ。
 ラストはワシントンの収賄をなかったことにしてやろうと約束する。ヒーローとして必死に働いたのだからそれぐらいの役得はあってもいい気がするが、観てる側としては素直に納得出来ない。
 オチもヘリに乗る時に妻に頼まれた牛乳を買ってくるように頼まれる。無事に帰って欲しいという願いがこもっているわけだ。牛乳を手に家に帰り、家の前でフッと息を抜くというものでオリジナル版とは比べものにならない。つまらないわけではないが、やはりオリジナル版の衝撃を期待してしまうではないか。
 あと、前作にあった皮肉の効いたユーモア、ペーソスがないのが残念。一貫して真面目一本の映画だ。トラヴォルタの暴走振りが笑えるがこれはユーモアとはまた別の物。オリジナル版のロバート・ショウは物静かな男だったが、トラヴォルタはひたすらしゃべり続けてやかましい。
 犯人グループがいかにしてトンネル内の地下鉄車両から地上へ逃げおおせるのかにはハラハラさせられる。オリジナル版では非常口から逃げ出したが、リメイク版ではもう使われなくなった地下鉄の駅を使って地上に出る。これはリメイク版の方が面白いかな。
 全体的にトニー・スコットにしては粗っぽい作りの印象で、交渉の頭脳戦が上手く表現出来ていなかったのが残念。かといってアクションは中途半端。二大スターがちょっともったいなく感じる作品であった。

B001WBXLT8.jpg『サブウェイ・パニック』(1974) THE TAKING OF PELHAM ONE TWO THREE 100分 アメリカ

監督:ジョセフ・サージェント 製作:ガブリエル・カツカ、エドガー・J・シェリック 原作:ジョン・ゴーディ 脚本:ピーター・ストーン 撮影:オーウェン・ロイズマン、エンリケ・ブラボ 編集:ジェラルド・B・グリーンバーグ 音楽:デヴィッド・シャイア
出演:ウォルター・マッソー、ロバート・ショウ、マーティン・バルサム、ヘクター・エリゾンド、アール・ヒンドマン、ディック・オニール、ジェリー・スティラー、トニー・ロバーツ、リー・ウォレス、ドリス・ロバーツ、ケネス・マクミラン、ジュリアス・ハリス、ジェームズ・ブロデリック、ネイサン・ジョージ、ビアトリス・ウィンデ、ルディ・ボンド、ジェリー・ホランド、バート・ハリス、トム・ペディ

 ニューヨークの地下鉄ペラム123がMr.ブルー(ロバート・ショウ)、Mr.グリーン(マーティン・バルサム)、Mr.グレイ、Mr.ブラウンと名乗る4人の男に乗っ取られた。先頭車両を切り離して18人の乗客を人質に、彼らがニューヨーク市に要求してきたのは身代金100万ドル。
 地下鉄公安局警部補ガーバー(ウォルター・マッソー)が事件の解決に当たるが、敵は切れ者でタイムリミットは1時間。無事に乗客を救助し、犯人たちを逮捕することが出来るのか。
 手に汗握るサスペンスと、ラストの地下鉄暴走のパニック映画。

 犯人たちがそれぞれ色の名前で呼び合うのは、クエンティン・タランティーノがデビュー作『レザボア・ドッグス』で影響を受けている。
 Mr.グレイが短気で何をしでかすか分からない狂気をはらんでいるというのも『レザボア・ドッグス』のMr.ブラウンに引き継がれているかも知れない。映画に緊張感をもたらす要素になっている。
 脚本が秀逸で、地下鉄ハイジャック犯、鉄道公安局、ニューヨーク市警、市長を始めとした行政、人質、地下鉄職員と視点がバラバラなのにそれをシンプルにまとめ上げている。
 Mr.ブルーはアフリカで活躍していた傭兵上がりで、常に冷静沈着で事態を把握して全てをコントロールしようとするし、それに対するガーバーは外見はとぼけた感じだが優れた危機管理能力の持ち主で、Mr.ブルーを相手に一歩も引かず秒単位を争う犯人との交渉役を一手に引き受ける。
 最終的にMr.ブルーはガーバーに追い詰められるのだが、そこまで二人は通信機で話をするだけで顔を合わせていない。「この州にまだ死刑はあるか」、「死刑か、やめにしたよ」、「残念だ」と言って地下鉄を走らせる電極に足をつけて自ら感電死をしてしまう壮絶さ。
 Mr.グリーンは風邪をひいていてしょちゅうくしゃみをしているのだが、それを通信機で聞いたガーバーが「お大事に」と何度か言うのだが、それがラストのオチの伏線になっている。ドアの隙間からぬっと顔を出すウォルター・マッソーの表情は最高で観客を唸らせる。
 邦題では『サブウェイ・パニック』となっているが原題は『THE TAKING OF PELHAM ONE TWO THREE』、『ペラム123の乗っ取り』といったところか。だからパニック映画的側面は少ない。犯人たちが全員列車から降りてしまって、列車に細工をして暴走させるところぐらいか。それよりも片方は地下鉄の管制室、片方は線路の途中で止められた地下鉄の中でお互いの詳しい状況が分からないガーバーとMr.ブルーとの駆け引きにこの作品の魅力はある。犯人が与えた猶予時間はたったの1時間。この短いタイムリミットが全員を焦らせサスペンスを盛り上げる。それでいながらユーモアやジョークも忘れない。
 ニューヨーク市が全面的にこの作品に協力したらしい。地下鉄線路内での撮影や、地上の道路をパトカーがひた走るシーンもだからこそ出来たに違いない。地下鉄の司令センターも実物でロケしたらしい。
 身代金を払うかどうかで揉めている市の上層部の話し合いは妙にユーモラス。そもそも市長が風邪か何かの病気で寝込んでいるというのが面白い。
 オープニング近くで、ガーバーが東京の地下鉄の重役を案内するシーンがあって、言葉が通じないのかてんでリズムを狂わされてしまうのだが、実はその日本人はみんな英語が達者で笑ってしまった。この時のウォルター・マッソーの表情がいい。日本人はやはりカメラでパチパチ写真を撮りまくるんだね。
 無駄な描写が無く、100万ドルを奪った後、地下鉄路線内という密室からいかにして逃げるのだろうかといった緊張の糸が高いテンションを保った傑作である。スター俳優ではなくウォルター・マッソー、ロバート・ショウ、マーティン・バルサムといった味のある俳優で作られたのも成功の要因だろう。
 オープニングから観客を引きずり込み劇中の緊迫感を高めるデヴィッド・シャイアの音楽も良いし、オーウェン・ロイズマンも完璧に近い出来である。

B002DEM9CI.jpg『96時間』(2008) TAKEN 93分 フランス 20th CENTURY FOX、EURO CORP

監督:ピエール・モレル 製作:リュック・ベッソン 製作総指揮:ディディエ・オアロ 脚本:リュック・ベッソン、ロバート・マーク・ケイメン 撮影:ミシェル・アブラモヴィッチ プロダクションデザイン:ユーグ・ティサンディエ 衣装デザイン:オリヴィエ・ベリオ 編集:フレデリック・トラヴァル 音楽:ナサニエル・メカリー
出演:リーアム・ニーソン、マギー・グレイス、リーランド・オーサー、ジョン・グライス、デヴィッド・ウォーショフスキー、ケイティ・キャシディ、ホリー・ヴァランス、ファムケ・ヤンセン、ザンダー・バークレイ、オリヴィエ・ラブルダン、ジェラール・ワトキンス、ニコラス・ジロー、カミーユ・ジャピ、ゴラン・コスティッチ

 アメリカ政府の秘密工作員として家庭を顧みずに幾多のミッションをこなしてきたブライアン・ミルズ(リーアム・ニーソン)。現在は一線を退き、ボディガードのバイトなどで小銭を稼ぎながらカリフォルニアで孤独な日々を過ごしていた。
 そんなある日、別れた妻レノーア(ファムケ・ヤンセン)と一緒に彼女の再婚相手である資産家のもとで暮らすひとり娘キム(マギー・グレイス)の17歳の誕生パーティーが開かれ、ブライアンもお祝いに訪れる。やがて、親友アマンダと海外旅行へ行きたいというキムに押し切られ、不安ながらもパリ行きを承諾するブライアン。
 しかし、現地のキムから電話が掛かってきた時、不安が現実のものとなる。彼女たちの滞在するアパルトマンに突然謎の一味が乱入し、アマンダが拉致されたのだ。さらには、その一部始終を伝えていたキムも一味に連れ去られてしまう事態に。
 ブライアンはかつての自分を甦らせ、キムの奪還と犯人への復讐を決意。事件発生から96時間を過ぎると被害者の救出が不可能という事例データを念頭に単身パリへ飛び、長年培ったスキルを活用しながら捜索を開始する。そして、キムたちをさらったアルバニア系の人身売買組織の中枢へ怒濤のごとく踏み込んでいく。

 全米で大ヒットした作品。日本ではそれほどでもなかったが。
 娘から電話がかかってきて、アパルトマンに男たちが侵入してきた。友人が連れ去られようとしているとの連絡を受けた時に、冷静に「ベッドの下に隠れろ。お前も捕まる。その時にそいつらの人相、格好を出来るだけ詳しく教えてくれ」と指示するブライアンはその瞬間にプロに切り替わっている。元エージェントならではの納得出来る対応だ。
 そして自らもパリに飛んで、娘が残したわずかな情報から犯人の正体を割り出す。アルバニア系犯罪組織による人身売買だと推測したブライアンは躊躇せずに敵陣に乗り込む。そして冷静な分析力と非情なまでの戦いで娘に一歩一歩近づいていく。個人的な怒りで行動するブライアンは変に正義漢ぶったキャラクターより好感を持てる。
 内容はリック・ベッソンらしくストレートで分かりやすい。どんでん返しも複雑な人間関係もない。お父さんが命がけで娘を助けるだけの映画。無駄道に逸れることはなく一直線にラストまで駆け抜ける。ほとんど暴走である。ストーリーで魅せる映画ではなくアクションで魅せる映画だ。親バカで優しくて心配性なお父さんが娘を誘拐されてからの非情な元諜報部員への変貌ぶりが見所である。とにかく悪い奴らには容赦しない暴れっぷりが痛快である。
 ユーロ圏内では年間10万人以上が人身売買のために誘拐されているとか。麻薬漬けにされて闇へと消えていく女性たち。裏の世界を知り尽くしているブライアンにしてみれば、可愛い娘がそんな危険なところに遊びに行くといった時、危険を感じたのだろう。スティーヴン・セガールの映画でも同じような内容の作品があったな。『ICHIGEKI 一撃』がそうか。ちょっとブライアンとキャラ被ってる。
 銃撃戦の他に肉体による格闘戦が主に使われる。空手などの打撃系ではなくてスティーヴン・セガールのような関節を決める合気道系だ。リーアム・ニーソンに格闘技の経験はないだろうから、映像的にごまかしのきく関節技系にしたというのもあるだろうが、リアルでいい。相手の手首や首をグキグキ折りまくる。
 銃撃戦もリアルで大体の見当を決めて撃ちまくる方式だ。クライマックスの銃撃戦は燃える。
 娘の携帯で「幸運を祈る」と言った男を見つけ出した時に「俺を忘れたか?2日前、電話で話した。お前を見つけた」というシーンのイカすこと。
 娘が心配でしょうがないブライアンは拷問だって躊躇せずにやる。散々拷問した末に殺す。お父さんは怒ってますよこれは。娘のためなら何だってやるのが父親か。
 今は内勤になってしまったフランス諜報部のジャン=クロード(オリヴィエ・ラブルダン)という旧友がいるが、ジャン=クロードは娘の救出に協力せず、ブライアンをアメリカに強制送還しようとする。そのジャン=クロードの家に乗り込んでいって、その奥さんを致命傷にならないように拳銃で腕を撃ってジャン=クロードに協力させるよう脅かすシーンには驚いた。容赦はしないといっていたけど、本当に容赦なし。
 展開は本当にスピーディーでここはワンテンポ置くよなというところにそれがない。ブライアンは走り、戦い、猪突猛進に移動し続ける。立ち止まって考えずに動きながら考える。常に先を読み、相手の上を行く。さすが元凄腕諜報部員。
 ラスボスがキムに刃物を突きつけて、「交渉を・・・・・・」と言ってきたところを有無を言わさずバーンと撃ち殺してしまうシーンはかなり格好良かった。しかし、トータルで何人殺しているのかね。よく無事にアメリカに返してもらえた。人身売買をやっている人間など最低の人間だから罪に問われなかったって事かね。そこら辺で、ジャン=クロードが上手く立ち回ってくれたのかも知れない。
 キムの友達がどうやら死んでいたらしいのは後味が悪い。彼女も助けてあげる脚本にできなかったのだろうか。彼女の両親も心配していただろうに。
 銃撃戦あり、肉弾戦あり、カー・アクションあり、スタントありとリック・ベッソンらしい脚本。ブライアンの無茶さは一見の価値あり。リーアム・ニーソンというアクション物には向かないと思われるシリアスな役者を主役に据えたのも物語にリアリティを与える面で成功である。
 邦題の『96時間』は原題の『TAKEN(連れ去られた)』とはまったく関係ない。96時間以内に救出しなければならないというタイムリミットはあまりこの映画には登場しないのでご注意を。
 ツッコミどころは多い映画だが面白い。ラストにはちょっとしたオチがあって結構笑える。
 監督は『アルティメット』のピエール・モレル。監督よりは撮影監督で活躍している人である。
 リーアム・ニーソンは2009年にスキー中の事故で妻のナターシャ・リチャードソンを亡くしているが、気を落とさずにと言っても無理だろうが頑張って欲しいものである。

B0030680TY.jpg『サマーウォーズ』(2009) 114分 日本 WARNER BROS. PICTURES

監督:細田守 アニメーション制作:マッドハウス 脚本:奥寺佐渡子 キャラクターデザイン:貞本義行 OZキャラクターデザイン:岡崎能士、岡崎みな、浜田勝 アクション作画監督:西田達三 作画監督:青山浩行、藤田しげる、濱田邦彦、尾崎和孝 CGディレクター:堀部亮 撮影:増元由紀大 美術監督:武重洋二 OZ美術デザイン:上條安里 色彩設計:鎌田千賀子 編集:西山茂 音楽:松本晃彦 音響効果:今野康之 録音:小原吉男
声の出演:神木隆之介、桜庭ななみ、谷村美月、斎藤歩、横川貴大、信澤三恵子、谷川清美、桐本琢也、佐々木睦、玉川紗己子、永井一郎、山像かおり、小林隆、田村たがめ、清水優、中村正、田中要次、金沢映子、中村橋弥、高久ちぐさ、板倉光隆、仲里依紗、安達直人、諸星すみれ、今井悠貴、太田力斗、皆川陽菜乃、富司純子

 仮想都市OZ(オズ)が人々の日常生活に深く浸透している近未来。
 小磯健二は天才的な数学の能力を持ちながらも内気で人付き合いが苦手な高校2年生。彼は憧れの先輩、夏希から夏休みのアルバイトを頼まれ、彼女の田舎、長野県の上田市を訪れる。そこに待っていたのは、夏希の親戚家族"陣内(じんのうち)家"の個性溢れる面々。
 この日は、夏希の曾祖母で一族を束ねる肝っ玉おばあちゃん、栄の90歳の誕生日を祝う集会が盛大に行われていた。その席で健二は夏希のフィアンセのフリをする、というバイトの中身を知ることに。
 そんな大役に困惑し振り回される傍ら、その夜健二は謎の数字が書かれたケータイ・メールを受信する。理系魂を刺激され、その解読に夢中になる健二だったが、それはOZのシステムを管理している暗号だった。そしてOZの暴走が始まり、それは現実世界に影響を与え始めた。電子機器関連が暴走して多くの行政機関・交通機関が狂い社会は混乱したのだ。

 世界的な事件を片田舎の大家族が解決するというストーリーが素晴らしい。
 家族の大切さ、絆を思い知らせてくれる作品だ。中には自分勝手な人間や馬鹿もいるが、最後には一致団結して危機を乗り越える。
 ハッカーツール"ラブ・マシーン"に乗っ取られてしまった数億のアバターを取り戻す手段が、ラブ・マシーンと夏希との花札対決というのも面白い。家族全員が自分のアバターを掛け金にし、携帯やゲーム機などのOZ端末を持って夏希の後ろに群がる構図がいい。賭けるアバターの数が足りなくなってしまってこのままでは負けという時に、世界中の人々が自分のアバターを提供してくれるシーンは感動的だ。ここでは家族だけではなく世界中の人々との繋がりが描かれる。
 大学納入用のスーパーコンピュータを持ち込む電器屋のオヤジ、電源と冷却用の氷のために漁船を旧家の池に持ち込むオヤジ、自衛隊から通信機器を持ってくるオヤジ。オヤジ大活躍である。
 序盤は旧家での青春物かと思ったら中盤からサイバーテロ映画へと様変わりする。そのタイミングが絶妙であるし、歴史ある旧家との対比が面白い。
 栄ばあさんが味のあるキャラで、緊急時に各界の有力者に連絡を取って叱咤激励したり、なぎなたを振り回したりの大活躍。途中で死んでしまうのが残念だが、残した遺書がまた泣けてくる。その遺言に従ってみんなでおにぎりなどをぱくつくところがいい。
 ラスト、陣内家に落下してくる人工衛星の軌道を変えるため、必死になってOZの暗号を解く健二。『マーキュリー・ライジング』でもあるまいし数千桁の暗号を筆算やましてや暗算で解けるものかと思うが、これはご都合主義で良いだろう。この活躍で健二の想いが夏希に伝わり、二人は両思いに。それを無責任にはやし立てる家族の連中というのが面白く魅力的である。
 夏希がヒロインという立場なのに花札のシーン以外ではあまり活躍しなかったのが残念である。オヤジたちに負けてるんだもの。
 数学を解くことでヒーローになる少年という設定も珍しい。健二は肉体は貧弱な坊やだが、数学オリンピックの日本代表になり損ねたぐらい数学は得意なのだ。
 サマーウォーズというからには夏の話である。栄ばあちゃんの誕生日が8月1日だから7月末の出来事ということになる。『時をかける少女』と同じく美術が良く出来ていて、旧家の作りや真夏の光景が上手く表現されている。
 サイバーテロ映画、しかも明確な悪人がいなくて勝手に暴れ回るハッキングツールが悪役だし、アバターの概念など分かりにくく感じる人もいるだろう。ネットコミュニティ慣れ、SF慣れしていないとちょっとつらいかもしれない。
 世界中で起きている混乱をあまり大きく捉えず問題解決に奔走する各機関の描写はせずに、あくまでも田舎の大家族の物語にしてしまったところが成功の秘訣だろう。
 声に関しては『時をかける少女』よりもだいぶと改善され、自然に聞くことが出来た。中でも栄ばあちゃん役の富司純子の存在感は大きかった。
 舞台となっている長野県上田市の人にはより面白いんだろうな。緑の大地に青い空、白い入道雲。夜明けに夕焼け、そして朝顔。
 大家族がおばあちゃん90歳の誕生日で集まってきてにぎやかに騒ぐという日常の中のハレの日を描く前半部分のボリュームがもうちょっと欲しかった。

B000MEXAOM.jpg『時をかける少女』(2006) 100分 日本 角川ヘラルド映画

監督:細田守 アニメーション制作:マッドハウス プロデューサー:渡邊隆史、齋藤優一郎 原作:筒井康隆 脚本:奥寺佐渡子 キャラクターデザイン:貞本義行 作画監督:青山浩行、久保田誓、石浜真史 美術監督:山本二三 音楽:吉田潔
声の出演:仲里依紗、石田卓也、板倉光隆、原沙知絵、谷村美月、垣内彩未、関戸優希

 原作を大幅にアレンジしたアニメ映画。大林版の主人公・芳山和子が主人公・真琴の叔母の修復士として出演しており、非常に謎を秘めた女性として現れ、タイムリープにも詳しく真琴にそれとなくアドバイスをしてくれる。大林版を観た観客には嬉しいサービスだ。
 妹に食べられてしまったプリンを取り返したり、カラオケの時間延長、男友達からの告白を無かった事にしようとしたりなどにタイムリープ能力を使う真琴はいかにもいまどきの現代の高校生だ。他の登場人物も今風に描かれており、そこでも原作は大きくアレンジされている。
 前半の自分の欲望のために気楽にタイムリープ能力を使いまくる真琴には少し抵抗を感じるが、後半になって人のために使うようになると印象が変わってくる。功介に告白しようとしている後輩を助けるためにちょっかいを出しては何度もタイムリープを繰り返すシーンは笑ってしまった。タイムリープをする際に大きく跳んで地面を転がるのが躍動感がある。
 突然未来人が現れるのとその正体には安易さにちょっと驚いてしまうが、そこで深さを求める脚本ではないからそれでもいいのだろう。だが、過去の人間にタイムリープの事を知られてしまうのはルール違反といいながらも、真琴のタイムリープに関する記憶がそのままなのはどういう訳だろうか。消していかないと意味がないだろうに。
 しかし、消してしまうとラストの別れのシーンが成立しなくなってしまうので仕方ないのだろうか。唐突に恋愛に目覚めてしまう真琴には違和感を感じたがそんなものかも知れない。「未来で待っている」「すぐ行く。走って行く」はいいセリフであった。未来人が過去に留まり続ける事は許されないだろうし、それでもそこで出会って好きになってしまった少女と一緒に居たくて「付き合わないか」告白してしまう未来人の気持ちも分かる。探し求めていた幻の絵画と同じ位大切にしたいものを彼は現在で見つけてしまったのだから。
 脚本を書いた奥寺佐渡子は『学校の怪談』シリーズの3作目意外の脚本を書いた人。『学校の怪談』の1作目のオープニングで登場人物の性格や設定などをそれとなく説明してしまった上手い人だ。この作品でも上手く省略するところは省略して丁寧な描写を必要とするところは丁寧に描いている。
 高校生たちの青春を楽しげに描いている。野球、テスト、恋愛、進路調査。いろいろな要素が高校生たちの青春を彩っている。この年になるとさすがに甘酸っぱすぎてこそばゆくなるが、なかでもこの作品では3人でやっている野球がよく活かされている。実際問題としては、女1人、男2人の友情が成り立つのかは少々疑問だ。もう少し人数が多ければ成り立つと思うのだが、それでは脚本として設定がまずくなってしまう。それに3人という数は最小限で不安定でいながら安定している構図である。
 作画は安定しており、特に背景が上手い。日本家屋風の真琴の家や、夏の風景を捉えた美術も考え抜かれている。青い空の入道雲は白く匂ってきそうなほどの夏の情景を表している。音楽もいい。主題歌は作品によく合っていた。
 主人公たちがプロの声優ではないので耳障りが悪いところがあるが、生の高校生の声といえなくもない。
 それにしても家庭科の時間にタイムリープで真琴の身代わりにされてしまった男子は気の毒なことである。このせいでイジメにあって追い込まれてしまい悪役のような扱いを受けてしまうのだから。やはり真琴は自分勝手である。
 登場人物の心理描写が若干浅い点があるのが気になった。ラストでいきなりセリフで説明するのはどんなものだろうか。言ってみれば芝居が不完全にしか出来ていないのである。
 タイムトラベル物ではあるが、タイムリープで散々時間を飛び回ってもタイムパラドックスなどはまったく登場しない、せいぜい跳べる回数に制限があるだけでSFは味付け程度の作品。

B001OF640K.jpg『僕らのミライへ逆回転』(2008) BE KIND REWIND 101分 アメリカ FOCUS FEATURES INTERNATIONAL

監督:ミシェル・ゴンドリー 製作:ジョルジュ・ベルマン 製作総指揮:トビー・エメリッヒ、ガイ・ストーデル 脚本:ミシェル・ゴンドリー 撮影:エレン・クラス プロダクションデザイン:ダン・リー 衣装デザイン:ラエル・エイフィリー、キシュー・チャンド 編集:ジェフ・ブキャナン 音楽:ジャン=ミシェル・ベルナール 音楽監修:リンダ・コーエン
出演:ジャック・ブラック、モス・デフ、ダニー・グローヴァー、ミア・ファロー、メロニー・ディアス、シガーニー・ウィーヴァー、アージェイ・スミス、マーカス・カール・フランクリン、キシュー・チャンド、P・J・バーン、チャンドラー・パーカー、クィントン・アーロン

 まじめな青年マイク(モス・デフ)が働くニュージャージー州のパセーイクという小さな町のおんぼろレンタルビデオ店"ビー・カインド・リワインド"。時代に取り残された同店にも再開発の波が押し寄せ、いよいよ取り壊しの危機に。
 そんなある日、店を空けるフレッチャー店長(ダニー・グローヴァー)に留守を任されたマイクだったが、友人のトラブルメイカー、ジェリー(ジャック・ブラック)が発電所破壊テロをやろうとして感電しどういう理屈か身体に磁力を浴びてしまう。その手で店内のビデオテープをベタベタと触りまくったせいで、商品のVHSビデオが全てダメになってしまう。
 あわてた2人は、ビデオカメラ片手にダンボールや廃材を使って客が借りたがっている『ゴーストバスターズ』や『ラッシュアワー2』をリメイクし急場をしのぐ。オリジナルとは似ても似つかないチープな手作りビデオだったが、いつしかそれが評判を呼び、2人は『ロボコップ』や『2001年宇宙の旅』、『ドライビング Miss デイジー』、『キャリー』、『キング・コング』といったハリウッドの名作、ヒット作を次々と勝手にリメイクし始めた。ちなみに『キャリー』でぶっかけられるのはブタの血ではなくてトマトケチャップ。女優が「トマトジュースだって言ったじゃないの」と怒っている。
 売り上げは伸び、建物を改築する費用も稼ぎ出すことが夢ではなくなってきた。これでもう立ち退かなくて良いのだ。
 しかしそんな虫の良い商売を見逃すハリウッドではなかった。海賊版取締官(シガーニー・ウィーヴァー)がやってきて1作品辺り25万ドルの損害賠償計31億5000万ドルと懲役6万3000年を要求され、ビデオは全てローラー車で粉砕されてしまった。
 一度は全てを諦めてしまった彼らだが、店のある建物で生まれたとされる伝説のジャズ・エンタテイナーのファッツ・ウォーラーの伝記映画を作り、そこで寄付を集めようと考える。彼らは町の住人を巻き込んで伝記映画を撮り始める。

 人気作、名作を勝手にリメイクしてしまう様子が面白い。これが本当にチープで予算数千円、制作期間数時間で、ほとんど廃物利用の小道具・大道具を使って裏の空き地などで撮影している。オレも学生時代にシネマ研究会で自主映画作りをしたものだが、あの時の楽しさを思い出してしまった。
 ただその程度の手作りの駄作でしかも20分ほどの作品を(あの作品内容で120分あったら逆に困ると思うが)客が面白がって人気になり店の前に行列が出来るまでになるというのがちょっと理解出来なかった。
 手作りの作品でも本当に出来が良いか、あるいは本当にバカバカしいかのどちらかでないとこの展開は無理だと思うのだが、2人の作った作品はバカバカしいが人気を呼ぶほどでもないと思うのだが。でもそれを気にしなければお客が2人のリメイク作品を求めてどしどし来店してくるというのは面白かった。
 だが手作りリメイクといっても要は海賊版。これで商売しちゃハリウッドが黙っていないのは当然だろう。だというのにシガーニー・ウィーヴァーがちょっと申し訳なさそうにしているのが気になった。もっと堂々と強制執行すればいいのに。31億5000万ドルや懲役6万3000年はどうなったんだろう。ビデオの廃棄処分でおとがめなしになったのかな。
 伝記映画を製作するのに町の人間が大勢関わってきて協力してくれるというのも嬉しい展開だった。手作り映画をみんなの手で作るという観客であり作り手でもある存在に彼らはなったのだ。
 伝記映画を上映するのに、ライバル大型レンタルDVD店の主人がプロジェクターを持ってきてくれたところはちょっと感動したし、映画の終わりに外に出てみると、窓に白い布をスクリーンとして張ったので映画が外から丸見えで警官や町の人たちが大勢集まってその映画を観ていたところにはさらに感動してしまった。
 でも建物の改築に必要な金額の6万ドルにはとうてい寄付金は届かないし、店長も店を取り壊して公営住宅に移り住むことを決めている。建物が取り壊されることはまず間違いない。それでも、その映画を観た人の心にはその建物の記憶が残る。余韻のある終わり方である。
 ジャック・ブラックが磁石人間になるというのでバカ映画かと思ったら単にそれだけではない。映画への愛がたっぷりつまった良作である。
 ミア・ファローやシガーニー・ウィーヴァーが出ているのには驚いてしまった。シガーニー・ウィーヴァーの出番は短いが。
 原題でもあり店の店名でもある『BE KIND REWIND』は「返却時には巻き戻して下さい」といった意味。店内に注意書きで書かれている分にはかまわないが、それを店名にしてしまうというのはどうだろうか。たしかにレンタルビデオ屋にとっては重要なことであるのだが。DVDの時代になって観終わってからの巻き戻しがなくなって久しいが、学生時代にレンタルビデオ屋でバイトをしていた時は、絶対に巻き戻しをしない客がいて往生したものだ。
 それに対して『僕らのミライへ逆回転』という邦題はどうだろうか。タイムトラベル物のようで作品の内容に合っていないと思うのだが。それにどちらかというと伝記映画の製作で過去に逆回転するし。

B001CT6MFA.jpg『潮風のいたずら』(1987) OVERBOARD 114分 アメリカ METRO GOLDEN MAYER

監督:ゲイリー・マーシャル 製作:アレクサンドラ・ローズ、アンシア・シルバート 製作総指揮:ロディ・マクドウォール 脚本:レスリー・ディクソン 撮影:ジョン・A・アロンゾ 音楽:アラン・シルヴェストリ
出演:ゴールディ・ホーン、カート・ラッセル、エドワード・ハーマン、キャサリン・ヘルモンド、マイケル・ハガティ、ロディ・マクドウォール、ヘクター・エリゾンド、ビング・ラッセル

 ゴールディ・ホーンは大金持ちで高飛車で高慢ちきな嫌な女。夫と一緒に大型クルーザーで船旅をしている。クルーザーがエンジントラブルを起こしてしまい、とある田舎町のドッグで修理をすることになる。
 その間に、ゴールディ・ホーンはカート・ラッセル演じる大工にクローゼットの改装をさせるのだが、彼がスギではなくオーク材を使ったため気に入らず、彼を大工道具ごと海に落としてしまう。
 その晩のこと、デッキに結婚指輪を忘れた事に気付いた彼女は指輪を取りに行くが、誤って海に落ちてしまう。船の中の人間はエンジン音やヘッドホンで音楽を聴いていたり、大音量でテレビを観ていたりで気づかない。
 運良くゴミ運搬船に拾われるが、その時には記憶喪失になっていた。ニュースで彼女のことを知った夫は、病院の精神科まで尋ねてきて彼女を確認したものの、これでわがままな彼女がやっかい払い出来たと人違いだったと言って帰ってしまう。
 同じくテレビのニュースで彼女のことを知ったカート・ラッセルは、彼女を自分の妻だと言って4人の男の子の待つ自宅へと連れて帰る。工事の手間賃600ドルをもらっていないことから、1日25ドルの計算で1ヶ月ほど彼女を主婦としてこき使おうというのだ。
 お嬢さん育ちの彼女は最初はまったく家事が出来ず、子供たちにも手を焼いていたが、次第に手慣れてくる。カート・ラッセルの飾らない人間性やわんぱくな子供たちにも愛情を感じるようになり、カート・ラッセルが企画しているパターゴルフ場にも積極的にアイディアを出しついに実現にこぎ着ける。
 その頃になると逆に罪悪感を感じて、彼女に真実を打ち明けるカート・ラッセルだが、彼女はそれを信じようとはしない。彼女を気に入った子供たちも本当のママだと援護する。
 と、そこへ本当の夫がリムジンで乗り付けてくる。夫を見た瞬間に唐突に記憶を取り戻した彼女はクルーザーに戻ることになるのだが・・・・・・

 オレがこの手のロマンティック・コメディを取り上げるのはまれなことだが、こいつは本当に面白い。
 カート・ラッセルの行為はさすがにやりすぎではないかと思うのだが、ゴールディ・ホーンが最初の高慢ちきで嫌な女から徐々に純粋で素朴かつ綺麗な心を持つようになり、いたずらばかり仕掛けてきた子供にも愛されるようになり、家事も上達して豚小屋の様だった家が次第に綺麗になっていくという過程をコミカルかつ丁寧に描写している。
 細かな矛盾はいくつもあるがそれを忘れさせてくれる演出だ。
 カート・ラッセルも最初は仕返しで始めたことだったのに、次第に彼女の魅力にとりつかれていく様子が丁寧に描かれている。
 その間にいくつものギャグが挟まれ、自分の写真が一枚もないのに気付いたゴールディ・ホーンのためにカート・ラッセルが友人に頼んで結婚式などの合成写真を作らせたり、子供たちに取り急ぎ用意させた服が13サイズも大きかったのを「君はダイエットに成功したんだよ。前はデブだったんだよ」、食事が終わったら食器をテーブルクロスで包んでそのまま洗剤をかけて洗う、ボロなものだから振動して動いて襲って来る洗濯機に斧で立ち向かうなどと笑わせてくれる。
 カート・ラッセル一家は引っ越してきたばかりで、近所に親しい知り合いがいないという設定も上手く活かされている。しかも林の中の一軒家。突然、奥さんが現れても怪しむ人はいない。
 高級ドレスに身を包み美食を楽しみながらも欲求不満を抱えた高慢ちきな自分と、貧乏だが素朴で愛情に満ちた暮らしをしている自分。家事や夫、子供たちに振り回されながらも充実感を感じている自分のどっちが本当の自分なのかに気付いて、本当の1つの家族になる。記憶を取り戻した彼女がリムジンで去っていく時に車にすがりつくように窓を叩きのぞき込む子供たちは感動的だ。
 実生活でも最愛のパートナーであるゴールディ・ホーンとカート・ラッセルだからこそ出せた味というのもある。
 クルーザーに戻ってから、ゴールディ・ホーンはこれまでのひどい仕打ちを使用人たちに詫びたのであろう、今ではすっかり親しくなって一緒にテキーラを飲む仲になっている。
 その使用人の一人ロディ・マクドウォール演じる執事がまた良い味を出していて、クルーザーに帰ってきたゴールディ・ホーンに「イヤリングを落としたわ、探して頂戴。多分、64丁目と68丁目の間ね」といった具合だったと過去の彼女と魅力的になった今の彼女について話したり、沿岸警備隊の船で追いかけてきたカート・ラッセルが密漁船が出たからと船が進路を変えてしまい思わず船から飛び降りた時に、つられて飛び込もうとする彼女に救命胴衣を着せたりする。そして夫が水面の二人を矢で撃とうとしたら後ろから河に蹴落として、「やめさせてもらいます」。またロディ・マクドウォールはこの作品の製作総指揮を兼ねている。
 沿岸警備隊の隊員たちが「規則違反に"愛の告白"というのはありません」と言って友情からカート・ラッセルのために船を出してくれるのも良い。ただ、引っ越してきたばかりのカート・ラッセルが湾岸警備隊の隊員たちとそれほどの友情を築いていたというのはちょっと疑問。
 ラストにカート・ラッセルが、「俺が君にあげられるものはあるかな」と聞いた時に、4人の男の子を見つめた後にゴールディ・ホーンが「女の子」と答えて映画は終わる。
 観終わった後、非常に幸せになれる映画である。
 肉体労働者役のカート・ラッセルはとても似合っているし、相反する二つの人格を見事に演じわけたゴールディ・ホーンの演技力には恐れ入る。この人はただのコメディエンヌじゃない。それにしてもいくつになっても可愛らしい人だ。カート・ラッセルがゴールディ・ホーンに自分自身の年を聞かれて「29歳だ」というのはさすがに無理があるが。
 夫を捨ててカート・ラッセルの元に走ったゴールディ・ホーンは贅沢な暮らしも財産も全て失ったように見えたが・・・・・・というオチも良い。
 監督はこの数年後に『プリティ・ウーマン』(1990)を撮ることになるゲイリー・マーシャル。最近は『バレンタインデー』(2010)なんかを撮っている。オレはこの人は好きじゃないんだが、この作品だけは別格だ。良く出来たロマンチック・コメディーである。

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