『われに撃つ用意あり READY TO SHOOT』(1990) 106分 日本 松竹
監督:若松孝二 製作:若松孝二 プロデューサー:清水一夫 企画:若松孝二 原作:佐々木譲 脚本:丸内敏治 撮影:伊東英男、田中一成 美術:増本知尋 編集:鈴木歓 音楽:梅津和時 助監督:田代廣孝 主題歌:原田芳雄
出演:原田芳雄、桃井かおり、ルー・シュウリン、山口美也子、小倉一郎、西岡徳馬、石橋蓮司、蟹江敬三、室田日出男、佐野史郎、麿赤児、又野誠治
『われに撃つ用意あり』というタイトルがまず格好いい。ただ、『READY TO SHOOT』と英語が続くセンスに時代を感じてしまう。これはない方が圧倒的に良いと思う。
舞台は新宿。オレは東京に二年住んでいたが、最初の一年は小田急線沿いに住んでいた関係から休みの日には列車一本で出られる新宿で主に映画を見ていた。後の一年は大崎に住んでいたので銀座か渋谷に出た方が早いのだが、慣れ親しんでいたせいもあってやはり新宿に通っていた。渋谷で仕事をするようになったのに新宿まで出ていたのは渋谷という土地柄がどうしても性に合わなかったからだ。新宿は歌舞伎町、コマ劇場の近くの映画館がテリトリーだった。
この映画が製作された1990年はオレが上京するより数年前だが、風景はそれほど変わっていなかった。背景に『グローリー』(1989)や『ワーロック』(1989)の看板がある辺り時代を感じさせる。そんな新宿で小さなジャズバーをやっているのが主人公の原田芳雄。20年続けてきたその店も客が少ないのか翌日で閉店することになっている。原田芳雄は元全共闘の闘士でデモ活動などで機動隊とも戦ってきたという過去がある。その晩、新宿はある外国人女性を追いかけるヤクザが走り回っていた。ある組のヤクザの組長が銃で撃ち殺されたというのだ。その女性が犯人なのだろうか。
翌日、閉店パーティーの準備をする原田芳雄の店にその女性が逃げ込んでくる。詳しい事情は分からないが、自分も全共闘時代にバーに逃げ込んでそこの店主に助けられたことがある原田芳雄は女性を助けることにする。そして昔なじみの仲間たちが店に集まってくる。だが原田芳雄は女性が追われているのは組長殺し以上の理由であることを知らなかった。
若松孝二らしく学生運動をテーマにした作品である。厳密には過去に学生運動を行っていた者たちが主人公の作品である。それぞれ堅気の仕事に就いているようで、予備校の講師や地上げとか言っていたから不動産屋とか雑誌のライターなどである。その中でバーをやっている原田芳雄と、ジャイアンツのユニフォームを着て新聞配達をしている石橋蓮司は異端児と言ってもいい。石橋蓮司のモデルは当時新宿にいた新聞配達のタイガーマスクおじさんであろう。タイガーマスクのお面をかぶったそのおじさんは何度も路上で遭遇しているし、一度は映画館で見かけたこともある。映画は『ペット・セメタリー2』だった気がする。この石橋蓮司が昔に機動隊員に前歯を折られた男に対して「お前はその折れた歯が勲章だって言ってたじゃないか。なに白い歯を入れてるんだよ」とくだを巻くシーンが良い。ほとんど酔っ払って寝ているだけなのだが、存在感が大きい。
原田芳雄の格好はオーバーオールだ。お前は『Dr.スランプ アラレちゃん』あるいはアメリカの田舎者かと思ってしまうが、原田芳雄が着ていると独特のトホホ感があって妙に似合っている。それ以上に似合っているのが終盤で連れ去られた女性を取り返しに行く時の軍用ジャケットだ。ジャケットの裏には防弾チョッキ代わりに雑誌をガムテープで貼り付けており、ラストへの伏線(というほどでもないか)となっている。
原田芳雄の一番の理解者は桃井かおりである。他の仲間がトラブルになったと知ると「明日、子供たちをディズニーランドに連れていかなけりゃならないから」などと逃げ出していくのに、桃井かおりだけは最後までついてくる。原田芳雄とは昔肉体関係もあったようで、結婚しているのにそれを隠そうともしない。香港マフィアのアジトへも乗り込んでいく。実にいい女だ。ちなみに香港マフィアのボスは室田日出男。実に胡散臭い。
この事件の捜査にあたる刑事が蟹江敬三だ。登場シーンではタバコ屋でタバコを買っているだけなのだが、「あっ、こいつは刑事だな」と感じさせる。蟹江敬三はヤクザもやるので刑事専門ではないのにそれを感じさせるとはやはり上手い俳優である。この蟹江敬三と原田芳雄には実は過去に因縁がある関係である。
エンドロールでは新宿騒乱事件の記録フィルムが流れるが、実に若松孝二らしい。世代が違うオレにとっては、全共闘世代が過去に反逆者だった自分たちの思い出に酔っていると感じられてしまうが、世代的にドンピシャリの人にはまた違った思いがあるのであろう。
新宿騒乱事件を闘い抜きながらも、一発の銃弾で現実の新宿に引き戻されてしまう仲間たち。新宿は新宿フォークゲリラなど過去の記憶にあるのではなく、ヤクザや外国人などがたむろするヤバイ場所だった。
松竹作品だけれど、どちらかというと東映の匂いがする。
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