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2004年03月10日

『ヤンヤン 夏の想い出』 ヤンヤンがチングで、チングがヤンヤンで

『ヤンヤン 夏の想い出』(2000) 監督エドワード・ヤン 台湾映画 (株)ポニーキャニオン

 『ヤンヤン 夏の想い出』の廉価版DVDが出たんで購入。廉価版といっても2,500円なんでちょっと高めだが、エドワード・ヤン作品だと考えると安いなうん。『クーリンチェ少年殺人事件』も出ないかな~。
 プレイヤーにセットするとさっそく再生。路地裏の子供たち。ん~こんなオープニングだったか?って、何でクレジットがハングル文字。っつーか、これ韓国映画の『友へ チング』(2001)じゃねーかっ!
 慌ててディスクを取り出す。レーベル面にはちゃんと「a one & a two[YIYI] (ヤンヤン夏の想い出の原題)A FILM BY EDWARD YANG」と書いてある。ディスクの入れ間違いではないのだ。なんなんですか、これは~?

 うむ、きっとあれだな。出荷前のポニーキャニオンの倉庫で作業員がうっかりして『ヤンヤン夏の想い出』と『友へチング』の段ボールを一緒に階段から落としてしまったのだろう。そのときのショックで、パッケージとかレーベルはそのままでディスクのデータだけが入れ替わってしまったに違いない。いわゆる『転校生』現象ってヤツだ。
 これは画期的事件だぞと、とりあえずポニーキャニオンに連絡したら、「単なるプレスミスです。宅配便で正規のディスクを送ります。チングはそのとき宅配便のドライバーに渡してください」ってことだった。なんだ超常現象じゃないのか。いや、ひょっとしてすでに政府機関やメン・イン・ブラックによる情報操作が行われている可能性も否定できないが、ともあれせっかくだから返す前に『チング』を観ちゃおう。

 交換せずに手元に置いておいたら稀少品として値が付いたりしないかな。しないだろうな。

2004年04月06日

『野獣捜査線』 悪党を逮捕しろ!

『野獣捜査線』(1985)のパンフレット 監督アンドリュー・デイヴィス 出演チャック・ノリス

 わたしがチャック・ノリスファンになったきっかけがこのアクション刑事映画『野獣捜査線』。
 『地獄のヒーロー』は正直ヒゲオヤジがランボーの真似をしているといった感じでピンとこなかったのだが、この作品のあくまでも正義と己を貫くタフガイ刑事にはやられてしまった。
 舞台はシカゴ。麻薬を扱うコロンビアマフィアを追うシカゴ警察特捜班。そのリーダーがチャック・ノリス。老刑事が捜査中に犯した不正に関して審問会で証言したためにチャックは裏切り者として警察内部で孤立していく。だが、そんな逆境を物ともせずチャックはただ黙々と悪を追い続ける。賢しげに正義を口にしたり権力に溺れることなく戦うその姿はなるほど“野獣”だ。
 全体的にガンアクションが多いが、敵の集まる酒場での30対1の格闘アクション。派手な技はないが地道に骨の髄まで痛そうな突きに蹴りがさすがチャンピオンである。演出いかんでもっと見せ場になっていたのだろうが、これが1985年のアメリカ映画での格闘シーンの限界なのだろう。ボクシング的な殴り合いの演出ならばとっくに形が出来ていたが、空手やクンフーなどの動きが速く足技もあるアクションについてはまだ定着しておらず演出方法も模索中だったのだ。
 もちろん、色んな物を積極的に取り入れるハリウッドではその後格闘アクションの分野では飛び抜けた進化をしていた香港映画からキャストやスタッフを引き抜きすでにその弱点を克服してしまっている。自分のところで一から育てるのではなく、すでに技術を持っている者がいるならばそれをヘッドハンティングしてくるというのが実にアメリカ的だ。
 1985年のアメリカ映画なりの空手アクションを手がけた監督のアンドリュー・デイヴィスはその後『刑事ニコ 法の死角』(1988)で合気道アクションに挑戦し、引き続きスティーブン・セガール作品の『沈黙の戦艦』の大ヒットで今では一流監督になってしまった。
 チャック・ノリスと並んでこの映画を支えているのが悪役コロンビアマフィアのボスヘンリー・シルヴァだ。『シャーキーズ・マシーン』(1982)や『パリ警視J』(1984)などの主役を食ってしまう狂人じみた悪役ぶりはここでも健在。特筆すべきは“コロンビア・ネクタイ”だろう。これは制裁の手段で、相手の喉を切ってそこに手を突っ込むと舌を引っ張り出すという荒技だ。切れ目からぶら下がった舌がまるでネクタイみたいなのでコロンビアネクタイ。うん、これでノーネクタイお断りの店でもOK、おしゃれさん。なんてことはないわけで、普通喉を切られた時点で死んでるな。
 そして、ラスト。悪投どもが待ちかまえる倉庫に他の警官の応援がこないまま一人で乗り込んでいくチャック。男だねぇ。いや、正確には一人じゃない。テスト期間中の警察ロボットも一緒だ。(見にくいだろうが写真の左上がそのロボット。人型ではなく自動で動く小型装甲車といったところか)最初は「おいおいロボはないだろロボ」はと思ったが、いったん戦い始めるとこいつがなかなか頼りになる。物騒な昨今、我が家にも一台欲しいところだ。・・・マシンガンやランチャーで撃ち殺しちゃったら過剰防衛かな、やっぱ。

 刑事物好きなら押さえておきたい1本。刑事がたむろっているバーに押し込み強盗が入ってくるシーンは爆笑だ。

2004年05月05日

『ユージュアル・サスペクツ』 オチだけではありません

『ユージュアル・サスペクツ』(1995) 監督:ブライアン・シンガー 出演:ケビン・スペイシー、ガブリエル・バーン

先日、ケビン・スペイシーが寸借詐欺に引っかかり携帯電話を盗まれたというニュースが流れたとき、「あのケビン・“キント”・スペイシーを口先で瞞すなんて、なんて凄腕の詐欺師だろう」と驚いたものだ。日本の「俺だ俺だ」を繰り返すだけの芸のない“おれおれ”詐欺師連中も少しは見習ってほしい。そもそも、詐欺とは入念な下調べと相手を言いくるめる話術・演技力が必要で、暴力や流血に訴えることのない芸術的犯罪である。
結局、そのニュースはベッカムの不倫騒ぎから報道の目をそらすためのジョークだったというオチがついたが。

監督のブライアン・シンガー、脚本のクリストファー・マッカリーの才気みなぎる若手コンビによって、観客のわたしは見事ペテンにかけられてしまった。
作品の内容上、細かなストーリーを述べるのは避けるが、脚本的な面白さだけではない。あまり語られてはいないようだが、一癖も二癖もある悪党どもの犯罪群像としても良く出来ている。そういった点が弱いと「オチはびっくりしたけど、結局それだけ」という『第六感』のような薄っぺらな作品になってしまうところだが、この作品はかなり健闘している。

DVDは「絶賛絶版中!」のようで、中古開封品でも美品は定価の倍の1万円程度で取引されているようだ。
もう、何回も観たしな、再販される前に売っちゃおうかな・・・

2004年06月12日

『U-571』

『U-571』(2000) U-571
監督・脚本:ジョナサン・モストウ 出演:マシュー・マコノヒー/ビル・パクストン/ハーヴェイ・カイテル/ジョン・ボン・ジョヴィ

久々に潜水艦物を観た。『クリムゾンタイド』以来かな。

「潜水艦物っていうほど数あるかね」

えーっと、『レッドオクトーバーを追え!』だろ、『Uボート』だろ、『深く静かに潜航せよ』だろ、『海底2万里』に『海底軍艦』。

「そんなこと言ったら、『緯度0大作戦』とか『原子力潜水艦シービュー号』もありだな」

う~ん、そうだな。実際の潜水艦が出てきた物までにしとこうか。
とにかく、最近の潜水艦物は中が広くて閉塞感や息詰まる雰囲気がなかったけど、Uボートはやっぱり狭くて良い。アメリカの潜水艦のS-33の中にある3段ベットが寝苦しそうだった。ちょっと身体を起こすと頭をぶつけそうだったな。

で、簡単に粗筋を話しておくと、航行不能になったUボートへアメリカ軍がドイツ軍になりすまして近づき、占拠して暗号機“エニグマ”を奪うという作戦を立てる。U-571ってのはそのUボートの船番号。
占拠は上手くいったが、自分たちの潜水艦を破壊されてしまう。そこで故障したUボートを使ってなんとか味方の陣地を目指す。

まず、敵軍の格好をして騙すってのは戦術上ありなのか。条約やなんかで規制されてるんじゃないのか?

「詳しいことは分からないが、どうみたって卑怯だよな」

それに、占拠時にドイツ兵士をほぼ全員撃ち殺してしまうんだが、これの布石として序盤にU-571が投降を希望する連合軍兵を撃ち殺してしまうシーンがある。こんな奴らだから、殺されてもかまわないと観客に感じさせるためだけのシーンだったな。
それでも、爆雷の爆発音が近づいて恐怖に脅えるところや、震度を深く潜って水圧でビスが飛んだり、計器のガラスが砕けたり、浸水してくる恐怖ってのは潜水艦物の醍醐味だ。
まぁ、全体的に大味な作品だと思ったら、製作にディノ・デ・ラウレンティスが絡んでいる。
どーりで。
ハーベイ・カルテルは良かったけどね。
でも、なにしに出てきたんだ、ジョン・ボン・ジョビ。

「最近はすっかり映画俳優だな」

でも、誰がジョン・ボン・ジョビか、最後まで分からなかった。

「それじゃ、ダメだろ」

2005年05月10日

『ヤング・アインシュタイン』 アインシュタインはタスマニア島生まれだった!?

『ヤング・アインシュタイン』(1988) YOUNG EINSTEIN 91分 オーストラリア

監督:ヤッホー・シリアス 製作:ワーウィック・ロス、ヤッホー・シリアス 原作:ヤッホー・シリアス 脚本:ヤッホー・シリアス、デヴィッド・ローチ 撮影:ジェフ・ダーリング 音楽:ウィリアム・モツィング、マーティン・アーマイガー、トミー・タイチョ
出演:ヤッホー・シリアス、オディール・ル・クレジオ、ジョン・ハワード、ピー・ウィー・ウィルソン

 偉大なる科学者アルバート・アインシュタインの人生を描いた作品。
なんとアインシュタインがオーストラリアはタスマニア島生まれのタスマニア育ち。どんなアインシュタインだそれは。
アインシュタインが手作りビールを醸造中に誤って小屋ごとドカン!と吹っ飛ぶ。その弾みで彼は新たなビール製造法を思いつく。特許を取るためにさっそくヨーロッパへ向かうが、実はその製造法こそE=mc2を始めとした相対性理論にほかならなかったのだ。
その道中で出会ったキューリー夫人ことマリー・キューリーに恋に落ちる。観たのがずいぶん前なのではっきりと憶えていないのだが、マリー・キューリーは独身という設定だったと思うので正確にはキューリー夫人ではない。それにそれだと不倫になるしな。
その後、悪人の仕掛けた罠にはまって精神病院に入れられたりしながらも、最後はこれまた発明したエレキギターを使って悪人が作り出した原子爆弾の爆発を阻止する大活躍。
「なるほど、アインシュタインはこんな人だったのか」と感心しないように。もちろん大嘘だから。

 『ヤング・アインシュタイン』というタイトルは、やはりメル・ブルックスの『ヤング・フランケンシュタイン』(1974)から思いついたのだろうか?
全編を通してふざけていて、その徹底ぶりが気持ちいい。
監督・脚本・主演を務めるヤッホー・シリアスはなかなかの二枚目。でも演技はバカ。真面目な顔でバカなことばかりやっているのは、昔のジム・キャリーを思わせる。1994年と1999年にも監督・脚本・主演で新作を撮っているようだが日本未公開でビデオ発売のみ。機会がなくてまだ観ていないが相変わらずバカだそうだ。
ヤッホー・シリアスという名前は多分芸名だろう。シリアスという姓は本名の可能性もあるがヤッホーは違うだろ。これが本名だったら親を尊敬する。
ちなみに綴りは「Yahoo Serious」。ヤッホーはヤフー!と同じ綴りだ。yahooにはバカとか田舎者という意味もあるそうだ。オーストラリア英語ではチンピラを意味する俗語だとか。・・・やっぱ芸名だよねぇ・・・

2007年01月28日

『要塞警察』 廃ビルでの攻防

B00005L89T.jpg『要塞警察』(1976) ASSAULT ON PRECINCT 13 90分 アメリカ

監督:ジョン・カーペンター 製作:J・S・カプラン 製作総指揮:ジョセフ・カウフマン 脚本:ジョン・カーペンター 撮影:ダグラス・ナップ 美術監督:トミー・ウォーレス 編集:ジョン・T・チャンス(ジョン・カーペンター) 音楽:ジョン・カーペンター
出演:オースティン・ストーカー、ダーウィン・ジョストン、ローリー・ジマー、マーティン・ウェスト、トニー・バートン、ナンシー・ルーミス、キム・リチャーズ、ヘンリー・ブランドン、チャールズ・サイファーズ

 都市開発による移転作業中のため最低限の人員しかいない警察署に中年男性が逃げ込んでくる。
 通りでアイスクリームを買っていた娘がストリートギャングに意味なく殺され、連中の一人を倒したため追われているのだ。
 人気のない街で回りをすっかり敵に囲まれてしまった。電話も使用不可能となり救助を呼ぶことも出来ない。
 必死の抵抗を続ける警官たちは、留置場に収容されていた凶悪犯ナポレオンの手も借りて圧倒的多数の敵を相手に戦いに挑む。

 一言も口をきかず、淡々と迫ってくるストリートギャングが怖ろしい。ハワード・ホークスの『リオ・ブラボー』に強い影響を受けているという。そこには砦に立てこもってインディアンと戦う西部劇の姿も見て取れる。
 そして個人的には『エイリアン2』などの立てこもりホラーに近い物も感じる。ストリートギャングたちも犯罪者というよりはモンスターに近い。サイレンサーを使った銃で音もなく襲いかかってくる。何が目的なのか、正体は何者なのか、最後まで不明なままだ。
 低予算故に廃ビル一つを舞台に絞り、ラストこそ「えっ、これで終わり」という物足りなさがあるが、前半は緊張感溢れる物語が展開される。
 刑事とナポレオンとの立場を超えた言葉ではなく行動による信頼感が表現されており、アクション映画ファンには嬉しい。

 ジョン・カーペンターにとってはこれが商業映画デビュー作にあたる。脚本もカーペンターということもあり本人の趣味性が強く表れた作品だ。
 立てこもり系の映画はその後いくつも作ることになるし、凶悪犯ナポレオンは『ニューヨーク1997』シリーズのスネーク・プリスケンの原形だろう。
 いや、そもそもカーペンターは自分の趣味に合う作品しか撮っていないのではないだろうか。フィルモグラフィーを見ても、「何で撮ったの?」というのは『透明人間』(1992)ぐらいだ。

2007年01月30日

『遊星からの物体X』 2万7000時間

B000G7PRX2.jpg『遊星からの物体X』(1982) THE THING 109分 アメリカ

監督:ジョン・カーペンター 製作:デヴィッド・フォスター、ローレンス・ターマン、 ラリー・フランコ 原作:ジョン・W・キャンベル・Jr 脚本:ビル・ランカスター 撮影:ディーン・カンディ 特撮:アルバート・ホイットロック 特殊効果:ロブ・ボッティン 音楽:エンニオ・モリコーネ
出演:カート・ラッセル、A・ウィルフォード・ブリムリー、リチャード・ダイサート、ドナルド・モファット、T・K・カーター、デヴィッド・クレノン、キース・デヴィッド、チャールズ・ハラハン、ピーター・マローニー、リチャード・メイサー、ジョエル・ポリス、トーマス・G・ウェイツ、ノーバート・ウェイサー、ラリー・フランコ

 雪原の上を一機のヘリコプターが危険なまでの低空飛行をしている。
 その下を走っているのは一匹のハスキー犬。そしてヘリコプターの乗員はライフルでそのハスキー犬を半ば乱射状態で狙い撃っている。
 たかが犬に何故そこまで必死になっているのか。それはその犬がアメリカ南極越冬基地に逃げ込んだ後で次第に明らかになってくる。

 オレが初めて映画館で観たジョン・カーペンター作品。いきなりこんな物を観せられた日には夢にも見ますわ。いや、観せられたというか観に行ったんだけど。
 おそらくもっとも有名なカーペンター作品なので観た人も多いと思うが、他の生物を乗っ取ってしまう「THE THING(物体X)」が本性を現したときのSFXの怖ろしいこと。
 変形前の犬や人間の印象が微妙に残っているのがまた気味が悪い。
 と怖がっていたのも昔の話で、今では大笑いしながら観ているのだから困ったものだ。頭にカニ状の足が生えてカサカサと逃げていくシーンは最高。
 逆に、物体Xに乗っ取られていないかをテストするために血を採るシーンで、メスで指の先を切るシーンでゾッとしていたりする。物体Xに出会う機会はまずないだろうが、怪我をすることはあるだろうしな。

 南極の長い長い冬に入り、無線やヘリコプター、雪上車は錯乱した隊員によって破壊されてしまった。
 隊員の誰かが物体Xに乗っ取られている可能性がある。それは一人なのか二人なのか。そして一体誰なのか。閉鎖空間が疑心暗鬼で満たされていき、パニックにおちいる者も出てくる。
 この辺りの心理描写があまり深く描かれていなくて、多少残念である。
「あいつは乗っ取られている」と密告したり、自分がすでに乗っ取られたと思い込んで自殺するなど極限状態での人間性を出しても良かったのではないだろうか。
 回りの人間のうち誰を信用して良いのか、そういえばこいつの言動がいつもとちょっと違うがひょっとしたら乗っ取られているのではないか。さっきしばらく姿を見なかったが、その間に乗っ取られたのではないか。そういった方向性もあったと思うのだが、カーペンターは前面に出すことは避けたようだ。
 ただし、ラストに生き残った二人の会話シーンからも分かるように裏ではしっかりと描いている。

 音楽がエンニオ・モリコーネなのに、何故だかカーペンター節になっている不思議。
 南極観測基地に、何故だか火炎放射器がいくつもある不思議。
 まぁ、気にするな。

『遊星からの物体X』も再映画化の話が進行中だとか。気になるのは隊員の中に女性を入れてしまうんじゃないかということ。当然、主人公とのロマンスがあって、でも最終的にはヒロインは乗っ取られてしまって・・・頼む、それは止めてくれよ。
 男ばかりの殺伐さが重要なんだから。

2007年04月01日

『痩せゆく男』 呪いでダイエット

B000CFWORA.jpg『痩せゆく男』(1996) THINNER 92分 アメリカ

監督:トム・ホランド 製作:リチャード・P・ルビンスタイン、ミッチェル・ゲイリン 原作:リチャード・バックマン(スティーヴン・キング) 脚本:マイケル・マクダウェル、トム・ホランド 撮影:キース・ヴァン・オーストラム 特殊メイク:グレッグ・キャノン、ボブ・レイデン 美術:ローレンス・ベネット 衣裳:ハ・ニュイエン 編集:マーク・ローブ 音楽:ダニエル・リット
出演:ロバート・ジョン・バーク、ジョー・マンテーニャ、カリ・ウーラー、ルシンダ・ジェニー、マイケル・コンスタンティン、ジョー・レンツ、スティーヴン・キング

 スティーヴン・キングがリチャード・バックマン名義で出版した『痩せゆく男』(文春文庫刊)の映画化。
 リチャード・バックマンという仮の名を使っていた理由は、当時のアメリカでは「作家たる者、1年に1冊以上本を出すと軽く見られる」という不文律があり、書いたはいいが出版できない原稿を埋もれさせるのが残念だったから。キングにとって小説を書くのは呼吸をするのと同じようなものだろうからな。
 逆に言えば流行作家ならば1年1冊で充分な収入があったということでもある。ひたすら書いて書いて書き続けないと出版界から消え去ってしまう日本とは対照的だ。『羊たちの沈黙』のトマス・ハリスなんて昔からいるのに4作しか出していない。

 130kgを超える肥満体の弁護士ビリーは、ある日誤ってジプシーの老婆を自動車で轢き殺してしまう。しかし、狭い田舎町でツーカーの仲だった判事や警察署長はうまくごまかしてビリーを無罪にしてしまう。
 ご機嫌のビリーをその老婆の父で100歳を越えるジプシーの長老が指で腹を触りながらこうささやく。
「痩せていく」と。
 次の日から、いくらダイエットを試みても一向に減らなかった体重と贅肉がみるみる減り始めた。やったダイエットの効果が出たと喜んだのはつかの間、体重は異様に減り続ける一方で、ダイエットを止めて1日1万2000キロカロリーの過食をしても減っていく。
 判事と警察署長は悲惨な死を遂げ、これはジプシーの呪いだと気づいたビリーは長老の元へ謝罪に訪れるが、あえなく拒絶される。

 傲慢な白人と迫害されるジプシーという構図ではあるが、ジプシー側もそうそうお人好しの憐れむべき者ではない。一度かけた呪いは解くことは出来ず、別の者に移すしか手がない。結局のところ双方は別の世界に生きている存在で、分かり合えることも交わることもないのだ。
 ラストの残酷さと主人公の狂気は見物で、ハッピーエンドを期待していた観客は大きく裏切られることとなる。

 最初は特殊メイクで巨体を揺らしていたビリーを演ずるのはロバート・ジョン・バーク。最初は分からなかったが、痩せていくとどこかで見た顔だった。そうだ、『ロボコップ3』(1992)の2代目ロボコップではないか。終盤ではイカれた目つきで迫力のある演技を見せてくれる。ちなみに、DVDの日本語吹き替はDVD版『ダイ・ハード』のジョン・マクレーンと同じ樋浦努氏である。ジプシーの長老に許してもらえなかったら愛銃M-92Fを抜いてジプシー軍団と対決しそうな印象でしばし戸惑う。
 スティーヴン・キング自身は薬局の店員役で登場。度の強そうな眼鏡をかけてうろうろしている。

 監督のトム・ホランドは『フライトナイト』や『チャイルド・プレイ』などなかなか面白い映画を撮っている人で、キング作品では『ランゴリアーズ』を手がけている。ウーピー・ゴールドバーグとサム・エリオットのラブシーンという通好み(?)な物が観られるアクション映画の佳作『危険な天使』もこの人だ。

 この呪い、1週間限定でオレにもかけてくれんかな~・・・っていかんな、それではダイエットダイエットと騒ぎ立てる人々を面白いなと題材にしたキングに笑われてしまう。よーし、納豆食おう、っておい。

2007年07月18日

『ヤング・フランケンシュタイン』 フランケンシュタイン博士が帰ってくる

B000E42PXW.jpg『ヤング・フランケンシュタイン』(1974) YOUNG FRANKENSTEIN 107分 アメリカ

監督:メル・ブルックス 製作:マイケル・グラスコフ 脚本:ジーン・ワイルダー、メル・ブルックス 撮影:ジェラルド・ハーシュフェルド メイクアップ:ウィリアム・タトル 音楽:ジョン・モリス
出演:ジーン・ワイルダー、ピーター・ボイル、マーティ・フェルドマン、マデリーン・カーン、クロリス・リーチマン、ジーン・ハックマン、テリー・ガー

 メル・ブルックスとジーン・ワイルダーによるボリス・カーロフ主演の『フランケンシュタイン』(1931)のパロディ・オマージュ映画。ちゃんとモノクロ映画として撮っているところがうれしい。
『プロデューサーズ』との間には『メル・ブルックスの命がけ!イス取り大合戦』(1970)という作品があるのだが、日本未公開。ビデオソフト化はされたので20年ほど前に観ているのだが、憶えていないので飛ばす。
 ボリス・カーロフ主演版と書いたのは、メアリー・シェリーによる原作とはかなりかけ離れているから。原作本は原文も翻訳も古くて読みにくいので、ロバート・デ・ニーロ主演、ケネス・ブラナー監督による『フランケンシュタイン』(1994)を観ると手っ取り早くていいかもしれない。

 主人公はフランケンシュタイン博士の孫(ジーン・ワイルダー)だ。アメリカで外科の教授として教鞭を執っていた彼の元を、ご先祖様からの文書を持った弁護士が訪れる。
 そして、トランシルバニアに渡った彼は、やぶにらみの召使いアイゴール(マーティ・フェルドマン)が操る馬車によってフランケンシュタイン城に到着した彼は、隠された実験室と、死体再生の研究書を見つけ、禁断の実験に手をつける。

 おなじみのセリフ「Alive!It's Alive」も登場し、基本的なストーリーは『フランケンシュタイン』(1931)に則りながら、細かいギャグを交えつつ展開していく。表で待っていた警官の帽子にダーツの矢が刺さっているギャグとかがお気に入り。
 コメディ映画として作られいるので死人も出ず、ホラー映画が苦手な人でも大丈夫。あー、でも『フランケンシュタイン』(1931)を観ていないと面白さは半減なので、出来ればそちらと続編の『フランケンシュタインの花嫁』は先に観ておいた方がいいだろう。厳密にはホラー映画ではなく怪奇映画だろうし。

 途中で、ジーン・ワイルダーが歌と踊り、そしてタップを披露するシーンがあるが、これがばっちり決まっている。
 コメディアンとしての側面が語られることが多いジーン・ワイルダーだが、ブロードウェイ出身だけあって、このぐらいはお手の物だと思われる。
 俳優の能力として求められる物が、日本と比べて格段に高いのだろう。ここら辺にアメリカショービジネスの奥深さを感じる。

 メル・ブルックス作品の中でも評価は高めなようだ。
「メル・ブルックス本人が出演している作品は、くだらないし、つまらないから嫌い」という声もあるようなので、本人未出演というのもポイントになっているのかもしれない。
 だが、オレはメル・ブルックス出演で、タイトルが『メル・ブルックスのなんとか』となっている作品の方が好きだ。くだらないって?そこがいいんじゃないかと強く主張する。

2007年12月25日

『恐喝(ゆすり)』 お前が殺ったことは知ってるぞ

B000SKJ0BW.jpg『恐喝(ゆすり)』(1929) BLACKMAIL 82分 イギリス

監督:アルフレッド・ヒッチコック 製作総指揮:ジョン・マクスウェル 脚本:ベン・レヴィ 撮影:ジャック・コックス 音楽:キャンベル・コネリー
出演:アニー・オンドラ、サラ・オールグッド、チャールズ・ペイトン、ジョン・ロングデン、ドナルド・カルスロップ、シリル・リチャード

 ヒッチコック初のトーキー作品にして、イギリス初のトーキー。トーキーというのは声や音が入っている物で、サイレントの対義語だな。
 撮影開始時はサイレントで撮っていたが、途中からトーキーを導入したらしい。どのような順番で撮影されたかは知らないが、冒頭のある男が逮捕されるシーンは明らかにサイレントで撮られている。

 刑事を恋人に持つ女性が、遊び心から画家の家に遊びに行く。ところが、画家の目当ては彼女の肉体で、強引に迫ってきた画家を、彼女はナイフで刺し殺す。
 人目を避けて画家のアパートから逃げ出した彼女だが、一人の悪漢がそれを見ていたばかりに、彼女と刑事はゆすりられることになる。

 主人公の実家は雑貨屋を営んでいて、そこへ買い物に来たオバさんが「ナイフ事件知ってる。まったくナイフで刺すなんてねぇ。イギリス人だから殴り殺すならば分かるけど、ナイフで刺すなんて理解できないわ」とナイフを連発する。その度に、ドキッと怯える主人公。すでにトーキーを使いこなしている。
 建物最上階から吹き抜けの階段を、見下ろしたヒッチコック的カットも登場する。

 殺人の起きた晩にアパートの近くを怪しい人物がうろついていたという目撃証言が上がるが、その人相書きはゆすりの悪漢そのもの。
 そして、悪漢は逮捕されるがパトカーから抜け出して、大英博物館に逃げ込む。
 ちょうどそのころ、良心の呵責に耐えられなくなった主人公は、自首するために警察を訪れる。
 そして、ラストは悪漢が大英博物館で逃げ回ったあげくに屋根から落ちて死亡し、主人公の告白はどさくさで無視されてしまうという灰色決着。