『その男 ヴァン・ダム』(2008) JCVD 96分 ベルギー/ルクセンブルク/フランス
監督:マブルク・エル・メクリ 製作:シドニー・デュマ 製作総指揮:ジャン=クロード・ヴァン・ダム、マルク・フィズマン 脚本:マブルク・エル・メクリ、フレデリック・ベヌディス 撮影:ピエール=イヴ・バスタール 美術:アンドレ・フォンスニィ 編集:カコ・ケルバー 音楽:ガスト・ワルツィング
出演:ジャン=クロード・ヴァン・ダム、フランソワ・ダミアン、ジヌディーヌ・スアレム、カリム・ベルカドラ、ジャン=フランソワ・ウォルフ、アンヌ・パウリスヴィック、サスキア・フランダース、ディーン・グレゴリー
愛知県の阿久比ユナイテッドシネマというところで1月22日金曜日の18:30から始まる第二回目の回、というか一日二回上映なんで平日メインの回なんだが
「観客、オレ一人かよっ!!」
235人入る劇場を独り占め。というかレンタルビデオ借りて来て家で観てるのかよ。どんだけ豪華なホームシアターなんだよ。
これが東京ならまだ事情は違うのだろう。人口も多いし、趣味も多彩。ジャン=クロード・ヴァン・ダム映画にだって人は入っているはず。しかし、ここは田舎。人が入る映画だけ満員で、入らない映画は本当に入らないのが田舎における文化の貧しさ。ヴァン・ダム映画に人が入ると文化が豊かなのかと言われるとちょっと迷うが。
ヴァン・ダムが落ち目のアクションスターを演ずる。そのスターの名はジャン=クロード・ヴァン・ダム……ってそれ本人じゃん。激しいアクションはキツくなってくるし、出演作は東欧で撮影した劇場公開なしでDVD化のみのいわゆるビデオ・ダイレクト。二昔前の東映でいうところのVシネマの類だ。メジャーな作品への出演オファーもスティーヴン・セガールに奪われるし(その役のためにセガールがポニーテールを切ったということになっている)、別れた妻とは娘の親権争いで裁判の真っ最中。
映画のオープニングでもある1カット長回しアクションに疲れ次回作もろくな企画がない。故郷のベルギーに休暇で戻ってきたヴァン・ダムは、弁護士への振込をするために郵便局へ。ところが、その郵便局は強盗に押し込まれている最中で、なんと警察はヴァン・ダムが犯人だと思い込む。人質と共に郵便局に籠城した犯人は、ヴァン・ダムを真犯人に仕立てて警察との電話交渉に当たらせる。
と、ここまで聞くとコメディにしか思えない。ところがこれが違う。
犯人の中にヴァン・ダムファンがいて、犯人:「ジョン・ウーはあんたの『ハード・ターゲット』でハリウッドに来れたのにあんたを捨てた。あんなやつ、あんたがいなければ今でも香港でハトを撮ってるよ」、ヴァン・ダム:「でも『フェイス/オフ』は傑作だぜ」、犯人:「でもあんたは出て無いじゃないか。まぁ、『ウインドトーカーズ』がクソだったから罰は当たったか」(『ウインドトーカーズ』は映画史に残るぐらいの大赤字作品)みたいなコミカルな部分もあるが、ほとんどは立てこもり犯と警察の対立、そして人質の描写に当てられていて、かなりシリアス。
そんな中で、ヴァン・ダムが自らに向き合い、映画館なので時間は計っていないが3分はありそうな1カットのモノローグで英語も分からないのに映画スターを夢見てベルギーからハリウッドに出てきたこと、次第に成功してきたが自分がこれまで生きてきた「オッス」で心が通じ合い嘘がない空手という武道の世界から「騙した者が勝ち」のハリウッド社会に毒されていき、その中で「愛だけは信じられる」と結婚・離婚を繰り返したこと。一度はドラッグに溺れそして抜け出してきたことを涙ながらにカメラに語る。実に良いシーン。ヴァン・ダム一世一代の大芝居だ。
そして事件は映画的な解決を幻想として一瞬見せてくれた後に、現実の解決をヴァン・ダムを突き放したように映す
電話での交渉で「100万ユーロと飛行機を用意しろ」と犯人から警察に伝えるよう指示されるシーンで、「オレはヴァン・ダムだぞ。そんなのリアリティないだろ」というのが実に笑える。さすがスティーヴン・キングが『不眠症』の中で「ジャン=クロード・ヴァン・ダム映画と同じくらい嘘っぽいものだ」とリアリティの無さを示す形容詞的に使われただけのことがある。ここでヴァン・ダムが取った行動から、意外なラストへと繋がっていく。
親権裁判の証人席に立った娘から、「パパのことは好きだけど、パパがテレビのトークショーなんかに出ると次の日にみんなから笑われるの。それは嫌なの」と言われてしまったヴァン・ダム。
だが、別の形でテレビに出たヴァン・ダム。それを観た娘は……。
籠城事件が郵便局のお互いの様子が分からない中と外で、しかも時間軸が巧みに入れ替わっていて観客にも最初は状況が分からない。ジャン=クロード・ヴァン・ダムがヴァン・ダム自身を演ずるメタ映画。そのパズルのパーツが次第に一つ一つ埋まっていく快感。ハリウッドとは違うヨーロッパ映画だ。そこにはフランス語圏のベルギー人であるヴァン・ダムのヨーロッパの雰囲気がよく似合う。オレの知っている中で一番有名なベルギー人はエルキュール・ポワロだが、彼は架空の人物なので実在の人物ではヴァン・ダムが一番。ちなみに二番目は知らん。TVシリーズ『空飛ぶモンティ・パイソン』の中ではやたらとひどい扱いだった。
ところでオレはヴァン・ダムが好きだ。セガールも好きだけどな。
でも、この作品がセガールだったら説教くさくなるだろう。というか、セガールだと本人役のメタ映画でも郵便局強盗を瞬殺しそうだからなぁ。
同じ系統のアクションスターだとウェズリー・スナイプスもいるが私生活がスカしてそうでピンとこない。ヒップホップを流しながら高級車乗ってるとかさ。
先輩クラスにチャック・ノリスがいるが、チャックさんは本当に人格者らしいからなぁ。いろいろと人生が破綻しちゃってるヴァン・ダムだから面白いわけで。
ラスト、ある人物の姿をガラスに映ったシルエットで表現するそのセンス。マジでちょっと泣いたよ。ヴァン・ダム映画で泣くことになるとは思いもよらなかった。
ヴァン・ダムのキャラクターがあってこその企画で、ヴァン・ダムの出演あってこその作品。単なる自虐ギャグ作品なら出る人もいるだろうが、自虐じゃないんだよ。コメディともシリアスとも違うこんな作品によくぞ出たヴァン・ダム。もう、こんな映画が作られることはないだろう。
現時点でオレにとって今年一番。ヘンテコ感動面白映画だっ!