『恐竜グワンジ』(1969) THE VALLEY OF GWANGI 96分 アメリカ
監督:ジェームズ・オコノリー 製作:チャールズ・H・シニア 製作補:レイ・ハリーハウゼン 原案:ウィリス・H・オブライエン 脚本:ウィリアム・E・バスト 撮影:アーウィン・ヒリアー 特撮:レイ・ハリーハウゼン 音楽:ジェローム・モロス
出演:ジェームズ・フランシスカス、ギラ・ゴラン、リチャード・カールソン、ローレンス・ネイスミス、デニス・キルベイン、フリーダ・ジャクソン、
時は20世紀初頭、ところはリオ・ブラボー(アメリカとメキシコを隔てる河)近く。地元のジプシーが"禁断の谷(Forbidden Valley)"として怖れている谷に一人のジプシーが禁を犯して忍び込み猫ぐらいの動物が入った袋を持ち帰ってくる。
その中味は5000万年前に存在していた馬の原種。この馬で大儲けを企んだ主人公たちは化石を掘っている考古学者と共に禁断の谷を目指す。そこでは小さな馬だけではなく、これまた絶滅したはずの巨大な恐竜が待ちかまえているのだった。
原案のウィリス・H・オブライエンは『キング・コング』(1933)でストップモーションを手がけた人。1962年に亡くなったオブライエンが残した原案を製作補として作り上げたのが弟子のレイ・ハリーハウゼン。『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのピーター・ジャクソンは『キング・コング』を観て映画監督を志したと言う。
ハリーハウゼンは3作前に『アルゴ探検隊の大冒険』(1963)を撮っており、この後に傑作『シンドバッド黄金の航海』(1973)『シンドバッド虎の目大冒険』(1977)を送り出す時期で円熟期と言っていいだろう。1作毎に数年の期間が空いているのはモデル(人形)を一コマ一コマ手で少しずつ動かして撮影するやたらと手間と時間がかかるストップモーションだからだろう。
オブライエンの段階でモデルを動かすことに関してはほとんど完成していたが、ハリーハウゼンの偉大なところはストップモーション・アニメーションの映像と実写の人間などの映像を組み合わせたダイナメーションという技術を確立したことである。『アルゴ探検隊の大冒険』では骸骨兵士と人間がチャンバラをするし、『シンドバッド黄金の航海』ではシンドバッドが六本腕のカーリー像と戦う。まずは人間のパートを撮影しておいて、それに合わせてストップモーションを作り上げる。ストップモーション単体でも大変なのに、両者の動きをリンクさせなければならないのだから、ひたすら根気の必要な作業だ。作業だけなら一種の職人芸だが、それに加えてモンスターのデザインなどのアーティストの才能も重要。学生時代のハリーハウゼンが初めてオブライエンに面会した時に、自作のモデルやスケッチを見せた時に「解剖学を勉強しなさい。君の恐竜は足がソーセージみたいじゃないか」と言われたそうだ。学者の知識まで必要なのだ。
『恐竜グワンジ』では馬に乗った三人がティラノサウルス系の肉食恐竜の首に投げ縄をかけて捕まえるシーンがある。恐竜の首の動きに合わせて三人の縄も引っ張られたりゆるんだりする。これが同一カットで表現されているのは実に見事。
どうでもいいけど、この恐竜が梅雨時のアジサイを思わせる青紫と微妙な色遣い。恐竜については茶色や緑色で表現されていることが多いが、化石では恐竜の肌の色は分からないのでこれは現在の爬虫類を参考に着色したもの。だから、ティラノサウルスが青紫だった可能性も0じゃないのだが、やはり微妙。ちなみに『ジュラシックパーク』などに登場するティラノサウルスは10メートルぐらいだが、グワンジのは5メートルぐらい。人間と同一画面に収めるには大きすぎず小さすぎずのサイズを選んだのだろう。だからダイナメーションが活きてくる。
と、この時代のSFX映画について話すと、「当時の特撮は良かった。最近はCGばかりで味がない」という意見が出てくることが多いように思う。個人的にはそれは違うんじゃないかなと思う。
ストップモーションは確かに実際にモデルを手で動かす手作業だが、CGだってコンピューターという道具を使っているだけでこちらも手作業。「これこれこんな映像」とコンピューターに指示を出したら勝手に映像を出力してくれるわけではなく、モデルを作るように3Dの基本データを作り上げ、その動きを細かく指定していく。そこにはアーティストとしてのセンスや人間やクリーチャーなどの骨格も考えた解剖学の知識も必要だ。ある程度はコンピューターが補完映像を計算してくれるが基本は一コマ一コマの作業。気の遠くなるような根気の要る作業を経てCGは作り出されているのだ。ある意味、無から有を作り出しているCGはSFXの進化が生み出したものだろう。
あと、現実的な話しをすると、今のCG技術だと別のSFXで同じ映像を作るよりも安くできることも多い。大がかりなセットを組むよりも、背景をCGで作って合成した方が安い。どんな大作だって予算には限りがあるから節約できるところは節約する。これだってマットペインティングという手描きの絵を使う手法は昔からあったわけで、それをCGに置き換えただけとも言える。
ハリーハウゼンや円谷英二がもしも現役で活躍しているとしたら間違いなくCGに興味を持っただろうし、自身が手がけた作品で使ったはずだ。常に新しい技術に関心を持ちそれを取り入れていくのがSFXマンである。
オレ自身は『スター・ウォーズエピソード4』(1977)でのデススターの設計図といった実験的に用いられたCGから始まり、『スター・トレック2/カーンの逆襲』(1982)でのジェネシス計画のシミュレーション映像やミニチュアを使わず宇宙船をCGで表現した『スターファイター』(1984)など映画のSFXにCGが使われるようになりそれが進歩してきた様子をワクワクしながら観てきたんでCGに甘いのかも知れないので異論もあるだろう。でも以前、お店のロゴが遠くから回転しながら飛んできてアップで止まるという単純なCGムービーを作ったことがあるが、これがかなり大変だった。映画クオリティのCGを作るとなるとどれだけの手間暇、知識、技術が必要かと考えるとやはりすごいと思う。
ちょっと似たようなケースだと「ワープロなんて邪道だ。文章は手書きで書かないと駄目だ」と言っていた文学界の偉い人がいた。でも長文を書いた場合だと校正の段階で段落の入れかえなどの構成の変更はワープロが圧倒的に有利。一発で完璧な文章が書ける人なら手書きで良いのだろうが、読み直して手直ししていくにはワープロだと思うけどね。
ひょっとすると、「Excelなんて邪道だ。計算はソロバンじゃなきゃ駄目だ」と言う偉い人もいるんだろうか?就職してまず覚えさせられたのがDOSの『LOTUS1-2-3』だったオレは、もはやExcelなしじゃ仕事にならんよ。
以前紹介した『放射能X』もこの『恐竜グワンジ』もワーナー・ブラザース作品。言っちゃ悪いがどちらもB級キワモノ路線だ。ちょっと気になったんで昔の作品について詳しい方に尋ねてみたところ、当時のワーナーはパラマウントや20世紀フォックスと比べると三流映画会社的存在だったそうだ。多少格下ぐらいかなとは思っていたが、シネマスコープを開発した20世紀フォックスやパナビジョンを開発したパラマウントとは技術的にも差があり、自社開発できなかったワーナーは他社から技術を借りてワイド画面に対応したとか。
オレがワーナーの名を覚えた頃にはクリストファー・リーヴ版『スーパーマン』など大作を作っていたので意識していなかったのだが勉強になった。考えてみれば昔のワーナー映画のイメージってセンセーショナルを売りにしたギャング映画なんだよね。確かに格下かも。