『サンキュー・スモーキング』(2006) THANK YOU FOR SMOKING 93分 アメリカ
監督:ジェイソン・ライトマン 製作:デヴィッド・O・サックス 製作総指揮:ピーター・シール、イーロン・マスク、マックス・レヴチン、エドワード・R・プレスマン、ジョン・シュミット、アレッサンドロ・ケイモン、マイケル・ビューグ 原作:クリストファー・バックリー『ニコチン・ウォーズ』(東京創元社刊) 脚本:ジェイソン・ライトマン 撮影:ジェームズ・ウィテカー 美術:スティーヴ・サクラド 衣装:ダニー・グリッカー 編集:デイナ・E・グローバーマン 音楽:ロルフ・ケント
出演:アーロン・エッカート、マリア・ベロ、デヴィッド・ケックナー、キャメロン・ブライト、ロブ・ロウ、アダム・ブロディ、サム・エリオット、ケイティ・ホームズ、ウィリアム・H・メイシー、J・K・シモンズ、ロバート・デュヴァル
相変わらずアーロン・エッカートのアゴは見事に割れている。
ちょっと読んだ話だが、この割れたアゴというのは遺伝形質ではなく獲得形質らしい。成長期に堅い物を噛むなどしてアゴの筋肉を使うことで筋肉が発達し、その結果として盛り上がった筋肉でアゴが割れるのだ。もちろん、同じ食生活をしてもアゴが割れる人問われない人がいるだろうから、そもそもの骨格や筋肉の発達の具合など生まれつきの部分もあるのだろうが、もしもアーロン・エッカートが豆腐ばっかり食っている食生活を送ってきたら、多分彼のアゴは割れていない。でも、アゴが割れてなかったらそれはもはやアーロン・エッカートではないだろう。
ニック・ネイラー(アーロン・エッカート)は煙草産業が運営資金を提供するタバコ研究アカデミーの所員で広報担当。テレビに出たり、ロビイストとして政治家に接触することで「タバコに害はない」と主張し、世論を操作するのが仕事。
その目的はもちろんタバコの売り上げを伸ばすため。そのためにはタバコを吸えるようになる18歳より下の未成年層を狙わねばならない。なにしろ数が多いし、若い内に吸い始めたらなかなか止めることが出来ないのでこれからもずっと顧客でいてくれる。
そのためには映画だとニックは目を付ける。過去にタバコの売り上げが絶好調だった頃は、映画の中でスター達の手にはタバコがあった。彼らがタバコを吸う仕草に憧れて吸い始める人は多かった。だからそれを現在のハリウッド映画でやろうというのだ。
映画プロジェクトも順調に進み、絶好調に思われたニックだが、ワシントンポストの美人女性記者の取材を受け、肉体関係を持ってしまう。そしてオフレコのつもりで話したピロートークがワシントンポストの1面を飾ってしまったからさぁ大変。昨日までの腕利き広報マンは即日解雇。どん底に叩き落とされてしまう。だが、離婚した妻の元で育てられている彼の息子がいて、ニックの仕事振りを見てきた息子は父を「負けちゃ駄目だ」と励ます。そして、ニックは詭弁と論点すり替えを武器に一発逆転の戦いに打って出る。
アメリカは黙っていたら損をするディベート社会。相手を言い負かすことも仕事の内。日本では「沈黙は金」となっているが、あちらじゃ沈黙はゴミなのだ。
タバコに害がないなどと思ってもいないことを平気で主張するニック。そのためにはあらゆる答弁テクニックを駆使する。「アメリカで一番人を殺しているのはコロステロールだ。タバコの箱にドクロのマークを付けるというのならばチーズの箱にも付けるべきです」、「未成年の喫煙問題は家庭や学校での教育問題でしょう。ここは自由の国アメリカですから、18歳になれば誰だってタバコを吸う権利があります」など論点を巧みにすり替え、口先三寸だけで相手をやり込める。
道徳観や倫理観から反省することはないのか?だって、家や車のローンがあるのだ。そのためには仕事して稼がにゃ。どのみち誰かがやらなきゃいけない仕事だし。
タバコのパッケージを模したオープニングクレジットが面白い。内容からして煙草会社の協力を得られたとは思えないのでオリジナルのデザインなんだろうが、タバコのペッケージデザインって優れてるんだな。これまた、煙草会社は大金をかけて魅力的に見えるようにデザインを工夫しているんだろう。
どうしても喫煙者、禁煙・反煙者によって感想が変わってきてしまう作品だが、それを抜きにしてアーロン・エッカートのインチキ臭いディベートが面白い。向こうはニックのような企業のスポークスマンにしても政治家にしてもスピーチや討論が上手い。相手がどのような反論をしてくるかあらかじめ予想しておいて、それへの対策もバッチリで議論に挑む。だが、最後に物を言うのはとっさの時の頭の回転。
社会派ドラマとして全編重い雰囲気だった『インサイダー』に対し、こちらはコメディタッチでテンポ良く物語が進む。そんな軽さをタバコ業界の裏の実力者ロバート・デュヴァルや、元マルボロのCMモデル『マルボロ・マン』で現在では肺ガンを患ってしまったサム・エリオットが締めてくれる。アジア趣味の映画プロデューサーであるロブ・ロウが深夜一人で女性物振り袖を着て電話してるのは笑った。
『インサイダー』にも登場した煙草会社の七人の社長が宣誓するニュース映像や、最後は煙草会社が各地での訴訟に破れて2460億ドルの賠償金を支払ったなど、内容として繋がってる部分もあり、ほぼ同じ時期が舞台となっているのだろう。
反煙活動家がコンピューターグラフィック技術を利用して、過去の作品からタバコを消し去っているシーンには怒りを覚えた。しかし、オレも大学に入ってからタバコを吸いだしたのはやはり映画の喫煙シーンの影響。メディアに登場するタバコに影響を受けて吸い始める人が多いのはおそらく事実。嗜好品だから、若い内に最初の一本を吸わなければ、その後もずっと吸わない可能性は高い。
オレの喫煙生活は今よりもタバコの値段が安かったとはいえ、「一箱吸わなきゃ、学食で飯食えんじゃん。二箱吸わなきゃ近くの定食や金鯱(きんこ)でランチ食えんじゃん」というので1、2ヶ月で止めてしまった。煙で腹は膨れんからなぁ。