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『パンズ・ラビリンス』 生きてくのは苦しいことだ

B0012EGL4M.jpg『パンズ・ラビリンス』(2006) EL LABERINTO DEL FAUNO 119分 メキシコ/スペイン/アメリカ

監督:ギレルモ・デル・トロ 製作:アルフォンソ・キュアロン、ベルサ・ナヴァロ、ギレルモ・デル・トロ、フリーダ・トレスブランコ、アルバロ・アウグスティン 製作総指揮:ベレン・アティエンサ、エレナ・マンリケ 脚本:ギレルモ・デル・トロ 撮影:ギレルモ・ナヴァロ 音楽:ハビエル・ナバレテ
出演:イバナ・バケロ、セルジ・ロペス、マリベル・ベルドゥ、ダグ・ジョーンズ、アリアドナ・ヒル、アレックス・アングロ、ロジェール・カサマジョール

 この映画を観始めて数十分、こりゃスペイン内戦の知識がないとダメだなってわけで調べ始めた。オレのスペイン内戦について知っていることはパブロ・ピカソの『ゲルニカ』だけ。そもそもスペインといえば闘牛と故天本英世が愛した国だと言うことぐらいしか思い浮かばない。

 スペイン内戦は1936年から1939年にかけて繰り広げられた。左派の人民戦線政権に対し、右派のフランコ将軍が反乱を起こしたことで始まった。ドイツ・イタリアのファシズム政権がフランコ将軍率いる反乱軍を支援し急速に勢力を拡大する一方、左派側はソビエト連邦=共産主義側から支援を受けるが内部分裂してしまう。で、最終的にフランコ将軍側が勝利し1939年に政権を取る。だが民族紛争も要因であるなどの理由で事態は完全には終結せず、人民戦線の一部は山間部に逃れゲリラ化するなどして抵抗を続ける。
 映画の舞台は1944年の内戦終結後。主人公の少女オフェリアは臨月の母親と共に、母の再婚相手の政府軍大尉がゲリラ討伐を行っている山間部の館兼基地へとやって来るところから始まる。
 第二次大戦映画ででスペインについてはあまり出てこないし、フランスと国境を接するスペインにドイツ・イタリアが侵攻しなかったのをちょっと疑問に思ったことがあったが、スペインが同盟国までは行かないもののファシズム寄りだったからか。ゲリラがノルマンディ上陸作戦のニュースを知って喜んでいるのは反ファシズムの共産主義側だったからと。
 でまあ、ここら辺で映画を再開すれば良かったのだが、人民戦線政権は1931年に王政から共和制になって誕生した物との記述があったことから、そういえば大航海時代のスペインは王国だったよなってんで歴史を遡ると、いろいろと複雑で面白いのな。ちなみに国民の大半がカトリック教徒。劇中で葬儀が行われるがこれを取り仕切るのは当然カトリックの神父。

 大尉は情け容赦ない冷酷なファシスト的軍人として描かれている。だが、実は心に弱い部分があり、名誉の戦死を遂げた父親に対し強いコンプレックスを感じている。誇り高く軍人足らんと強迫観念があるがゆえに冷酷で心にゆとりはない。ひげを剃っているシーンでは、一歩踏み間違えれば崩壊してしまう危うさを示している。
 そんな大尉に母親はすでに支配されてしまった。心を許せるのは一人の召使いだけとなったオフェリアの前に獣の下半身をと角を持つ牧神パンが現れ、彼女の正体は地下の国のお姫様だと告げる。地上に憧れたお姫様は国を抜け出して地上に出たが、記憶を失い飢えや病に苦しんだあげく死んでしまい、彼女はその生まれ変わりだというのだ。そして、満月までに三つの試練を乗り越えれば姫として王国に帰れるというのだ。
 試練を乗り越えるというのは英雄譚などのファンタジーには多い。大概の場合試練は三つの気がする。ファンタジーRPGでも三つのクエストをこなすと次に進めるというのが多い気がするが単なるイメージか?とりあえず三つのというのは多すぎず少なすぎずで切りのいい数なのだろう。映画も三部作ってのが多い。ミシュランは三つ星だし、徳川は御三家で、食事で重要なのは三大栄養素で、結婚式で来賓の挨拶に登場するのは三つの袋だ。
 二つ目の試練で、オフェリアが禁を破ってブドウの実を食べてしまいパンから見放されるのは、アダムとイブなんだろうかと考えるとスペインとカトリックの関わりからも宗教映画に思えてくる。地下の国とは天国でオフェリアがそこに到達するまでの物語。他人のではなく自分の血を流すというのはイエス・キリストの受難か。
 お姫様が地上に出て、地下の国にはなかった飢えや病気に苦しむというのは、地上=現世ってことか。生きていくこと自体が苦しみである現世を、死んでもまた生き返る輪廻転生を続け、解脱することでその苦しみから解放される。ああ、これじゃ仏教か。
 キリスト教じゃ輪廻は異端だから、キリスト教を題材とした宗教映画という見方が怪しくなってくるがまあいい。政府軍とゲリラの戦いは背景であって、オレが調べた意味はあまりなくなってくるが調べることが楽しかったんでこれもまあいい。この調べることが楽しいという感覚が中高生の頃にあったらもっとマシな成績だったんだろうが、悩みとか抱えがちなあの時期を無駄に呑気に過ごせたんでこれもまあいい。

 映像的には悪趣味さも含めてテリー・ギリアムを思わせる。どこまでが現実でどこからが非現実かを混乱させるところも似ていて、オレはそう思わないがこの作品をもう一つの『未来世紀ブラジル』と考えることも可能だ。
 分類はファンタジー映画だが、小さな子供には観せない方が良い。大人でも残酷なシーンが苦手な人はところどころちょっとつらいだろう。
 英雄としての死ではなく、無駄死にというか意味のない単なる死を得た大尉は幸せだったんだと個人的には思う。

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