『第3逃亡者』(1937) YOUNG AND INNOCENT 84分 イギリス
監督:アルフレッド・ヒッチコック 原作:ジョセフィン・ティー 脚本:チャールズ・ベネット、エドウィン・グリーンウッド、アンソニー・アームストロング 撮影:バーナード・ノールズ 音楽:ルイス・レヴィ
出演:デリック・デ・マーニイ、ノヴァ・ピルブーム、パーシー・マーモント、エドワード・リグビー、メアリー・クレア、ジョン・ロングデン、ジョージ・カーズン、ベイジル・ラドフォード
何で邦題が『第3逃亡者』なのだろうか?原題の『YOUNG AND INNOCENT(「若くて無垢な」だからヒロインのこと)』とはまるで関係ないし、主人公の青年が三人目の逃亡者って訳でもない。
有名女優が自宅近くの砂浜で水着姿のまま死体で発見される。見つけたのは、亭主から浮気相手と疑われていた若い音楽家。ところが死因は溺死ではなく、コートのベルトで首を絞められたもの。青年は逮捕され、鍵を握るコートは数日前にドライブインで紛失していた。彼に付いた弁護人はまるで頼りにならず、このままでは有罪間違いなしと考えた青年は、裁判所からの脱走に成功する。
あまりにも簡単に逃げすぎだが、ここで時間を使うよりは早く主人公をヒロインと会わせたいので軽く終わらせたのだろう。そして逃走中に知り合ったのはこの事件を担当している警察署長の娘。勝ち気で救急医療を身につけている彼女は、青年の無実を信じて、コート探しに付き合うこととなる。
被害者の女性の死体を見つけた二人組の若い女性が叫び声を上げるところが、砂浜で鳴くカモメのカットに置き換えられている。ショッキングなのはこのシーンぐらいで、全体的には青年とヒロインの逃避行と言うにはコミカルなコメディよりのサスペンスとなっている。
ヒロインが乗っているのがオンボロ自動車でガタガタと走っているのだが、時にパトカーとカーチェイスを繰り広げたりとなかなか頼もしい。もちろん、まともに走ったらたちまち追いつかれてしまうが、パトカーの行き先を機関車やトラックが塞ぐドタバタタッチ。最後には派手に壊れるが、ここがアドベンチャー映画ばりにスリリング。
ヒロインの叔母の家に寄ったら、そこの娘の誕生日会の真っ最中。叔母は二人をあれこれと構ってきてなかなか抜け出せない。そこで主人が気を利かせて妻を鬼にして目隠し鬼を始める。ハンカチで目隠しをされ視界を奪われた妻。「さぁ、今の内に出ていきな」ってことだ。ドライブインで唐突に起こる集団のケンカ、ヒロイン一家の食卓は弟が4人もいてあれやこれやの一騒ぎ、などオレ的に好みのシーンが満載だ。登場するキャラクターもちょっとおかしな連中が多くて、二人を追ってくるデコボココンビ的な二人の制服警官や、問題のコートを「ある男からもらった」と着込んでいる浮浪者のジイさんなど個性的だ。
ついにコートにたどり着いたが、ベルトは抜き取られていて、代わりに青年が行ったこともないグランド・ホテルのマッチがポケットに入っていた。もしや犯人はグランド・ホテルにいるのではないだろうか。「その男は目をバシバシと激しく瞬きをするんだ」と唯一犯人の顔と特徴を知っている浮浪者のジイさんをホテルに連れていく。
主人公はホテルの外で待ち、あつらえた衣装にすっかり着られたジイさんとヒロインは、取りあえず人の多いダンスホールに入る。
ホテルのロビーからカメラがクレーンで移動して壁をすり抜けダンスホールへと入っていく。お茶を飲んでいる人やダンスをしている人の上を通り過ぎて、一番奥で演奏をしている楽団へと近づいていく。そしてドラムスの顔のアップに。その男は、目をバシバシと連続で瞬きをした。これが1カットで撮られていて実にヒッチコック的に大胆なカメラワークである。ここで観客には誰が犯人か分かるが、ヒロインとジイさんは男の存在になかなか気づかない。ここのサスペンス感はさすがヒッチコック。そもそも、はっきりとした殺害シーンはない物の、誰が女優を殺したのかは観客には最初から分かっている。犯人当てをするミステリーじゃなくて、やっぱりサスペンスなのだ。
それにしてもヒロインは何で会ってすぐに主人公の無実を信じたのだろうか。やはり主人公が美男子だから?もしも不細工だったらあっという間に通報されて、逮捕されたんだろう。良い男は得だ。美人の場合も得なんだろうな。
無実の男女が犯罪に巻き込まれて警察などに追われる中、自らの無実を証明しようとするヒッチコックお得意のパターン。
前作『サボタージュ』が少々後味の悪い作品だったが、こちらはロマンスとコメディ色が強く、気楽に楽しむことが出来る。