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『士魂魔道 大龍巻』 これぞ娯楽特撮時代劇

B000BN9AE8.jpg『士魂魔道 大龍巻』(1964) 108分 日本

監督:稲垣浩 製作:田中友幸 原作:南条範夫 脚本:木村武、稲垣浩 撮影:山田一夫 美術:植田寛 編集:岩下広一 音楽:石井歓 特殊技術:円谷英二
出演:市川染五郎、佐藤允、夏木陽介、三船敏郎、星由里子、久我美子、水野久美、草笛光子、平田昭彦

 不勉強にしてこの作品のことは知らなかったが、NHKのBS2で観てその面白さに驚いた。
 大阪城夏の陣から物語が始まり、豊臣側残党が豊臣の隠し財産を狙うという娯楽時代劇。殺陣は大立ち回りのチャンバラ系で、当時の東映時代劇に劣る面もあるが、それをカバーするのが東宝自慢の特撮陣。なんたって特技監督が特撮の神様円谷英二だ。ファーストショットからして大阪城のミニチュアセット。これが良くできている。そこへ徳川軍勢が大砲を撃ち込む。ドッカンドッカン爆発する大阪城。こんなオープニングの時代劇は観たことがない。
 主人公は豊臣軍勢の侍深見重兵衛(市川染五郎)。大阪城落城を前に潔く切腹して果てようとするが、豊臣秀吉の孫である男の子を連れて逃げようとする小里という女性と出会ったことから運命の歯車が動き出す。そこへ襲いかかる二人組の伊賀忍者。いきなり忍者かよ!身は軽いし煙玉を投げまくると、さすが忍者。重兵衛は一人を切り捨てるが残りの一人には逃げられる。この生き残った忍者はくのいちで、殺された忍者は彼女の父親だった。こうして、重兵衛は父の敵として狙われることにもなる。
 守るべき人、仇討ち、そして宝物と、娯楽作品の王道とも言えるストーリー。だが、一本道のストーリーではなく、同じく豊臣方で生き残ってしまった侍(佐藤允)や、侍から町人になって商人として成功した重兵衛の友人、豊臣を裏切ってのし上がろうとする悪党どもなど、様々な視点を用いて描かれている。重兵衛の友人が商人として成功する方法が、ひさしを貸して母屋を取られるを地で行っていて笑った。
 主人公を演ずる市川染五郎が松本幸四郎に似てるなぁ。歌舞伎界はいろんなところで血が繋がっているから、親戚なんだろうかと思って調べてみたら、後に九代目松本幸四郎を襲名していた。似てて当たり前、つか本人じゃん。でも、本人と言われると目元とか違ってないかと思うがまあ知らん。パッケージ写真の一番左端にいるのがその市川染五郎。
 オープニングクレジットで他の出演者が連名で表示されるのに、一番最後にただ一人一枚看板で書かれているのが三船敏郎。でも、出演シーンは少なく、しかも元豊臣側の大名で賞金首として逃亡中なため虚無僧に変装しているので、前半では素顔が写るシーンは少ない。ゲスト出演だな。そのくせ、終盤では美味しいところをあらかた持っていってしまう。最後は「善も悪も、この大自然の前では無に等しい」とテーマを一言で語る。でも、三船敏郎ならば許してしまう不思議。
 えっ、タイトルの大龍巻はどうしたんだって?それはちょっと待ちねぇ。とにかく、登場する女優さんのキレイなこと。星由里子、久我美子、水野久美と東宝のスター女優が勢揃いだ。星由里子は加山雄三の『若大将』シリーズの印象が強いが、時代劇姿も似合う。可憐でいて心が強いといった感じ。出番は少ないが草笛光子の尼さんも凛々しくてさすが。
 監督の稲垣浩は『血煙高田馬場』(1937)をマキノ正博と共同監督したり、板東妻三郎版、三船敏郎版両方の『無法松の一生』を監督した名監督。時代劇を中心に活躍した人だ。
 そして映画のラスト。小判を輸送中の徳川の一行を豊臣側残党が襲い、小判を奪い取る。そして、アジトである山中の小屋に戻るが、内輪もめを始め醜い争いとなる。そこへ襲いかかるのが大龍巻。最初は強風とその風音が鳴る中で物語は進行し、徐々に緊張感が強まっていく。そして、大地の彼方から全てを吹き飛ばし舞い上げてしまう大龍巻が画面に登場する。人や馬はもちろん、小屋も樹木もあらかた舞い上げていく様子はさすが円谷特撮の見せ所。『空の大怪獣 ラドン』(1956)のラドン襲来のシーンではその巨大な翼が巻き起こす強風で民家の瓦が一枚一枚はがれて飛んでいくミニチュアシーンなどが有名だが、この大龍巻も負けてはいない。シーンとしては短いが、ただ単に風で吹き飛ばされるのではなく、ちゃんと宙に巻き上げられているように見えるのだが、一体どうやって撮影したのだろうか。見事。当時の特撮技術を考えれば、観客に与えたインパクトは『ツイスター』(1996)にだって負けていない。
 三船敏郎にセリフで言われてしまったが、「善も悪も、人も金も大自然の前では無に等しい」。生き残った三人は荒野を前に歩き始める。そして徳川三百年の新たなる時代が始まったのだ。

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コメント (8)

オンリー・ザ・ロンリー:

意外な点が二つ。先ず最初に東森さんがこの手の物を観るとは(悪口ではない。私は公開当時、これは東宝の正月映画で観てるんで)。二つ目は歌舞伎の世界に疎い点(笑)。歌舞伎のみならず多彩に旧染五郎時代から活躍しているのに。私は若い頃の彼は野性味がありながら(野蛮人の顔つきは今も変わらず)どこかナイーブな面が好きでした。
東宝は時代劇でも可愛子ちゃんオン・パレードで良いな。同監督で旧染五郎が出た作品で「野盗風の中を走る」は「七人の侍」だけが東宝の時代劇ではないぞとばかり稲垣監督は言いたいのか東森さん恐らく気に入る筈。もう一つの稲垣・旧染ではレンタルVHS・DVDはないけど「秘剣」(時代に遅れて来た狼・下級武士。最後の決闘シーンは三船・仲代のなんでしたっけブシュッーの用心棒?椿三十郎を凌駕する)は秋以降ならDVDお貸し出来ます。三作品とも一昨年稲垣生誕百年記念で近代フィルム・センターで上映しBS(録画済み)でもやりました。さてさてこのコンビで史上最低なのは「我楽太」(失念、がらくた)。ヒッチコックの「鳥」のパクリで話になりません。試写会で見ましたが一般公開したのかしら。何故ならネットで殆んど出ませんから。

東森時音:

得意分野はハリウッドB級系ですが、映画ならば大概なんでも観ますよ。3月に引っ越してからBS2が観られるようになり、このところ時代劇が放映されていたので楽しんでいます。
歌舞伎とかの伝統芸能は確かによく分かりませんね。落語家なんかも誰が誰やらよく知りません。松本幸四郎も私がその存在を意識した時にはすでに松本幸四郎を襲名済みでしたし、歌舞伎役者の名前と言うよりはごく普通の名前っぽいので本名だと思ってました。松本幸四郎のフィルモグラフィーを調べましたが、市川染五郎時代の出演作はこの『大龍巻』が初めてでした。
『秘剣』の粗筋を読みましたが面白そうですね。稲垣浩は『宮本武蔵』シリーズや『無法松の一生』オリジナル・リメイク版ぐらいしか観ていないので、もっともっと観ていきたいと思います。

オンリー・ザ・ロンリー:

BSが観られるとは羨ましい。「秘剣」をやると良いですね。最後の長門との決闘シーンはカメラも気に入っています。BSは以前入っていましたが止めちゃいました。又入るかな。
松竹の戦国時代の農民の悲劇を描いた「笛吹川」にも現幸四郎は出ていますよ。この作品は木下恵介が余程採用したかったのか白黒ですが一部が人着の絵付けがしてあります。例えば戦場で燃える草木の炎を人工着色したり、固定された雲、遠景で見る豪農屋敷の火災・・・。中学で団体で鑑賞しに行った50年も前の懐かしい思い出です。もっと前は島崎藤村(でしたよね)の「破壊」、桑野みゆきと「僕たちの失敗」。ビデオもDVDもある訳ないね。まぁ駄作は「がらくた」のみか。
そうそう東宝創立??周年記念のオール・スターによる「忠臣蔵 花の巻 雪の巻」では父親が貧しく病弱な為に義士の仲間に入れないから息子(現幸四郎)を行かせる。門前で子供過ぎるから駄目と断られる。ならば「主悦(大石の息子)は何故許されるのですか。私は大石様の子に生まれたかったー」と雪上に泣き崩れる。染五郎、もっとも得意な場面である。討ち入りのチャンバラ・シーンでは一切台詞なし。ニヒルで体型はスリムで実に凛々しい。本懐を遂げ義士は町を行く。染五郎、一点を見つめるのみ。うーん、稲垣はこれらに期待し「秘剣」に進む。襲名前の染五郎いやあー実に良いな!。

東森時音:

3月に引っ越すまではスカパー!に加入していて、『日本映画劇場』や『シネフィル・イマジカ』などを契約していましたが、放映数に観る数が追っつかなくて録画しただけでほったらかしのが結構あります。BS2ぐらいの放映数だと消化できるのでちょうどいいですね。
『笛吹川』のDVDはレンタルになっているようですが、先ほど近所のGEOに返却ために行ってきましたが置いてありませんでした。『大龍巻』もレンタルがあるはずですが、これもなし。邦画のコーナーはテレビドラマがほとんどで、時代劇は棚一つ分だけ。ニーズの関係でしょうがないんでしょう。
ネット経由でのオンラインレンタルの利用を検討してみます。
『忠臣蔵 花の巻 雪の巻』はあまりにすごい豪華キャストに驚きました。大石内蔵助が松本幸四郎となっていて、下の方に市川染五郎とあるので「あれ?」と思いましたが、先代の松本幸四郎なんですね。中村萬之助という名前があったのでクリックしたら現・中村吉右衛門でしかも現・松本幸四郎の弟。うーむ、やっぱり歌舞伎界のことは複雑すぎてよく分かりません。現在の七代目市川染五郎もいずれは十代目松本幸四郎を襲名するんでしょうか。

前半であれやこれやのドラマがあって、でも最後に大自然の驚異が登場して、すべてをしっちゃかめっちゃかにする映画が大好きです。エリザベス・テイラーの『巨象の道』とか。

東森時音:

とみさわ昭仁さん

『巨象の道』というのは観たことがありませんが、粗筋を調べてみたら紅茶農園の経営やらコレラの流行などを苦労して乗り越えてさあラストと思いきや「突然象の大群が邸の城壁を押し破って侵入してきた。」なんだそうですね。
ギリシャ神話の演劇では話がごちゃごちゃで収集つかなくなったところに突然と神様が現れて終わらせてしまうデウス・エクス・マキナという手法があるそうですが、それと似たところがある気がします。
あるいはアンケートが不人気で突然打ち切られたコミックの投げっぱなしのラストにも通じる物があるかと。

>突然象の大群が邸の城壁を押し破って侵入
あはは、本当にそんな感じです。散々伏線を張ったり、思わせぶりな人物が出て来たり、三角関係でドキドキさせられたりしたのに、最後はぜんぶ象が蹴散らすんですよ。すごい映画です。機会あったらぜひ見てください。
8時だよ全員集合のコントで、最後に屋台くずしでセットが崩壊して、舞台転換のBGM(盆回し)が流れるのにも似てますね。ドリフ・エクス・マキナですよ。

東森時音:

とみさわ昭仁さん

張り巡らされた伏線が見事に収束していくラストというのが一番好きなんですが、ドリフの爆発オチも好きですね。ってか、ドリフ・エクス・マキナという単語はそのまま使えそうですね。
『8時だよ全員集合』の前半コントラストで突然舞台の上に本物のパトカーが登場して走り回ったあげくジャンプして建物の屋根に飛び乗ったところで「テテテ、テッケテ」で終わるというのを覚えています。いくらなんでも大がかりすぎるので記憶の中で脚色されているのでしょうが、あの番組は色々無茶でした。

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