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『穴』(1960) ジャック・ベッケルの“穴”

B000091LFO.jpg『穴』(1960) LE TROU 124分 フランス

監督:ジャック・ベッケル 製作:セルジュ・シルベルマン 原作:ジョゼ・ジョヴァンニ 脚本:ジャック・ベッケル、ジョゼ・ジョヴァンニ、ジャン・オーレル 撮影:ギスラン・クロケ
出演:ジャン=ケロディ、フィリップ・ルロワ、ミシェル・コンスタンタン、マルク・ミシェル、レイモン・ムーニエ、カトリーヌ・スパーク

『デッドロック』シリーズや『プリズン』(2006)と最近は刑務所映画を観る機会が多かったので、その締めとしてこの作品を選んだ。いわゆる『ジャック・ベッケルの“穴”』である。刑務所映画にして脱獄映画。モノクロの画面が刑務所を映し出す。
 本編の中でカメラが刑務所から出るのはたった1シーンでしかも短時間。少女が一人面会に来るが、それ以外の出演者は男ばかり。基本的には監房の床に穴掘って、地下室や通路を通り抜け、下水道を彷徨うってな話。脱獄物としてはスタンダードなまでにスタンダードで余分な物はほとんどないが、これが面白くてたまらないからやっぱ映画は止められない。
 歯ブラシの柄に鏡の破片をくくりつけた看守の動きを探るための道具。金属製ベッドの足。薬瓶と灰皿にあったタバコ消し用の砂、金ノコなどが脱獄の道具となる。特に金ノコは金格子だろうとなんだろうと切ってしまう万能ぶり。オレも刑務所にはいるときには忘れずに持って行こう。
 床のコンクリを叩き削る音、金格子を切る音、看守の足音、トイレの水を流す音、そして息づかい。音楽のない映画の中で、一つ一つの音が意味を持ち緊張感を高めていく。
 そうして5人の男たちが脱獄計画を進めていく。トンネルが落盤を起こして一人が生き埋めになったりする、がそれらを乗り越えて自由はもはや目の前にある。
 ここで他の棟から移されてきた新顔を中心とした囚人同士や、刑務所長・看守との心理的駆け引きの意味が分かってくる。物わかりの良さそうに見えた所長は老獪なやり手で、囚人たちはその手のひらで踊っていたのか。新顔をその監房に送り込んだことすら、全てを見通してのことだったかに思えてくる。だが、ヤツらがこれで諦めたとは思えない。必ずまたやるはずだ。

 冒頭のシーンでシトロエンCV2のボンネットを開けて工具で整備していた男が顔を上げてカメラに向き合う。
「やあ、俺が実際に体験した事実を元に友人のジャック・ベッケルが映画を作ってくれたぜ。まぁ観てくれ」
 てなことを言うのが、原作者にして脚本にも名を連ねているジョゼ・ジョヴァンニ。この人は、元々本物の犯罪者で、刑務所収容歴があり脱獄計画にも関わったことがあるとか。それらの体験を元に小説を書き始め有名になった人。学生時代にジョヴァンニが原作・監督を務めた『掘った奪った逃げた』(1979)という犯罪者が金庫に向けてトンネルを掘って、お宝を奪って、そして逃げたというまんまなタイトルの映画を観せてもらったときに、「フランスの安部譲二ってとこですか」って言ったら、「うーん……」って微妙な返事をされた。
『冒険者たち』(1967)の原作者というのが最も有名な肩書きだろうが、後には監督業にも乗り出して、割と面白い映画を撮っている。特殊部隊物の『狼たちの報酬』(1986)なんか、もう一度観てみたいんだが、レンタル屋でも見かけなくなって久しい。DVDにはならんだろうなぁ。

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コメント (8)

ジョゼ・ジョヴァンニって、名前を意識したことがなかったですが、いまフィルモグラフィを見たら「暗黒街のふたり」を撮ってるひとだったんですね。わたしが初めて自分の小遣いで映画を見に行った作品です。頭のわるい中学生にはチンプンカンプンな内容だったけど、アラン・ドロンがギロチンにかけられるとき、Yシャツの襟をハサミでじょきじょき切られるのが異常に恐ろしくて戦慄した覚えがあります。

東森時音:

とみさわさん
初めて自分の小遣いで観に行ったのが『暗黒街のふたり』ってのは渋いですね。それとも何かの同時上映だったりするのでしょうか?
私は学生時代に、このスタッフこのキャスト、そしてこのタイトルならばギャング物に違いないと思いこんで観たところ、あまりの鬱展開に打ちのめされました。あのギロチンは恐ろしくかつほんとに救いようがないラストですね。

いや、単独ロードショーでしたが、やっぱり自分もギャング物(ゴッドファーザーが大ヒットした後ですし)だと思い込んで見に行った覚えがあります。あと「ギロチン」が出てくるらしい!っていうのも中学生男子の興味はおおいにそそりましたね。それで、結局あのラストでしょ? 気持ちがズドーンと暗くなって家に帰りました。

東森時音:

出所してきた若者が真っ当な生き方をしようとしてささやかな幸せを手に入れても、妻は死ぬわ偏執狂的刑事につけ回されるわでどんどん不幸になっていきますからね。私は大学時代に観て気持ちがズーンとなりましたが、中学生だとさらにきつかったことでしょう。
今と違って映画に関する情報も少なかったですよね。『ロードショー』などの映画専門誌もかなり嘘や未確認情報が混ざっていましたし、予告編でさんざん煽っておいて本編を観たら「なんじゃこりゃ」ってのも多かったです。今になって振り返ると、それも良い思い出かも知れませんが。『メガフォース』の予告編には騙されました。あの予告編はもう一度観てみたいものです。いや、本編は本編で大好きなんですけど。

 この記事でジャック・ベッケルという監督に興味を持って、早速いくつか見てみました。「肉体の冠」「現金に手を出すな」「モンパルナスの灯」そして「穴」の4本。

 「モンパルナスの灯」はジェラール・フィリップのスーパー男前っぷりや、パリの粋な雰囲気(実際どうなのかは知らないですけど)が印象に残る、なかなか面白い映画でした。

 でも4本の中で一番面白かったのは「穴」。轟音を立てて掘り進める脱獄、って新鮮ですね。実際にコンクリを打ち壊しつづける映像の迫力。
 五人の男のキャラクターもよく感じられたし、中くらいのスケールだけど小気味良くて面白い映画でした。

 ところで今更ですが、僕のブログで「お気に入り」にこちらのブログのリンクを貼らせていただきました。まだまだ映画ファンとしてはさほど見ていませんし、こちらの紹介をきっかけに見たいものもたくさんできました。
 最近だと「ボディスナッチャー」関連でドン・シーゲル監督も見てみようかな、と思っています。
 今後もよろしくお願いします。

東森時音:

行かない旅さん

そちらのブログも欠かさず読ませていただいています。落語や漫才に関する知識はほとんどありませんが、先だってのZAZ特集は無人島に一本だけ映画を持って行けるとしたらZAZの『トップ・シークレット』を選ぶ私には実に楽しませてもらいました。でも、自分とはまた違った視点から捉えていらっしゃるので、余計と面白く感じられました。
行かない旅さんが何度も取り上げているルネ・クレールは『巴里の屋根の下』しか観ていないので不勉強を感じています。レンタルDVDがほとんどないんですよね。ビデオならあるようですが、田舎在住なので名作系は貧弱な品揃えで残念です。

オンリー・ザ・ロンリー:

今晩は、東森さん。この作品観よう観ようと思いつつうん十年経過。観たくなりました。女性は面会に来る少女のみとありますがカトリーヌ・スパークですね。私の子供の頃のアイドルです。代表作は「太陽の下の18才」。

東森時音:

オンリー・ザ・ロンリーさん

残念ながら『太陽の下の18才』は観ていませんね。
調べてみるとカトリーヌ・スパーク出演作は『輪舞』と『ダンケルク』しか観ていません。『輪舞』は美女総出演な上にジェーン・フォンダがくどかったせいか印象にありません。
『ダンケルク』ではジャン=ポール・ベルモンドとの主演ですからはっきり覚えています。
『穴』のカトリーヌ・スパークは儚げに見えて実は姉を平気で裏切っている美少女ですが、『ダンケルク』も悲劇のヒロインのようで実はなかなか一筋縄ではいかない女性でした。やはりフランス女は奥が深いってことでしょうか。

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