『暗殺者の家』(1934) THE MAN WHO KNEW TOO MUCH 76分 イギリス
監督:アルフレッド・ヒッチコック 脚本:エドウィン・グリーンウッド、A・R・ローリン、D・B・ウィンダム
出演:レスリー・バンクス、エドナ・ベスト、ピーター・ローレ、ノヴァ・ピルブーム
クレー射撃の大会に出場するために、家族旅行も兼ねてスイスを訪れた娘を含めた三人家族。楽しい旅行になるはずだったのが、目の前で殺害された友人のスキーヤーから極秘のメモを託され、要人暗殺に関する陰謀に巻き込まれる。
原題の『THE MAN WHO KNEW TOO MUCH』から分かる通り、ヒッチコック自身がハリウッドでセリフリメイクした『知りすぎていた男』(1956)のオリジナルだ。
秘密を知ってしまったために、暗殺団によって娘を誘拐されてしまう。そのため警察に頼むことが出来ない夫婦は、他に頼る者は無しと自分たちの手で娘を取り返すべく奮闘する。
表で調べ回って活躍するのは夫の仕事で、妻は自宅で電話番をしているが、後のヒッチコック作品ならば、もっと妻にも比重がいくのだろう。
謎の文句を調べていくと、太陽礼拝堂に行き着いた。
仲間と二人で中に入った二人は、ご婦人ばかりの礼拝堂で怪しまれないように歌でセリフのやり取りをする
「列の先頭にいる女に気をつけろ~♪」
「えー、どの女~僕には見えないよ~♪」
……余計、目立つと思うんだが。
こんなちょっとしたくすぐりのギャグ抜きではヒッチコックは語れない。
終盤の音楽ホールでは、妻が会場を見渡して狙撃手を必死に捜す。
狙撃の合図になる音楽の一番盛り上がる箇所に演奏は近づいていく。その時、桟敷席の垂れ幕から銃口が音も立てずに滑り出てくる。銃身が短かったので「拳銃かよ!」と思ったが、陰に隠れていたのはモーゼル自動拳銃。なるほど、小口径高速弾を使うモーゼルならば拳銃よりも精度が良いし、ライフルのように長くないので目立たない。中距離での狙撃ならば使えるのかもしれない。
そして、ついにシンバルが打ち鳴らされ、観客席から悲鳴が……
生演奏に観客が聞き入る中で、静かに進んだスリリングな暗殺シーンから打って変わって、隠れ家に立てこもった暗殺団と警察による激しい銃撃戦が行われる。
ハワード・ホークスの『暗黒街の顔役』(1932)にも似たこの銃撃戦は、盛り上がるし面白いので、決してつまらないわけではない。だが、その前の暗殺シーンがクライマックスとして存在しているので、銃撃戦自体は映画において冗長なパートとなっはいないだろうか。妻がクレー射撃の名手という設定を活かしたところでは思わず喝采を挙げてしまった。
全体的には主人公夫妻よりも、暗殺団のボスである小柄なピーター・ローレが凄みを感じさせ印象を残す。
そもそも英国情報部の情報員が、イギリスの音楽ホールで行われる暗殺計画について、スイスで何を調べてたんだろうか? メモの内容も調べればすぐに分かるんだから、もっと詳しく書くか、ちゃんと暗号を使うかどっちかにしろよ。
暗殺団も、計画がバレたんならば中止にするとか変更するとか、娘を誘拐するよりも先にやることがあるんじゃないか。
などといったことを気にしていたら映画は楽しめない。