『サイレント・ムービー』(1976) SILENT MOVIE 88分 アメリカ
監督:メル・ブルックス 製作:マイケル・ハーツバーグ 脚本:メル・ブルックス、 ロン・クラーク、ルディ・デルカ、バリー・レヴィンソン 撮影:ポール・ローマン 音楽:ジョン・モリス
出演:メル・ブルックス、マーティ・フェルドマン、バーナデット・ピータース、ドム・デルイーズ、シド・シーザー、ハロルド・グールド、アン・バンクロフト
ずいぶんと昔のことだ。オレとサークルの先輩2人で片方の先輩の下宿で飲み会をやることになった。ついては、それぞれお勧めの映画のビデオを持ち寄って酒を飲みながら観ようではないかという提案がなされ、即刻可決された。
揃ったのはイギリスの特殊部隊SASの活躍を描いた『ファイナル・オプション』、フランスの中年男が執念の復讐を遂げる『チャオ・パンタン』、そしてオレが持参した『サイレント・ムービー』だった。
ビデオの再生が終わった瞬間の空気は実に微妙だった。というか、上映中から微妙だった。先輩たちは時折笑ったが、腹を立てながら笑っている様な異様な笑い声だった。
まぁしょうがないなぁ、メル・ブルックスだもん。しかも『サイレント・ムービー』だもん。
『サイレント・ムービー』はタイトルの通りに無声映画仕立てで作られている。それ自身は悪いアイディアではないと思うのだが、他がちょっと・・・オープニングの妊婦を乗せたため車がウィリー走行になるところからどうにも笑えそうで笑えない。
まずテンポが悪い間が悪い、画面の構図が決まってない。笑えるかな?とはなるが映画の方から観客の足をすくってしまう。
メル・ブルックスなので例によって野暮ったい。その野暮ったさがメル・ブルックスの魅力でオレが大好きな点なのだが、さすがにこの作品はちとつらい。メル・ブルックスにはやはりしゃべりのギャグが欠かせない。言葉を封じられたメル・ブルックスの動きはもどかしく笑えない。
思い出して欲しい、優れたサイレント映画のコメディアンたちを。バスター・キートンやチャールズ・チャップリン(とはいえチャップリンは好きじゃないが)のスポーティーでスピーディーでそして華麗なる動きを。ただ歩いているだけのシーンが軽やかで、ドタバタのシーンも実は計算され尽くした緻密な動きになっている。その動きの軽やかさが、動きの緻密さが悲しいかなメル・ブルックスにはないのだ。
しかし、あえて言おう、オレはそこが好きだ。
1976年にもなって今さらサイレント映画に挑戦し、あえなく失敗しているところが好きだ。
劇中で映画を作ることになり、実在する映画スターに出演を依頼しに行くが、そのスターの中に実力派女優アン・バンクロフトを出演させているのも好きだ。「彼女は名女優だからな」って、あんたそれ実生活での奥さんじゃん。
主観においては好きな作品なのだが、客観においてはおそらく駄作であろう。そんな内なる葛藤も、映画を観たり、それについて書いたりする上での楽しみの一つだ。
脚本には後に『レインマン』などで監督としても活躍するバリー・レヴィンソンの名がある。ちなみに同じくメル・ブルックスの『新サイコ』(1977)では脚本だけではなくホテルのボーイ役としてちょこっと出演している。