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『ダイヤルMを廻せ!』 Mは殺人のM

51WM545RKGL.jpg『ダイヤルMを廻せ!』(1954) DIAL M FOR MURDER 105分 アメリカ

監督:アルフレッド・ヒッチコック 原作:フレデリック・ノット 脚本:フレデリック・ノット 撮影:ロバート・バークス 音楽:ディミトリ・ティオムキン
出演:レイ・ミランド、グレイス・ケリー、ロバート・カミングス、アンソニー・ドーソン、ジョン・ウィリアムズ、パトリック・アレン

 Blu-rayだのHD-DVDだの、次世代DVDの話題になっている。いや、あんまりなってないかも。
 その昔、80年代後半に映像ディスクが登場した。
 この時も二つの規格が競合した。レーザーディスク(LD)とVHDである。
 オレはVHDを買った。
 「なんだ、負け組だな」と言われるかもしれない。
 だが、貧乏学生だったオレがセルソフトのみ(試験的にレーザーディスクタイトルのレンタルは行われたそうだが)の映像再生機を買ったのは、ある作品を観るためであった。
 その作品を観るには、どうしてもVHDでなければならなかった。
 だから、後悔していない。

 その作品とは、アルフレッド・ヒッチコックの『ダイヤルMを廻せ!』である。
 実のところを言うと、この作品をちゃんと観ている人は意外と少ない。というか、かなり少ないはずだ。
 「そんなことはない。ちゃんとビデオやDVDで観たぞ」といった声もあるだろう。
 だが、それらは言うならば完全版ではないのだ。
 なぜなら、『ダイヤルMを廻せ!』は、立体映画だからだ。

 VHDには液晶シャッター式のゴーグルをかけることによって、立体映像を再生することが出来た。
 もちろん、『ダイヤルMを廻せ!』は、その立体映画ソフトとして発売された。
 正確な情報ではないのだが、日本での劇場公開は通常の2D映画として上映されたようなので、日本においてちゃんとした立体映画『ダイヤルMを廻せ!』を観ることが出来たのは、VHDのみということになる。
 しかし、VHDでも一部の高級機、しかも一つ1万円程度だった記憶があるゴーグルを買う必要がある。
 ただでさえレーザーディスクに敗北したVHD。時代もまだ日本においてセルソフトが一般的でなかった頃のことだ。『ダイヤルMを廻せ!』もそれほど本数が売れていないのではないかと思う。
 で、さきほどの話に戻るが、ちゃんとした『ダイヤルMを廻せ!』はかなり少ないだろうということだ。

 3D映像というと、映画よりもテーマパークでのアトラクションで接した人の方が多いかもしれない。
 偏光グラスをかけて観る、USJの『ターミネーター2 3-D』や、ディズニーランドの今は無き『キャプテン・イオ』などだ。
 一般映画だと『ジョーズ3』や『13日の金曜日part3』、最近だとロバート・ロドリゲスの『スパイキッズ3D』などがある。
 立体映画のほとんどは、立体映像を見せ物として使っている。
 ジョーズが画面から飛び出してきたり、ジェイソンが使う凶器が飛び出してくる。
 そして、観客はキャーッと驚く。
 そんな中、オレの知る限りでは唯一そんなギミックではなく、映画の演出手段にまで高めたのが『ダイヤルMを廻せ!』である。さすが、ヒッチコックだ。
 逆に、DVDで観るとその部分がマルマルっと欠けてしまう。長回しではなく、普通にカットを割った『ロープ』みたいなモンだ。多分。
 DVDで観ても面白い『ダイヤルMを廻せ!』だが、立体で観ると「こんな使い方があったのか」とさらに面白い。
 『ジョーズ3』や『13日の金曜日part3』、『スペースハンター』などの立体映画ソフトも買って、楽しんでみていたが、映画としての完成度はもちろん、立体映像の使い方に関するセンスや演出力がまったく比較にならないほどの差だ。
 とはいえ、VHDプレイヤーはとっくの昔に壊れてしまったし、ソフトの方も売っぱらったか、実家の物置の隅でホコリをかぶっているかのどちらかだ。
 だからあんまりはっきりと憶えていないので、ちと大げさに話している可能性もある。
 ともあれ、立体のグレイス・ケリー、しかも彼女をご贔屓にしているヒッチコックが撮った彼女は、いつにもまして美しかったのは確かだ。

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コメント (6)

VHD版の立体映画化には、ヒッチコック監督の意向は汲まれてるのでしょうか。劇場では2Dでの公開だったということは、VHD化にあたって、配給もしくはビデオ会社が勝手にやったんですかね? いずれにしろ、『ダイヤルM〜』に立体映画だった過去があるなんて、初めて知りました。びっくり!

東森時音:

とみさわ昭仁

ごめんなさい、ちょっと文が抜けていました。
アメリカにおいては立体映画として公開されたのが、日本では2Dで公開されたと言うことでした。
学生時代にヒッチコックにはまって、研究書も何冊か読んだのですが、それどれにおいても「立体映画として製作された」ぐらいしか書いていないのです。
思うに、「大ヒッチコックが立体映画などという子供だましの下賤な物を撮ったなど、歴史の闇に葬り去るべきだ」と言わんばかりで、情報が少ないんですよね。
しかし、イギリスからアメリカに渡ったヒッチコックは、ユニバーサルで撮った『知りすぎていた男』や『北北西に進路を取れ』など有名作を手がける前ではありますが、すでに『断崖』や『レベッカ』『見知らぬ乗客』などを手がけていて、一流監督の仲間入りをしていたのは間違いないんですよ。
すると、プロデューサーあたりが「ヒッっちゃん。今度は立体映画撮ってよ」と命令されても拒否できるぐらいにはなっていたはず。提案はあったかもしれないが、ヒッチコック自体が立体映画に興味を持って、一本やってみるかと考えた方が自然だと思います。
その数年前には同じく密室劇のロープを、全編で数カットの長回し映画として撮っていますし、映画の新しい可能性に挑戦したのかもしれません。
まあ、面白いことが好きなひねくれオヤジだったそうですので、変わったことがやりたかっただけかもしれません。

今回の立体映画としての『ダイヤルMを廻せ!』を書くヒントとなったのはとみさわさんの「人喰い映画祭」における『ジョーズ3のエントリからでした。遅れながら、感謝の言葉を伝えたいと思います。

なるほどー、そういうことだったんですね。具体的な作品名は忘れましたが、たしかヒッチコックはサイレント時代からトーキーになったときにも音を効果的に使う映画を撮ってたと記憶しています。まさに東森さんがおっしゃるように、映画の新しい可能性という意味で新しい技術も大好きな人だったのでしょうね。

東森時音:

>>たしかヒッチコックはサイレント時代からトーキーになったときにも音を効果的に使う映画を撮ってたと記憶しています。
観ていないのですが『ヒッチコックのゆすり』(1929)のことですね。ヒッチコックにとって初のトーキーだったとか。
トーキーが登場しても、単にしゃべる映画でしかなかったのを、セリフを心理描写として巧みに使ったとか。
今となってはありきたりな手段なのでしょうが、それを最初にやってしまったんだからコロンブスの卵です。

オンリー・ザ・ロンリー:

東森さん、今日は。
昨日図書館でコレを久々に観て来ました。あらすじは解っているのに頭の体操になりました。
ただ想うに外人さんは案外「鍵」をぞんざいに扱うのですね。私だったら家の鍵(無論、車の鍵も)にはキー・ホルダーを付けますが。G・ケリーはバッグの中にある「小銭入れ」に入れる習慣みたいですが取り出しにくい筈。バッグに入れるならホルダーが付いていれば楽と思いませんか?。頻繁の度合いから言えば外出する時は施錠・解鍵の2回。電車やバスに乗ったりお茶するとしたら「小銭入れ」は頻繁に開閉。その度にキーも入っている訳だから小銭は取り出しにくい。と思いますが。もう一つ疑問に思ったのは階段のカーペットの下に鍵を隠す点。誰もがやりそうで(ドアの枠の上部も同様)あれでは間違いなく空き巣に入られる。私だったら郵便箱の中の上っ面にガム・テープで固定するとか考えますが・・。そう言い意味で原作者は庶民の日常生活が余り解ってない?。ところでこの年はG・ケリーは6本の作品に出ずっぱりみたいですが段々磨かれたのか「裏窓」の方が美貌的にも演技的にも私は好きです。最後に刑事が髭をなでなで
しこちらもホッとしました。彼が有名な?ジョン・ウイリアムズと言うのをやっと知った塩梅。どこかの作曲家ではありませんが。残念ながら私にはどこを3Dにして効果的に見せたかったのかは分かりませんでした。何しろ字幕を追うので精一杯だったので(笑)。
作品の内容とは関係ありませんが、「ダイヤル回転式」で数字以外のアルファベットはあの時代にはどのような使い道があったのか非常に興味があります。

東森時音:

オンリー・ザ・ロンリーさん

 とりあえず知っている点から。
 ダイヤル式電話機にアルファベットを振っているのは、たまに映画で見かけますがお店の宣伝ポスターなどに「123-555-CALL」なんて書かれています。「C.A.L.L」が割り振られた番号を廻していくと結果的に「123-555-3422」という番号に繋がる。番号を覚えやすくしてもらうために利用されていたようです。日本でアデランスが11-2323(フサフサ)という番号にしているようなものでしょうか。
 何かの映画ではHAWAIなどの地名と市外局番で廻すアルファベットが連動していたような記憶がありますがこちらはあいまいです。
 555-なんとかかんとかってのは、実際には555は使われていなくてフィクション専用で使われているそうです。劇中で電話番号を見せてもいたずら電話のかけようがない。映画の中に飛び込んだ少年が、シュワルツェネッガーが555-なんとかかんとかという番号に電話して、「そんな番号無いよ!」というのが『ラスト・アクション・ヒーロー』にあったような気がします。

 カーペットの下に鍵を隠しておくというのは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のオープニングでマイケル・J・フォックスがドクの家に入るシーンでもやってましたね。庶民の生活が分かっていないと言うより、分かりやすさを優先した演出ではないでしょうか。
 ヒッチコックはそれが現実的に事実かどうかよりも映画の中でどう機能しているのかに重きを置いた人でした。自分の役のこの行動は実際にはあり得ないんじゃないかと悩んだイングリット・バーグマンがヒッチコックに相談したところ、「嘘でいいんだよ、イングリット」と返したというエピソードもありますし、映画が面白くなるのならばリアルだろうがリアルじゃなかろうが気にしない人だったのだと思います。

『ダイヤルMを廻せ』は他の立体映画ほど全編の立体感にはこだわっていません。だからこそ、「ここでは」というシーンでの立体が実に効果的でした。3D版を観たのがかなり前なので記憶が曖昧ですが、ハサミやグレイス・ケリーが必死で伸ばしてくる手などサスペンス映画の技巧として使いこなしていました。

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