『ラヴ・ハッピー』(1949) LOVE HAPPY 85分 アメリカ
監督:デヴィッド・ミラー 製作:メアリー・ピックフォード、レスター・コーワン 脚本:ベン・ヘクト、フランク・タシュリン、マック・ヘノフ 撮影:ウィリアム・C・メラー
出演:ハーポ・マルクス、チコ・マルクス、グルーチョ・マルクス、イロナ・マッセイ、ヴェラ=エレン、マリオン・ハットン、レイモンド・バー、エリック・ブロア、マリリン・モンロー
ハーポ、チコ、グルーチョの3マルクスが出演しているが、チコそして特にグルーチョの出番は少なく、厳密にはハーポ・マルクスの主演作である。
マルクス兄弟作品でないことを象徴するかのように、これまでは墨で書いただけだったグルーチョの口ヒゲがちゃんとしたヒゲになっている。
ハーポは貧乏劇団の一員で食べ物調達係。調達すると言っても買ってくるのではなく、高級食料品店の前で待ちかまえていて、店から出てきた客の荷物を車まで運びチップをもらうついでにカゴから食品を例のよれよれのコートに放り込んで盗むのだ。
このコートときたらまるでドラえもんの四次元ポケットで次から次へと缶詰などが入っていく。
パトロールの警官の目から隠れたところ、たまたまその食料品店の地下倉庫に入り込んでしまう。
しめたとばかりにどんどんコートに食品を詰め込むが、いくら詰め込んでもコートはふくらむだけで一杯にならない。その中の一つにマルタ十字のマークがついたイワシの缶詰(オイルサーディン)の中味がロマノフ王朝から盗まれた100万ドルのダイヤモンドの首飾りだったことから大騒動が始まる。
学生時代に学校近くのレンタルビデオ屋にあったので借りて観て、それ以降店頭にあった試しがなく、今回のDVD化でおよそ15年ぶりに観た。
マルクス兄弟だっと意気込んで観たので、『我が輩はカモである』を始めとする他のマルクス兄弟作品と比べて大人しい内容に少々物足りなかった。大騒動が始まると書いたが、その大騒動がそれほどハチャメチャではないのだ。
今回はマルクス兄弟映画ではなくハーポ主演映画として観たので十分に楽しかった。
ストーリー自体は苦難な目に遭っている若い男女を助けるという、後期マルクス兄弟映画とほぼ同じ。今回は資金難から芝居に使う大道具や衣装が用意できず、新作ミュージカルの公演中止と劇団解散の危機に陥っている主演男優兼座長と恋人の主演女優を救うことになる。
鍵となるのはロマノフ王朝のダイヤモンド。悪女がイワシの缶詰に潜ませてアメリカに密輸した物だが、これをハーポが中味を知らずに盗み劇場に持ち込まれる。
悪女一味はハーポを捕まえて缶詰の在処を吐かせようとするが、なにしろハーポというのは一言もしゃべらないのが売りのキャラクターである。どんなに拷問をして責め立てても吐くはずがない。
そうこうしているうちに缶詰は劇場内を転々とし、ごみ箱に捨てられたあげくについには猫の餌に。
様々なギャグやチコによるピアノの演奏、そしてもちろんハーポによるハープの演奏など、ドタバタは少ないが盛りだくさんな内容だ。
字幕などで説明がないのであまり気づかれなさそうなギャグの紹介を一つ。
牛の後ろ足をやっている俳優が櫛で髪の毛をとかしながら芝居がかった大げさな口調で「イワシではなく他の食べ物をくれ」と言っているところに、ハーポがハムを渡しながら「あんただ」という風に俳優を指さすシーンがある。これはハム=大根役者という意味があるのでそれをかけたギャグ。
シルベスタ・スタローンが日本で伊藤ハムのCMに出ていたことがあるが、そのCMを来日していたマイケル・J・フォックスだかがホテルのTVで見てアメリカに伝わり、コメディアンのネタにされたらしい。
ラストはダイヤモンドを巡ってブロードウェイのビルの上で悪党とハーポが追いかけっこ。過去の作品のような派手なアクションはないが、ネオンサインを使ったりハーポが煙を吐くなどギャグは多い。
それまで語り手として探偵事務所にいたグルーチョもようやくストーリー上に登場する。
キャストにマリリン・モンローの名があるが、唐突に登場したなと思ったらすぐに退場。
映画は探偵役であるグルーチョのアップから始まるが、顔にしわが目立つ。これは他の二人も同じで老いを感じさせる。
チコが1987年生まれ、ハーポが1988年、グルーチョが1890年。1949年作品だから、一番年下のグルーチョでも60歳間近だ。
この作品を最後にチコとハーポは映画界から姿を消し、グルーチョも後に2本出演作があるだけだ。
映画界で輝き、多くの観客を笑わせ、オレを含むコメディの制作者に数多くの影響を与えたマルクス兄弟。モノクロトーキー時代を駆け抜けた彼らは、その終わりとほぼ同じく頃に映画界から去っていった。