『007 黄金銃を持つ男』(1974) THE MAN WITH THE GOLDEN GUN 125分 イギリス
監督:ガイ・ハミルトン 製作:ハリー・サルツマン、アルバート・R・ブロッコリ 原作:イアン・フレミング 脚本:リチャード・メイボーム、トム・マンキウィッツ 撮影:テッド・ムーア、オズワルド・モリス 音楽:ジョン・バリー テーマ曲:モンティ・ノーマン 主題歌:ルル
出演:ロジャー・ムーア、クリストファー・リー、モード・アダムス、ブリット・エクランド、リチャード・ルー、クリフトン・ジェームズ、マーク・ローレンス、スーン=テック・オー、デスモンド・リュウェリン、バーナード・リー、ロイス・マクスウェル
前作では登場人物の口から名前が出るだけでQ自身はスクリーンに登場しなかった。その分を取り戻すべくなのか、今回は1度だけではなく何度も登場シーンがある。やはりQあっての007シリーズだなと再確認したシリーズ第9作。
Qは秘密兵器開発を行っているQ支局の責任者。Q支局の責任者だからQなのか、Qが責任者だからQ支局なのか。おそらくは前者だとは思うのだが、ボンドの上司のMはなんでMなんだろうか?
開発といえば、今日は2週に一度の通院日。オレが通っているのは市民病院で計算の窓口に書類を出して、しばらくすると名前を呼ばれて会計の窓口で精算をする。市民病院だから窓口にもそれなりの人数が働いている。担当者は胸に名前が記載されたバッチを付けているのだが、今日の計算窓口にいたのは「開発」さんだった。他の人は例えば「鈴木」とか「田中」とか書かれているので、「開・発」ではなく「開発」で苗字なのだろう。これは「かいはつ」と読むのだろうか。書類を出したときはふーんと思っただけなのだが、精算を待っている間にどんどん気になっていった。お金を払い終わった後、そのまま帰ろうとしたが思いとどまり、「開発」さんの計算業務の手がちょっと止まった瞬間を利用して訊いてみた。
「そのお名前、かいはつさんとお読みするんですか?」
「いえ、かいほつです」
「そうですが、どうもお手数かけました」
尋ねることは尋ねたのでとっとと帆かけて逃げた。
そうかー、開発と書いて「かいほつ」と読むのか。これは訊かなきゃ分からない。オレは横浜生まれの名古屋育ちだが、今は都合でそのどちらとも関係なく距離もだいぶと離れた土地で暮らしている。ひょっとしたらこの土地では開発という苗字は極端に珍しくはないのかも知れない。この苗字の人が理系に進み、就職して開発部所属になったらいろいろギャグにされるのだろう。
念のために言っておくと、オレは普段ほとんど通りすがりに過ぎないような相手に苗字の読みを訊いたりはしない。今回は007シリーズで秘密兵器「開発」をしているQのことが頭にあったからだ。その理由もどんなもんかとは思うが。
ルルの勢いと迫力のあるボーカルによる主題歌がパワフル。「ザ・マン・ウィズ・ザ・ゴールデン・ガン!!」思わず拳を握ってしまう。前作の主題歌『LIVE AND LET DIE』が比較的パンチの弱い曲だったが、この系統の方が好きだ。『ゴールドフィンガー』とかな。
MI6に007と刻印の入った黄金の銃弾が送られてくる。市場には存在しない4.2mm口径という特殊な口径で23金+白銅で作られた黄金弾だ。
その弾丸の謎を追ってジェームズ・ボンドはベイルートとマカオを経て香港へ。途中で出会うその弾丸を作った銃職人が「人を殺すのは銃ではなく人だ」という。個人的に好きなセリフだ。役柄からしていかにも殺され役だなと思った銃職人だが、なんてこともなくそのまま物語から退場。
浮かび上がってきたのはスカラマンガ(クリストファー・リー)という名の殺し屋。サーカスで生まれ育ちそこで射撃の腕を身につけたこと、そして三つ目の乳首があること以外は顔や外見など一切不明の謎の殺し屋だ。仕事には黄金銃を使い、報酬は1人当たり100万ドル。金も欲しているが、それ以上に殺しへの欲求が強い男で、単に殺すのではなく「もっと強いヤツと戦いたい」と『ストリートファイター2』のCMコピーのようなことを考えていて、いずれはボンドと戦いたいと願っている。
そのスカラマンガの部下というか愛人の女性が、スカラマンガの異常振りに怯えてボンドに接近してくるが、最初は彼女を信用せず腕をねじり上げたり頬を叩いたりとボンド意外に残忍な振る舞いを見せる。コネリーボンドならば違和感がないのだろうが、女性のシャワーシーンに出くわして思わず鼻の下を伸ばしているようなムーアボンドには似合わない。
香港にいたはずなのに、ボンドが気絶させられて格闘技の道場に連れてこられるとそこはもうタイだったりと、地理関係がちょっといい加減。単に東南アジアという括りで一まとめにされている。『007は二度死ぬ』での日本はそんなに大きく間違っている部分はなかったと思うのだが、今回の香港・タイは映画でしか現地を知らないオレから観ても明らかに間違っているだろ、それ!というシーンが多々ある。
舞台が東南アジアで、空手などの格闘アクションがあり、ラストのスカラマンガの屋敷では鏡などを使ったトリックルームで主人公対悪漢の戦いがあるなど、この『007 黄金銃を持つ男』(1974)は『燃えよドラゴン』(1973)の影響を明らかに受けている。相撲取りまで出てくるしな。それにしても二人の姪っ子つええええぇぇー!
その伯父であるヒップを演ずるのはスーン=テック・オーという中国系俳優。どっかで見た顔だと思ったら『ファイナル・カウントダウン』でジェット戦闘機によって撃墜され空母に捕らえられたゼロ戦のパイロットをやってた人だ。
道場から抜け出したボンドは小型のモーターボートを手に入れ(別名・盗んで)ちょっとしたボートチェイスが始まるが、『007 死ぬのは奴らだ』に比べると規模は極めて小さい。
楽しいのはその後のカーチェイスだ。スカラマンガが乗った自動車を追いかけるためボンドはカーディーラーで車を調達して(別名・盗んで)、助手席に座っていた客を乗せたまま走り出す。その客というのが『死ぬのは奴らだ』でボンドとカーチェイスを繰り広げたペッパー保安官。奥さんと東南アジアを旅行中だったのだ。007シリーズにはMやQはもちろんとして、CIAのフィーリックス・ライターやKGB(後に退職)の白いスーツを好んで着るエージェントなど何作かに渡って登場する人物はいるが、直接的にストーリーに関係ない人物で再登場したのはペッパー保安官だけだろう。
カースタントの規模としては他作品に劣る部分もあるが、当時の技術の粋を凝らした名スタントがある。それは壊れて傾き、途中が落ちてなくなっている橋を車でジャンプして飛び越えるシーン。橋が傾いているので車もそれに沿って傾き、ジャンプしてる最中も回転運動が続いて、ぐるっと360度横に回転して通常の向きで着地。何度も計算を繰り返して微妙な調節を行ってようやく成功したそうだ。今観てもすごいシーンなのだが、効果音が「ヒュ~ポ~」ってのはどんなもんだろう。
そしてとあるガレージにスカラマンガの乗った車を追い詰めるが、その車は飛行機に変形してトランクにMI6の新米女性職員グッドナイトを乗せたまま大空へと飛び去ってしまう。グッドナイトはあっちで大人しくしてろと言われたのに、ボンドの役に立ちたくてスカラマンガの部下である小人を追いかけていて捕まってしまったのだ。んーまったく。
ちなみに変形すると言ってもスイッチ一つでガシャンガシャンと『超時空要塞マクロス』のバルキリーみたいに変形するわけではなく、飛行機に無理矢理翼とエンジンを載せてくっつける方式。メーターなんかはスイッチでクルッと飛行機用に変わったが、翼やエンジンを車に最初から積んでいるならともかく、置いてあったガレージで取り付け作業を行う手間を考えたら、最初からそこにセスナ機でも置いておけば良かったんじゃなかろうか。まっ、そこらも含めて007シリーズの魅力なんだが。
スカラマンガの使う黄金銃にしたって、ライター、シガレットケース、そして万年筆を変形・組み立てして拳銃になる。ばらばらの状態だと身体検査をされても銃を持っているとばれないが、そういったシーンは映画には登場せず、普通に銃を持ち込んでも問題なさそうだ。そうなると銃の変形・組み立てには何の意味があるんだってことになるが、それが007シリーズってもんでしょ。
ラストに悪党との対決はお馴染みだが、今回は背中合わせから始まる古式ゆかしき決闘方法。ちなみにスカラマンガ役のクリストファー・リーは原作者イアン・フレミングの実の従兄弟で(実の従兄弟ってのも妙な表現ですが)、原作の段階でリーをイメージしていたとのこと。
そのボンドをグッドナイトが助けると思いきや、低温に保たねばならない液体ヘリウムの温度を上げて太陽発電システムは暴走して爆発を始めるし、後ずさったときにうっかりお尻でボタンを押してボンドを反射板で集中させた太陽光線で焼き殺しそうになったりと、見事なドジっ娘ブリを発揮。お前はコミックかアニメの登場人物か。
顔は綺麗というよりも可愛い感じで、オレとしては嫌いじゃないが、ドジっ娘にスパイは無理だと思った。
無事に事件は解決したが一つだけ気になることがある。ボンドは土産物売りの少年に2万バーツを払いに行ったんだろうか?
「JAMES BOND WILL RETURN IN "THE SPY WHO LOVED ME"」