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『007 死ぬのは奴らだ』 因幡の白ウサギことジェームズ・ボンド

B000IU38L0.jpg『007 死ぬのは奴らだ』(1973) LIVE AND LET DIE 121分 イギリス

監督:ガイ・ハミルトン 製作:ハリー・サルツマン、アルバート・R・ブロッコリ 原作:イアン・フレミング 脚本:トム・マンキウィッツ 撮影:テッド・ムーア 特撮:デレク・メディングス 音楽:ジョージ・マーティン テーマ曲:モンティ・ノーマン 主題歌:ポール・マッカートニー&ウィングス
出演:ロジャー・ムーア、ヤフェット・コットー、ジェーン・シーモア、クリフトン・ジェームズ、ジェフリー・ホールダー、デヴィッド・ヘディソン、バーナード・リー、ロイス・マクスウェル、マデリン・スミス、ジュリアス・W・ハリス

 ショーン・コネリーから三代目ジェームズ・ボンドとしてロジャー・ムーアに変わったシリーズ第8作。この作品の銃口越しに狙われるボンドというオープニングからソフト帽がなくなる。時代的に帽子を着用している人が少なくなっていたのだと思うが、キャスト変更で若返りの雰囲気を出したかったのかも知れない。でも、1930年生まれのショーン・コネリーに対してロジャー・ムーアは1927年生まれ。実は年が上になったんだよね。
 映画館で初めて見た007シリーズが『007 私を愛したスパイ』なためか、オレが一番好きなのはロジャー・ムーアが演ずるジェームズ・ボンドだ。野性味や残酷さがあったコネリーボンドに比べて、ムーアボンドは笑顔がデフォルトで茶目っ気も強い。
 今回は登場するなり女性と同衾しているが、そこにM自らボンド宅を尋ねてくる。女性をクローゼットに隠して、そこにMを近づけないようにちょっとしたドタバタが繰り広げられる。コメディかよ。
 Mがオフィスにボンドを呼びつける暇すら惜しんだのは、アメリカで3人の英国諜報部員が殺されたから。その中でもニューヨークのハーレムでの殺人は、黒人の葬式を通りで眺めていた諜報部員(白人)が脇に立っていた男に「あれは誰の葬式だい?」と尋ねると「あんたのだよ」とナイフで殺され、その死体が棺桶に入れられると楽隊がそれまで演奏していた悲しげな音楽から「パラッパ~」とトランペットを鳴らすにぎやかな曲に切り替え、参列者たちは楽しそうに踊りだす。お気に入りのシーンだ。
 オープニングタイトルは髑髏が繰り返し登場する不気味な物。いつもの美しいから路線としてはちょっと外れている。ブードゥーが関わってくるのでそのイメージか。主題歌を歌うのはポール・マッカートニー。コネリーボンドが「ビートルズを聴くときは耳栓をすること」と言っていたことから考えるとやはりボンドは若返ったようだ。実際のロジャー・ムーアがビートルズのファンかは知らないが、なんとなく聴いていても違和感を感じない気がする。ちなみにロジャー・ムーアって元はアニメーターで、そこから演劇を始めて役者になったという一風変わった経歴の持ち主。絵は上手いんだろうな。
 日常生活ではボタンを押すと文字盤が赤く輝くデジタル腕時計を使っていたが、任務に出発する前にMが「これはQからだ」とアナログ式腕時計を手渡される。この腕時計は竜頭を引っ張ると強力な電磁石になり、さらには文字盤外周が回転して丸ノコにもなる。今回、Qは名前が出てくるだけで姿は見せず、ファンにとってはちょっと寂しい。
 パン・ナムの航空機でアメリカに到着したボンドは早速悪党に命を狙われるが、無事に切り抜けてCIAのフィーリックス・ライターと合流。
 映画の中ではタイトルの「LIVE AND LET DIE」についての説明がないが、原作ではボンドとこのフィーリックス(だったと思う)の会話に登場する。「こちらも生きて、あちらも生かす(お互い様)。それが我々の方針だ」というフィーリックスにボンドが、「こちらの方針は違う。こちらは生きて、相手は殺すだよ(LIVE AND LET DIE)」と言うのだ。
 CIAが使っているオープンリールデッキにははっきりと「パナソニック」の文字がある。最新作『007 カジノロワイヤル』からMGC買収により制作にソニーが関わっているそうで、パソコンはVAIOを使うなどソニー製品がいくつも登場しているそうだが、過去の作品まで遡ってCGで「Panasoninc」→「SONY」のように企業ロゴを変更したりしないだろうか?やらないよな。やらないよ。うーん、やらないだろうな。でもソニーだしなぁ・・・

 今作のボンドガールは最初から敵の手の中にある。タロットを用いて百発百中で未来を予言する美人占い師ソリテールだ。彼女は処女で、その処女性が不可思議な力の源であって、処女でなくなるとその魔力も失ってしまう。おそらくはなんらかの神話がベースとなった設定だろう。ザ・ロック主演の『スコーピオン・キング』でも同じ設定の女性占い師が登場していた。日本の神社にいる巫女さんなんかもその一種か?
 悪党のボスである黒人のカナンガは、彼女の力を悪用してジャマイカの島でケシを栽培し、そこから抽出したヘロインをただでばらまこうとしている。そして中毒患者だらけになったところで販売に切り替え大もうけを企んでいるのだ。これまでの悪役であるスペクターやゴールドフィンガーと比べると小粒だが、反麻薬運動が世界的に高まっていた当時の動向を取り入れたのだろう。
 ボンドとソリテールが初めて出会ったシーンで彼女がタロットカードを引くと現れたのは「恋人たち」のカード。その後、1人でボンド占っていて、そこで現れたのもまた「恋人たち」のカード。
 カナンガの屋敷に侵入したボンドがソリテールが占いに使っているテーブルでタロットカードを弄んでいる。そしてソリテールに一枚引かせると、それも「恋人たち」のカードだった。やはり神聖なる魔力は存在するのか・・・
 キスをする二人。ボンドの手から残りのカードがこぼれ落ちる。表面を上に床に落ちたカードは全て・・・っておい。

 ハーレムにある敵のアジトをCIAの諜報部員が見張っているところに、観客にはすでにお目にかかっている黒人の葬式が近づいてくる。今回は殺害シーンは省略されそのままにぎやかな音楽に変わる。この省略が楽しい。

 運動性能の高いスポーツカーではなくあえて動きの鈍い二階建てバスを使ったカーチェイスや、空港内での飛行機と車のカーチェイス。
 ボートチェイスの歴史を変えた、といってもボートチェイス自体があまり映画に登場しないが、スクリューではなく水流を噴射して進むジェットボートによるチェイスが派手で楽しい。アクションに関してはムーアボンドの世代になって明らかにランクアップした。もっとも、派手さを追求するあまりリアリティが薄れたのも確かではある。その後のアクション映画に与えた影響が大きいことを考えると個人的には成功だと思う。
 マシンを使ったアクションばかりではない。クロコダイル牧場で池の中にある小島に置き去りにされてしまったボンドにクロコダイルワニたちが牙を剥き出しにしてジワリジワリと近づいてくる。秘密兵器の電磁石内蔵腕時計で対岸にある手こぎボートを引き寄せようとするがボートはロープでつながれていて無理。
 ボンドはワニの餌となって終わるのかと思った瞬間、そこで何匹か横に並んだワニの上を走って渡り見事脱出。お前は因幡の白ウサギか。ちなみに作り物ではなく本物のワニ。子供の頃にテレビで観たときはボンドの全身が映っていたという記憶があるのだが、後に観直してみると下半身しか登場していなかった。そりゃそうだよな。ボンドのスタントマンを演じたのはワニ牧場の飼育員だとか。
 ボートでの追跡劇ではペッパーという名の太った保安官が登場する。次作『黄金銃を持つ男』のためにもしっかりその顔を覚えておきましょう。こうしたあからさまなお笑いキャラが登場するのも今作から。保安官の他には州警察に自然保護レンジャーまで登場して、アメリカの司法組織の複雑さを感じさせる。どうやら街などの担当自治地域の中では保安官の方が州警察よりも権力があるようだ。だが、街を一歩出れば保安官もただの人。州警察の警官は他州では権限はないが一応警官。州をまたいだ犯罪にはFBIと。レンジャーは国立公園などを警備しているようだ。書いててよく分からん。

 中盤に大きなアクションがいくつもあったせいか、ラストの戦いは案外地味。セットも小さい。
 1970年代に入り、世界情勢も変わり、アクション映画も変わっていった。その中で、いかに007シリーズの方向性を決めていくかについて、若干の迷いがありながらも作り手として手応えは感じていたのではないかと個人的には思う。
 イアン・フレミングとしては望ましい方向性ではなかったと思うが、8作も続き作品規模も大きくなったこの時点で、すでに映画は作者の手を離れたに近い。良い悪いは別にして。
 ふとここ一週間ほどに書いた文章を読み直してみたらああた、007シリーズを『ドクター・ノオ』から順番に書いてるではないですか。うーむ、気がつかなかったなぁ。(嘘付け)
 取りあえず、毎回DVDで該当作を観直してから書いてるんですが、今回の『死ぬのは奴らだ』が一番楽しんで観られた。やはり力が入ったショーン・コネリーよりも肩の力を抜いた感じのするロジャー・ムーアの方が好きなんだろう。

「JAMES BOND WILL RETURN IN "THE MAN WITH THE GOLDEN GUN"」

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