
『姑獲鳥の夏』(2005) 123分 日本
監督:実相寺昭雄 製作:荒井善清、森隆一 プロデューサー:小椋悟、神田裕司 企画:遠谷信幸 原作:京極夏彦 脚本:猪爪慎一 脚本協力:阿部能丸 撮影:中堀正夫 美術:池谷仙克 編集:矢船陽介 音楽:池辺晋一郎 衣裳デザイン:おおさわ千春
出演:堤真一、永瀬正敏、阿部寛、宮迫博之、原田知世、清水美砂、篠原涼子、松尾スズキ、恵俊彰、すまけい、いしだあゆみ、京極夏彦
『姑獲鳥の夏』映画化の話を聞いたときは、駄作になるのではと危惧した。
あの文字がびっしり詰まった原作の厚さもそうだが、謎の答えが文章としては面白いが映像には向いてないと考えたのである。
映像化するならば、むしろ2作目の『魍魎の匣』をやるべきではないだろうか。今さら監督に実相寺を持ってくるところからして疑問だし、あの人に観念的な作品を撮らせると自己満足的に終わってしまう可能性がある。SF的雰囲気のある『魍魎の匣』の方が題材として向いているだろう。
だがそれは杞憂に終わった。
ストーリーは原作を読んでいないと完全に把握するのは難しい点があるだろう。確かに説明不足だし、ラストの京極堂の怒濤のごときセリフによる謎解きというか御祓いが長すぎて、おいてけぼりになる観客もいるだろう。
しかし、この映画はミステリーとして謎が解決することが重要なのではなく、語るべき点はそこに至るまでの語り口や魅力的な登場人物の描写にある。細かな説明など必要ないのだ。ストーリーなど分からなくてもいいのである。
ストーリーやオチがイクォール映画の価値ではない。瑣末な説明などいらぬ、ただもうこの『姑獲鳥の夏』の世界に浸っているだけで満足だ。
そもそもオレは、原作をミステリーだとあまり思ってない。というかミステリーじゃない。
原作と映画は別物であるというのはオレの持論だ。
だが、この『姑獲鳥の夏』に関しては原作を読んでおくべきだろう。
否、この映画は原作を読んだ人向けのファンムービーなのである。
オレが読んだときのイメエジでは京極堂はもう少し貧相な人物を思い描いていて、堤真一では二枚目過ぎるが、終盤のセリフの嵐と目つきはさすが舞台出身だけの実力というか凄みがある。アイドルでの俳優なんかじゃ絶対無理だ。
原作では「猿に似ている」と評される関口役の永瀬正敏は確かに猿顔だし、猫背でおどおどとした物腰がぴったりだ。
だが、原作でのイメエジにぴったりという点では榎木津役の阿部寛をおいて他にないであろう。阿部ちゃんは榎木津を演じるために生まれてきたのではないだろうか。絶世の美男子で、常識外れの言動。原作を読んでいた時に阿部ちゃんを思い浮かべなかったオレはキャスティング能力に欠けるようだ。オートバイを運転してきたライダースーツにライダー帽で登場するときの格好良さ。阿部ちゃんの榎木津だけでオレはこの映画を擁護する。
今、シリーズの『陰摩羅鬼の瑕』を読んでいるが、前半から榎木津が傍若無人ぶりで関口を振り回しているが、もはや阿部ちゃんの姿、阿部ちゃんの声しか頭に浮かばない。
ヒロイン?役の原田知世は、彼女の持つどこか現実離れした雰囲気を上手く活かしている。幻想的と言えばいいのだろうか、汚れや汚れを知らなさそうな「守ってあげたい」になりそうな所が、ラストにおける衝撃への鍵となる。
ちょっと違うなと感じたのは木場役の宮迫博之だ。顔は確かに四角いが、背が低すぎる。演技は悪くないと思うのだが、原作では大男として語られることが多く、180cmある無骨で強面な役者にして欲しかったところだ。
松尾スズキと恵俊彰はいかにもな怪しさが薄っぺらくて逆につまらなかった。
過去の東京を舞台にした映画ということで、『帝都物語』を思い浮かべてしまったのも観る前に不安だった要因なのだが、今回はあまり予算がなかったせいか、特撮や大規模なセットを使えなかったのも実相寺の手に負えなくなることもなくよかったのかもしれない。
ジッソー君らしく、時折相変わらずのみょうちくりんな構図が登場するが、これはもう伝統芸だろう。
だが、続編を作るならば、というか『魍魎の匣』はぜひとも実現して欲しいが、その時は若手監督の起用を期待する。若手と言っても日本映画の場合は30代40代になるだろうが、そこら辺の年が一番充実した作品を撮る。
しかし、京極夏彦って太ったなぁ・・・