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映画バカ青春記 第126章 最後の卒業式

 聖母幼稚園というカトリック系の幼稚園に通っていたオレは、愛知県半田市への引っ越しで転園した。引っ越し先の幼稚園に空きがなかったので保育園に通うことになった。まだまだ子供も多い時代だった。
 保育園の卒園式から、小学校、中学校、高校、そしてこれが5回目の卒業式。オレにとって最後の卒業式だ。

 といっても、卒業式にこれといって思い出はない。
 小学校の卒業式では女子たちが泣きながら手を取り合って、卒業してもずっと友達でいようね、とか言ってるのを横で眺めていて、阿保かと半ばうんざりしていた。
 今はどうなっているのかは知らないが、当時の愛知県は私立が弱くごく一部の学校しか実力的にも低い。高校ならともかく、中学で私立に進学するヤツなどいなかった。
 だから、引っ越しでもしない限り、その小学校の卒業生は全員同じ中学校に進学するのだ。そこでまた毎日顔を合わせるのだ。
 それで何で「これで今生の別れだ~」とばかりに彼女たちは泣くのだろうか。
 オレにはまるで理解できなかった。阿保か。そういうヤツである、オレは。

 中学の卒業式は、心が二つに分かれていた。それぞれに進学先が違い、普段仲良くしていたヤツらとは違う学校に進むので分かれなければならない寂しさと、そう悲しさではなく寂しさがまずあった。
 それと同時に、あまり好きになれなかったいわゆる不良や運動部のクズ、そして一部だが無理解な暴力教師などと分かれることが出来るのは嬉しかった。もっともっと自由になりたかった。

 高校は自由気ままに過ごした。やれることはかなりやった。もうここで何かをやるよりも、次の段階へ進んで、もっと面白い何かをやりたい。
 もう少しで始まる大学生活を夢見て、じゃぁな、みんながんばれよと卒業式を終えた。

 そして大学の卒業式。5年生(5回生)なので、オレと同じように留年した知人が何人かいるぐらいで、後はシネマ研究会の1年後輩を除けば見知らぬ顔ばかり。
 スーツや羽織袴姿がぞろっと揃う中、オレは黒のMA-1姿だった。
 これからついにはサラリーマン生活が始まるというのに、その最後に日にわざわざこれからずっと締めることになるネクタイを巻く必要もないと思ったからだ。
 愛知県体育館への入場時にちょっともめた。
「在校生の入場はお断りしているんですが」
「オレは卒業生だ!」
 見た目で人を判断するんじゃない。
 ちなみに、オレ以外にも何人か私服姿がいた。

 卒業おめでとうと言われても、何がめでたいのか分からなかった。
 それは単なる区切りに過ぎないだろう。
 感動も高揚も感じられなかった。
 ただ、これから向かうべき世界がまるで見えなかった。
 目の前に広がるのはただの荒野だ。目印も道も何もない。
 そして自分がこれまで来た道を振り返る。高村光太郎だと後ろには道が出来ているはずだが、風と砂埃で消されかけた足跡が点々と残っているだけだ。

 ほんと、これからどうなるのかなと思いながら、一度アパートから実家に戻した荷物を整理して、東京の寮に送る準備をする。名古屋などにも支社はあるが、最初の何年か、あるいはずっと東京暮らしとなるのだ。
 東京育ちの母と、大学進学で上京した父の間にオレは神奈川県横浜で生まれた。
 オレにとって夏休みの帰郷とは母の実家のある品川区に行くことだった。
 だから、名古屋で生まれ育った純粋培養の人間よりは東京の凄さも(あの映画館とやっている映画の本数ときたら!)、普通に人が暮らす街だと言うことも知っている。

「これでいいのか」
 先日からオレの中で囁く声だ。
 オレは耳を塞ぐ。数日中には東京に出発だ。

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