NHK名古屋制作のTVドラマ『熱きまなざし』の撮影も終盤に突入した。
それにしてもTVドラマというのは人と時間と金がかかる。演出や音声などはNHK社員だが、大道具小道具などの美術関係は下請けの会社が入ってやっていた。
他には衣装にメイクにロケでは運転手。延べ人数だと1時間×4回のこのドラマの製作関係者は100人を下らないだろう。その100人の中で最下層なのがオレらSD(サブ・ディレクター=民放でのAD)だ。
民放のADは人間扱いされないという噂も聞くが、名古屋のNHKではちゃんと人間扱いされる。それどころか、案外と居心地が良い。
しかも、時給が1000円だった。
世はバブル景気の真っ盛り。人手不足でバイトの時給は高めになっていたが、1000円はなかなかもらえない。確かに仕事はきつめだが、TV業界でバイトが出来て、人間扱いされて、しかも時給が良い。どこかに落とし穴があるんじゃないかと疑ったほどだ。
どうも、話を聞いていくと、ドラマ班に学生がバイトに来てもあまり居着かず、すぐに辞めてしまうんだそうだ。バイトをがんばって認められても、NHKに就職できるわけではないし、ドラマ班でのSDの仕事はひたすら地味なので、TVだっ!と入ってくると幻想と現実のギャップに落ち込むらしい。
そして、そもそも東京などと比べて、バリバリやって業界に進もうと考える学生が少ないんじゃないか。みんな結局は普通に就職していくよね、とのことだった。
確かに名古屋だからね~、野心家な学生は少なそうで、全体的に保守的な傾向はあるかも。
オレはシネ研での学生映画とはいえ映画製作の現場での経験があり、現場とはひたすら地味で忙しくて、下っ端スタッフには細かいことは知らされないのが当たり前だったので、意外と上手くやっていた。自分で言うのも何だが、割と細かいところに気がつく方だ。演出のディレクターなどには可愛がってもらえた方だと思う。
美術などの職人肌、芸術家肌の人たちとは、最初は取っつきが悪かったが、次第に打ち解けていった。衣装の人とは軽口を叩くぐらいになった。
テレビ局というのはクーデターなどに備えて、内部が複雑に入り組んで分かりにくくなっているという噂があるが、当時のNHK名古屋はまだ現在とは違い古い建物で、確かにややこしかった。大きなL字型と言えばいいのだろうか、奥まった廊下をどんどん進んでいって、ようやく現れた角を右に曲がりまた進む。そうしてそれなりの距離を歩いてようやく最大のスタジオ「第一スタジオ」に到着する。
ドラマのスタジオ撮影は主にこの第一スタジオが使われた。
(古い記憶なので詳細が違っていたら申し訳ない)
在名古屋のTV局でその規模のスタジオを持っている局はないんじゃないかだそうで、家一軒のセットを中に組んで、それでも余裕がある大きさだった。
スタジオのセットは、例えばそれが家ならばある方向の壁をすべて引っぺがしたような作りになっている。50センチほどの木の台の上に作られていて、軽く見上げる感じになる。
壁のない側はカメラが動き回れるスペースが設けてあって、そちら側から撮影を行う。だから構図としてはある程度制限されてしまうのだが、そこを上手く撮るのがカメラの腕、編集で上手く使うのが演出の腕だ。
準備段階ではあれこれと忙しいが、いったんカメラが回り始めると、そこからは技術を持つ者の世界となり、SDは邪魔にならないように隅に行って、じーっと立っていることしかできなかった。カメラに繋がるケーブル捌きはカメラマンを志すカメラ助手の人がやるし、照明もまたしかり。
ちょっとだけぼーっとしていたら手に持った台本を落としてしまった。本番中のスタジオは意外なほどに静まりかえっている。そこにバサッっと音が響き渡った。
てっきり怒鳴られるものと覚悟したが、そのままちゃっちゃと進んで撮り直し。あの時は寿命が縮まった。