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映画バカ青春記 第81章 カチンコを高らかに鳴らせ

 入ったばかりのバイトだというのに、カチンコを何度か打たせてもらった。あれは「拍子木みたいにカチンと鳴らすだけでしょ」と簡単に思われるかも知れないが、実は意外に難しい。
 「シーン11、カット3」などと白いチョークで書かれたあのカチンコは、単に撮影スタートの合図ではない。映像と音声をそれぞれ別に撮っているので、それを同期させる合図でもあるのだ。
 映像でカチンコの棒がぶつかっている瞬間と、DATに録音された音声の「カチン」を同期させることでそれぞれの頭を揃える。
 そのためには、カチンコの棒は下に下ろしたらそのままではなく、コンッと跳ね返えらせて、上に上がった棒とカチンコ本体の間に人差し指を差し入れる。こうして、カチンコの棒を一瞬だけぶつけさせることで、同期の頭出しをやり易くするのだ。
 この、コンッと跳ね返らせるのが意外に難しい。「S-32 C-1」などとシーンとカットナンバーが書かれたカチンコの文面をはっきりとカメラに写した上で、軽く跳ね上げたカチンコの棒と本体の間から人差し指を抜く。そして棒が落ちてきて「コンッ」と鳴らす。
 この時に動きが大きすぎてカチンコの映像がぶれてしまうと頭出しに使えないし、勢いが弱くて音が小さいとこれまた使えない。意外に微妙なテクニックが必要なのだ。これはオレの文章ではピンとこないだろうが、映画やテレビドラマにカチンコを鳴らすシーンが時折登場するが、それだとカチンと鳴らして板と棒がくっついたままのがほとんどだが、アレだと「下手くそっ!」と確実に怒られる。

 そして手のテクニック以上に重要なのが、その鳴らすタイミング。
 カメラを始めとしたスタッフの準備は揃っているか。役者さんの演技への入れ込みは充分か。撮影現場にいる全員の用意が揃い、モチベーションが高まった瞬間を上手く把握して、「よーいスタート。カチン」とカチンコを鳴らさねばならない。
 これがえらく難しい。ちょっとタイミングがずれただけで高まった気分が過ぎ去ってしまってカックンとくるし、早すぎると準備に一瞬足りない。全員にとってベストな瞬間を見つけ出すのは難しい。失敗が続くと現場の雰囲気は悪くなり、ジロリと睨まれる。
 結局、半日カチンコを任されただけで、「お前にはまだ無理だな」と取り上げられてしまった。悔しかったが、事実まだ無理だなというのははっきりと分かったので、別段腹も立たず、これから修行だなと思った。
 そしてカチンコを持たなくなったオレは、弁当の準備をし、野次馬の整理をし、ロケ地の移動で機材を車両に積み込み、忙しく走り回るのであった。

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