登校中に思いついた基本アイディアを現場でふくらませながらアドリブで撮った作品なので脚本は存在しない。
完成した作品を元に脚本に起こすという逆の手順で作ったのが、以下の1990年度後期作品『なるようになる』の脚本である。
タイトル 「なるようになる」
男性用トイレ
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男の顔のアップ。
逆光のため影になっていてどんな顔だかは分からない。
顔を忘れた男「ベー、イー、ムニュムニュニュニュニュ」
どうやら顔をあれこれいじくり回している様子。
カットが切り替わって、トイレの全景が映る。手前に小便器。奥に洗面台。
洗面台にこちらに背中を向けて顔を忘れた男が立っている。
眼鏡が小便器で用を足している。
眼鏡は水を流し、洗面台に来て手を洗う。顔を忘れた男をに
眼鏡「お前、何やってんの?」
顔を忘れた男「オレってこんな顔だったっけ?」
眼鏡「そうじゃないの」
ポロシャツの男がトイレに入ってきて、小便器で用を足し始める。
眼鏡が顔を忘れた男の服で手を拭こうとして振り払われる。
そこでポロシャツの男の後ろに行って、そのシャツで手を拭く。
眼鏡がちょっと考え込む。
眼鏡「そういえば、そんな顔だったっけ?」
顔を忘れた男「だろ」
二人は手前側からトイレを出て行く。
廊下
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廊下を歩く二人。
カメラは二人の前に立ち、歩く速度に沿って後退していく。
顔をなで回す顔を忘れた男。
二人は立ち止まる。
眼鏡「とりあえず、前は眼が二つ、鼻が一つだった」
顔を忘れた男が自分の顔をパーツを指さしながら
顔を忘れた男「眼が二つ、鼻が一つ」
眼鏡「うん」
また歩き出す二人。
立ち止まる二人。
顔を忘れた男「口はいくつだったけ」
額に手を当てて考え込む眼鏡。
眼鏡「うーん、確かー、口は一つだったと思うけど・・・」
うなずく顔を忘れた男
再び歩き出す二人。
道路
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秋空の下、一人で歩く眼鏡。
二人の男が左右に分かれてキャッチボールをやっている。
飛び交うボールをしばし眺める眼鏡。
ボールを投げる瞬間にそのボールを奪おうとする眼鏡。
だがなかなか奪えずに、左右に8回行ったり来たりと走り回る。
9回目に投げ損なったボールは遠くへ飛んで画面の左へと飛び出していく。
ボールを追って左から退場する眼鏡。
2台のウォータークーラー
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廊下を歩いてきた二人は、設置されていた2台のウォータークーラーで水を飲み始める。
顔を忘れた男が顔を上げる。
顔を忘れた男「髪の毛は何色だったっけ?」
顔を忘れた男は再び頭を下げて水を飲み始める。
それと同時に眼鏡が顔を上げる。
(以降、セリフ毎にシーソーのように顔を上げる下げるを繰り返す)
眼鏡「うーん、黒だったと思うけど」
顔を忘れた男「金髪じゃなかったか?」
眼鏡「お前って日本人だったっけ?」
上を向いて「ガラガラガラガラ、ペッ」とうがいをする動作を二人が交互に3回繰り返す。
教室
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黒板の前に立っている二人。
顔を忘れた男が黒板にチョークで顔の輪郭と眼、鼻、口、耳のパーツを描く。
眼鏡がチョークを奪い、黒板の顔に眼鏡と口ヒゲと頬に丸を描く。
顔を忘れた男がチョークを奪い、角を二本とあごヒゲ、涙を描き足す。
眼鏡がチョークを奪おうとして、もみ合いになる二人。
仰角で撮った顔を忘れた男のカット。
同じく仰角で撮った眼鏡のカット。
黒板の前でにらみ合う二人。
アクション映画の対決前のような雰囲気になる。
そこへMA-1の男(東森時音)が通りがかる。
いったん通り過ぎたMA-1は、何事かと戻ってくる。
そしてにらみ合う二人を他所に、黒板の顔を黒板消しで勢いよく消してしまう。
チョークの粉がついた手をパンパンとはたきながら退場するMA-1。
呆然と見送る二人。
眼鏡「お前の写真、一枚だけなかったっけ」
顔を忘れた男「うん」
眼鏡「探しに行こうか」
顔を忘れた男「うん」
道路
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カメラの一人称で道路を疾走する映像。
そのまま1カットで建物の中に入り、階段を駆け上がる。
部室
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カンフー男が教則本を読みながらカンフーの練習をしている。
突きを連打しながら
カンフー男「ハッ、ハッハッ」
そこに顔を忘れた男と眼鏡が走ってなだれ込んでくる。
ロッカーや本棚など、部室の中を引っかき回す二人。
机の中から顔を忘れた男が写真の束を見つけ、上から一枚一枚放り投げながら確認していく。
顔を忘れた男の手が止まる。
写真をのぞき込む顔を忘れた男と眼鏡。
凍り付いたように動かず、その表情は無表情で喜んでいるのか驚いているのか、はたまた失望しているのか、さっぱり読み取れない。
しばし立ち尽くした後、写真を放り出して、立ち去る二人。
屋上
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小雨の降る屋上。
傘を差した二人が手すりにもたれている。
眼鏡は外側を向き、顔を忘れた男は内側を向いている。
視線も言葉も交わさぬまま、ただ時間だけが過ぎる。
カメラがパンして二人がフレームアウトし、そのまま下にある温室を写す。
温室
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傘を相手にワルツを踊る男。
ここで始めて音楽がかかる。
クルクルと回りながら踊る男は、そのまま温室の外に出て踊り続ける。
完
1作目『ダイヤモンド・ゲーム』で間がちょっと長すぎるんじゃないかと言われた。
自分では心地よい間にしたらそうなったので、さてどこに問題があるんだろうかと考えた。
2作目の『茶の間の生活』では気持ちだけ間を余計と長くしてみた。割といい感じに出来た。
そこで3作目となるこの『なるようになる』ではこれでもかってぐらいに間を思いっきり長くしてみた。
脚本に書き起こしてみるとやたらと短いが、これで10分近くある。
顔を忘れた男と眼鏡の会話のやり取りも、会話のキャッチボールというよりは、投げたボールが暴投でどっかに飛んでいって、拾いに歩いていってのそのそと戻ってようやくと投げる。そんな感じだ。
二人がただ歩いているだけのシーンもやたらとあって、非常にダラダラとした映画だ。そのテンポがオレには心地よかった。
唯一映画が緊張するのは、二人が殴り合いになるかという黒板のシーンだが、それを通りすがりの男が文字通り原因を消し去ってしまうという処理がお気に入りだ。