ボックス(BOX)でダラダラと映画などについて話していると、そこに4年生のA田先輩が現れた。
ちなみにボックスとは部室のこと。名城大学独自の用語ではなく、主に関西を中心に他校でも使われている用語だ。
A田さんが
「おーい、そこの1年、東森だったか?時間あるなら撮影手伝え」
こうして、オレの初映画撮影現場体験となったわけである。
ロケ地は校内。
理学部が使っている実験棟の辺りで、大きな配管が通路を通っている。
ロケに参加したのはA田さんと、主演の同じく4年生のK戸先輩。他に2人ほどだった。
A田さんはカメラを構える。その前にK戸さんが立つ。
A田さんの「よーい、スタート」と当時にK戸さんと、それを後ろから撮影するA田戸さんが走る。
「OK」で、そのカットは終了。
新人だからといって、今何をやっているかなどの説明はなく、放ったらかしにされてオレはボーッと撮影風景を眺めていた。
「よし、次は台車を使うぞ。東森、持ってこい」
A田さんに言われて、オレは部の備品である台車を持って行った。荷物を運ぶときに使うあの台車である。
なにか運ぶのかと思ったら、カメラを抱えたA田さんがその上に腹ばいになる。
「スタートと言ったら全力で台車を押して走れよ。そしてストップといったら止まれ」
A田さんが俺に指示をする。
5メートル前に見えるのは地上から50センチほどの高さを走っている配管。
なにがどうなるんだととまどう間もなく、スタートの合図。
とりあえず、台車をガラガラと押して走る。A田さんの上半身が配管の下に入った辺りで「ストップ」の声。
「うーん、ちょっとスピード感がないな。もっと本気で押せ、本気で」
「じゃぁ、フルスピードで行きますよ」
そんなこんなで何度か繰り返してようやくOK。
その日はそれで解散。正直、なにがなにやらさっぱりだったが、さほど重い荷物を運ぶ作業があるわけではないシネマ研究会に、備品として台車があるわけは分かった。
後日、その作品は『ダイナマイト・ジョー 人間暴走機関車』という名で完成した。
これがもう、徹頭徹尾暴走しまくりのアクション映画。上映時間も1時間近くの大娯楽作品として仕上がった。
とうの昔に金を掘り尽くした鉱山街。
しかし、数少ないがそこに残って金を掘り続ける男たちがいた。
彼らをそこまで執着させるのは一つの伝説だ。まだ山には金が残っており、それを掘り出せた男だけが謎の美少女タカラノヅカオトメと共に、この死にかけた街を捨てて出て行くことが出来るという伝説だ。
ある日、男たちの中に衝撃が走った。彼らと群れずに一人で街の隅に暮らしていた男、ジョーが金を掘り当て乙女と街を出て行くというのだ。
はぐれ者のジョーに伝説を奪われると知った男たちは、ジョーを殺すために動き出す。
街を支配するのは2つのグループ。クンフーなどの武闘派集団とパンクスグループだ。
男たちと戦いながら街を抜け出すために走り続けるジョー。
そこへ、ジョーが探す美少女が自分だと勘違いした山女まで加わり、暴走は続く。
しかし、ジョーは金など掘り当ててはおらず、ただ死んだ街を抜け出して噂に聞く新大陸を目指しているだけで、伝説の美少女など存在しない。
それを知ってか知らずか、ただひたすらに戦い、燃え、爆発する男達と女。果たして、生き残るのは誰か?
そして、自分が撮影したシーンの意味が分かった。
敵に追われる主人公ジョーが、追い詰められて配管の下に逃げ込み、その下を匍匐前進するシーンの一部だったのだ。
A田さんが台車に腹ばいになって取ったシーンは、配管の下に潜り込むジョーの一人称カットだった。
映画の撮影とは、そのシーンだけ見ていると何がなんだか分からない物だ。脚本を読んでいても、カット割りまで聞いていないとなかなかイメージできない。ある意味、映画の撮影現場というのは退屈だ。