映画バカ青春記 第47章 『ポリスアカデミー』と青春のレジスタンス
受験も近づき、クラスの中がどこかピリピリしていた3学期の出来事。
ロングHRの時間を利用して、レクリエーションをするという話になった。
視聴覚室を借りて、みんなで楽しい映画でも観てリラックスしようや。
そこまでは良かった。
問題は、クラス委員の借りてきた「楽しい映画」とやらが『ポリスアカデミー』(1984)だったということだ。
1984年に『ポリスアカデミー』を映画館でオレは観ている。何かの同時上映だったのだろう。
もしも、『ポリスアカデミー』目当てで映画館に行ったのならば、オレは当時のオレを許さない。決して許さない。いくらまだ映画を観る目が出来ていないとはいえ、『ポリスアカデミー』目当てたぁどういうこった。『トップ・シークレット』を観ながら腕立て1000回、腹筋1000回を3セットだ。
オレは『ポリスアカデミー』が嫌いだ。大嫌いだ。
コメディと銘打てば、どんな手抜きをやっても許される。そんな作り手の甘えが見え見えで、腹が立ってしょうがない。
コメディやるなら本気でやれよ。笑わせるなら本気で笑わせろよ。小道具や大道具に金かけろよ。
『ポリスアカデミー』で面白かったのは、ガンオタクのタックルベリーぐらいだが、これも中途半端。シリーズ後半になるとエスカレートして少しは面白くなるが、一作目は単なるガンオタク。
そう、今シリーズ後半と言ったが、オレは結局シリーズ6作目の『ポリスアカデミー6 バトルロイヤル』まで映画館で観ているのだ。もちろん目当ては同時上映の作品だ。でもって、併映の『ポリスアカデミー』シリーズを見ては怒っていた。怒るなら見なければいいじゃないかと言われるだろうが、金を払っている以上もったいない。それになにより、観ているからこそけなす権利を持てるのだ。観ていない作品をけなしたり貶めたりするのはクズのやること。
ともあれ、暗幕を締めて真っ暗になった視聴覚室の、当時としては大型のテレビにワーナーのマークが映し出された。
オレは一番後列に座っていたが、映画が始まると椅子の向きを変えてテレビに背を向け、目を閉じると耳に指を突っ込んだ。
上映時間の96分が終わるまで、ずっとそのままでいた。
これが当時のオレのレジスタンス方法だった。
本来ならば、「楽しい映画」という不吉な単語が出た時点で、何らかの理由を付けてクラス委員がビデオを借りに行くのにレンタルビデオ屋までついて行って、まともな「楽しい映画」を借りさせるべきだった。
オレにだって多少の良識はあるので、クラスで観る映画に『トップ・シークレット』は選ばないが、『フライング・ハイ』あたりを薦めたりしただろう。
それをやらなかった時点で負けだ。
壇上に上がって
「お前ら、こんなクズ映画を観て笑っていて良いのか?このクズ映画に喜んでいて良いのか?世の中にはこんなクソ溜のクソよりも面白い映画は星の数ほどあるぞ。クズ映画にNo!を。クズ映画にNo!を。さあ、席を立て。映画館へ行け」
ということだ出来るまでは吹っ切れていなかった。これは大学に入ってからだ。
当時は面だって反逆することも出来ず、かといって黙って負けを認めて映画を観ることも出来なかった。
それでやったのが、後ろを向いて目を閉じて耳をふさぐことだった。
これが18歳のオレのレジスタンスだった。
馬鹿げているし意味がない。自己満足だ。
目を閉じて耳をふさいでも映画はなくならないし、何も問題は解決しない。『ポリスアカデミー』はクズなままだし、クラスメイトはそんなクズ映画でも少しは笑ったりするのだろう。
「世の中の人は本気で映画を観ていない」などと青臭いことも思った。そして、大学に入ってオレもその本気で観ていない人の一人だったと気づかされるのだが、それはまた後の話。
意味がないし、なにも生み出さないレジスタンスだ。だが、校舎の窓ガラスを割って回ったり、バイクを盗んで暴走するよりよほどスマートだし、何より人に迷惑がかからない。
今ならばどうするだろう。
「君たちは間違っている~!」
と叫ぶと、教台の上にすっくと立ち、
「『ポリスアカデミー』はつまらん。誰がなんと言おうとつまらん。こんな映画で貴重な時間をつぶすなどもってのほかだ。オレのお薦めはまず『トップ・シークレット』だな。ザッカー兄弟とジム・エイブラハムズのギャグが冴え渡ってるぞ。それから『ブルースブラザース』は外せないな。ラストのパトカーとの大追跡は見所だ。コメディ映画といえば、日本の映画も負けちゃいない。クレイジーキャッツ主演の『大冒険』は笑える上に、植木等のアクション満載の傑作だ、観ておいて損はないぞ。コメディ=お下劣なギャグじゃないのを証明しているのがエルンスト・ルビッチの『生きるべきか死ぬべきか』だ。おしゃれなルビッチタッチではらはらドキドキなスパイ合戦と脱走劇が見事なコメディとして描かれている。コメディといえば外せないのがイギリスのコメディ集団パイソンズだな。TVシリーズの『空飛ぶモンティパイソン』も良いが、オレがこれこそ傑作という一本を挙げるのなら『ホーリー・グレイル』と『ライフ・オブ・ブライアン』だな。って、それじゃ二本だろ。まったくこの~ちょんちょん」
などという話を延々繰り広げると言ったところだろうか。
昨年、学生時代の友達と飲み会をやった後に、終電を逃してしまい、仕方なく朝までネット喫茶で過ごしたが、仮眠を取り足そうな友人の横で、一晩中しゃべり続けたのはオレだ。その時は躁の時期だったってのもあるが、よくもまぁこれだけというぐらいあれこれと脈略もなく話し続けたモンだ。