ドラゴンと城の解体作業の後に、簡単な反省会が行われた。
製作委員が、一人一人に感謝の言葉を述べていった。
「○は、無理なデザインをよく実現させてくれた。
△は、ブレスのメカニズムのアイディアを考えてくれてありがとう。
□は、大量の段ボールの確保とその運搬に努力してくれた。
東森は・・・東森は色々なところで俺たちでは気づかない細かなアイディアをたくさん出してくれた」
「おい、それってあちこち無意味にうろちょろして、あれこれ口を挟みまくって邪魔だったって事?」
「そうともいう」
「いうなよっ!」
そして、次の休みに打ち上げでボウリングと食事会を行うこととなった。
当日はボウリング場に現地集合。半田市にもボウリング場はあったのだが、何故か会場は常滑のボウリング場。今では中部国際空港で有名になった常滑市だが、当時は常滑焼きしかなかった。
半田市と常滑市というと、地図では隣り合わせだが、電車で行くとなると、半田から名鉄に乗って北上し、東海市の太田川という駅で常滑線に乗り換えて南下。結構時間がかかるのだ。
おそらく幹事が常滑の人間だったのだろう。普段、我々が通学にどれだけ苦労しているかを思い知らせるためだったのではと愚考している。、
ボウリング大会終了後、食事会は何故だか半田市。半田高校近くの喫茶店だった。
かなり意味不明な流れなのだが、その流れがオレにはとても良い状況をもたらしてくれた。
ボウリング場から常滑駅まで離れているので、半田市には名鉄ではなくバスで移動することとなった。
バス停まで、ダラダラと列になって歩く。バス停までは数キロはあった記憶がある。
その最中でオレはさりげなくNさんに近づいて話しかけた。
Nさんは眼鏡をかけ、ちょっとぽやぽやっとした感じだが、話しているとすごく頭の回転が速い。実にオレ好みの娘だった。
あれやこれやとギャグを交えながら話を続け、反応はなかなか良かったように思う。
ふと気がつくと、オレとNさんの2人は、前のグループからも後ろのグループからも10メートルほど離れて二人きりで歩いていた。振り向くと、中学時代からの友達Mがニヤニヤ笑っていた。
いらん気を遣うんじゃねぇぇぇ!
食事会でオレはすかさずNさんの隣に陣取った。
高校生の打ち上げなのでアルコールはなし。世の中には打ち上げでアルコールを飲む高校生もいるだろうが、オレたちはそういうグループではなかった。
にぎやかに会食が続き、オレはNさんの気を引こうとあれこれ必死だった。
食事会も終了し、店の表で記念写真を撮った。
記念写真の後で、オレはNさんに「ちょっと、いいかな」とみんなの集まっている中から連れ出した。
もちろん、告白のためである。
「君が好きだ。良かったら付き合ってくれないか」
そんなことを言ったのだと思う。
彼女の答えは「はい」だった。
それまでの反応から良い返事は期待していた物の、実際に耳にするとオレの耳がおかしくなっているんじゃないかと思ったほどだ。
こうして、オレとNさんは付き合うこととなった。
さりげなくみんなのところに戻ると、一斉に拍手で出迎えられた。
なんのことはない、オレの態度がバレバレで、全てみんなにお見通しだったのだ。
えーい、ちくしょう。『中学生日記』か、お前らは。
うれしいぞ、ばかやろ。
この打ち上げが10月頃。
つきあい始めたと言っても、お互いに大学受験を控えた高校3年生。
どこかに遊びに行くような余裕はなく、学校の帰りに打ち上げをやった喫茶店でお茶を飲んだり、何度かNさんが家へ遊びに来たぐらいだった。
田舎の高校生だったので、いや、多分オレが奥手だったので手をつなぐのがやっとだった。
オレが体調を崩して学校を休んだことがある。クラスが違うNさんが学校にオレの姿がないのに気がついて、俺のクラスに入っていって出席簿を見た。そして休みだと知ったNさんはわざわざお見舞いに来てくれた。風邪だったりしてNさんに移してはいけないので、ほんのちょっと話しただけで帰ってもらったが、その後ろ姿を見たらものすごく愛しくなって、思わず後ろから抱きしめてしまった。
これが彼女との最大の接近遭遇だった。
翌日にはオレは調子が戻ったので学校に行った。幸いに風邪ではなかったか、風邪だったかとしても移らなかったのか、Nさんも元気に登校していた。顔を合わせて、お互いにちょっと照れたりしてた。
さっきも書いたがNさんとはクラスが違っていた。クラスだけではなく、Nさんは理系クラス、オレは文系クラス。そのため合同授業などで顔を合わすことはなく、会えるのは休み時間か放課後。
でも、受験勉強もやらなければいけない。恋していたとしても、それが学生の本分だ。
なんてことをいってみるが、受験に関しては後でまた書くが、オレは全然勉強しちゃいなかった。
しかし、Nさんはしっかりやっていた。女の子なのに理系クラスなどと書くと女性差別問題団体からクレームがくるかもしれないが、やはり理系の女生徒は少ない。
そしてNさんはかなり勉強が出来た。受験が終わり、それぞれに進路が決まり、オレとNさんは当然のごとく別の大学に進学することになった。そして、そのまま自然消滅という形で気がついたら恋は終わっていた。
大学1年の夏休みに、一度だけNさんとあったことがある。
高校時代にちょっとあった野暮ったさが抜けていた。
外観よりも、むしろその頭の良さや回転の速さに惚れたオレから見ても魅力的になっていた。
どう、元気にしてる?
そんな無難な挨拶をして分かれた。
それからおよそ20年、以来彼女にあったことはない。