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映画バカ青春記 第5章 我が心の師匠、横田順彌

 科学部に移ってから日が過ぎ、オレも中学2年生になった。
 マイコンを使ったり色々と化学の実験をしたり、無駄話をしたり遊んだりと楽しい毎日だった。
 そんなある日、後輩の1年生が「面白い本を読みましたよ」と一冊の本を貸してくれた。一学期だったと記憶しているから1982年の前半の出来事である。
 それは横田順彌の著作『銀河パトロール報告』だった。そしてオレはかつてないほどの衝撃を受けた。

『銀河パトロール報告』は私立探偵金大事包助を主人公とした推理物・SF物の短編の連作である。星新一によってハチャハチャ小説と名付けられた、ダジャレを主体としたギャグ小説だ。
 第一話の冒頭からひたすらダジャレの連打連打で、「何だこりゃ?」と取りあえず読み進めたオレは、文庫本19ページにある次の文章に頭を金本のスイングで吹っ飛ばされたかの感を覚えた。

「それじゃ、これから、心を入れかえて真人間になるか?」
「なる、なる」
「この事件解決に協力するか?」
「する、する」
「うなぎの身体は?」
「ぬる、ぬる」

 目の前に新しい世界が開けた。
 何なんだこの感覚は。面白面白面白すぎる~!こんな小説読んだことねぇ~!

 その後、ファンというよりも横田順彌氏を心の師匠とし、勝手に弟子になったオレは手に入る限りの著作を読んでいった。
 その一冊、短編集の『脱線!たいむましん奇譚』収録の『おたまじゃくしの叛乱』は次の文で始まる。

 朝だ。雨がふっている。朝だ雨だ。(アサダアメだ)

  完璧である。小説の出だしとしてこれを超える物をオレは知らぬ。「トンネルを抜けると、そこは雪国だった」など怖れるに足らん。洒落で言っているのではない、本気だ。
 オレはこんな小説を自分でも書いてみたいと思い、さっそく執筆に取りかかった。
金大事シリーズにならって、私立探偵を主人公としたハチャハチャ小説にしよう。
 主人公の名は「とりあえず漢字三文字は絶対だよな」と悩んだ結果、海底軍艦の神宮寺大佐から取って、神宮寺照彦とした。
 相棒は医者で、「ワットで電力を測ると損だ」という論文を書いたワットソン博士。
要約した話は以下の通り。

 ワットソンが友人の医師が殺された事件の解決を神宮寺に依頼する。
 その医者の死体は駅のホームで発見された。駅員が見回りの後、二本の列車がその駅に停車し、そのどちらかの列車から運び出されたらしい。
 片方の列車は、あまりの速さにみんな「こらまぁ」と感嘆の声を上げてしまう、新幹線こらまぁ号。ちなみに停車駅が少なくさらに速く、どんな遠くでも日帰りできてしまう、新幹線ひがえり号という姉妹列車がある。
 そしてもう一方は、その安全性は完璧で絶対に事故を起こさない寝台特急ぶじ。
 神宮寺照彦の推理が導き出した答えは、
「殺された人物は医者だったのだろう。ならば答えは簡単だ。死んだ医者、寝台車、よって殺害現場は寝台特急のぶじだよ」

 それまでにも簡単なお話は書いたことがあったが、人に読ませることを前提に本気で書いたのは、この『列車殺人事件』が初めての作品である。
 オレにとって物を書いたり作品を作ることの原点と言っていい。
 その後、神宮寺シリーズは中学、高校と何作か書かれ、後に映画化もされた。というか大学のシネマ研究会に入ったオレが、第一回監督作品として映画化した。
『ダイヤモンド・ゲーム』(1988)というタイトルで、世界最小のダイヤ『スパローの涙』を狙うアルセーヌ・ルパンを、神宮寺照彦と大林警部が迎え撃つというギャグ映画だ。

 面白いこそ重要。笑えることこそ至高。そのためならば何をやっても良い。そんなことをオレに教えてくれた横田順彌。
 その出会いをもたらしてくれた後輩には今でも感謝している。
 以降、その思想がオレの主たる部分を占め、現在にまで至っている。

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