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映画バカ青春記 第15章 放送部と発声と日本一の先輩

 高校に入って放送部に入部した。
 これまでも放送にまるで縁がなかったわけではない。小学校の5年か6年の時にも放送委員をやっていたことがある。
 全校朝礼で音楽やマイクによる放送をやったり、給食の時間にお昼の放送を担当していた。
 同じクラスから男女二人が放送委員をやっており、その女の子に恋していた。記憶にある限りだとこれが初恋である。
 だが、告白やらラブレターを出したりという具体的な行動には出なかった。せいぜい、放送の合間を見て自分たちも給食を食べるので、「オレが続けとくから、先に食べちゃえよ」とか「片付けはオレがやっとくから、先に食器を返しておけよ」とジェントルマンな振る舞いをするだけだった。それも、内心かなり照れていたので、ぶっきらぼうに言うだけ。乱暴なヤツに思われただけかも知れない。うーむ、シャイボーイだな、オレ。
 全校朝礼ではラジオ体操をやる。放送室は運動場の前方のちょっと高まったところにあった。まだまだ子供も多い時代で、全校で2000人ほどの生徒数だったはずで、その生徒がラジオ体操の音楽に合わせて一斉に同じ動きをするのが前から見てすごく怖かった。これが校長あたりだと「うん、みんな揃っていて素晴らしい」などと思っていたのだろう。その頃のオレには上手く説明できなかったが、みんなが揃って同じ動きをすると、個の存在が消え没個性となり、全体で一つの物となることに恐怖を覚えたのだろう。ファシズムだ。オレのファシズム嫌いはこれが原点となっているのだろう。
 それ以降、大学時代に友達に誘われていった中日・巨人戦や、バイトで行ったコンサートの警備などでこれは確信となっていくが、それはまた後の話。

 高校でもお昼の放送はあった。
 番組名は確か「Day Out JOCKEY(デイ・アウト・ジョッキー)」だった。
 放送部員はオレと同期の1年生が3人、2年生が2人。3年は受験に備えて実質的に引退していたので、この5人がフルメンバーとなる。
 すると、Day Out JOCKEYは月~金の番組枠となるので週に5回放送。部員数とちょうと同じ。そこで一日ごとの交代で担当するとこれまたぴったり。
 番組作りの制作面をやりたいと思っていたオレだが、当然一日分を担当することとなった。確か曜日は木曜日だった記憶がある。

 DJをやるからにはアナウンスの技術を磨かねばならない。
 部活に行くとまずは腹筋から始まる。胸式呼吸ではなく腹式呼吸だから腹筋は重要なのだ。
 そして発声練習。「あえいうえおあお、かけきくけこかこ」から始まり「あめんぼ赤いなあいうえお、浮き藻に小エビも泳いでる。柿の木栗の木かきくけこ」。
 どうでもいいが、あめんぼは赤じゃなくて黒か灰色だろうと当時から疑問だった。いまだに疑問だ。まぁ、発声練習だから言葉に意味はないのだが。
 続いて滑舌を鍛えるために「外郎売り(ういろううり)」
「拙者親方と申すは、お立合いの中にご存知のお方もござりましょうが、お江戸を発ってニ十里上方、相州小田原一色町をお過ぎなされて青物町を登りへおいでなさるれば,欄干橋虎屋藤右衛門、只今は剃髪致して円斎と名乗りまする。」から始まる延々と長い口上だ。
 この場合の外郎は名古屋名物の「白黒抹茶小豆コーヒーゆずさくら」のういろうではなく、薬のこと。
 ところが、オレは舌が短いのと子供の頃から慢性副鼻孔炎だったせいか、「らりるれろ」のラ行が「だでぃでぅでぇど」っぽい発音しかできない。昔、子役でカケフ君という子がいたが覚えているだろうか。あの子も鼻づまりようなしゃべりだったが、テレビに出ていた頃には鼻は治っていたのだが、言葉を覚える時期に鼻炎だったからそのままの発声が身についてしまって、なかなか直せないとのことだった。オレも同じような物で、ラ行の発声を指摘されて直そうと努力したのだが、これがなかなか難しい。結局直らず、今でも「だでぃでぅでぇど」。

 2年生の先輩は男一人、女一人だった。この女の先輩がとんでもない人だった。
 NHK高校放送コンクールのアナウンス部門で1年生の時にかなりの成績を収め、2年生の時にはなんと優勝。つまり、その当時日本で一番アナウンスが上手い高校生がその先輩だった。
 現在ではプロとなっており、テレビやCMのナレーションなど、主にナレーターとして活躍されている。涼しげで、それでいて深みのある声で流れるようにアナウンスする。もう、これはオレのラ行の発音うんぬんを抜きにして敵わないなと思った。
 入部したクラブの先輩が日本一の実力者。あのね、マンガじゃないんだから。いや、もしもオレが担当編集者だとしたらリアリティがないとボツ出しするかもしれない。だがこれは現実である。

 自分よりも圧倒的に才能のある人間を前に、人はどうすればいいだろうか?

1.それに近づき、追い越すべく努力する
2.あきらめる
3.同じ道ではかなわないのならば、別の道を進む

第8章と同じ命題が現れた。
 もちろん、オレが選んだのは3.の別の道を進むだ。

 発声の技術では勝てない。ならば内容で勝負だ。
 進学校だけあって、他の部員のDJは真面目で固かった。
 だったら、オレは笑いの道を選ぶぜ。なんてったって、師匠はつボイノリオだしな。

 そして、東森時音のDay Out JOCKEYは始まった。

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