
『ヒルコ 妖怪ハンター』 (1991) 90分 日本 1991/05/12鑑賞
監督:塚本晋也 エグゼクティブプロデューサー:長谷川安弘 企画:堤康二 原作:諸星大二郎 脚本:塚本晋也 撮影:岸本正広 SFX:浅田英一 音楽:梅垣達志
出演:工藤正貴、沢田研二、竹中直人、上野めぐみ、室田日出男
-オレはいつでも燃えている その28-
諸星大二郎の『妖怪ハンター』が沢田健二主演で映画化されると聞いて、「おお、これは絶妙なキャスティングかも」と喜んだ。話題になった自主映画『鉄男 TETSUO』(1989)はあまり好きではなかったので、これが商業映画デビューとなる塚本晋也には不安も覚えたが、楽しみにして公開翌日に観に行った。
原作では長髪でニヒルな考古学者稗田礼二郎が、映画では髪も短くよれよれの白い麻のスーツで部屋にゴキブリが出ては大騒ぎをしてキンチョールを吹きかける情けなく頼りない男になっていた。なんじゃこりゃと思ったが、その違和感も最初の10分で消え去り、あとはラストまでドキドキハラハラしながら同時に爽やかに楽しんだ。
田舎の田園地帯。そこにある中学校を舞台に少年八部まさお(工藤正貴)と稗田礼二郎が古墳と謎の妖怪ヒルコをめぐって冒険を繰り広げる。
古くから伝わる言い伝えによると、ヒルコという魔物がこの地にある古墳に封じ込められているという。その古墳を見つけ出した中学教師の八部(竹中直人)が女子生徒月島と一緒に失踪する。まさおは二人の友人と一緒に父と月島を捜して学校内をうろついている。そこに、友人である八部から古墳について手紙をもらっていた稗田がやってくる。だが、すでにヒルコの封印は解かれつつあり、夏休みの学校は惨劇の舞台となった。
主役を稗田からまさおにすることで、この作品は過酷な経験を経て成長する少年の一夏の物語となっている。まさおは背中に二枚の湿布薬を貼って登場する。そしてヒルコによってヒルコによって人が殺される度に、その人の顔がまさおの背中に痣となって焼き付けられる。八部家は先祖代々古墳を守る一族でその重みと責任を背負わされているのだ。終盤に入る前に用務員の渡辺(室田日出男)が右側の湿布薬をはがすとそこには八部の顔があった。左側もはがそうとするが、その手をまさおが止める。そこにはまさおが恋していたが口もきいたこともない相手である月島があるはずだ。その想いを胸に、まさおは最後には世界と人類を背負うことになる。その危機を友人二人が救うシーンは感動だ。
ヒルコの姿は中盤まで映し出されず、それまでは床や壁をはい回るヒルコの視点で登場する。『死霊のはらわた』(1983)で森の中を高速でうろつき回る死霊の描写に似ている。中盤になって現れたヒルコは人の頭を首から切断し、そこに乗り移って蜘蛛かカニのような足を出して移動する。蝿のような羽根で空も飛ぶ。人間に精神攻撃を仕掛けてくる怪物だが、キンチョールに弱いという弱点がある。モデルアニメーションやマペットで不気味な姿が映像化されている。ハイビジョン合成で大量のヒルコがうぐめく様はなかなか見事。
屈指のシーンは山の上で稗田が古墳の場所に気付くシーンだ。紙に書かれた菱形の古墳の地図から眼下に広がる夜の学校へとダイナミックな視点の切り替えがある。これを映画館のスクリーンで観た時には背筋がぞくぞくっときた。DVDやビデオで観ても良いシーンなんだが、やはりここはスクリーンじゃないとと思ったりもする。
池の底から差し込んでくる地上の明かりを、ヒルコたちがうらめしく見上げているシーンも良い。いつか地上を我が物にせんと、太古の昔からずっと見上げて来たのであろう。
大胆な設定の変更が加えられているため、原作『妖怪ハンター』の愛読者には評判が悪いかも知れない。ただでさえ諸星大二郎は熱狂的ファンが多そうだし。だが映画は映画、原作は原作。出来上がった作品が面白ければそれでいいじゃないか、と思う。