
『ドラゴン怒りの鉄拳』 (1971) 精武門 FIST OF FURY 100分 香港
監督:ロー・ウェイ 製作:レイモンド・チョウ 脚本:ロー・ウェイ 撮影:チェン・チン・チェー 音楽:ジョセフ・クー
出演:ブルース・リー、ノラ・ミヤオ、ロバート・ベイカー、ジェームズ・ティエン、橋本力
-オレはいつでも燃えている その19-
この作品のことを「日本人が悪役だから嫌い」とか言うな。日本が上海を占領していたのは事実だし、劇中に登場する「犬と中国人の立ち入りを禁ず」という看板も実際にあったそうだ。時として映画にはロシア人やイスラム人、ユダヤ人にコロンビア人が悪役として登場する。それが当たり前ならば、日本人が悪役として登場するのもまた当たり前だろう。
「袴の前後が逆だ」とかいってこの映画を否定するのは止めろ。日本人出演者の橋本力はもちろんそれに気がついて、衣装担当に伝えたそうだが、「そんなの香港の観客は誰も気にしないよ」とそのまま撮影が進められてしまったそうだ。ちゃんとしろを衣装係とは思うが、精武門に潜り込んでいた日本人が、腹巻きを着用していたためにブルース・リーに正体がばれるなど面白いアイディアではないか。
どうしても日本人が悪役であることが気になって楽しめないならば、映画の上映中は香港人になったつもりで観ろ。そうすれば、せっかくのブルース・リー最高傑作を楽しめると言うものだ。
アメリカから香港に戻っての主演第一作『ドラゴン危機一発』(1971)ではまだ野暮ったさが感じられたブルース・リーだが、『怒りの鉄拳』では実にシャープで悲しみと怒りを秘めた男を演じている。パンチにしろ蹴りにしろ、より鋭さが増して実に強そうだ。
ブルース・リーには珍しくノラ・ミヤオとのラブシーンがある。ノラ・ミヤオとはなんか野良猫っぽい名前だが、可愛らしい女優さんで、格闘シーンもがんばっている。
終盤のロシア人格闘家との対決は、『ドラゴンへの道』でのチャック・ノリスとの対決と並ぶ名シーン。両腕を「ワックスかける、ワックス拭く」の要領でぐるぐる回すのがストロボアクションで描かれるところなど、妙に燃える。確実に倒した相手に、さらにとどめの一撃を加える容赦のなさが格好いい。
にらみ合うブルース・リーとロシア人、そして悪玉日本人の3人がそれぞれ「ダッダン」という効果音と共に目がズームになるカットが繰り返されるシーンがある。観る度に、「最後の日本人のところは、目じゃなくて鼻にズームしてくれんかなぁ」と思ってしまうのは、オレの体質だ。
出来れば、ラストの死闘はロシア人ではなくて日本人とやって欲しかったが、ちょうどいい人材がいなかったのだろう。もう数年後だったら倉田保昭が香港で活躍していたので、その対決を見たかった。
ちなみに倉田保昭はリメイクに当たる『フィスト・オブ・レジェンド/怒りの鉄拳』 (1994)で主人公のジェット・リーと野原で対決していた。倉田保昭は悪役ではないので殺し合いではなく一種の手合わせ試合。後のインタビューで「寸止めしきれずに突きや蹴りが当たるとジェット・リーがびびって腰が引けてしまい、撮影が結構大変だった」と語っていた。ジェット・リーは拳法大会の優勝者だが、これは試合ではなく演武での型や美しさを競う物だったとか。中国拳法は組み手は余りやらないし、対戦による試合もあまりやらないので、格闘技としての強さは疑問視されている点もあるとか。
チャック・ノリスも「本気で戦ったら多分俺が勝つよ。ブルースは腰が弱いからね」とか言ってた。うむむ、でもブルース・リーは格好いいし、格闘家以前に映画スターだからいいんだい。
そうそう、格闘シーンだけではなく、丸眼鏡をかけた電話修理工や人力車引きなど、ブルース・リーのへなちょこな変装も楽しめる。
『明日に向って撃て!』(1969)と対比されることが多いラストシーンだが、対比というかまあパクリなんだが、映像はそのままでも意味合いはかなり違う。ブッチとサンダンスは死ぬと分かっていても逃げるために突っ込んでいったが、ブルース・リーは鉄砲隊を前に死ぬと分かっていても戦うために突っ込んでいった。そして流れる主題歌の『FIST OF FURY』が悲しい。『FIST OF FURY』は筋肉少女帯の大槻ケンヂがアルバム『ステーシーの美術』で日本語カバーしているが、燃えるぞ。俺の手は、怒りの鉄拳に変わるのさっ!
『精武門』は実際にあった事件をモデルにしているそうで、香港人お気に入りのストーリーだ。先ほどもいったようにジェット・リーもリメイクしているし、ドニー・イエン版もある。後日談を描いたジャッキー・チェン主演作もあり、何度も映画化されている。日本人にとっての『忠臣蔵』のようなものなんだろうか。
『喜劇王』(1999)の中でチャウ・シンチーが街角の舞台で演じているのも『精武門』だ。まあチャウ・シンチーは熱狂的なブルース・リーファンだから参考にならないか。