『仮面ボクサー-島本和彦』 最初に30年パンチを打っておけばよかった!!
『仮面ボクサー-島本和彦』 1989年7月30日初版発行 徳間書店 少年キャプテンコミックススペシャル
-オレはいつでも燃えている その10-
燃えるマンガ家島本和彦が書いたボクシングマンガ。正確に言うとボクシング界を舞台にした仮面ライダーのパロディ。
いや、島本和彦は石ノ森章太郎原作で『仮面ライダー』の原形に当たる『スカルマン』をリメイクしていたし、藤岡弘、の大ファンだそうだから、パロディと言うよりはむしろこれはオマージュだろう。主人公の仮面ボクサーが最初に戦う対手が“クモボクサー”というのも島本和彦は分かっている男だ。やっぱ最初の敵がクモってのは基本だよな。
ボクシング界征服を狙う悪の組織・世界征服ジムが、コミッショナーを洗脳して特殊機能を持つグローブや仮面を認可させ、強烈に強い悪のボクサーたちがリングを荒らし回る。ボクシング界を征服して何の得があるのか意味不明なところがいかにもその手の悪の組織だ。全米空手界を征服しようとした『シンデレラ・ボーイ』の悪党たちと通じる物を感じる。
死の間際に正気を取り戻したコミッショナーは息子である拳三四郎にヘッドギア型仮面とグローブを託し、ボクシング界に平和を取り戻すように言い残す。そして三四郎は仮面とグローブを装着して正義のボクサー『仮面ボクサー』となって、世界征服ジムが放つカマキリボクサーやブロンドボクサーと死闘を繰り広げるのであった。
こう書くと熱血ボクシング特撮ヒーロー物っぽい。ところが三四郎は「男!!命がけ!!魂!!血みどろ!!はいあがる!!」といった言葉はポンポン口に出すくせに、自他共に認める根性なしの情けない男。
「この体がにくいッ きたえぬいてやるッ サンドバッグ連打500回だ」と猛特訓を始めるが、次のコマでは「・・・ほら まただ 気がついたら120回でやめてもうカルピスソーダをのんでいる なんなんだおれはっ」といった情けなさ。でもオレも根気のなさには自信があるので三四郎の気持ちは分かる気がする。それに強さと根性なしは両立するのだ。
そんな具合にギャグマンガとして作品は進行していくが、終盤になって怒濤の燃え上がりを始める。
世界征服ジムがつくりだした最強の仮面をかぶったゴッドボクサーが出現する。その正体は誰がどう見たって史上最強のヘビー級ボクサー“マーク・パイソン”その人だ。マネージャーや妻にむしり取られずに自分の自由になる金目当てでゴッドボクサーになったとか。誰がどう見てもモデルはマイク・タイソンだよな。
もちろん根性なしの三四郎は試合を拒むが無理矢理リングに引きずり出されてあっけないまでの完敗に終わる。二度の対戦の後、仮面ボクサーは入院先から逃亡する。そして人々の前から仮面ボクサーは姿を消し、ボクシング界は世界征服ジムに牛耳られてしまった。
逃亡先の秘湯でのんびりと傷を癒やす三四郎。その前にゴッドボクサーの仮面を開発したエディが現れる。世界征服ジムを裏切ったエディは三四郎と手を組んで戦おうというのだ。
1年の間、三四郎はトレーニングを続け、エディは仮面に改良を加えた。その改良点とは装着したボクサーの命を1年単位でエネルギーに変え、強烈なパンチを放つことが出来るといったものだった。三四郎の能力からすると30年分の寿命を使えば一発でゴッドボクサーを倒すことが出来る。
これぞ名付けて『30年パンチ』!!
悩んだあげくに三四郎は寿命が30年縮まろうともゴッドボクサーを倒す気になったが、好きだった女の子に思いが通じてしまったことから急に命が惜しくなる。そして、ゴッドボクサーとの対戦が始まっても、30年パンチが出せなくてせこく5年パンチや7年パンチを打っていく。もちろんその程度のパンチはゴッドボクサーには通用せず、無駄に寿命が減っていき、ついに残りの寿命が30年になってしまう。30年パンチを打っても死ぬ。打たなくてもゴッドボクサーに殴り殺される。
そして仮面ボクサーは叫ぶ。
「最初に30年パンチを打っておけばよかった!!」
ここから腹をくくった仮面ボクサー=拳三四郎の男のドラマが始まる。ページにして10数ページだがメチャメチャ燃える。熱く激しい男の生き様だ。
島本和彦の作品は、ストーリーがどうとか展開がどうしたを見るのではなく、登場人物の行動や言動を楽しむものだ。
『仮面ボクサー』について、島本和彦はボクシングを分かっていない、知らないのではないかという評価を読んだことがあるが、まったくもって的はずれだろう。例えるなら『少林サッカー』を観たオレの知人だ。サッカーファンであるその人はまず「こんなのサッカーとは認めない」といった。・・・いや、だから、サッカーのリアリティを追求する目的で作られた映画じゃないだろ。サッカーは手段であってそれを描くのが目的じゃない。それに、少林隊がやってるのは“サッカー”じゃなくて“少林サッカー”だし。
とにかく男気のある人間なら読め(男気ってのは感性みたいな物だから男気を持っている女もいれば、持っていない男もいる)。そして30年パンチに燃えろ!








