『ストレンジャーズ』(上下) ディーン・R・クーンツ(現在はディーン・クーンツと改名) 文春文庫
前回で終了したはずの「オレだってたまには泣く 小説編」だが、スティーヴン・キングの作品を紹介しておいて、ディーン・クーンツを紹介しないのはやはり片手落ち。そこでクーンツ作品の中でも面白く読み応えがあるこの『ストレンジャーズ』を紹介する。
この『オレだってたまには泣く』シリーズは比喩としての泣けるではなく、実際にオレの瞳から涙がこぼれたということが条件なので、ぐっときはしたものの泣いてはない『ストレンジャーズ』を紹介するのは少々ルールに反するが、番外編とでも考えて欲しい。
カリフォルニアに住む作家、ボストンの女医、シカゴの神父、そしてニューヨークの現在は盗賊になった元特殊部隊の隊員。彼らはそれぞれ突然の精神的発作で遁走状態になったり、夢遊病で家の中にバリケードを作り立てこもったり、さらには銃で撃たれた警官や先が長くない女の子の病気を不思議な力で治したりしている。
それぞれまったく違う場所に住み、違う世界を生きる彼らが夢に見るのは「月」だった。
そして彼らは自らの中にある何者かによって封印された記憶の謎を解くべく、個々独自にだが不思議なほど同時期に行動を開始しある場所へと集まっていく。
謎を解く鍵はネヴァダ州のごくありふれたモーテル。そこで一体何があったのか?彼らの身に一体何が起こっているというのだろうか?
序盤から読者をぐいぐいと引き込んでくるクーンツ節が炸裂している。描写される人物が多少薄っぺらに感じるが、これをクーンツの欠点と見るか個性と見るかは人それぞれだろう。
オレがジーンと来るのはボストンの女医に過去催眠を依頼された81歳の元奇術師で催眠術のパブロ・ジャクソンが、パーティー会場で出会った旧知の元情報活動を行っていた上院議員と話をするシーンだ。上巻の343ページから353ページに当たる。このシーンは異常に思える出来事の裏側になんからの組織がいることを匂わせる最初のシーンでもある。
上院議員は渋々伝えられる情報を伝えた後、「この件には手を出しちゃいけない。これはきわめて危険なんだ」ときつく忠告をする。
だがパブロは「八十一歳にもなると、面白いことなんかめったに起こらなくなるんだよ。」と手を引く様子を見せない。
上院議員は「君は考え違いをしている。」と最後の忠告、いや正確には警告をする。
それに対するパブロの答えはこうだった。「そうかもしれんね。だぶんそうだろう。でもね・・・だったら、なぜ私はこんなに気分がいいんだろう?」
カッコいいじゃねぇか、ジジイ。このまま催眠治療を続ければどんな危険が襲ってくるか、そしてその危険は女医から手を引くことで解決する。その2つの事項がわかりながらも手を引くことを拒否し、自分の娘のように思えてきた女医を助けるために腹をくくるこのシーンがジーンと来る。もうちょっとで泣きそうなぐらいに感じる。
その100ページほど後でパブロは・・・
登場シーンもさほど多くはなく、脇役の一人に過ぎないのだが、パブロ・ピカソから名前をもらったというこの老人がオレにとって一番のひいき登場人物だ。