『ニワトリはいつもハダシ』 火浦功 角川文庫
主人公のいい加減で無責任で締め切り破りな遅筆SF作家壬生マコト(作者である火浦功自身がモデルと思われる)はついにホテルにカンヅメになって原稿を書いている。いや、正確には書いてはおらず、いかにして部屋の前に貼り付いて見張っている編集者沖田の目を盗んで逃げ出すかに頭を絞っている。すると7階にあるその部屋の窓から、黒ずくめのスーツを着込みリボルバー拳銃のコルト・パイソンを持った殺し屋ハジキのジョーこと木暮譲次が入ってくる。その肩には一羽のニワトリ(名前は知世)が乗っていた。
そして物語は動きだす。ホテルで殺人事件が起こり、捜査一課の近藤警部(成田三樹夫似)が捜査にあたり、流しの女子大生探偵まで登場してくる。
謎のメッセージ「金のよーかん 銀の耳」をめぐってハチャメチャギャグ+ハードボイルド+ミステリーが始まったのだ。
角川書店の『野生時代』に連載された小説を加筆訂正の上でまとめられ、1988年2月25日に発行された文庫本である。連載時はかなりいきあたりばったりで進められたらしい。あとがきによるとラストは唐突に台風が襲ってきてうやむやのうちに終わってしまうのだとか。そちらも読んでみたい気もするが『野生時代』の1987年11月号を手に入れるのは古本屋巡りをしてもかなり難しいだろう。
文庫版ではちゃんしたと決着がついて終わる。若い二人組の殺し屋が最期を遂げるシーンでぐっときて、ラスト近くのハジキのジョーと近藤警部の会話で泣く。一見なんでもなさそうなちょっとした言葉の交わし合いなのだが、片や殺し屋で片や警官と立っている側は違えども、お互いに認め合った古い馴染みのプロ同士の会話だ。泣けるぞ。
ハジキのジョーはどう考えても日活映画で宍戸錠が演じた永遠のキャラクター「エースのジョー」がモデルだろう。ビリヤード場がプールバーになり、ブティックのハウスマヌカンが登場する(普通のブティックでも普通のハウスマヌカンでもないが)1987年というバブル全盛の時期をハジキのジョーは昭和30年代を背負ったままそれを貫く。ハードボイルドである。そのハードボイルドを成立させているのが肩に乗せたメンドリの知世だろう。おそらくはオレが『ロジャー・ラビット』についての文章で書いているのと同じ理由だ。
火浦功は文体というか文章のリズムが性にあってかなり好きな作家なのだが遅筆のためか寡作だ。ハヤカワの『高飛びレイク』シリーズや角川の『ガルディーン』シリーズは永遠に続巻が出ないままなのだろうか?
文章からはスラスラと書いているといった印象を受けるが、実際は一行一行一文字一文字を絞り出すように苦労して書いているのだろう。簡単そうに見える物ほど実は難しかったりするのだ。オレも難解な文章の方が書くのが楽だなと思うことがある。図書室に収録してあるエヴァンゲリオンの二次小説などを書くときには手元に火浦功の『ファイナル・セーラー・クエスト ひと夏の経験値』が置いてあった。文章につまってキーボードを打つ手が止まると『ひと夏の経験値』を読んでリズムを掴んではまた書き始める。そう考えるとオレは火浦功にお世話になっているのだ。
ハードボイルドSF短編集『死に急ぐ奴らの街』も泣ける。『ニワトリはいつもハダシ』は絶版で古本屋でしか手に入らないが、『死に急ぐ奴らの街』は徳間デュアル文庫として2001年に復刊されたことがあるのでまだ入手が可能かも知れない。ただ、最初に徳間書店の新書版として発行されたときの表紙はハードボイルドしてて好きなのだが、デュアル文庫の方はアニメ風のイラストになっていてオレとしてはがっかり。本屋で見つけて「これは違うだろ!」と叫びたくなったものだ。でも結局は買ったのだが。
2007/10/21追記
最近になってソノラマノベルズにて復刊された。なんと、雑誌掲載版と文庫化版の二作が丸々と収録されたいて、気になっていた台風ラストも読むことが出来る。
元俳優で、今作の編集者だった高柳良一の解説も2007年版となっていて、そこではある驚くべき事実が記されている。まさか、そうだったとは!