『マックQ』 重心を保ったままジョン・ウェインはゆっくりと歩く

『マックQ』(1973) McQ 112分 アメリカ
監督:ジョン・スタージェス 製作:ジュールス・レヴィ、アーサー・ガードナー、ローレンス・ロマン 脚本:ローレンス・ロマン 撮影:ハリー・ストラドリング・Jr 音楽:エルマー・バーンスタイン
出演:ジョン・ウェイン、エディ・アルバート、ダイアナ・マルドア、コリーン・デューハースト、クルー・ギャラガー
『ダーティハリー』(1971)の世界的大ヒットをにある意味では便乗して製作された刑事映画。主演のジョン・ウェインは『静かなる男』(1952)や『ドノバン珊瑚礁』(1963)など現代劇でも活躍しているが、それらと同じくジョン・フォードが監督した映画史に散々と輝く至宝『駅馬車』(1939)など西部劇における保安官やカウボーイ、そしてガンマンを演じている。
他には『硫黄島の砂』(1949)や『史上最大の作戦』(1962)など戦争物で兵士役もあり決して西部劇専門ではなかったのだが、私たちの印象はやはり『西部劇のジョン・ウェイン』である。
西部劇が全盛であったことは良かったが、1960年代が終わりに近づき私が嫌いなニューシネマが台頭してくる頃からマカロニウエスタンの登場もあってハリウッドの西部劇は急激に失速していく。
1969年の『ワイルドバンチ』や同じく69年の『明日に向って撃て!』は、西部劇に分類されているものの実際には西部劇ではない。従来の西部劇よりも後になる1900年頃を舞台にしていることもあるが、映画の作り自体が違うのだ。
自分のルーツである西部劇が消え去っていこうとする中、ジョン・ウェインは「魅力的な正統的西部劇を作る」ということと「自分を現代劇でも活躍させる」という二つの試みを同時に進めた。後者の試みの一つがこの『マックQ』となる。
だが、刑事を演ずるジョン・ウェインがウインチェスターライフルやコルトS.A.A.の代わりに小型サブマシンガンMAC10(MAC11だったかな?)を乱射しても刑事物定番のカーチェイスをやってもどうにも様にならない。開拓者の服はあれほど似合っていたのに、ジャケット姿は様にならない。
監督のジョン・スタージェスは『荒野の七人』(1960)など、どちらかというと西部劇を得意にした人であり、演出が牧歌的というか『ダーティハリー』のドン・シーゲルの様なざらついた荒々しさがないのもまた違和感を強めている原因ではある。
誰がなんと言おうとジョン・ウェインがハリウッドを代表する映画スターであることは間違いがない。右翼のタカ派であるとか本人の思想や政治的スタンスは本来どうでも良いのだ。そのハリウッドの映画スタージョン・ウェインがハリウッド映画を代表するジャンル「西部劇」から抜け出せずにあがき苦しんでいるのが見て取れて、実は観ていてつらい作品なのだ。
ジョン・ウェインの遺作『ラスト・シューティスト』(1976)は皮肉にもドン・シーゲル監督作でもある。
伝説的英雄である腕利きのガンマンがガンに冒され余命幾ばくもないことを知る。そしてそんな彼を倒して名を売ろうという連中と決闘を挑んでくる。決闘に勝とうが負けようがどのみち死はすぐ目の前にある。その主人公を演じたジョン・ウェイン自身がガンに冒されていて病気と闘いながらの撮影だった。
西部劇スタージョン・ウェインは西部劇と共に死んでいった。
いや、実はジョン・ウェインが死んだから西部劇は死んだのかも知れない。
しかしすでに寿命を迎えていた彼はそれでも良かったとしても、まだまだ若くてこれから脂がのってくるという西部劇スターはどうすればいいのか。しかもハリウッドの西部劇ではなくてもともとが一時的なブームにすぎないマカロニウエスタンのスターだ。
それについては次回の刑事物特集最終回で語ることになる。
念のために言っておくが、このエントリはジョン・ウェインを貶めるのが目的では断じてない。
『リオ・ブラボー』(1959)で愛用のウインチェスターレバーアクションライフルを手に持ちながら、保安官として守っている街をブラブラと見回っているその歩く姿だけで観客の目を引きつけて放さない。その理由は演技力がどうとか容姿がどうとかいったレベルを超越した“最高の映画スター”が持つ存在感だ。
ジョン・ウェインの重心を保ったままゆっくりと歩くその歩き方は独特だ。ゆっくりといっても愚鈍さではなく強者が持つ重みを感じされる。まるで最強の肉食獣といわれる虎が歩いているような、下手に手を出したら痛い目に遭うどころじゃすまないだろうという迫力だ。
『レオン』(1994)でマチルダがレオンの心に近づきたくて物真似遊びに誘うシーンがある。マドンナやマリリン・モンロー、それにチャップリンの真似をして見せても、レオンは誰の真似なのかさっぱり分からない。ようやくジーン・ケリーの真似を当てたレオンは、今度はあなたの番よとマチルダに物真似をせがまれる。そして隣の部屋からレオンが物真似をしながら入ってくるシーンで大爆笑してしまった。
のそっとしたその歩き方、首元に巻いたスカーフと腰のガンベルト。どこをどう見たってジョン・ウェインだ。しかも一言放つセリフが「OK、ピルグリム」ときてる。
まだ12歳のしかも女の子であるマチルダには誰の真似か分からないが、これが交流を深めていくきっかけとなる。
他人にの距離を持って極力関わりを持つのを避け、仕事(殺し屋)とトレーニングと一鉢の観葉植物だけの世界で孤独に生きてきたレオン。そんな彼ですら知っている、いやそんな彼だからジョン・ウェインの物真似だったのかもしれない。このシーンはジョン・ウェインでなければ成立しなかったといってもいいだろう。リック・ベッソンの映画への愛も感じられる良いシーンだ。

