
『ファイヤーフォックス』(1982) FIREFOX 136分 アメリカ 1982/07鑑賞
監督:クリント・イーストウッド 製作:クリント・イーストウッド 製作総指揮:フリッツ・メインズ 原作:クレイグ・トーマス 脚本:アレックス・ラスカー、ウェンデル・ウェルマン 撮影:ブルース・サーティース 特撮:ジョン・ダイクストラ 音楽:モーリス・ジャール
出演:クリント・イーストウッド、デヴィッド・ハフマン、ウォーレン・クラーク、フレディ・ジョーンズ
1982年当時に劇場で観たときは、SF好きでSF映画好き、SFX大好きなガキだったのでファイヤーフォックスが飛ぶまでの前半・中盤が邪魔でしょうがなかった。暗くて爽快感もないし、こんなのいらないからとっととファイヤーフォックス出せや!ってな感じだった。
1980年代後半に、レンタルビデオで観直したときは印象がまるで正反対に変わっているのに驚いた。昔はあれほど退屈だった後半までが面白くってしょうがない。それどころか、SFX担当のジョン・ダイクストラには申し訳ないが、ファイヤーフォックスが飛んでからはもはやオマケにすぎないとまで感じた。
きっとその間に横たわる数年間がわたしにとっての思春期で、そして少年から大人へと変わっていったのであろう、汚れもないままに。などと「お前は徳永英明かっ」みたいなことを言ってみる。
名パイロットだがベトナム戦争で心に深い傷を負って隠遁生活を送っている主人公ガント。彼が再び政府に引きずり出されて付け焼き刃な訓練で工作員としてソ連に送り込まれる。目的はソ連が開発している最新ジェット戦闘機コードネーム『ファイヤーフォックス』を盗み出すことだ。この地味なスパイ映画部分が実に面白い。
派手で荒唐無稽なスパイの代表がイアン・フレミングの『007』シリーズだとしたら、この作品はジョン・ル・カレの『寒い国から帰ってきたスパイ』など一連のリアルな作品群を思い起こさせる。最初はちょっと退屈だがそれを我慢して読み進めば面白さが分かる。
監督も務めたクリント・イーストウッドの演出は抑制が効いており丁寧で素晴らしい。現実から逃げていた男がまた厳しい現実社会に引きずり出される。潜入したソ連は言葉も通じずアメリカでの常識が通用しない不条理とも言える世界。そこで戸惑い、いくつもの無意味にも思える死に出会う。
凡百なアクション映画ならばそこで昔のプロ意識が蘇ってきたり、男の本能とやらが目覚めて戦いに意義を見いだしていく。だが、ガントは主義や思想に目覚めることもなく、自らの使命に価値を見いだすこともない。過去の恐怖に関する記憶から抜け出すことが出来ず、任務と敵に対する不安も振り払えない。超人ではなく単なる一人の男に過ぎないのだ。ガントを支援する反政府ロシア人たちが自由のため、自らの信念のために命を投げ打っていく姿がそれに対比される。
そして、奪いだしたファイヤーフォックスが滑走路から空へと舞い上がっていく。それをガントを支援して傷つき、敵に囲まれて息も絶え絶えな男が見上げる。そこでエンドクレジットが流れ始めて映画は終わるべきだったのかもしれない。