『シンデレラ・ボーイ』(1985) NO RETREAT, NO SURRENDER 99分 アメリカ・香港 1988/5/24鑑賞
監督:コリー・ユン 製作: ン・シー・ユエン 原案:ン・シー・ユエン、コリー・ユン 脚本:キース・ストランドバーグ 撮影:ジョン・ヒューネック、デヴィッド・ゴリア 音楽:フランク・ハリス
出演:カート・マッキニー、ジャン=クロード・ヴァン・ダム、キャシー・シレーノ、J・W・フェルス、キム・ダイ・チョン
1988年5月深夜、サークルの新人歓迎会と二次会に参加したわたしはものの見事に終電に乗り損ね、2人の先輩と共に名古屋の繁華街・栄をさまよっていた。すでに初夏は近く気温も高かったがさすがに野宿はつらい。そこで映画館のオールナイトで朝まで時間をつぶすことにした。
当時、栄には東映の映画館があった。3スクリーンあって、邦画系が2スクリーン、残りの1スクリーンが洋画系だった。洋画は『ガバリン』の続編の『タイムトラぶラー』だった。3人とも『ガバリン』を観ていたので(観てるんかい)こいつを観ることにした。そしてその同時上映としてわたしは『シンデレラ・ボーイ』に出会うことになる。
客はわたしたち3人しかいなかったで気兼ねせずに歓声や笑い声をあげながらの鑑賞だった。
「そうくるかー!」「そうきましたかー!」とツッコみ、良いシーンでは拍手をした。嫌な奴が大写しになったらブーイングを浴びせた。アメリカ人のような映画鑑賞態度で、わたしにとってこれまでになく楽しい映画鑑賞だった。
主人公である少年ジェイソンの父はロスアンゼルスで空手道場を開いていた。しかし、そこに全米の空手道場を支配しようとする謎の悪党集団が乗り込んでくる。敵の親玉は我々の支配下に入れと問答無用で命令してくるが、父親はそれを拒否して襲いかかってきた手下達を倒す。だが後ろに控えていたロシア人格闘家のイワンとの戦いに敗れ、膝を折られてしまう。もう空手の出来なくなった父は、道場を閉鎖し仕事を求めてシアトルへと家族を連れて引っ越した。
父のもとで空手を学んでいたジェイソンは、事件によってよりいっそう武術にのめり込んでいく。シアトルにはブルース・リーの墓があり、そこで「空手が上達しますように」と願うジェイソン。だがブルース・リーのは截拳道で空手じゃないし、『怒りの鉄拳』や『ドラゴンへの道』を見る限りでは空手を嫌っていたようだが、そのあたりはどうなのだろうか。
慣れぬ土地でイジメなどにも遭い苦しむジェイソン。「イジメは日本独特」だとか、「他の国にイジメはない」なんてことを自称海外の教育にも詳しい識者とやらがいっているが、『シンデレラ・ボーイ』からもそれが嘘であることが分かる。
酒場のバーテンになった父親はすっかり惨めったらしくなってしまい、ジェイソンにも武術を禁止してもめ事を避けるように教える。口げんかになって家を飛び出したジェイソンは、再びブルース・リーの墓を訪れそこに刻み込まれたブルース・リーの写真に悩みを打ち明ける。そしてその晩、トレーニングに使っている空き家に一人の男がやってくる。中国服に身を包んだその男は、ブルース・リーに瓜二つだった。(実際にはほとんど似ていないが、魂の目で見るべし)
リー・タイガーと名乗るその男はジェイソンに武術を教える。厳しい稽古にも根を上げずジェイソンの腕前はどんどん上達する。だがしかし、空手業界統一を狙う悪の組織の手はシアトルにも伸びてきたのだった・・・
リー・タイガーが稽古を始める前に「武術とはなにか」をジェイソンに説明する。
「武という字は“戈を止める”(Stop Violence)と書く。お前が武術を学ぶのは誰かを倒すためではなく救うためだ」といったようなことを言う。このシーンがこの作品の肝であるように思う。単に稽古を積ませたり強くするだけの作品はいくらでもあるが、何のために力を身につけるか、その力をどう使うべきなのかがこの作品のテーマでもあるだろう。
確かにこの作品はB級だし安っぽいしジャン=クロード・ヴァン・ダムは180度開脚をする。だが、それと面白いかつまらないかは関係がない。心の目で見て、考えずに感じるんだっ!
いじめっ子のデブが見事なまでに憎たらしい。走ると肉がタップンタップンするいかにもアメリカンなデブで、かぶりついたハンバーガーからケチャップなどが飛び出して頬にべったり付いても平気な顔で食べ続ける。ジェイソンを目の敵にしていて、何かにつけて暴力をふるったり陥れたりする。こいつの前では原作版ジャイアンですら手ぬるく見える。劇場版のジャイアンに至っては物の数ではない。ちなみに悪意を持って登場する度に「パパパパーン」と『ウルトラマン』のオープニングそっくりの音楽が流れる。
ジェイソンの親友となる黒人は、髪にかなりのくせ毛だが、どうもかつらに見えてしょうがない。スケボーで技を決めたりするが、そのカットは腰から下しか映らないか背中を向けての物だけで、どこをどう見てもスタントだ。そしてダンスも得意なのだが、懐かしのムーンウォークは足しか映らず、背中で回転するブレイクダンスは執拗に顔を隠し、これまたどうみてもスタント。何故こいつがキャストに選ばれたのか理解に苦しむ。エディ・マーフィーやクリス・ロックばりのマシンガントークがあるわけではないし、インチキくさいラップは一応本人が歌っているもののこれが下手。以来わたしは「こいつひょっとしたら黒人じゃないんじゃないか?」との疑惑を持っている。『ミスター・ソウルマン』で日焼けとパーマでエセ黒人に化けたC・トーマス・ハウエルがその正体なんじゃないだろうか。あるいは歌手時代の田代まさし?
ジェイソン役のカート・マッキニーは、ちょっとボクちゃん系ではあるが割と二枚目だし、格闘技が出来て体付きもしっかりしている。演技もそれなりにこなしていたんで次回作を楽しみにしていたのだが、その後姿も見ないし名前も聞かない。
悪役で出番も少ないが一番おいしかったのがイワン役のジャン=クロード・ヴァン・ダム。ベルギー出身で言葉に訛りがきついため非英語圏の人物を演じることが多く、今回はロシア人役。セリフはほとんどない。『シンデレラ・ボーイ』でのアクションは素早くキレがあった。
「これからはこの男の時代が来るぜ~」と直感し、『サイボーグ』『キックボクサー』『ブルージーン・コップ』『ストロンゲスト 史上最強の映画スターは誰だ!?』『ライオンハート』『ダブル・インパクト』『ユニバーサル・ソルジャー』『ボディ・ターゲット』と公開される度に映画館へと駆けつけたが、なかなかヴァン・ダムの時代は来なかった。というかいまだに来ていない。
『サドンデス』(1995)を最後にヴァン・ダム作品は映画館で観なくなってしまった。また映画館へと足を運ばせる作品を作って欲しい。
悪党どもの狙いが空手業界統一というのももう一つ意味が分からなくて良い。アメリカ中の空手道場を手中に収めるってあんた、小学生の書いたお話じゃないんだから。
後にヴァン・ダムの名前が世間に広まった時に、『ノーサレンダー』のタイトルで再度ビデオソフト化されている。ビデオレンタル屋によっては『シンデレラ・ボーイ』はなくて『ノーサレンダー』しか置いていないかもしれない。(そもそもこの作品自体置いていない店の方が多いかもしれないが)
『ノーサレンダー』のパッケージはジャン=クロード・ヴァン・ダム主演作のように見せているが敵役なのでお間違えなく。だが、日本で始めて公開されたヴァン・ダム出演作品なので、興味がある方は観ておいた方が良いだろう。DVDにはまずならないだろうし、このまま消えていく作品だ・・・