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『八甲田山』 あるいはスコット隊とアムンゼン隊

『八甲田山』(1977) 日本 169分 2005/02/05レンタルDVDにて鑑賞

監督:森谷司郎 製作:橋本忍、野村芳太郎、田中友幸 企画:吉成孝昌、佐藤正之、馬場和夫、川鍋兼男 原作:新田次郎 脚本:橋本忍 撮影:木村大作 美術:阿久根巌 衣裳:長島重夫 音楽:芥川也寸志 助監督:神山征二郎
出演:北大路欣也、高倉健、丹波哲郎、三國連太郎、緒形拳、前田吟

暑い時にはカレーのような辛くて熱い物を食って暑さを吹き飛ばす。そこで寒い時には寒い映画だろと思って観てみた。結果、寒さが吹き飛ぶどころか余計と寒くなった。しかも気分まで思いっきり憂鬱にマリアナ海溝級にまで沈み込んだ。まったく、橋本忍はいったいなにがしたい、なにが言いたくてこんな映画を撮ったのか。
製作と脚本を兼ねている橋本忍、この人は『七人の侍』(1954)や『砂の器』(1974)などを手がけた東宝系の大物脚本家なのだが、わたしはこの人の作品はあまり好きじゃない。それどころか嫌いと言っても良いだろう。重苦しいのはまあ作風だろうがストーリーよりもテーマを優先させ、登場人物が愚鈍でセリフなどに魅力が感じられない。何より説明的なシーン・会話に終始してしまうことが反映画的で面白みがない。
『八甲田山』では明治35年1月末に青森県八甲田山にて陸軍の兵士200人以上が雪中行軍を行い吹雪のためほぼ全員が凍死に至った『八甲田山事件』という実際にあった出来事を描いている。青森第五連隊からの重装備・多人数の神田隊に対し、史実では存在しない(2005/2/27訂正:弘前三十一連隊による八甲田山踏破も事実。ただし指揮官の名前は徳島ではなく福島)軽装備・少人数の弘前第三十一連隊からの徳島隊を登場させたのは、南極探検におけるイギリスのスコット隊とノルウェーのアムンゼン隊が発想の元となっているのだろう。南極点を目指したスコット隊とアムンゼン隊も南極の雪と風に苦しめられ、スコット隊は南極点到達をアムンゼン隊に先を越されてしまいついには帰路の途中で力尽き全滅してしまった。神田隊と徳島隊が対比されることによってより悲劇性が強調されるというわけだ。
だが、そもそもひたすらうっとおしくなるような悲劇を何故映画化しなければいけなかったのか個人的には理解できない。映画も中盤以降はモノクロのような雪景色の中を軍服の男たちがずらっと並んでゆっくりゆっくり行進し続けていくだけで、段々と力尽きた兵士が一人ぱたり、また一人ぱたりと倒れていく。残った兵隊はもはやそれにかまう余裕もなく死への行進を続けるだけ。ああ、天は我を見放した。確かに鬼気迫る物はあるが、これが短めの作品ならともかく169分もあるのだ。これは観ていて精神的につらい。
無能な指揮官によって部隊が全滅していく様が描きたかったのか、大自然の怖ろしさとその前での人間の無力さを描きたかったのか。だからどうした、そんなこと169分も使ってやるなと思うわけだ。
雪中行軍の撮影は大変だったとは思う。雪の中に機材をセットして、大勢の役者にメイクや衣装を施して揃えそしてカメラを回す。撮影現場を多少知っている者から見るとただそれだけで大仕事だったのが分かる。だが、撮影が大変そうだったということと作品への評価はまた別物で、そこら辺でちょろっロケして低予算で撮った物でも良ければ傑作だし、予算をつぎ込み大規模なセットを作った物でもつまらなければ駄作だ。
唯一良かったなと感じたシーンは、雪国育ちの兵士である緒形拳が雪の寒さの中で初夏の花畑を思いやるシーンだろうか。暖かそうなその花畑の中で軍服の緒形拳がぴょんぴょんはね回ってはしゃいでいる。この撮影シーンを想像しただけで笑える。「緒形さーん、次はちょっとスキップしてもらえますか~?」
徳島隊を指揮する高倉健は『網走番外地』(1965)、『居酒屋兆治』(1983)、『鉄道員』(1999)など雪のある風景がよく似合う。『南極物語』(1983)では極寒の地・南極にまで行っている。だがしかし、健さんは雪国ではなく九州は福岡県の出身なのであった。

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コメント (4)

後藤伍長:

弘前第三十一連隊徳島隊は実在しましたし、その全員生還も事実ですよ。
ですから、意図的に「スコットとアムンゼンの対比」の構図にしたという論法は誤りですな。

東森時音:

後藤伍長さん、ご指摘ありがとうございます。
弘前第三十一連隊は実在していたんですね。下調べが足りませんでした。
史実で三十一連隊を指揮していたのは福島大尉なのに対し映画では何故か徳島大尉になっていたりしますがもちろん言い訳です。
では、図らずもスコット隊とアムンゼン隊と同じ構図になっていたということでご理解下さい。

案内人:

徳島大尉だけでなく映画『八甲田山』の役名は実在の人物と少しずつ違います。
神田大尉も本当は神成大尉です。
役名は映画の元になった小説の通りです。

東森時音:

案内人さん

史実をモデルに『八甲田山 死の彷徨』書いた際に、人名などを架空の物にしたというわけですか。
小説の方はおそらく読むことはなさそうですから参考になりました。お教えいただきありがとうございます。

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