『エノケンの近藤勇』(1935) 81分
監督:山本嘉次郎 原作・脚本:ピエル・ブリヤント、P.C.L.文芸部 撮影:唐沢弘光 編集:岩下広一 音楽:伊藤昇
出演:榎本健一、二村定二、中村是好、柳田貞一、如月寛多
「ワタナベのぉぉジュースの素です、もう一杯」のCMでお馴染みの榎本健一主演作。
と言ったところでエノケンこと榎本健一のことなどもはや知らない人の方が多いだろう。わたしだって、さすがに上記のCMをリアルタイムで知っている年齢ではないし、主演映画もあまりソフト化やテレビ放映がされなかったので、小林信彦の著作などでその姿をかろうじて知っているぐらいだった。
うれしいことにNHKBS2が『エノケンの孫悟空』など戦前に主演した作品を連続放映してくれた。最近なにかと叩かれがちなNHKだが、民放ではなかなかこういう企画は通らない。受信料を払っている甲斐があるってものだ。民放だって「タダで見られる」と思っている人が多いが、あれは普段の生活で買う様々な商品のうちに広告料として含まれているだけの話だ。自分で意識して支払うことが出来るだけNHKの方が理にかなっているかもしれない。それに、まったくテレビを見ない、テレビを持っていない人からも広告料は徴収されているのだ。
話を戻して、榎本健一の第一回主演作(多分)がこの『エノケンの近藤勇』。監督が喜劇映画を中心に日本映画に大きな役割を果たした山本嘉次郎とはうれしい。タイトルは『エノケンの近藤勇』と現在と同じく左から右に文字が並ぶ。戦前でも子供向けの本などでは左から右に書かれている物もあったと聞くが、なるほど本当らしい。
京の都でにらみ合う新撰組と勤王派の侍たち。さあチャンバラが始まるぞというところで、近藤勇(榎本健一)に高下駄が投げ渡される。榎本健一が演ずるのでずいぶんとチビな近藤勇だが、この男高下駄を履くとめっぽう強くなるという設定。ポパイのホウレン草といったところか。
「近藤が下駄を履いたぞ」「近藤が下駄を履くと強くなるからな」「うぬ、下駄を履かれてはちと具合が悪い」と勤王派たちの間で声が交わされる。そんなことを言ってる間に下駄を履いてる最中の近藤勇を斬っちゃえと思うのだが、変身中の仮面ライダーは攻撃しないの原則は1935年の時点ですでに登場していたのか。
そんな争いを町人たちは将棋など指しながら「今日はどっちが勝ちますかねぇ」などとすでに斬り合いなど慣れっこの様子。それどころか、「ちょっとそこ掃きますのでどいていただけませんか」などと新撰組たちを空き地へ追いやる始末。
そんな感じに序盤は「呑気にのほほん」と展開していく。近藤勇の他にも、ド近眼なため丸眼鏡をかけた坂本龍馬(榎本健一二役)、桂小五郎、山岡鉄舟など歴史上の人物が何人も登場してくる。幾たびかのチャンバラを経て話は時に深刻にもなっていく。
チャンバラのシーンの多くは少し離れたところに据えたカメラで画面を固定したまま撮るという古いスタイルだが、龍馬暗殺のシーンはカットが割られている分だけスピード感が出ていて迫力がある。
中でも一番素晴らしいのが、近藤勇が数十人の黒装束に闇討ちされそれを返り討ちにするシーンだ。近藤勇が刀を抜くと、アニメによってベティー・ブープばりに女性として擬人化された月がこれから起こる惨劇を恐れて顔背け雲に隠れる。途端、画面を闇が支配して背景にある建物からの明かり以外は真っ暗になる。そこへ刀のぶつかり合う火花だけが飛び散る。
う~む、素晴らしい!北野武は『ソナチネ』(1993)においてビル内で繰り広げられる銃撃戦を窓から漏れる銃の閃光で描写していて、観た時に「すごいな、これは」と思ったものだが、それとほぼ同じアイディアをその60年近く前にすでにやっていたわけだ。
ギリギリまで絞った描写を投げかけて後は観客の頭の中で大立ち回りを展開させている。もちろん、これは観客の想像力を信用しているからだ。『新撰組!』でのマトリックスばりのブレットタイムと『エノケンの近藤勇』における闇討ちのシーンでどちらがより演出として優れているかは言うまでもないだろう。
コメント (2)
はじめておじゃまします。 私もBSでエノケンの2本の映画を観ましたが、プリントがきれいでびっくりしました。
「ピーナツベンダー」?の曲でチャンバラをするのが印象的でした。
これからも他の記事楽しみにしています。
Posted by: スタンリーメタボリック | 2007年09月15日 09:21
日時: : 2007年09月15日 09:21
スタンリーメタボリックさん
私がNHKBSで観たエノケン主演物は、この『エノケンの近藤勇』と『エノケンの孫悟空です』。
孫悟空の方はあまり良いプリント状態ではなかった記憶があります。
当時の日本の映画会社は、自分たちが作り出した作品にあまり文化的意義を感じず、保管保護することは重視していなかったそうです。
空襲による被害もあるのでしょう。
現存しているフィルムもあまりソフト化には熱心ではないようですが、『血煙高田馬場』辺りはなんとかDVD化して欲しいところです。BSで放映されたのを録画して持ってますけどね。
ぼちぼち更新していきますので、また遊びに来てください。
Posted by: 東森時音 | 2007年09月16日 00:20
日時: : 2007年09月16日 00:20