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白線ヘルニアと入院(3)とタイムコップ

CT室の前で待つうちに11時なり名前が呼ばれた。
部屋の中に入ると直径2メートルはある大きくて厚みのある白いドーナッツがわたしを出迎えた。中央の穴は80センチほどだろうか、表面には凹凸がなくなだらかな曲線を描いている。『2001年宇宙の旅』あたりのクラシカルなSF映画に出てくるオブジェの様でもあった。
その手前には寝台が置かれている。上半身を裸になったわたしに担当者は横たわるよう告げるとガラス窓を挟んだ操作室へと行き、そこにいたもう一人の担当者に指示を出し始めた。
その間にCTスキャナを観察する。写真などでは見た事があるが実物はこれが初めてだ。“TOSHIBA”のロゴが入っておりその下には機種名だろう“Aquilion”と書かれている。家に帰ってからその名前で検索したところ見つけたのがこの東芝のCT装置案内サイトだ。右下にリンクが張られているAquilion16と記憶にある形がほとんど同じだ。
CTスキャンというと輪切りにした平面図しか撮れないと思っていたが、移動しながら何枚も連続してスキャンし、そのデータから3D画像の作成も出来るようで、立体になった心臓の写真などが掲載されている。このデータを取り込んでアニメーションを作ったり、樹脂で加工してオブジェやフィギュアを作ることだって出来そうだ。自分の心臓を手に取ってみるなんてのは普通出来ないので、サービスの一環としてデータをCD-RやDVD-Rに書き込んでプレゼントしてくれないだろうか。
大体、レントゲン写真にしろ心電図にしろ、データの元はわたしなのに、本人にはまともに見せてくれずお医者さんばっかり楽しんでいる。よしっ、わたしも医者を目指すぞ。といっても、今更人生の方向転換はかなり難しいか。

「それでは上がります」とスピーカー越しに声がかかった。
わたしの身体がズムムムムとゆっくり宙に浮かび上がった。どこからかシルクハットに燕尾服の男が現れ、糸で吊っているのではない事を示すため大きな金属の輪っかでわたしの周りを二度くぐらせると、観客の盛大な拍手に軽いお辞儀で応えた。そう糸で吊っているのではない、寝台のベッド部分そのものが持ち上がっているのだ。
穴の高さまで来ると上昇は止まり、続いて「では穴に入ります」との案内の後、寝台は秒速20センチほどの速度で足側から穴へと入っていった。
なんかこういうのをどっかで観たとことがあるぞと考えたら、『12モンキーズ』(1995)でブルース・ウィリスを過去に飛ばす透明のビニールシートで周りを覆ったタイムマシンの転送シーンや、直径10メートルはあるドーナッツにロケットカプセルに乗ってジャン=クロード・ヴァン・ダムが突っ込む方式の『タイムコップ』(1994)のタイムマシンを思い出してしまった。
どちらにしろタイムマシンか、ふと気が付くと上半身裸のまま関ヶ原の合戦の真っ最中に突っ立っている羽目にならないだろうかと懸念したが、幸いな事にさすがの東芝の技術力もまだタイムマシンを完成させるには至っていなかったようだ。おかげでこの文章を書く事が出来るが、もし紀元前のエジプトに飛ばされていたらピラミッドの壁画の隅にでも刻まねばいけなかったところだ。象形文字の中に日本語が混じっていては吉村作治教授を驚かせてしまうだろう。「日本語の起源はエジプトだった」とか、逆に「エジプト文明の起源は日本だった」などのトンデモな学説を思いつくような学者ではなさそうなので変に悩ませてしまっても申し訳ない。
それにしても、最初にも書いたように穴の直径は80センチほどなのだが、もし格闘家の曙をCTスキャンにかけた場合はどうなるんだろうか。どう見たって穴に詰まりそうなんだが。上下逆に入れるとお前はクマのプーさんか、みたいな。
ズズズズっと胸まで入った後、寝台は後退し元の位置へと戻った。もちろん痛みも何も感じない。それどころか、何かの実験台にでもされているかのようでちょっと楽しい。実際に実験台にされたら楽しいどころの騒ぎじゃないが。
そして、「では、造影剤を打った後にもう一度やります」と告げられた。スピーカー越しのため少し無機質になったその声に、わたしは「きたかぁ」と少し顔をしかめた。

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