『マッハ!』(2003) ONG-BAK 2004/7/28鑑賞
監督:プラッチャヤー・ピンゲーオ 製作:プラッチャヤー・ピンゲーオ/スカンヤー・ウォンサターバット 製作総指揮:ソムサック・デーチャラタナプラスート 脚本:スパチャイ・シティアンポーンパン 撮影:ナタウット・キティクン 美術:アッカデート・ゲーオコート 編集:タナット・スンシン/タナパット・タウィースック
出演:トニー・ジャー/ペットターイ・ウォンカムラオ/プマワーリー・ヨートガモン/スチャオ・ポンウィライ/チェータウット・ワチャラクン/ルンラウィー・バリジンダークン
予告編を観たときにはさして興味を引かなかった。いやそれどころか「CGを使いません。ワイヤーを使いません。スタントを使いません。早回しを使いません。最強の格闘技ムエタイを使います」というコピーには反感すら覚えた。
CGを使うか使わないか、スタントマンを使うか使わないかなどは、あくまでも作り手の都合といったようなもので、観客にとっては撮影現場がどうだろうとそれはまったく関係なく映し出された画面だけが全てだ。
例えば「このシーンは主役の俳優自身がスタントマンやSFXのサポート無しで実際に飛び降りた。だから凄いシーンだ」という感想は本質的に的外れである。スタントマンがサポートのワイヤーで支持されて飛び降り、CG処理でそのワイヤーを消したシーンであったとしても、観客に感じさせるインパクトがあれば何の問題もない。危険なアクションに体当たりで挑んでいることを変に持ち上げすぎるのは疑問である。
映画の黎明期ならともかく、現代映画におけるスタントマンとは、高度な肉体訓練を受け、車やバイクの運転技術に長けており、必要ならば爆発物に関する知識も習得したプロフェッショナルであるべきだ。だからこそ危険を含んだスタントシーンが実現できる。スタントマンが単なる命知らずの冒険野郎だとしたらスタントシーンは単に運任せになってしまい、死傷者が続出することだろう。
突き詰めるところ映画は“娯楽”だ。しょせん娯楽に人が命をかけたり大怪我する必要があるとはとうてい思えない。
それはそれとして、確かに『マッハ!』には身体を張ったアクションが連発するが、安全基準法を無視したような無茶なアクションは実のところ出てこない。ちゃんとしたスタントチームが参加していたようで、それなりに安全対策が取られている。主人公がトゥクトゥク(三輪タクシー)を飛び越えるシーンでは下にマットレスがちらっと映っていたりする。
一番の見所は主人公と相棒がチンピラに追いかけられるマンチェイスシーンだ。屋台の並ぶ路地裏を若き日のジャッキー・チェンを思わせる身軽さで跳んだり跳ねたりしながら逃げまくる。直径40センチもないような有刺鉄線の輪をくぐり抜けたり、運んでいる最中の大判ガラスの間をすり抜けたりとフットワークがとても軽い。大判ガラスが登場した時には、「ああ、これはその後で悪人が突っ込み割れるんだな」と思ったのだが、残念ながらそれはなかった。並んでいる人の肩の上をトトトトッと駆け抜けるシーンも良い。
一つのアクションを違うカットから二度、三度と繰り返すのもジャッキー風味。といっても別にジャッキー・チェンのコピーなわけではないが、まだ観ていない人には一番分かりやすい比喩だろうか。
相棒(南伸坊似)が追いつめられ、屋台のオヤジからから小さな包丁を奪ってそれで脅す。しかし、悪人たちはせせら笑ってぜんぜん気にしない。そこで大振りの中華包丁に取り替える。今度はおおっとビビる悪人たち。にらみ合う両者。緊張した瞬間が流れる・・・そしてその間を「えー包丁、包丁はいらんかね~」と山ほど刃物を背負ったオバさんの物売りが通り過ぎていく。このタイミングの絶妙なこと!
主人公のトニー・ジャーが「まるで体操選手みたいな動きだな」と思ったら、なんでもスタントマン出身なんだそうだ。なるほど、動きにキレがあるわけだ。代わりに格闘技は専門でないようで、売りであるムエタイのシーンはそれほど迫力がない。スピードはあるのだが、肘打ち・膝蹴りに破壊力が感じられず軽い打撃な印象だ。賭け闘技場を訪れ誤解からリングに上げられたときに、相手の頭部にハイキックを決めて一瞬で倒すのだが、その説得力としての衝撃の強さが伝わってこない。
技が決まっても「ペシッ」というスリッパで頭をはたいたような音しかしないのも迫力が不足している理由の一つだろう。もちろん、実際に人間が殴り合っても「バキッ!」とか「ドカッ!」などという音はしないのでリアルではあるのだが。
学生服を着た日本人(なんで学生服なんだ)とも戦うが、この日本人は負けるとさっさと降参し主人公が後ろを向いたところに襲いかかる分かりやすい卑怯者ぶりだ。グレート東郷か、お前は。
終盤になり主人公たちは古美術窃盗団のアジトに乗り込んでいく。山腹の洞窟というのがいかにも悪役っぽい。
タイの映画というので観る前に若干の偏見があったのだが、これがどうして(これも失礼な言い方だが)なかなかちゃんと映画になっている。
村から奪われた仏像の頭を取り返しに主人公が都会に出てくるという脚本はシンプルだが、アクションを楽しむ映画なので問題はない。画面的にも構図やカット割りがちゃんとしている。役者の演技については外国映画なのでちょっと分かりにくいが、南伸坊や人工声帯でしゃべるボスなどなかなか良かった。主人公は確かに大根だが。
タイ映画の今後には期待していいだろう。