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『キックボクサー』

『キックボクサー』(1989) 監督:デヴィッド・ワース 出演:ジャン・クロード・ヴァン・ダム/デニス・アレクシオ/ハスケル・V・アンダーソン

なんてったってあのジャン・クロード・バン・ダムの主演作だということで、かの名作「シンデレラボーイ」で魅せられて以来のファンとしては映画館に駆けつけてしまうわけだ。
しかし「ブラッドスポーツ」やら「ブラックイーグル」やら「サイボーグ」などどうも出る作品が駄作ばかりなので不安は多いにあった。
監督が「ダーティーファイター」などのイーストウッド作品やあの「レモ第一の挑戦」などで撮影監督をやっていた男だということで「今度こそ…」という思いがあって、それで結局面白かったのかというと、これがなんとも嬉しい素敵な映画だったのだ。
話自体は兄のかたきを討つという単純なものなのだが、修行映画の王道を行くような素直な作りが気持ちいい。
思いっきり低予算と言うことが分かる始まり方をするが、ジャン・クロードとその兄貴が狭そうな船に並んで座って、ジャンがしきりにバンコクの風景を写真に撮っている辺りのおおらかさでそんな些細なことはどうでもいいと思えるようになる。
なんといっても悪役のトン・ポーの登場シーンがいい。
しきりにコンクリートの柱を蹴り続けるハゲが振り向いて不気味に笑う。
こんな奴いねーよとチャチャを入れる隙さえ与えない。
こいつだけでなく主人公を取り囲む登場人物が魅力的に描けているのも嬉しい。
師匠となるジアンはどう見たって「レモ」のチウンを思い起こさせるジジイで「この野郎パクッたな」とも思うが、このとぼけた感じがなんとも面白い。
だいたいこういう修行物では師匠の存在が重要となるもので、ジャッキー・チェンの初期の「蛇拳」などのジジイや「ベストキッド」のパット・モリタなどの、どちらかというとボケをかますといったタイプが多いわけだが、そういったところをちゃんとやっているのはえらい。
元軍人の黒人にしたって、登場の仕方や話のかかわり方はかなりいい加減な物だが、ラスト近くM-16を手に逆光で登場されるとやはりカッコいい。
タイ人の少女もなかなかよく、ジャンとの純愛もほのぼのしていていい。
この娘が悪者に捕まるところは、いきなり捕まっているという思いきった省略がされていて、なかなかこんな事は出来るものではない。
この作品のメインはその修行シーンにあるのだが、真剣さの中にもとぼけた味がくわわっていて楽しい。
犬に追いかけられるところとか、突然水槽から顔を出すところ、椰子の実を落とすところの人間の位置関係の使い方など。
そしてラストの対戦シーンになるわけだが、さすがにこの監督アクションの撮り方を心得ている、なんといってもえらいのはスローモーションをほとんど使っていないということである。
手のロープを切るところでもスローモーションと通常スピードの部分をうまく組み合わせていて、うまくスローを使っている。
トン・ポーを倒した後、悪役のボスにも蹴りをいれるところなど実に嬉しい。
この作品、確かに考え抜かれて撮られたというものではない。
しかしおごったりもったいぶったりすることのない素直な演出は見ていて気持ちがいい。
無思考による純映画の好例であると思う。

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