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『知らなすぎた男』 ビデオ屋勤務のスーパー・スパイ

『知らなすぎた男』(1998) 監督:ジョン・アミエル 脚本:ロバート・ファラー 出演:ビル・マーレー、ジョアン・ウォーリー

ここ数年のコメディ映画の中では一番好きな作品だ。
『知らなすぎた男(The Man Who Know Too Little)』というタイトルはもちろんヒッチコックの『知りすぎていた男(The Man Who Know Too Much)』のパロディだ。『知りすぎていた男』は巻き込まれ型サスペンスの傑作だが、『知らなすぎた男』は巻き込まれているというのにまるっきり気づいていないサスペンスコメディである。

弟に会うため主人公ウォレル・リッチー(ビル・マーレー)がアメリカはアイオワ州からイギリスにやってきた。ところが、その晩は弟が取引先の要人を招いて夕食会を開くことになっており、困った弟夫婦は青年時代に俳優志望だったウォレスを体験型演劇“シアター・オブ・ライフ”に送り出す。
“シアターオブ・ライフ”とは実際の街中で自分が劇の主人公として活躍出来るという出し物。相手役はプロの俳優なので、自分はセリフなどを覚えずに好きにやってもちゃんとアドリブで合わせてくれるようになっている。
公衆電話で“シアターオブ・ライフ”からの連絡を待つウォレス。ところが、偶然にもそこに“本物”の殺し屋スペンサーに宛てた仕事依頼の電話がかかってきてしまう。実は、イギリスとロシアの諜報部が協力して、その晩に行われる両国の友好条約締結会場での爆破計画が進行中だったのだ。
指示された番地に向かうウォレスはこれから起こることは全て劇だと思っている。だが、そこに登場するのは役者ではなく本物の殺し屋やスパイなどの悪党ども。はてさて、ウォレスの運命は・・・

運命は・・・というと、殺人現場に出くわし、殺し屋に追われてカーチェイスになり、警官に逮捕され、拷問され、銃で狙撃されと、危機また危機の大騒動。ところが、ウォレスは全部劇だと思っているのでどんな危ない目にあっても平気で楽しんでいて、しかも自分の役はアメリカのスパイだと勘違いしてすっかりその気で振る舞う。そんなウォレスを見て、敵や周りの人間は彼のことを死をも恐れぬスーパー・スパイだと勘違いしさらに騒動は広がる。
普通ならば途中で事件が現実だと気づきそうな物だが、最後の最後まで徹底して主人公に劇だと思いこませているところが実に良い。
かなり強引な設定なのだが、それを成立させているのがウォレス役ビル・マーレーの存在だろう。この額が広くのっぽなな俳優には、常識の意味をなくしてしまう化け物的なところがあり、周りの視線など気にせずひたすら好きなように突き進んでいく。『パラダイス・アーミー』(1981)しかり『ゴースト・バスターズ』(1984)しかりだ。

もちろん、そのストーリーゆえに無理をしている部分もあるが展開の早さから観客に疑問を抱かせることはあまりないだろう。脚本として統合性を失ってはおらず見事な出来だ。序盤での様々な伏線の盛り込み方も良い。

そういえば「コメディなのにギャグが少ない」と文句を付けている頭の悪い人がいた。
そもそも設定自体やシリアスな危機的状況を劇だと思いこんでいるウォレスの存在がギャグであって、それを最大限に活かすのが演出・脚本の役目である。無理に細かなギャグを押し込んで映画自体を台無しにしては本末転倒だろう。この作品はシチュエーションコメディなのだから。(というか、かなりギャグがあると思うのだが)
おそらくこのひとは“おバカ映画”を見過ぎている人なのだろう。
言っておくが、『知らなすぎた男』はバカ映画ではあるが断じておバカ映画ではない。そこんとこよろしく。

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