『女体渦巻島』 東洋のカサブランカ?

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『女体渦巻島』 (1960) 76分 日本 新東宝

監督:石井輝男 製作:大蔵貢 企画:小野沢寛 原作:岡戸利秋 脚本:岡戸利秋、石井輝男 撮影:鈴木博 美術:朝生治男 音楽:渡辺宙明 助監督:三輪彰
出演:吉田輝雄、三原葉子、万里昌代、星輝美、城実穂、若水清子、吉田昌代、瀬戸麗子、近衛敏明、沖啓二、松原録郎、鳴門洋二、守山竜次、大友純、天知茂、大谷友彦、沖竜次

 タイトルの意味がわからない。戦後、密輸の場となった対馬が舞台なのだが、対馬に鳴門のような渦巻が出来るとも聞かない。女体は東南アジアに売られるために人身売買組織によって集められた娘たちだな。ちなみに対馬は「東洋のカサブランカ」だそうだ。
 デビュー当時の吉田輝雄の演技が固い。これが初主演作だとか。セリフなんて「鉄ノ掟ニシバラレタ組織ノナカのオレタ。カラダをハッテノコトタ」とガッチガチ。
 拳銃の名手だが今まで一人も殺したことがないというどこか矛盾した設定。そんな吉田輝雄が組織のボス天知茂を倒す物語。
 東南アジアから女性のハイヒールのヒールに麻薬を詰めて対馬に密輸入し、韓国へ密輸出する。今では韓国方面から麻薬が入ってくる気もするな。紙巻きにして吸っていたあの白い粉末は何の麻薬なのだろう。アヘン系? コカイン系? 覚醒剤系?
 吉田輝雄は恋人の三原葉子を麻薬漬けにされて天知茂に奪われており、そのために復讐を誓っている。命を奪おうと考えているのはあくまでも天知茂だけなので、銃撃戦になっても他の悪人には致命傷を与えない。それどころか崖から落ちそうになった敵を助けたりする。その助けられた敵が吉田輝雄の危機一髪を救い「これで借りは返したぜ」と息を引き取る。ハードボイルドだ。
 天知茂が細めの口ひげを生やしていて実に胡散臭い。香港人という設定だが、ちょっとイメージが違うかも。死に方が......
 傑作ではないが、石井輝男らしさは良く出ている。人身売買組織の面子がほんと悪党面ばかりで、この人らはなんで俳優になろうと思ったのかと聞きたくなる。

『黒線地帯』 トレンチコートの似合う男

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『黒線地帯』 (1960) 80分 日本 新東宝

監督:石井輝男 製作:大蔵貢 企画:佐川滉 脚本:宮川一郎、石井輝男 撮影:吉田重業 美術:宮沢計次 音楽:渡辺宙明 助監督:柴田吉太郎
出演:天知茂、三原葉子、細川俊夫、三ツ矢歌子、大友純、吉田昌代、魚住純子、守山竜次、鳴門洋二、宗方祐二、瀬戸麗子、南原洋子、菊川大二郎、矢代京子、鮎川浩、城実穂、浅見比呂志、板根正吾、山村邦子、桂京子、小高まさる、大谷友彦、水上恵子、国創典、倉橋宏明、宮浩一、晴海勇三、村山京司、原聖二

 売春防止法によって赤線が廃止された。すると代わりに暴力団が売春組織を作り上げ、麻薬と組み合わせることで強力な黒線を作り上げた。黒線について取材して売るトップ屋の天知茂はある朝ふと目を覚ますと隣では自分のネクタイで絞め殺された売春婦の身体があった。前夜、眠り薬入りの酒を飲まされ意識を失い、罠にはめられたのだ。
 天知茂は自らの潔癖を示すため、そして黒線地帯の正体を明らかにすべく暗黒街に飛び込んでいく。
 なにはともあれ天知茂のトレンチコート姿が格好いい。日本一トレンチコートが似合う男ではないだろうか。1931年生まれなので当時まだ29歳。渋すぎる。
 そんな彼の前に黒線地帯の餌食になっている女性達が現れる。より怒りに燃える天知茂。
 店内をパンしながら移動するカメラや、極端な顔のアップを何人も続けるなど映像的にも面白いところがある。ゲイバーのドラッグクイーンはグロテスクでそれでいてどこか色っぽい。
 終盤はスラップスティック調の天知茂と悪人たちの対決から、貨車での『北国の帝王』(1973)のリー・マーヴィンとアーネスト・ボーグナインの戦いを思わせるシーンも登場する。
 売春婦がヤク切れになってしまい禁断症状に苦しむシーンはかなり怖い。この作品は麻薬撲滅にも一役買うだろう。あんなになってまで一時の快楽に身を委ねたくないよ。
 最後は黒線地帯で麻薬を密輸させていた売春婦が「網走別荘に行ってくるわね」と天知茂に別れを告げる。確かに彼女のやったことは罪なのだが、悪党にやらされてしまった被害者でもある。

『戦場のなでしこ』 従軍日本人慰安婦

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『戦場のなでしこ』 (1959) 78分 日本 新東宝

監督:石井輝男 製作:大蔵貢 企画:佐川滉 脚本:川内康範、石井輝男 撮影:吉田重業 美術:加藤雅俊 音楽:渡辺宙明 助監督:下山堯二
出演:小畑絹子、三ツ矢歌子、星輝美、大空真弓、城実穂、瀬戸麗子、田原知佐子、吉田昌代、宇津井健、大友純、並木一路、国創典、鮎川浩、加藤欣子、村山京司、小森敏、宮浩一、ガリーナ、原聖二

『ひめゆりの塔』のような重っ苦しい戦旗映画かと思ったら違った。これはこれで充分重っ苦しいが。
 第二次大戦後、ソ連、中国に敗れた日本。その中で、女子赤十字隊と軍医の宇津井健はまだ帰国することが出来ず満州にとどまっていた。
 そこへ傷ついたソ連兵の看護をして欲しいと中国人から依頼が来て、まずは第一班の5名が現地に赴く。しかし実際には看護ではなく、従軍慰安婦としてソ連兵上官の慰み者となる。中国人は善良そうな顔で話を持ってきて、なんのことはないブローカーだったのだ。
 まだ処女の看護婦がベテラン看護婦から使い古しのそれでも戦場では貴重な口紅をもらってソ連軍に行く。彼女は宇津井健に恋していてその口紅は宇津井健を相手に使うつもりだった。だが、実際には絶望にくれて日本人従軍慰安婦が集団自殺する時の死化粧になってしまう。
 そうすると悪役はソ連兵っぽいが、やつらはウォッカで年中飲んだくれのアッパッパーで、「おぅ、美しい日本女性が来てくれて嬉しいね」とほとんど罪悪感を感じていない。確信犯なのは中国人ブローカーで、現地について話が違うじゃないかと乗り込んだ看護婦に「日本人は満州で何をしましたか? それを考えれば数人慰安婦になることぐらい大したことじゃないでしょう」とふてぶてしい。
 送り出した看護婦たちから返事がないので怪しんだ宇津井健らが現地に聞き込みに行くが、ほんの少し遅く看護師たちは自害していたというのが日本人らしい。某国も日本に従軍慰安婦問題などを盛んに言っているが、あれは実のところどうだったのかね。
 従軍慰安婦というのは本人にその意志があったということになっていても実際には強制的な物であったように思う。だから看護師たちは自決したのだし。
 石井輝男作品としては異色作。女性が主人公というのもそうだし、日本人従軍慰安婦たちが自決するというラストのすくいようのなさもそうだ。
 セットか有りものかは知らないが、それなりに予算はかけているようで旧日本軍用地やソ連陣地などそれっぽく撮れている。満州の大地は、ありゃ富士山麓だな。
 どうやら実話を元にしているらしい。日本人女性は辱めを受け入れないというか死に急ぎすぎるというか。ロシア人相手に何回かやらされたぐらいで死ぬこたぁないと思うけどね。
 宇津井健は正義の医師だが結局役立たず。怒りがぶち切れて二丁南部十四年式でソ連兵を殺しまくるぐらいでも良い。

『女王蜂の怒り』 ハリケーンの政

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『女王蜂の怒り』 (1958) 75分 日本 新東宝

監督:石井輝男 製作:大蔵貢 企画:佐川滉 原案:牧源太郎 脚本:内田弘三 撮影:吉田重業 美術:加藤雅俊 音楽:渡辺宙明 助監督:下山堯二
出演:久保菜穂子、宇津井健、天知茂、中山昭二、三原葉子、星輝美、高倉みゆき、佐々木孝丸、菅原文太、国創典、近衛敏明、林寛、大江満彦、伊達正三郎、真木裕、菊川大二郎、中島一豊、岡竜弘、吉田昌代、浅見比呂志、浜野佳子、高松政雄、築地博、高島忠夫

 今作が石井輝男の初カラー作品になるのかな。モノクロスタンダードからカラーシネマスコープへの変化を上手くこなしている。石井輝男の色彩感覚は優れていると思う。ちょっと色っぽいシーンになるとピンクのフィルターがかかったり、ラストのやくざの組同士の戦いがモノクロで描かれるなど印象に残る。モノクロは規制でもあったのかも知れないが。
 港湾作業を巡って海堂組と極悪な竜神組が争っている。そこへ現れたのが風来坊のハリケーンの政(宇津井健)。キャラクターとしては日活の『渡り鳥』風かな。でも、主人公側の海堂組ではなく竜神組に雇われてしまう。竜神組の親分剛田は老けメイクをした天知茂。メッシュの入った髪が格好いい。
『女王蜂の怒り』とはなにか色っぽさを感じさせるタイトルだが、ストーリーは直接関係ない『女王蜂』という作品のシリーズとして作られた。
 港湾作業は海堂組が一手に引き受けていたのだが、その港は"海賊"が横行し、積荷を奪われてしまう事件が頻繁に起きていた。被害額の一部は海堂組が負担しなければならないため金策に苦しんでいる海堂組に竜神組がつけ込んでくる。
 そして花札賭博で一気に取り返そうと浅はかな考えを持った海堂組の三代目ゆり(久保菜穂子)は、配る花札を下に置いたライターの鏡面に映すというイカサマに引っかかり縄張りを撮られてしまう。それにしても有名なイカサマだから気付よと思うが。
 手討ちで竜神組の菅原文太が眠り薬を入れた酒を飲んで寝込んでしまったゆりはからだを奪われてしまう。汚れを洗い流すべく必死にシャワーを浴びるゆりが哀しい。
 海堂組の恩人は行方不明になってしまうし、縄張りは竜神組に取られてしまう。そしてついに両者は対決することになる。
 最初にも書いたが、この決闘のシーンがモノクロで渋い。映像的には両者がもみ合っているだけであまり迫力がないが、それをモノクロの画面が補ってくれる。
 そして突然警官姿で「お前らは包囲されている」と現れる宇津井健。潜入捜査官だったのか。謎の行動言動が多かったが、これで納得。でもあまりに唐突すぎる。
 任侠映画とやくざ映画の中間といった感じ。仁義を切ったりもするが、儲けのためなら手段を選ばない悪徳組が出てくると両方の要素が絡まっている。
 ストーリーには納得できない点が多いが、今回の脚本は石井輝男ではなく内田弘三。雰囲気はかなりよくて、東宝でも東映でも日活でもない新東宝路線を確立している。
 オープニングの新東宝のマークは東宝のマークに似ているのだが、どこか女性器に似ていて妙に嫌らしいんだこれが。
『ウルトラセブン』のウルトラ警備隊隊長中山昭二が結構良い役で出ているのも見所。
 音楽は『宇宙刑事』シリーズなどの渡辺宙明なのも特撮ファンには嬉しい。

『白線秘密地帯』 SSS

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『白線秘密地帯』 (1958) 71分、現存版56分 日本 新東宝

監督:石井輝男 製作:大蔵貢 企画:佐川滉 脚本:内田弘三 撮影:吉田重業 美術:宮沢計次 音楽:渡辺宙明 助監督:下山堯二
出演:宇津井健、三原葉子、近衛敏明、天知茂、若月輝夫、大江満彦、荒川さつき、葉山由紀子、吉田昌代、瀬戸麗子、筑紫あけみ、中村彰、鳥羽陽之助、倉橋宏明、真木裕、中島一豊、守山竜次、九重京司、国創典、大友純、佐伯一彦、菅原文太、菊川大二郎、小林猛、宮田文子、三宅実、浅見比呂志、万代裕子、沢恵子、岡竜弘、信夫英一

 トルコ風呂でトルコ嬢が殺される。その殺人事件を刑事の宇津井健らが追っていく内に、売春防止法の問題などが浮かび上がってくる。
 劇場公開版は71分だったそうだが、フィルムが欠損し現存版は56分と15分ほど短くなっているので、ストーリーは掴めるが取り調べに警官たちが某所に飛び込んでいったらいきなり次のシーンになってしまうなど観にくい部分がある。
 若い女性がトルコ嬢やドライブガール(ドライブに同乗してカーセックスをする)などにどんどん引き込まれていく。赤線地帯がなくなったので、その辺りの管理が出来ておらず悪人たちはやりたい放題やっている。
 その中で殺人事件ややくざによる報復(チンピラとして菅原文太が出演している)なども行われ、宇津井健たちは暑い夏の中汗を流しながら捜査する。
「SSS」という買春のチケットが印象に残る。
 現存版はいわば欠陥品だから、詳細は語らないが、東京の暗部を描いたハードボイルドである。

『女体棧橋』 お色気ハードボイルド

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『女体棧橋』 (1958) 73分 日本 新東宝

監督:石井輝男 製作:大蔵貢 企画:佐川滉 脚本:佐川滉、石井輝男 撮影:平野好美 美術:加藤雅俊 音楽:渡辺宙明 助監督:下山堯二
出演:宇津井健、筑紫あけみ、三原葉子、小倉繁、浅見比呂志、原聖二、高松政雄、国創典、佐山幸夫、中村彰、植村謙二郎、吉田昌代、葉山由紀子、ジーン・谷、宮田文子、中島一豊、真木裕、大江満彦、旗照夫、コン・ウェイ、矢代京子、姿まゆみ、佐伯一彦、小森敏、双葉みどり

 若者が悪人に拳銃で額を殴られ、カーテンにすがりついて倒れるとカーテンリングが外れていくという描写があるのだが、『サイコ』(1960)のシャワールームの殺人でヒッチコックがやったのと同じだな。でも『女体桟橋』の方が早い。石井輝男はクールな映像を作り出していたんだ。
 石井輝男の初期作品。主演は1957-1958に連作された『スーパージャイアンツ』の宇津井健。この宇津井健が若くて二枚目。銀座の売春組織に潜入する大阪の刑事という役でなかなか渋い。
 日本の売春組織とマカオなどの外国の売春組織がクラブアリゾナで結託しており、クラブアリゾナは女体桟橋と呼ばれていた。
 宇津井健は銀座の高級車に挟まれていた売春組織のチラシでコールガールとホテルで待ち合わせをするが、コールガールは電気ショックで殺害され、浴槽に放り込まれていた。そのため容疑者かと思われていた"黒背広の男"宇津井健だったが、警視庁の捜査本部に現れ、売春組織壊滅のために面が割れていない大阪から派遣された刑事であることが明らかになる。
 そしてかつての恋人三原葉子や新聞記者の筑紫あけみなどの女性陣が大勢出演し、お色気ハードボイルドが展開される。
 お色気と言っても時代が時代なのでネグリジェや水着姿の女性が登場するぐらい。展開はハードボイルドなのであまり上手く組み合わさっているとは思えない。
 警視庁の若手刑事がおとり捜査でコールガールを呼ぶが、やって来たのが弟の大学授業料を稼ぐためにコールガールをやっている刑事の恋人だったりと重いんだ。
 ラストは宇津井健と売春組織の銃撃戦。宇津井健のリボルバーは無限弾倉。悪人側はマカオ製の消音ピストルなる謎銃を使っているが、発砲音がするのでさらに謎だ。
 上映時間が短いのでストーリーが駆け足だが、なかなか見応えのあるハードボイルドである。

『盲獣VS一寸法師』 エロ・グロ・ナンセンス

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『盲獣VS一寸法師』 (2001) 95分 日本 石井プロダクション

監督:石井輝男 プロデューサー:石井輝男 原作:江戸川乱歩(新潮文庫刊) 脚本:石井輝男 撮影:石井輝男 特殊効果:西村喜廣 美術:鈴屋港、八木孝 美術協力:原口智生 編集:矢口将樹、山下暁子、氏家とわ子 音楽:藤野智香、大岡春 照明:野口素胖 録音:岩井澤健治 助監督:西川裕、林真由美、山本隆平
出演:リリー・フランキー、塚本晋也、平山久能、リトル・フランキー、藤田むつみ、橋本麗香、薩摩剣八郎、手塚眞、園子温、熊切和嘉、中野貴雄、及川光博、パンチユーホー、しゅう、丹波哲郎

 江戸川乱歩原作を石井輝男がチープでグロテスクで笑っちゃう作品に仕上げている。
 主演の売れない探偵小説家は今や国民的人物となったリリー・フランキーが演じている。これが映画初出演だが、妙にネチっこい芝居で、女性を石膏像にしてしまう盲獣や、女性の腕や足を人々に晒す一寸法師とやり合うことになる。
 盲獣や一寸法師と本格的に戦うのは江戸川乱歩だけに明智小五郎(塚本晋也)。塚本晋也無駄に存在感があるなぁ。役者として味があるがそれよりも映画撮ってくれよ。『ヒルコ/妖怪ハンター』路線はもうやる気がないのかなぁ。好きなんだけどなぁ。最後に関係者を集めて謎解きをするけど、結局盲獣の存在には気付いていなかったのでは。
 盲の殺人鬼盲獣の平山久能は『地獄』で麻原役をやっていた人か? いかにも自主映画風な演技で個人的には好みではない。レビューの女王を誘拐しては盲目の世界に浸らせて気を狂わせてしまい、最後には解体して人肉ハムにしてしまう。それを買った船の乗客が中から出てきた人の指や爪で思いっきり吐きまくるのは笑っていいのやらいけないのやら。盲というハンディキャップを座頭市とは反対の方向で花開かせて触覚芸術なる物を編み出す。だがそれをみた美術博士丹波哲郎が「こんなものは芸術ではない」とステッキで粉々にされ、石灰の中から被害者の女性や盲獣の死体が出てくる。丹波哲郎は美味しいところを持っていったなぁ。ラストは丹波哲郎のアップだもんなぁ。
 そんな盲獣の活躍に、水を差すのが小人症の一寸法師。自分を受け入れてくれない世間から逃げ出し、異人の集まるサーカスにやって来るのだがそこでもいじめられてしまう哀しい存在。まぁ、サーカスの団員を火事を起こして焼き殺してしまうんですが。一寸法師自体は基本的に人を殺さずに遺体をバラバラにして世間を騒がす。うん、やはり哀しい存在である。
 手塚眞や園子温、中野貴雄などの自主映画系の映画監督がゲスト出演しているが、それとは別に及川光博が良家の運転手役で登場している。白塗りの妖しい魅力を漂わせる美青年なのだが、当時はまさか『相棒』で国民的スターになるは思っては見なかった。
 先にも言ったがチープでグロテスクな映像だが、それが江戸川乱歩の昭和初期を感じさせなくもない。江戸川乱歩と言えば明智小五郎を天知茂が演じたTVシリーズのブルーレイBOXが出るが楽しみである。あれはエロ・グロ・ナンセンスだったなぁ。値段がちょっと高いけど。
 そしてこの作品を最後に、2005年に石井輝男は亡くなってしまう。基本的にはバカ映画を撮り続けたバカ監督だった。

『地獄』(1999) 真理教は地獄行き

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『地獄』 (1999) 101分 日本 石井プロダクション

監督:石井輝男 製作:石井輝男 脚本:石井輝男 撮影:柳田友貴 特殊メイク:原口智生 美術:港博之 美術監督:原口智生 編集:井上和夫 音楽:竹村次郎 照明:野口素胖 録音:谷口シマ
出演:佐藤美樹、丹波哲郎、前田通子、平松豊、斎藤のぞみ、平山久能、和田洋一、薩摩剣八郎、鳴門洋二、若杉英二、掛札昌裕、桂千穂、川上さゆり

 地獄を舞台にオウム真理教事件を糺弾する実は真面目なカルト映画。
 オウム真理教の信者だった女性が閻魔大王によって地獄を見せられ、「あなたは麻原(実際には仮名が使われている)に騙されてしまった愚かであるが、まだ反省すればやり直しがきく」と諭される。
 地獄の特撮や特殊メイクはチープで、予算がなかったんだろうなと感じる。サティアンにはゴキブリやネズミだらけなのだが、ゴキブリはゴムのオモチャでピクリとも動かない。ネズミはどう見ても糸で引っ張っている。だが、この胡散臭さがオウム真理教の真実を映し出しているのかも知れない。
 麻原の「ポアしろ」という命令で宇宙真理教(オウム真理教)被害者の会代表の弁護士一家が拉致殺害されたところから真理教が暴走していく様子が描かれる。主人公は最初は麻原を信奉していたのだが、次第に疑問を感じ始め、最後には「あいつは誇大妄想狂のエロオヤジ」だと悟る。
 そして未来の地獄で麻原たちが鬼から責め苦を受ける。鉄板焼にされたり、舌を抜かれたり、麻原は生皮をはがされたりと散々な目に。観ているこちらとしては「もっとやれ、もっとやれ」とチープな特撮を楽しむが、主人公は途中で耐えきれなくなって逃げ出してしまう。
「閻魔大王から全ての地獄を見よと言われただろう」とゴジラの中の人薩摩剣八郎が演ずる鬼たちが追ってくるが、そこに突然現れた『忘八武士道』(1973)の明日死能(丹波哲郎)が突然現れ鬼たちを斬り倒す。宙を舞う鬼の首や腕などがまたチープでよい。しかし何しに出てきたんじゃ丹波哲郎。最後に美味しいところを全部もってっちゃうんだから。
 そして主人公は閻魔大王(前田通子)に「永遠の物を拝みなさい。例えば太陽です」と言われ、朝日に向かって他の真理教信者の女性達と拝み、真理教の修行服を脱ぎ捨ててオールヌードになる。うむ、このヌードはストーリー上必要だな。石井輝男が「女性達のヌードを出したい」という単純な理由から撮られたシーンではないな。うん。たぶん。しかし太陽を拝むって個人崇拝から原始宗教になっただけって気もする。
 個人的にはかなり笑っちゃう映画なんだけど、考えてみればオウム真理教事件をちゃんと描いた映画は多分他に存在してないんじゃないかな。ドキュメンタリーとかあるのかな? 石井輝男としてはオウム真理教に腹が立って仕方なかったんだろうな。徹底した悪役として描かれ、地獄では徹底した責め苦に遭う。麻原とか上祐役の俳優が似てるんだまたこれが。
 宮崎勤が手足や首をノコギリで切られて絶命してはまた生き返り、また切られるという責め苦を永遠に受け続けていたり、青酸カレー事件の林が泥沼地獄でのたまわっていたりするがこれは余分だったかも。オウム真理教に絞った方が焦点がはっきりする。
 地獄にやって来た主人公が、鬼から「地獄では現世の衣服は許されないのだ」と服をはがされ肌着姿になってしまう。石井輝男だなぁ。
 オウム真理教事件も宮崎勤事件ももうかなり前の話だが、いまだに死刑になっていないんだよな。とっとと処刑して地獄送りにしてしまえ。
 弁護士襲撃事件は微妙なスローモーションなのだが、予算がなくて機材が使えなかったのか、役者がゆっくり動いてスローモーションを再現している。私の自主映画第一作でギャグとしてやったなぁ、偽スローモーション。

『ねじ式』 医者はどこだ

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『ねじ式』 (1998) 85分 日本 石井プロダクション

監督:石井輝男 プロデューサー:石井輝男、小林桂子 原作:つげ義春 脚色:石井輝男 撮影:角井孝博 美術:松浦孝行 編集:神谷信武 音楽:瀬川憲一 助監督:三木秀則
出演:浅野忠信、藤谷美紀、藤森夕子、金山一彦、砂塚秀夫、水木薫、杉作J太郎、清川虹子、原マスミ、丹波哲郎

 オープニングとエンディングの暗黒舞踏は個人的に入らなかった。あれはあからさまに意味不明すぎて逆効果。アレをカットすると、静かに始まって静かに終わる映画である。石井輝男らしいシーンなので全面的に否定はしないけど。
 つげ義春の『ねじ式』や『もっきり屋の少女』などを繋げて貸本マンガ家のつべ(浅野忠信)が貧困故に妻と別居してしまい、知り合いの4畳半に転がり込むのだが、妻が浮気をして妊娠をしたかも知れないと聞かされ、睡眠薬自殺を図る。そして次第に現実と幻想の狭間があやふやになっていく。
 浅野忠信の自然体の演技がよい。単に棒なのかもしれんがな。ボサボサ頭にヨレヨレの衣装だと本当に冴えない貸本マンガ家に変身する。
 知り合いの4畳半で睡眠薬自殺を図ったつべは病院に担ぎ込まれるのだが、そこに腹巻き姿で現れた大家の丹波哲郎が「珍しいこともあるもんだ。あそこは三人が自殺を図ってみんな死んでるんだがな」と飄々としている。借り主の知り合いが「そこなの始めて聞きましたよ」と苦情を言うと、「バカヤロ、言ったら借りねぇじゃねえか」とビートたけしのコントのようなやり取りが行われる。
 看護婦にトイレで小便をぶちまけたつべは入院費がないので退院し、療養のため田舎に釣りに行くがそこで少女が開いている居酒屋もっきり屋に入る。この少女つぐみが可愛らしい。「く」で始まる物を欲しがっているつぐみは、常連客の杉作J太郎に胸を揉まれて、5分我慢できたら買ってもらえるという賭けをしている。杉作J太郎の顔がじつにいやらしい。
 ストリップに来ていたつべは大股を広げ、「ここが芝浦。ここが東京タワー。ここが水道局」と口上を述べるストリップ嬢に興味なしな感じ。他の店から流れてくる『網走番外地』の主題歌を聴いて海が見たくなり、房総へとふらりと旅に出て終着駅で駅員の砂塚秀夫に宿屋代わりに大衆食堂を案内してもらう。老婆と娘の二人でやっている食堂に泊まったつべは娘と情を交わす妄想を観る。そして1年後再び食堂を訪れるのだが、娘はつべのことを丸っきりおぼえていない様子。ハマグリ売りの老婆からハマグリを買ったつべは野良猫と一緒に海岸でハマグリを焼いて食べる。
 ふと海に視線をやると、上半身裸で左上腕の傷口を押さえたつべが浜へ上がってきた。泳いでいたところをメメクラゲに刺されて静脈が切れてしまったのだ。(メメクラゲなんて種類は存在しない。つげがとりあえず××クラゲとしておいたところ、編集がメメと読んで生まれた誤植である)
 漁村で「医者はどこだ」と探し回るが人々はまるで無反応。汽車で隣村まで行こうとするが何故かもとの村に戻ってきてしまう。この汽車は模型なのだが、狭い街中を汽車が走り抜けるシーンは原作の好きなシーンで、低予算なりに表現されていた。
 金太郎飴作りの老婆に何故か女医の産婦人科を訪ねると、金太郎飴工場の上にあるという。突然「あなたは僕のお母さんではありませんか」とつべがいいだす。「ポッキン。金太郎」「ポッキン。金太郎」
 そして女医といけないお医者さんゴッコをしたつべはそのままシリツされてしまい、静脈がパイプで繋がれそれにはねじが付いていた。それいらいねじを捻るとつべの左腕はしびれるようになった。
 ねじ式のパートはラストの約20分。まぁあの原作で90分の映画を作ったら観客の何割かは精神破綻するな。
 監督・脚本・製作の石井輝男が好き勝手に作った作品で、「趣味の合わない人はすまんな、わははは」と言ってるかのよう。個人的にはこの世界観を素のままで受け入れられる人はちょっと精神が不安定なんじゃないかなと思う。私はビールの力を借りて理性を緩めないと難しい。逆に言えば、アルコールなどの力を借りれば『ねじ式』や次回作の『地獄』などはコメディに分類したくなってしまう。
 どうでもいいけど冒頭に「石井輝男の最新作」についてジョン・ウーが賛辞をあらわしている。観たんかなジョン・ウー。まぁジョン・ウーも香港ノワールの旗手みたいに言われてるけど、実はかなりヘンテコな人だから。

『昭和侠客外伝 無頼平野』 血液銀行

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『昭和侠客外伝 無頼平野』 (1995) 99分 日本

監督:石井輝男 製作:岡田博 企画:岡田博 プロデューサー:室岡信明、小林桂子 原作:つげ忠男 脚色:石井輝男 撮影:石井浩一 特殊メイク:原口智生 美術:丸山裕司 衣裳:二宮義夫 編集:神谷信武 振付:室町あかね 音響効果:伊藤進一 音楽:鏑木創 監督助手:落合俊一、板庇竜彦 殺陣:伊奈貫太 助監督:森谷晁育
出演:加勢大周、岡田奈々、佐野史郎、金山一彦、南原宏治、水木薫、麻生真宮子、五島悦子、石川真希、田村翔子、横山あきお、杉作J太郎、島田洋八、長谷川待子、砂塚秀夫、吉田輝雄、あがた森魚、大槻ケンヂ、由利徹

 舞台の上に女優岡田奈々がいる。満席の観客の前で銃声が響き女優は胸元から血を流して倒れた。騒ぎ出す観客達、舞台袖から演出家などが飛び出してくる。
 すわ、狙撃事件かと思いきや、血糊が入った袋を誰かがパチンコで撃ったのだ。しかし血糊は本物の人間の血が使われていた。
 岡田奈々ファンのやくざ加勢大周や血液銀行に勤めている佐野史郎が事件を目撃していた。
 そして場所も時間も不明な物語が始まる。
 ちょっと江戸川乱歩風なところがある。しかし加勢大周らやくざも登場し激しい暴力もあるのでここが大きな違いか。
 加勢大周は消えた俳優かと思っていたが、調べてみたら現在でも活躍中だった。暴力団系のオリジナルビデオなどに出演しており、興味のないジャンルなので知らなかったのだ。カッと火がついたように怒りだし暴力を振るう怖ろしい男を演じていた。あれは演出なのか、地の性格なのか。
 杉作J太郎や大槻ケンヂ、あがた森魚など私好みな俳優の中に、石井輝男作品らしく由利徹が登場しちょっとしたコント的やり取りがあるのが嬉しい。
 つげ義春の弟つげ忠夫の複数の作品を元ネタに石井輝男が脚本を手がけた。
 血液銀行のシーンでは、産婦人科から妊婦の胎盤を引き取ってきた佐野史郎が包丁で胎盤を細かく刻んで血を絞り出しているシーンが印象に残る。
 つげ忠夫の作品は読んだことがないのだが、つげ義春とはずいぶん作風が違いそうだ。鈴木清順の『ピストルオペラ』にちょっと似ている気がする。あれも江戸川乱歩臭がしたな。
 所々にマニアックさを感じさせるが、実は真っ当なやくざ映画。小学校を中退したため卒業式を経験したことがない加勢大周を岡田奈々が『蛍の光』のナンバーにのせてダンスに誘うシーンがよかった。