B00MGFTDQO.jpg『ダイナマイトどんどん』 (1978) 143分 日本 大映

監督:岡本喜八 製作:俊藤浩滋、武田敦 企画:佐藤正大 原作:火野葦平 脚本:井手雅人、古田求 撮影:村井博 美術:竹中和雄 編集:阿良木佳弘 音楽:佐藤勝 総指揮:徳間康快 助監督:白山一城
出演:菅原文太、宮下順子、北大路欣也、嵐寛寿郎、金子信雄、岸田森、中谷一郎、フランキー堺、小島秀哉、石橋正次、丹古母鬼馬二、福崎和宏、下馬二五七、島巣哲夫、兼松隆、志賀勝、吉中正一、田中邦衛、赤穂善計、尼子狂児、妹尾琢磨、鴨てんし、二瓶正也、伊吹新太郎、大木正司、藤岡琢也、大前均、草野大悟、長谷川弘、伊佐山ひろ子、桜井浩子、小林真美、立枝歩、岡本麗、ケーシー高峰、ジャック・デービス、岡部耕大

 太平洋戦争も終わり5年が過ぎ、北九州はヤクザの抗争が激しかった。その抗争に在日米軍が巻き込まれたため、彼らの提案でヤクザはある方法で縄張り争いに決着を付けることとなった。アメリカと言えば民主主義、そして野球である。そう、野球で決着を付けることになったのだ。
 何という破天荒なストーリー。原作小説があるようだが、原作の通りなのだろうか。だとしたらかなりとち狂った小説だな。
 この馬鹿馬鹿しいストーリーを大映が監督に岡本喜八を起用し、オールスターキャストで描く。
 主人公のヤクザは菅原文太。そのライバル役が北大路欣也。ヤクザの親分としては嵐寛寿郎や金子信雄。菅原文太のチームの監督になるのはフランキー堺。裏で野球賭博をして儲けるインテリヤクザが岸田森。凄腕のピッチャーだがアル中の投手が田中邦衛などそうそうたるメンツである。
 菅原文太は最初は「ベースボールなどやってられるか」とチームに加わらないが、「野球をやらないなんてねぇ」と売春婦にも相手にしてもらえずキャッチャーとして加わることになる。
 北大路欣也は菅原文太が惚れている飲み屋の女主人の亭主。元々はヤクザの親分の情婦だった女主人をもらい受けるため、右腕の人差し指を詰めている。そのため魔球が投げれるようになったというイカれた設定。
 フランキー堺は最初は売春婦たちに野球を教えていたのだが、菅原文太のチームの監督になる。戦争で右足は義足、左手は酷い傷を負っていて手袋で隠している。チームの投手が北大路欣也の魔球が投げられるようにと利き腕の人差し指を詰めてくるのだが、それを叱るシーンで手袋が取れてしまい「戦争で怪我もしなかったのに自分で指を詰めるヤツがあるか」と悔しそうに言うのは名シーン。
 菅原文太の組の親分は嵐寛寿郎。すっかり老け込んでいてまともにしゃべれない役で、身の回りの者しか言っていることを聞き取ることができない。ヤクザは10数組登場するが、中でも目立つのが金子信雄の組。例によって小狡い親分であの手この手で嫌がらせをしてくる。
 そんな中でバックボード裏に電話回線を引いて野球賭博の胴元になっているのが岸田森。今回はかなりコミカルな役。シリアスな悪投もやればミステリアスな役もこなせる存在感のある俳優だった。若くして亡くなってしまったが実にもったいない。
 ヤクザと在日米軍の板挟みになって苦労するのが警察署長の藤岡琢也。あまりに無茶苦茶な試合に米軍の上官が「こいつらは沖縄で強制労働だ。第七艦隊を呼ぶぞ」と言われてついにぶち切れ「第七艦隊でも何でも呼んでこい」と怒鳴る。苦労ばかりで報われない役だったが、最後のぶち切れ加減が良かった。
 ラストは沖縄で強制労働をさせられている菅原文太たち。だが、休憩時間には野球を始める。すっかり野球の虜になってしまったようだ。
 ふざけた題材だが、所々で戦争の悲惨さやヤクザ抗争の愚かしさを描いている。北九州は今でもヤクザ抗争が盛んで、警察の手入れで手榴弾が押収されるなど怖ろしい土地のようだが、映画のように野球でけりを付ければ良いのに。
 倒産後の徳間資本で復活した大映なので製作は徳間康快。特典の予告編によると東映系で公開されたようだ。菅原文太だしな。
 岡本喜八らしいテンポの良さで物語が展開される。ちょっと上映時間が長すぎる気もするが、無駄なシーンはほとんど無いのでしょうがないのだろう。

『吶喊』 錦の御旗をかっぱらえ


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『吶喊』 (1975) 93分 日本 喜八プロダクション、ATG

監督:岡本喜八 製作:岡田裕介、古賀祥一 脚本:岡本喜八 撮影:木村大作 美術:植田寛 編集:黒岩義民 音楽:佐藤勝 殺陣:宇仁貫三 助監督:白山一城
出演:伊藤敏孝、岡田裕介、高橋悦史、伊佐山ひろ子、千波恵美子、坂本九、岩崎智江、今福正雄、伊吹新、小川安三、長谷川弘、丹波義隆、粕谷正治、藤田漸、天本英世、堺左千夫、村松克巳、樋浦勉、小野寺昭、岸田森、大木正司、田中邦衛、仲代達矢、木村博人、山本廉、北見治一、草川直也、川口節子、
ナレーター:中谷一郎

『赤毛』(1969)と同じ維新戦争を題材にした作品である。ちなみに『吶喊』と書いて『とっかん』と読む。
 主人公の東北の水飲み百姓伊藤敏孝はあまりに貧乏で嫁の来てがない。ある日、我慢ができなくなった伊藤敏孝は三味線を持った旅の女を襲う。そこに助けに入ったのが岡田裕介。
 官軍が迫り来る中、ひょんなことから伊藤敏孝は賊軍の高橋悦史に拾われ、「こりゃ面白いぞ」と遊び気分半分で戦に加わっていく。鉄砲隊の隊長に選ばれた伊藤敏孝は官軍を撃って喜んでいたのだが、そのうちに官軍に局部を切られて殺された若い賊軍兵士やなぶり者にされて殺された女性たちの姿を見て、官軍に激しい怒りを持つようになる。
 奇妙な縁でまた巡り会った伊藤敏孝と岡田裕介は、錦の御旗と軍用金を狙って手を組み、官軍本陣に潜り込む。
 オープニングとエンディングで老婆が語り手として登場する。この老婆が女装した坂本九。これが見事にお婆さんにしか見えない。
 岡田祐介は東映のドン岡田茂の息子で、この作品では製作も兼ねている。若い頃の石坂浩二にちょっと似ているな。父親の七光りで俳優になったのではなく、演技力は結構あるが、現在では俳優業は辞めて東映の会長になっている。プロデューサーとしての腕は『北京原人 Who are you?』を作ってしまっているのであれだ。
 これまでの岡本喜八作品は『肉弾』を除くと東宝から発売されていて、ほとんどの作品に字幕が収録されている。だがこの作品は字幕がないので台詞が聞きづらかったり、方言を使っているので分かりにくかったりするのが残念だ。日本映画にも字幕は収録すべきだと思う。耳の不自由な人も楽しめるし。
 維新戦争で大勢の人が死んだけど、伊藤敏孝はその後元女郎との間にたくさん子供を作り、その子供達はたくさんの孫を作った。また戦争が始まり、そして終わり。また戦争が始まり、そして終わりが繰り返し100年が過ぎたが、伊藤敏孝の子孫は元気に生きているという大衆史観。戦争や軍隊は大衆を苦しめるけれど、どっこい彼らは生きているという岡本喜八の基本理念である。

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『激動の昭和史 沖縄決戦』 (1971) 149分 日本 東宝

監督:岡本喜八 製作:藤本真澄、針生宏 脚本:新藤兼人 撮影:山田一夫、村井博 、富岡素敬 美術:村木与四郎、小村完 編集:黒岩義民 音楽:佐藤勝 特技・合成:三瓶一信 特技・撮影:富岡素敬 特技・助監督:小村完 特技・美術:井上泰幸 特殊技術:中野昭慶
ナレーション: 小林清志
出演:小林桂樹、丹波哲郎、仲代達矢、森幹太、睦五郎、佐々木勝彦、大丸二郎、玉川伊佐男、川津祐介、橋本功、長谷川弘、阿知波信介、中山豊、青野平義、田中邦衛、中谷一郎、高橋悦史、大木正司、小川安三、井川比佐志、平松慎吾、東野英治郎、北竜二、藤岡重慶、山内明、阿部希郎、新田昌玄、荒木保夫、北九州男、船戸順、石山健二郎、久野征四郎、草野大悟、木村豊幸、当銀長太郎、東野孝彦、池部良、鈴木瑞穂、寺田農、佐々木孝丸、浜村純、神山繁、南風洋子、鷲尾愛里、田代真由美、加山雄三、岸田森、亀谷雅彦、大空真弓、今福正雄、天本英世、滝田裕介、佐原健二、佐藤宣丈、永島岳、勝部義夫、酒井和歌子、木村由貴子、藤田漸、熊谷敏樹、沖田駿一、木下陽夫、渡辺隆司、山本廉、地井武男、大谷直子、小杉昇二、富田浩太郎、浅若芳太郎、藤原釜足、辻伊万里、佐田豊、川瀬裕之、堺左千夫、

 太平洋戦争末期。ついに米海軍は日本に迫りつつあった。その中で犠牲にされた沖縄の物語である。日本兵死者10万人、民間人15万人とも言われるまさに虐殺である。
 本土からの指令は曖昧でころころ言うとこが変わる。そんな中、民間人を多数抱えた日本陸軍はいかに戦うのか。
 多少優勢になることもあるが、基本的に負け戦。中学生まで"勤労隊"として銃を持たせ若い命を散らしていく。
 米軍は殲滅を狙っているのではなく、降伏すれば命は保証すると言っているのだが、日本人はそれを信じずに、追い込まれて手榴弾や薬物などで自決していく。自決って言うけど半ば強制的な他決だよな。異なった命令が飛び交い軍部はしっちゃかめっちゃか。
 やっぱり戦争は嫌だ。私は前線に立たされたくないよ。爆撃やら銃撃やらで怪我ですんだらめっけもの。死んで当たり前。「お国のために戦ってこい」と言われても断固拒否する。
 記録映像と特撮による戦場はなかなかの迫力。沖縄県庁が木っ端みじんに吹き飛ぶのは特殊技術の中野昭慶によるものだろう。爆発ショウちゃん。ただ東宝爆発音なのでウルトラマンやゴジラが出てきそうな気になってしまう。
 未だに沖縄には多くの米軍基地があり、沖縄決戦は本格的に終了していない。
 犠牲者の方々に、南無阿弥陀仏。
 喜八組が勢揃いの出円陣だけでも見応えがある。

『赤毛』 赤報隊の悲劇

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『赤毛』 (1969) 116分 日本 三船プロダクション、東宝

監督:岡本喜八 製作:三船敏郎、西川善男 脚本:岡本喜八、広沢栄 撮影:斎藤孝雄 美術:植田寛 編集:阿良木佳弘 音楽:佐藤勝 殺陣:久世竜
ナレーション:中谷一郎
出演:三船敏郎、寺田農、高橋悦史、岩下志麻、岡田可愛、吉村実子、望月優子、乙羽信子、神山繁、田村高廣、伊藤雄之助、富田仲次郎、花沢徳衛、天本英世、砂塚秀夫、浜村純、岸田森、草野大悟、浅井孝二、木村博人、三戸部スエ、左卜全、堺左千夫、長谷川弘、吉田昌史、木村豊幸、阿知波信介、木下陽夫、沢登護、常田富士男、睦五郎、山本廉、中山豊、宇野晃司、佐渡絹代、岩崎智江、地井武男、野村昇史、田中浩、津田亜矢子、北川美佳

『るろうに剣心』に主人公の仲間として喧嘩屋が出てくるが、この男が赤報隊出身である。赤報隊は官軍の手先として組織され、官軍に先行して村々で「年貢が半分になる」などと宣伝文句を触れ歩いた。しかし、実際には「年貢を半分にする」などと言うのは無理なことで、官軍はこれをなかったことにするため赤報隊をニセ官軍とし、隊長の相楽総三などを斬り捨てた。
「勝てば官軍」などと言われるが、官軍が勝つために犠牲となった赤報隊の一人、三船敏郎を主人公とした作品である。
 三船敏郎は赤報隊員だが、馬の世話ばかり。次の目的地が自分の生まれ故郷の村だったため、隊長に頼み込んで赤毛のカツラを借りると一足先に乗り込んだ。そして悪徳代官や金貸しをやり込むと、遊女は自由にして百姓の天下を作り上げた。
 そして軍資金の500両を手下にした寺田農たちに官軍に馬で運ばせた。しかし、そのときすでに相楽総三は官軍と偽ったとしてさらし首にされていた。
 迫り来る官軍。そして村には官軍を防ぐべく遊撃隊が潜んでいた。そして戦いが始まった。
 三船敏郎の役は実行力はあるがお調子者で、三船敏郎では少々年を取り過ぎている。脚本段階では18歳ぐらいの青年をイメージして書かれていたそうだ。
 村の実力者の用心棒で元は侍の浪人高橋悦史は「葵が桜に変わるだけだ」と言うが、確かにその通りで、官軍が勝って明治政府が成っても百姓は結局力のあるものに踏みつけにされるだけなのだ。官軍が登場する作品で、官軍が悪く描かれているものは意外と少ないと思うのだが、岡本喜八は官軍にしろ軍隊に過ぎず、庶民は虐げられるだけだとしている。
 年老いた母から「生きてこそだ。裏道から逃げろ」と諭されるが、惚れていた女が官軍の銃撃で死んだのを見た三船敏郎は刀一本で銃撃隊に立ち向かっていく。
 そしてラスト、一人の元女郎から「えじゃないか、えじゃないか」のシュプレヒコールが始まり、村人全員が踊りながら官軍を押し返して突き進んでいく。弱い者には団結することが必要なのだ。POWER TO THE PEOPLE.
 若者に学問を教え、維新を訴えていた天本英世が、いよいよとなったときに「わしは若者を指導しなければならんからな」とそそくさと逃げ出してしまう。言葉だけで実行力のないインテリも批判されているのだ。
 いつもの喜八組に加え、松竹から岩下志麻が参加している。演技が上手いし美しい。なんでこの人は篠田正浩なんかと結婚してしまったのだろう。
 三船敏郎は百姓の息子で赤報隊でもおそらく下っ端なので、剣術には優れていないだろう。そのため、三船敏郎の殺陣がほとんど見られないのが残念だ。

『肉弾』 ドラム缶に揺られて

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『肉弾』 (1968) 116分 日本 日本ATG

監督:岡本喜八 製作:馬場和夫 脚本:岡本喜八 撮影:村井博 美術:阿久根厳 編集:土屋テル子 音楽:佐藤勝 助監督:中西源四郎
ナレーション:仲代達矢
出演:寺田農、大谷直子、天本英世、三橋規子、今福正雄、笠智衆、北林谷栄、春川ますみ、園田裕久、小沢昭一、菅井きん、三戸部スエ、頭師佳孝、吉野謙二郎、田中邦衛、中谷一郎、高橋悦史、伊藤雄之助、宮本満里子、津田亜矢子、武藤洋子、長谷川弘、阿知波信介

 太平洋戦争もいよいよ末期。沖縄も落とされ本土決戦も間近と思われていた。
 いよいよ最後の一兵まで使った総力戦が予想され、敵戦車にミカン箱ほどの爆弾を抱えて特攻する肉弾作戦の訓練が行われていた。主人公は名乗るシーンがなく仲代達也のナレーションによると"あいつ"となっている。食糧倉庫から食料を盗み出そうとして、「お前は豚だ。豚に衣服の着用は許さんと眼鏡を除くと丸裸で訓練に参加する。要領の悪いあいつは訓練でもへまばかりだ。
 そしていよいよという日が近づき、肉弾兵士達は24時間の休暇をもらう。あいつは「すぐに読み終わっても困るから適度に面白くて適度に退屈で枕にできる厚い本」を探して古本屋へ入る。店主の笠智衆は空襲で両手をなくしており、小便がしたいからあいつにナニを出して支えて欲しい、代わりに本はただでいいからと頼んでくる。このやり取りが面白うてやがて...な会話で脚本の岡本喜八のユーモアのセンスと戦争批判が両立している。
 そして聖書をもらったあいつは、次は女郎買いに行くのだが、女郎はどこもこれも化け物のような女ばかり。そんな中、ある女郎屋で机に向かって勉強をしている少女(大谷直子)がいた。彼女も女郎だと勘違いしたあいつはその女郎屋に入るが、少女は女将で空襲で亡くなった父母の代わりを務めているのだという。料理中で前掛けをしていたおばさんにあいつは童貞を奪われてしまう。
 その後、少女の父母と妹が焼け死んだ防空壕で、二人は雨宿りをしているうちに、あいつはねずみ年生まれだからねずみさん。少女はうさぎ年生まれだからうさぎさんと相手を呼ぶようになる。そして二人は結ばれる。大谷直子は1950年生まれだから、ヌードシーンが出てくるので今では児童ポルノ法に引っかかるのではないか。DVDが廃盤で再販されないのはそんなところに理由があるのかもしれない。
 そして九州の浜辺にタコツボを掘りその中で待つこと数日。その間に「日本良い国、強い国」と教科書を大声で教師に読まされる中学生とその弟に出会ったり、アメリカが日本を占領したら「男は金玉を抜かれて、女はみんなお妾さんにされるだ」と自殺しようとしているおばさんに出会う。
 アメリカの戦車が上陸してきたら敵戦車に肉弾攻撃を食らわす予定なのだが、広い浜辺に100人程度の兵士しかいない。青年会が竹槍攻撃の訓練をしているが、まったく現実が見えておらず、気違い沙汰である。
 そしてあいつに少女が空襲に遭い防空壕で蒸し殺されたというニュースが届く。「ばかやろー」と海に向かってあいつは叫ぶ。
 上官が来て、肉弾作戦は中止になり急ごしらえの魚雷にくくりつけたドラム缶に乗って、敵船に魚雷攻撃を食らわせるという任務に就かされた。海でプカプカと浮かび現実感が薄れていく。そしてやっと船を見つけたので魚雷を発射するが、魚雷は海底に沈んでしまった。その船はおわい船(くみ取った屎尿を海に流す船)で、船長の伊藤雄之助から戦争は10日も前に終わったことを知らされる。
 おわい船にドラム缶をつないでもらい港まで引っ張っていってもらうことになったが、途中でロープが切れてしまう。そして昭和43年夏。海水浴客で賑わう海にドラム缶がようやく流れ着いた。中にはあいつの白骨死体があるだけだった。
 東宝ではなくATG作品なだけあってこれまでの作品以上に岡本喜八の戦争批判が見て取れる。威張り散らす上官。ただそれに従うだけの兵士。修身の教科書を戦争に疑問を持つ少年に竹刀で叩いて朗読させる教師。時代が時代だったとはいえみんな狂っていたのだ。
 シリアスな内容ながらテンポはゆっくりしていて、仲代達也のナレーションも少々とぼけた感じである。
 肋骨が数えられる痩せた体の寺田農は夏の日差しの中、汗のにおいを感じさせる。これが最近のイケメン俳優だったら作品が成立しないだろう。特攻映画は特攻の悲劇を訴えながら、片方で賞賛しているものが多いが、人が一人も死なない(あいつは死んだか)特攻戦争映画というのも人を食っている。

『斬る』 土のにおいだ

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『斬る』 (1967) 157分 日本 東宝

監督:岡本喜八 製作:田中友幸 原案:山本周五郎 脚本:岡本喜八、村尾昭  撮影:西垣六郎 美術:阿久根厳 編集:黒岩義民 音楽:佐藤勝 殺陣:久世竜
出演:仲代達矢、高橋悦史、中村敦夫、久保明、久野征四郎、中丸忠雄、橋本功、浜田晃、地井武男、土屋嘉男、星由里子、岸田森、今福正雄、樋浦勉、香川良介、神山繁、東野英治郎、黒部進、天本英世、田村奈巳、鈴木えみ子、小川安三、久世竜、鈴木治夫、関田裕、伊吹新、長谷川弘、中山豊、当銀長太郎、大前亘

 砂嵐で荒れ果てた宿場に一人の無宿人(仲代達也)がぶらりと現れる。仲代達也は侍を集めている藩にやって来た浪人高橋悦史と知り合う。高橋悦史は田畑半次郎という名前で、百姓が嫌で田畑を売った金で日本刀を買うと仕官の道を求めたのだ。
 その藩では謀反が起きており、神山繁が横暴の限りを続けていた。東野英治郎が神山繁に意見をしに行くが、牢に捕らえられてしまう。
 そこで八人の若い侍が立ち上がり、一人が江戸の殿様のところへ早馬を走らせ、他の七人は砦山の砦に立てこもった。だが、早馬の侍が裏切り神山繁に七人の若侍の計画を伝える。侍と30人の浪人が追っ手として砦を目指した。その中には高橋悦史の姿もあった。
 仲代達也はとぼけているようで元は侍の切れ者である。頭も切れるし剣の腕も立つ。そんな彼がなぜ無宿人に身を落としたかというと、藩内でトラブルがあり、親友を斬ってしまいそれを後悔していたからだ。とぼけているが実は切れ者というのは『殺人狂時代』を思わせる。
 役割としては『椿三十郎』の三船敏郎に近い。とぼけているようで七人の若侍をしっかりサポートする。映像的には『用心棒』の荒れ果てた宿場町に似ている。黒澤明の影響があるのだろう。
 浪人たちは仕官が目当てで追っ手に加わるが、組長の岸田森だけは金が目的である。彼には三十両がどうしても必要であった。それは女郎屋に売られてしまった妻を買い戻すためである。亡霊に魅入られたような岸田森は戦いの中で...
 神山繁の手下に捕らえられた仲代達也は、拷問をうけボロボロになってしまう。ここも『用心棒』の影響が見える。刀を振るえなくなった仲代達也の最後の武器は、かろうじて動く右手で投げられるように東野英治郎が火箸の先を研いだ即席の手裏剣だけである。
 神山繁の屋敷から逃げ出して、女郎屋に逃げ込むことにすると、東野英治郎が「わしは一度行ってみたかったんだ」と喜んでいる。
 そして最後の戦いが始まり、町の人のお祭り騒ぎの中で盛大なチャンバラが繰り広げられる。
 すべてが終わり、ふと気がつくと仲代達也がいない。雨の降る中ぼろ傘をさして立ち去っていく仲代達也を裃を着た高橋悦史が追ってくる。「侍がこんなに窮屈だとは知らなかった」と脱ぎ捨てると、仲代達也について行くという。果てはチンピラや東野英治郎が金を払って自由になった元女郎たちまで何人も現れる。「俺はそんなに面倒見が良くないんだがなぁ」と仲代達也がぼやく。
『日本のいちばん長い日』と比べるとテンポが良く軽快で、こちらの方が岡本喜八の真骨頂だと思う。それでいて士農工商の身分制度や、社会改革に燃える若者達などテーマがしっかり定まっている。

『日本のいちばん長い日』 三船敏郎の死に様

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『日本のいちばん長い日』(1967) 157分 日本 東宝

監督:岡本喜八 製作:藤本真澄、田中友幸 原作:大宅壮一「日本のいちばん長い日」 脚本:橋本忍 撮影:村井博 美術:阿久根厳 編集:黒岩義民 音楽:佐藤勝 監督助手:渡辺邦彦、山本迪夫
ナレーション: 仲代達矢
出演:宮口精二、戸浦六宏、笠智衆、山村聡、三船敏郎、小杉義男、志村喬、高橋悦史、井上孝雄、中丸忠雄、黒沢年男、吉頂寺晃、山田晴生、香川良介、明石潮、玉川伊佐男、二本柳寛、武内亨、加藤武、川辺久造、江原達怡、三井弘次、土屋嘉男、島田正吾、森野五郎、加東大介、石田茂樹、田崎潤、平田昭彦、中村伸郎、竜岡晋、北竜二、野村明司、藤木悠、北村和夫、村上冬樹、北沢彪、岩谷壮、今福正雄、天本英世、神山繁、浜村純、小瀬格、佐藤允、久保明、草川直也、石山健二郎、滝恵一、藤田進、田中浩、佐田豊、上田忠好、勝部演之、伊藤雄之助、青野平義、児玉清、浜田寅彦、袋正、小林桂樹、中谷一郎、若宮忠三郎、山本廉、森幹太、伊吹徹、久野征四郎、小川安三、田島義文、加山雄三、新珠三千代、宮部昭夫、関口銀三、関田裕、井川比佐志、須田準之助、高田稔、堺左千夫、小泉博、大友伸、松本幸四郎

 ドキュメンタリータッチで描かれており、個人的には少々退屈。
 玉音放送が流されるまでの"長い日"が主題だが、玉音放送が流されるのを防ぐため暴走した日本陸軍の話は知らなかった。
 本土決戦だ、最後の一人まで戦うべきだという軍人の言葉は勇ましいが結末を知っているのでむなしく響く。
 東宝俳優陣総出演といった具合で、顔ぶれは確かに見事。
 切腹をして果てる三船敏郎はこれでもかの迫力。
 テンポが良いので観られたが橋本忍の脚本は退屈。途中で寝てしまい見終わるまで2回上映することとなった。娯楽作からこういう重苦しい題材まで手がけてしまう岡本喜八の手腕が冴える。
 天皇陛下が登場するが、顔ははっきりとは映らない。不敬な行為だと言うことだろう。演じているのは先代の松本幸四郎。

『殺人狂時代』 喜八作品で一番好き

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『殺人狂時代』(1967) 99分 日本 東宝

監督:岡本喜八 製作:田中友幸,角田健一郎 原作:都筑道夫 脚本:小川英,山崎忠昭,
岡本喜八 撮影:西垣六郎 美術:阿久根巌 編集:黒岩義民 音楽:佐藤勝
出演:仲代達矢、団令子、砂塚秀夫、天本英世、滝恵一、富永美沙子、久野征四郎、小川安三、江原達怡、川口敦子、大前亘、伊吹新、長谷川弘、二瓶正也、大木正司、樋浦勉、ブルーノ・ルスケ、沢村いき雄、丘明美、深井聡子、草川直也、宇野晃司、森今日子、中山豊、浦山珠美、山本廉、出雲八重子、土屋詩朗、南弘子

 第二次世界大戦中、ドイツ領で研究を進めていた溝呂木(みろぞき)(天本英世)の元にかつてのドイツ人同僚が訪ねてくる。あるプロジェクトのため溝呂木の狂人軍団から殺し屋を数名借りたいという。まずはテストで電話帳に載った3人を殺すことになるのだが、最初の二人は難なく片付いたものの、大学で犯罪心理学を教えているビン底眼鏡にまるっきり冴えない桔梗信治(仲代達也)だけは運良く殺し屋を退治してしまう。
 警察に自首した仲代達也だが、殺害場所に死体はなく警察からは相手にされない。女性記者だけが彼を信じるが、仲代達也の車が盗まれてしまう。ポンコツのシトロエンが大友ビル(砂塚秀夫)によって盗まれてしまう。しかしポンコツなのでフルスピードで20kmしか出せず、逆に砂塚秀夫に怒鳴られてしまう。
 翌朝、変装のために眼鏡を外し、ヒゲを剃って衣装を揃えた仲代達也はまるで別人。
 そして対殺し屋集団との戦いが始まる。
 オープニングのアニメーションからして人を食っている。
 スパイ物を岡本喜八が撮ったらどうなるかの見本である。
 全編がコメディタッチで、それでいて終盤の仲代達也と溝呂木の互いの左手をハンカチでくくりつけてナイフで戦うスペイン式決闘は燃えるものがある。
 女記者の意外な正体や、ラストの桔梗信治の正体など実に味がある。

『大菩薩峠』(1966) 剣に魅入られた男

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『大菩薩峠』(1966) 120分 日本 東宝、宝塚映画

監督:岡本喜八 製作:藤本真澄 原作:中里介山 脚本:橋本忍 撮影:村井博 美術:松山崇 編集:黒岩義民 音楽:佐藤勝
出演:三船敏郎、仲代達矢、中谷一郎、加山雄三、伊吹新、久世竜、久野征四郎、宮部昭夫、香川良介、佐々木孝丸、佐藤慶、小川安三、新珠三千代、西村晃、川口敦子、大木正司、滝恵一、中丸忠雄、長谷川弘、天本英世、田中邦衛、藤原釜足、内藤洋子、園千雅子、早川恭二、梅香ふみ子き

 主人公机竜之介(仲代達也)は悪党である。大菩薩峠で老巡礼をいきなり斬り殺したと思いきや、次には夫を勝たせたいと操を捧げに来た人妻を抱いておきながら、夫を試合でたたき殺してしまう。
 何を考えているのかよく分からない机竜之介。原作が長編小説であるが故に市川雷蔵版や片岡千恵蔵版では3部作となっているのだが、それを一作にまとめてしまったのだから無理もない。
 そしてラストは新撰組に殴り込んだ竜之介が新撰組を斬って斬って斬りまくる。これでは日本の歴史が変わってしまうのではないかと言うぐらいに斬りまくる。
 竜之介は根っからの悪党だ。あるいは悪であるという自覚さえないのかもしれない。
 そもそもは続編の予定があったという。そうでなければあのぶった切りなラストは納得がいかない。
 三船敏郎、加山雄三などなどの面子もすばらしいのだが消化不良で終わっている。もったいなや、もったいなや。

『血と砂』 戦場を楽隊がハレルヤと歌いながら進む

B00L47V962.jpg『血と砂』(1965) 132分 日本

監督:岡本喜八 製作:田中友幸 原作:伊藤桂一 脚本:佐治乾、岡本喜八 撮影:西垣六郎 美術:阿久根厳 編集:黒岩義民 音楽:佐藤勝
出演:三船敏郎、伊藤雄之助、佐藤允、天本英世、団令子、仲代達矢、伊吹徹、名古屋章、大沢健三郎

 派手な爆発と機関銃の乱射など娯楽戦争映画でありながら、その根底には強い反戦の意志ががっちりと根を張っている。そんな一見相反する二つの要素を見事に融合させている。同じ岡本喜八作品の『独立愚連隊』(1959)『独立愚連隊、西へ』(1960)に似ているが、製作年度が1965年の『血と砂』ではより反戦の思いが強く表れている。岡本喜八自身の考え方に変化が生じたのか、実績を積んだので自分の意志を作品により盛り込めるようになったのだろうか。主演を勤める三船敏郎は岡本喜八の親友で、その三船プロダクションが製作に関わっており自由度が高かったのかもしれない。
 印象を三本の映画で例えるならば、『独立愚連隊』+『ジャズ大名』+『椿三十郎』といったところか。オープニングで銃ならぬトランペットやチューバなどを持って、それでデキシーランドジャズを演奏しながら中国の荒野を行進していく少年兵たち。てっきりイメージシーンかと思いきや、これが本物。実にとぼけた感じで、それでいて映画を観終わると戦場の不条理さ象徴していたように感じる。彼らは音楽学校を卒業したばかりの音楽隊で銃の撃ち方など知らない。そこで楽器だけ持って前線に向かう途中だ。
 彼らと出会い、その隊長となるのが三船敏郎演ずる小杉曹長。上官を殴ったため曹長に格下げになったが金鵄勲章を受勲した強者で、頼りない少年兵たちを二日で鍛え上げ、 彼らを支えそして率いていく頼り強さと正体不明なふてぶてしさは同じく三船敏郎が演じた椿三十郎を思わせる。
 彼らは通称"火葬場(やきば)"と呼ばれる軍事拠点を八路軍から取り戻すための命がけの任務に送り出される。牢に入れられていた平和主義で銃を取ることを拒否した通信兵(天本英世)、元板前の炊事班(佐藤允)、そして戦場に来て五年間ひたすら墓穴を掘り続けた通称葬儀屋が彼らに同行する。
 大隊長(仲代達矢)の計らいで楽器を持っていくことを許された少年兵たちは、曹長の指揮の下で激戦を繰り広げ、ついに火葬場を取り戻す。
 威勢良く楽器をかき鳴らし始める少年兵たち。しかし、その先に待っているのは地獄の戦場だった。
 少年兵たちにも名前はあるのだが、「ピッコロ」「小太鼓」「トロンボーン」など担当楽器名で呼ばれているのが面白い。それに彼らは合計13人なのでそちらの方が分かりやすかったりする。
 実戦を積んだ少年兵たちは、曹長に惚れ抜いて火葬場まで追いかけてきたお春さんという従軍慰安婦によって童貞も卒業し、次第に逞しくなっていく。そして最後まで勝ち抜きましたよならばめでたしめでたしなのだが、敵が全勢力を持って大軍で火葬場に迫ってくる。もはや絶体絶命だ。その時、彼らは銃を取らず、楽器でジャズをかき鳴らす。岡本喜八の『ジャズ大名』ではお城の地下でジャズをやっている内に明治維新の維新戦争が終わってしまった。ボロボロになった兵たちがもはやこれまでとリリー・マルレーンの歌を歌い出したら、敵の攻撃が止み、いつしか敵味方合わせての合唱になるというのもどこかで観た記憶がある。しかし、この作品では迫撃砲も銃撃も止まない。戦争はファンタジーじゃないのだ。そして、一つまた一つと楽器の音が消えていく。
 本部の近くには慰安宿があって、そこには何人も従軍慰安婦がいる。彼女たちは明るそうにしていて、冗談を言ってはケラケラと笑っている。『独立愚連隊』『独立愚連隊、西へ』にもほぼ同様の慰安宿と従軍慰安婦が登場する。このことだけで、岡本喜八のこれら一連の作品を否定する人もいるだろう。オレにはそれについて正直なんとも言えん。好きで慰安婦になる人などいないと思うが、一部分だけでその映画全体を否定するのはどうかとも思うが、その一部分こそがその人にとってどうしても譲れないところかもしれない。ただし、これらの作品の上映禁止とか発売禁止にすることだけは止めて欲しい。
 曹長が少年兵たちにお春さんを「金山春子」と紹介している。「なになにたよ」とか「パカだね」などの発音から朝鮮系慰安婦だと思われる。こうなると強制連行などの現実の問題に関わってくるのは避けて通れないのだが、とりあえず1960年代の東宝という大手映画会社が製作した娯楽映画のいくつかでは以上の様に取り上げられていた資料にはなるだろう。時代が変われば人の問題意識も変わる。
 平和主義の通信兵も今まで一人も殺したことのない葬儀屋も、ついには戦争の狂気に飲み込まれて人を殺し、そして殺される。男たちは次々と死んでいき、最後まで生き残ったのはお春さんただ一人。戦争とは詰まるところ殺し合い。兵隊とは人殺しが仕事だ。戦場には正義も悪もない。敵がいて味方がいるだけ。殺したり殺されたり、痛かったり腹が減ったり。戦争なんてやるもんじゃない。でも、面白い戦争映画を観ると燃えちゃうんだよな。矛盾してんな、オレ。
 火葬場守備隊が全滅した日は昭和二十年八月十五日。日本がポツダム宣言を受諾し、玉音放送が流れた日だった。